女性の鼠径部に感じる痛みは、多くの方が経験する可能性のある不調の一つです。
鼠径部は体の重要な部分であり、デリケートな問題も含まれるため、痛みの原因には様々なものが考えられます。
軽い違和感から日常生活に支障をきたすほどの強い痛みまで、その程度や性質も人によって異なります。
この記事では、女性の鼠径部の痛みに焦点を当て、考えられる主な原因や病気の種類、そして症状に応じて何科を受診すべきかについて詳しく解説します。
つらい症状を抱えている方は、この記事を参考に、適切な対応を検討してください。
痛みには放置できないサインが隠されていることもありますので、早めに医療機関へ相談することが大切です。
女性の鼠径部に痛みが生じる場合、その原因は多岐にわたります。
骨盤内の臓器、筋肉、靭帯、神経、リンパ節など、この部位には様々な組織が集まっているため、どこに問題があるかによって痛みの性質や随伴症状も異なります。
ここでは、女性の鼠径部の痛みの主な原因を詳しく見ていきましょう。
女性の鼠径部の痛みの主な原因
女性の鼠径部の痛みは、その原因によって大きくいくつかのカテゴリーに分けられます。
婦人科系の問題、鼠径部周辺の構造的な問題、感染症によるリンパ節の腫れ、その他の疾患などが考えられます。
婦人科系の疾患による鼠径部の痛み
女性特有の臓器である子宮や卵巣に起因する問題が、鼠径部の痛みを引き起こすことがあります。
これは、骨盤内の痛みが関連痛として鼠径部に放散することがあるためです。
- 生理痛や排卵痛: 生理(月経)の時期や排卵期に、下腹部や腰だけでなく、鼠径部に痛みや重い感じを覚えることがあります。子宮の収縮や卵巣からの排卵に伴う一時的な炎症、ホルモンバランスの変化などが影響していると考えられます。
- 子宮筋腫や卵巣のう腫など: これらが大きくなると、周囲の組織や神経を圧迫したり、炎症を引き起こしたりして、鼠径部や下腹部に痛みを引き起こすことがあります。特に、茎捻転(のう腫がねじれること)を起こすと、激しい痛みが突然発生することがあります。
- 子宮内膜症: 子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所にでき、生理周期に合わせて炎症や癒着を引き起こし、強い痛みの原因となります。生理痛が非常に重い、生理期間以外にも腹痛や腰痛があるなどの症状に加えて、鼠径部に関連痛が生じることもあります。
鼠径部周辺の構造的な問題による痛み
鼠径部自体の構造や、その周辺の筋肉、靭帯、神経に問題が生じることで痛みが起こるケースです。
運動や特定の動作によって痛みが増強することが多いのが特徴です。
- 鼠径ヘルニア(脱腸): 鼠径部の筋膜が弱くなり、お腹の中の臓器(腸など)が鼠径部の皮下にはみ出してくる状態です。女性に鼠径ヘルニアは比較的少ないですが、可能性はあります。立ち上がったりお腹に力を入れたりしたときに鼠径部に柔らかい膨らみを感じ、軽い痛みや違和感が生じることがあります。
- 鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群): 主にスポーツ選手に多く見られますが、日常的な動作や特定のスポーツを続ける女性にも起こり得ます。鼠径部周辺の筋肉や靭帯の炎症、股関節の不調、神経の圧迫などが複合的に関与し、特に運動時に鼠径部や下腹部、内ももにかけて慢性的な痛が生じます。
- 股関節の障害: 変形性股関節症や股関節唇損傷など、股関節に問題が生じると、関連痛として鼠径部に痛みを感じることがあります。歩行時や階段昇降時に痛みが強くなることが多いです。
- 筋肉や靭帯の損傷・炎症: スポーツ活動や急な動作などで、鼠径部周辺の筋肉や靭帯を損傷したり、炎症を起こしたりすることがあります。この場合、損傷した部位や動作に関連した痛みが鼠径部に生じます。
