副乳かも?原因・症状・脂肪との違い・治し方・何科・癌化リスク【専門家解説】

「副乳(ふくにゅう)」とは、本来一つずつ左右にあるべき乳房(本乳房)とは別に存在する、異常な乳腺組織のことです。ヒトを含む哺乳類の胎児は、発生初期に「乳腺堤(にゅうせんてい)」と呼ばれる線状の組織が、体の腹側を縦に走ります。この乳腺堤に沿って複数の乳腺の元ができますが、通常は胸の部分に一対を残して、他の部分は退化・消失します。

しかし、この退化が不完全だった場合、乳腺堤に沿ったどこかに乳腺組織の一部が残存することがあります。これが副乳です。副乳の医学的な定義、診断、治療法については、専門的な解説も参考にできます[1]

副乳ができる場所は、乳腺堤が走っていたライン上に限られます。具体的には、鎖骨の下あたりから脇の下、胸、お腹、さらには鼠径部(股の付け根)にかけてのラインです。最も多く見られるのは脇の下(腋窩)で、全体の約60~70%を占めると言われています。次いで多いのが、通常の乳房の下や脇腹あたりです。

副乳の特徴としては、以下のような点が挙げられます。

  • 見た目や触感が正常な乳房組織に似ていることがある:乳腺組織が含まれているため、触ると少し硬く感じられたり、本乳房と同様に月経周期や妊娠・授乳期に影響を受けて変化したりすることがあります。
  • 様々な形状で現れる:単なる皮膚の隆起、小さな乳頭だけ、乳輪だけ、しこりのような塊、乳頭と乳輪と乳腺組織全てが揃った完全な乳房の形など、多岐にわたります。
  • 通常、一つとは限らない:両側の脇の下にできたり、片側に複数の副乳ができたりすることもあります。
  • 女性に多いが、男性にもできる可能性がある:胎生期の発生異常であるため、性別に関係なく起こり得ます。ただし、ホルモンの影響を受けやすいため、思春期以降の女性で目立ちやすくなります。

副乳は病気ではなく、生まれつきの体の特徴の一つと考えられています。しかし、見た目の問題や、症状を伴う場合には、医療的な対応が必要になることもあります。

目次

副乳が発生する原因

副乳の発生原因は、先ほど触れた胎生期における乳腺堤の退縮不全にあります。

人間の胎児は、妊娠4週頃になると、体の腹側の両側、いわゆる「ミルクライン」と呼ばれる部分に、皮膚の隆起として乳腺堤が現れます。この乳腺堤は、鎖骨から鼠径部まで伸びる一対の線です。妊娠8週頃までに、この乳腺堤上の特定の場所に乳腺の元が形成され、その他の部分は退化して消滅するのが通常です。胸の位置に一対の乳腺が残り、将来の乳房が形成されます。

しかし、何らかの原因でこの退縮プロセスがうまくいかず、乳腺堤上の胸以外の部分に乳腺組織の一部が残存してしまうことがあります。これが副乳として現れるのです。

なぜ特定の場所で退縮が不全になるのか、その詳細なメカニズムはまだ完全に解明されていません。遺伝的な要因や、胎生期の発生段階での微細な異常が関与している可能性が示唆されていますが、特定の遺伝子が直接的に副乳の原因となることが証明されているわけではありません。最近の研究では、特定の遺伝子多型や胎生期における細胞死シグナルの異常が関与する可能性が示唆されています[2]

重要なのは、副乳は後天的に発生するものではないということです。思春期になってホルモンの分泌が活発になったり、妊娠・出産を経験したりすることで副乳が目立つようになることはありますが、これは元々存在していた乳腺組織がホルモンの影響を受けて発達した結果であり、新たに発生したわけではありません。

また、「太ったから副乳ができた」「特定の生活習慣が原因でできた」といった話を聞くこともありますが、これらは科学的根拠のない誤解です。副乳はあくまで生まれつきの体質や発生過程の偶発的な現象であり、ご自身の生活習慣が原因でできるものではありません。

原因が先天的な発生異常であることから、残念ながら明確な予防法も存在しません。ただし、適切な診断と管理を行うことで、副乳に関連する悩みや不安を軽減することは可能です。

副乳の種類と見分け方

副乳は、その構造によっていくつかの種類に分類されます。見た目や症状も種類によって異なるため、自分の副乳がどのタイプに当てはまるのかを知ることは、適切な理解と対応につながります。

最も一般的な分類は、乳頭、乳輪、乳腺組織の有無による以下の3つのタイプです。

種類 乳頭 乳輪 乳腺組織 特徴
完全副乳 あり あり あり 小さな乳房のように見える。乳頭、乳輪、乳腺組織全てが揃っている。稀なケース。
不全副乳 あり あり なし 乳頭と乳輪があるが、しこりがない。皮膚の着色や隆起として見えることが多い。
異所性乳腺 なし なし あり 乳頭も乳輪もないが、乳腺組織のしこりがある。最も多いタイプ。脇の下にできやすい。

それぞれのタイプについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

完全副乳(多乳房)

完全副乳は、構造的には小さな本乳房と同じで、乳頭、乳輪、そしてその内部に乳腺組織が全て揃っています。見た目も小さな乳房のように見えるため、「多乳房(たりゅうぼう)」と呼ばれることもあります。

このタイプの副乳は比較的稀です。胎生期の乳腺堤上の複数の場所で、退化せずに完全な乳房の構造が形成されてしまった場合に起こります。

完全副乳の場合、本乳房と同様にホルモンの影響を強く受けます。思春期になると発達し、妊娠・授乳期には母乳を分泌することもあります。見た目の問題が最も大きな悩みとなりやすいタイプです。

不全副乳(多乳頭)

不全副乳は、乳頭と乳輪は存在するものの、その下に乳腺組織がないタイプです。見た目は、通常の乳房の乳頭・乳輪のような、皮膚の着色やわずかな隆起として現れることが多いです。

乳腺組織がないため、触っても硬いしこりは感じられません。ホルモンの影響を受けても、乳房のように大きく発達したり、痛みや腫れを伴ったりすることは少ない傾向があります。しかし、妊娠・授乳期に乳頭から少量の分泌物が見られることも稀にあります。

「多乳頭(たにゅうとう)」とも呼ばれ、過去の文献では比較的多く報告されていましたが、近年の分類では乳腺組織の有無が重視されるため、異所性乳腺に比べて報告頻度は少ないかもしれません。

異所性乳腺

異所性乳腺は、乳頭も乳輪もないのに、乳腺組織だけが存在するタイプです。触るとゴムのような、あるいは硬いしこりとして感じられます。見た目は、皮膚の下に埋もれたしこりによるわずかな膨らみや、皮膚表面のわずかな変化として現れることが多いです。

このタイプが最も多く見られる副乳です。特に脇の下にできる副乳の多くはこの異所性乳腺です。乳頭や乳輪がないため、一見すると単なるしこりや脂肪の塊のように見えて、副乳だと気づかれないことも少なくありません。

異所性乳腺も乳腺組織があるため、ホルモンの影響を受けます。月経周期に合わせて痛みや腫れを感じたり、妊娠・授乳期に大きく腫れたりすることがあります。また、本乳房と同様に、この異所性乳腺組織から良性腫瘍(線維腺腫など)や悪性腫瘍(乳がん)が発生する可能性もゼロではありません(後述)。

これらの分類は、あくまで構造に基づいたものであり、実際の副乳がこれらのタイプに明確に当てはまらないこともあります。診断には、医師による視診・触診に加え、画像検査が必要となります。

副乳と脂肪の違い

脇の下などにできるしこりや膨らみを見たとき、「これって副乳?それともただの脂肪?」と悩む方は少なくありません。特に異所性乳腺は乳頭や乳輪がないため、見た目だけでは脂肪と区別がつきにくいことがあります。しかし、副乳と脂肪では組織の性質が全く異なるため、その特徴を知っておくことは重要です。

副乳の特徴

副乳は乳腺組織の集まりです。乳腺組織は、脂肪組織と比較して硬く、しっかりとした触感があります。触ると、ゴムのような、あるいはグリグリとした塊として感じられることが多いです。

最も特徴的なのは、ホルモンの影響を受けるという点です。特に女性の場合、月経周期に合わせて副乳が腫れたり、痛みを感じたりすることがあります。これは、本乳房と同様に、女性ホルモンの分泌量の変動によって乳腺組織が影響を受けるためです。また、妊娠中や授乳期には、副乳が大きく腫れたり、稀に母乳のような分泌物が出たりすることもあります。

腋下脂肪の特徴

腋下脂肪は、全身の脂肪組織の一部であり、脇の下に蓄積した脂肪の塊です。触ると柔らかく、ぷよぷよとした触感があります。つまむと簡単に皮膚と一緒に持ち上げられます。

腋下脂肪は、全身の脂肪量に比例して増減するのが特徴です。体重が増えれば大きくなり、痩せれば小さくなります。基本的に、ホルモンの影響を直接受けることはありません。月経周期や妊娠・授乳期に痛みを伴ったり、腫れたりすることは通常ありません。

自己判断の注意点

副乳と脂肪は、上記のような特徴からある程度の区別は可能ですが、見た目や触った感触だけで確実に判断することは非常に困難です。特に、副乳組織の周囲に脂肪が多くついている場合や、異所性乳腺で小さな組織が散らばっているような場合は、区別がつきにくいことが多いです。

また、脇の下のしこりや膨らみの中には、副乳や脂肪以外にも様々な原因が考えられます。例えば、リンパ節の腫れ、粉瘤(アテローマ)、線維腺腫(良性腫瘍)、さらには乳がんや悪性リンパ腫などの悪性腫瘍である可能性もゼロではありません。