- 神経の圧迫: 鼠径部周辺の神経が、周囲の組織によって圧迫されると、神経痛として鼠径部に痛みやしびれが生じることがあります。痛みの性質はピリピリ、ジンジンなどと表現されることが多いです。
リンパ節の腫れや痛み
鼠径部にはリンパ節が集まっており、体内の感染や炎症に対して反応して腫れることがあります。
リンパ節が腫れると、触るとしこりを感じたり、押すと痛みが生じたりします。
- 感染症によるリンパ節炎: 足や下腹部、外陰部などに細菌やウイルスの感染が起こると、鼠径部のリンパ節が腫れて炎症を起こします。風邪やインフルエンザなどの全身性の感染症や、性感染症が原因となることもあります。
- 悪性腫瘍の可能性: 稀ではありますが、悪性腫瘍(がん)の転移やリンパ腫などによって鼠径部リンパ節が腫れる可能性もゼロではありません。この場合、リンパ節の腫れは硬く、痛みがあまりないことが多いです。
その他の原因
上記以外にも、鼠径部の痛みを引き起こす可能性のある病態は存在します。
- 尿路結石: 腎臓や尿管にできた結石が下降する際に、脇腹から下腹部、鼠径部にかけて非常に強い痛みを引き起こすことがあります。
- ストレスとの関連性: 身体的な疾患が見当たらない場合、ストレスや心因的な要因が関与している可能性も考えられます。
痛む場所で異なる原因(左側・右側・片方)
鼠径部の痛みが左右どちらか一方だけに現れるのか、あるいは両側に現れるのかによって、考えられる原因の可能性が変わってくることがあります。
- 左側の痛み: 左側の卵巣や卵管の問題(卵巣のう腫、付属器炎など)、左側の鼠径ヘルニア、左側の股関節の障害、左側の尿路結石などが考えられます。
- 右側の痛み: 右側の卵巣や卵管の問題、虫垂炎(盲腸)、右側の鼠径ヘルニア、右側の股関節の障害、右側の尿路結石などが考えられます。特に虫垂炎は、初期痛みが右下腹部から右鼠径部へ移動することがあります。
- 片方のみの痛み: 片側の卵巣のう腫、片側の下肢からの感染によるリンパ節の腫れ、片側の股関節の病気、片側の鼠径ヘルニアなど、痛みが起こっている側の臓器や組織に原因がある可能性が高いと言えます。
鼠径部の痛みで女性が受診すべき診療科
鼠径部の痛みは、その原因によって専門とする診療科が異なります。
症状の性質や随伴症状から、どの科を受診すべきか判断の目安を立てることが大切です。
迷う場合は、まずかかりつけ医や総合内科を受診し、相談してみるのも良いでしょう。
- 婦人科: 生理周期に関連した痛み、不正出血、下腹部の張り、性交痛など、婦人科系の原因が疑われる場合。
- 整形外科: 運動中や特定の動作で痛みが強くなる、股関節の動きが悪い、股関節や周辺を押すと痛む、鼠径部に膨らみを感じる(鼠径ヘルニアの可能性)場合。
- 内科・泌尿器科など:
- 内科: 発熱や倦怠感などの全身症状を伴う場合、リンパ節の腫れがある場合。
- 泌尿器科: 尿路結石が疑われる強い差し込むような痛みや血尿がある場合。
- 消化器内科・外科: 虫垂炎や鼠径ヘルニアが疑われる場合。
- 皮膚科: 外陰部周辺の皮膚の炎症が原因でリンパ節が腫れている場合など。
受診の目安となる症状
「どの科を受診すべきか分からない」「これくらいの痛みで受診していいの?」と迷うことがあるかもしれません。
しかし、以下のような症状がある場合は、痛みの程度にかかわらず、できるだけ早く医療機関を受診することをおすすめします。
症状 | 考えられる問題の例 | 受診の緊急度 |
---|---|---|
激しい痛みが突然発生 | 卵巣のう腫の茎捻転、尿路結石、鼠径ヘルニア嵌頓など | 高い(救急) |
痛みが徐々に強くなる | 炎症、腫瘍の進行、鼠径ヘルニア嵌頓の初期など | 高い |
発熱を伴う痛み | 感染症(リンパ節炎、付属器炎など) | 高い |
鼠径部に触れるとしこり | リンパ節の腫れ、腫瘍、ヘルニアなど | 中〜高い |
鼠径部の膨らみが戻らない | 鼠径ヘルニア嵌頓 | 高い(救急) |
血尿を伴う痛み | 尿路結石、膀胱炎など | 中〜高い |
安静にしても痛みが続く | 炎症や構造的問題の可能性 | 中 |
体重減少や倦怠感を伴う | 悪性腫瘍、慢性疾患の可能性 | 高い |
痛みが数週間続く | 慢性的な問題、原因不明の可能性 | 中 |
上記の表はあくまで目安です。
ご自身の症状に不安を感じる場合は、遠慮せずに医療機関に相談しましょう。
特に、激しい痛みや高熱、膨らみが戻らないなどの症状がある場合は、ためらわずに救急外来を受診してください。
痛みを和らげるためのセルフケア・注意点
医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが最も重要ですが、一時的に痛みを和らげたり、痛みを悪化させないためにできるセルフケアや日常生活での注意点があります。
ただし、セルフケアを行う前に、必ず医師に相談し、病状に合わせたアドバイスを受けるようにしてください。
自己判断での誤ったケアは、かえって症状を悪化させる可能性があります。
- 安静と冷却: 痛みが強い時期は、無理な運動や動作を避け、安静にすることが有効な場合があります。炎症性の痛みに対しては、患部を冷やすことで痛みが和らぐことがあります。
- 鼠径部ストレッチやマッサージの可能性: 痛みが落ち着いた段階で、医師や理学療法士の指導のもと、軽いストレッチやマッサージを行うことが有効なことがあります。しかし、痛みが強い時期に行うと逆効果になることもありますし、原因によっては行ってはいけない場合もあります。必ず専門家の指導を受けてから行いましょう。
- 日常生活での注意点: 腹圧のかかる動作を避ける(重い物を持ち上げる、強く咳き込むなど)、締め付けの強い下着や衣服を避ける、適度な運動(痛みが落ち着いてから)、体重管理、ストレス管理なども痛みの予防や改善に繋がることがあります。
これらのセルフケアや注意点は、あくまで医師の診断と指示のもとで行うべきものです。
原因不明の痛みに対して自己判断でこれらのケアを行うことは避け、まずは専門医に相談しましょう。
まとめ|つらい鼠径部の痛みは医療機関へ相談を
女性の鼠径部の痛みは、生理的なものから、子宮や卵巣の病気、鼠径ヘルニア、股関節の障害、神経痛、リンパ節の腫れ、尿路結石など、様々な原因が考えられます。
痛みの性質や強さ、痛む場所(左右どちらか、片方だけか両方か)、そして随伴する症状(発熱、しこり、不正出血、血尿など)は、原因を特定するための重要な手がかりとなります。
つらい鼠径部の痛みを抱えている場合、自己判断で放置したり、市販薬で済ませたりすることは危険な場合が多いです。
特に、痛みが強い、突然始まった、徐々に悪化する、発熱を伴う、しこりや膨らみがあるといった症状がある場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
受診すべき診療科は、痛みの原因によって異なりますが、一般的には婦人科、整形外科、内科などが考えられます。
迷う場合は、まずはかかりつけ医や総合内科に相談するか、症状に合わせて最も可能性の高い診療科を選んで受診しましょう。
この記事が、女性の鼠径部の痛みに悩む方々が、ご自身の症状について理解を深め、適切な医療機関へ相談するきっかけとなれば幸いです。
早期に原因を特定し、適切な治療を受けることで、痛みを軽減し、安心して日常生活を送れるようになることが期待できます。
つらい痛みは一人で抱え込まず、まずは専門家である医師に相談してください。
免責事項: 本記事は、女性の鼠径部の痛みに関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導に従ってください。本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる結果に関しても、当方は一切の責任を負いません。