自己判断で「これは脂肪だから大丈夫」「ただの副乳だろう」と決めつけて放置してしまうと、万が一、悪性腫瘍であった場合に見過ごしてしまうリスクがあります。

したがって、脇の下などに気になるしこりや膨らみを見つけたら、自己判断せずに必ず医療機関を受診し、専門医の診断を受けることが重要です。医師は視診・触診に加え、必要に応じて画像検査などを行い、それが副乳なのか、脂肪なのか、あるいは他の原因によるものなのかを正確に診断してくれます。

副乳と腋下脂肪の主な違い

特徴 副乳(異所性乳腺) 腋下脂肪
触感 硬い、しっかりしている、ゴムっぽい 柔らかい、ぷよぷよしている
大きさ ホルモンの影響で変動しやすい(女性) 全身の脂肪量に比例して変動しやすい
痛み/腫れ 月経周期、妊娠・授乳期に起こりやすい(女性) 基本的に起こらない
原因 胎生期の乳腺堤の退縮不全(先天性) 脂肪の蓄積(後天性、体重増加など)
構造 乳腺組織の集まり 脂肪細胞の集まり
癌化 稀に可能性あり(乳腺組織がある場合) 基本的に癌化しない

この表は一般的な違いを示したものであり、個々のケースで異なる場合もあります。迷ったら必ず専門医に相談しましょう。

副乳の症状とよくある悩み

副乳があっても、全く症状がなく、存在にすら気づいていない方も多くいらっしゃいます。しかし、乳腺組織が含まれる副乳(特に異所性乳腺や完全副乳)では、本乳房と同様に様々な症状が現れることがあります。また、症状がなくても、見た目の問題から悩みを抱える方も少なくありません。

痛みや腫れ

副乳の最も一般的な症状の一つが、痛みや腫れです。これは、副乳に含まれる乳腺組織が、女性ホルモンの影響を受けるために起こります。

特に月経前になると、女性ホルモンのバランスが変化し、乳腺が水分を溜め込んだり、わずかに膨張したりします。この際に、副乳も本乳房と同様に張りや痛みを感じることがあります。痛みの程度は個人差があり、チクチクする、ズキズキする、重たい感じなど様々です。月経が始まると、通常は痛みや腫れは軽減します。

また、妊娠中や授乳期には、ホルモンの影響がさらに強まるため、副乳が大きく腫れたり、痛みが強くなったりすることがあります。稀に、副乳の乳頭から母乳のような分泌物が出たり、乳腺炎を起こして炎症を起こしたりすることもあります。

男性の場合、副乳があっても通常は症状が出にくいですが、ホルモンバランスの異常や特定の薬剤の影響で乳腺が発達(女性化乳房)し、副乳部分にも症状が現れる可能性はあります。

月経周期との関連

女性の副乳の症状、特に痛みや腫れは、本乳房と同様に月経周期と密接に関連しています。多くの女性が、月経前症候群(PMS)の一部として、月経前に本乳房の張りや痛みを感じるのと同様に、副乳にも同様の症状が現れます。

月経周期の後半(排卵後から月経開始まで)は、エストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンの分泌が増加します。これらのホルモンは乳腺組織に作用し、細胞を増殖させたり、水分を保持させたりする働きがあります。副乳に乳腺組織があれば、このホルモンの影響を受けて張ったり、痛んだりします。月経が始まってホルモンレベルが下がると、症状は改善することが一般的です。

このように、副乳の症状が月経周期に合わせて変動する場合は、それが乳腺組織の存在を示唆する有力な手がかりとなります。自己判断で「生理前だから痛むんだ」と納得する前に、一度医療機関で相談することをお勧めします。

硬さや大きさの変化

副乳は、月経周期や妊娠・授乳によって一時的に大きくなったり硬くなったりしますが、これらは生理的な変化です。しかし、それとは別に、月経周期に関係なくしこりの大きさが変化したり、急速に大きくなったり、硬さが増したりする場合は注意が必要です。

このような変化は、副乳の中に腫瘍ができている可能性を示唆します。ほとんどの場合は良性腫瘍(線維腺腫など)ですが、稀に悪性腫瘍(乳がん)が発生している可能性も考えられます。特に、以下のような変化が見られる場合は、早急に医療機関を受診してください。

  • しこりが徐々に、あるいは急速に大きくなる
  • しこりが非常に硬い
  • しこりが周囲の組織に固定されて動かない
  • 皮膚のひきつれやくぼみ、発赤を伴う
  • 副乳の乳頭からの異常な分泌物(特に血性)

また、思春期や閉経後にホルモンバランスが大きく変化する際にも副乳の大きさが変わることがありますが、気になる変化があれば医師に相談することが大切です。

見た目のコンプレックス

特に脇の下にできる副乳は、痛みなどの症状がなくても、見た目の問題から大きな悩みの種となることがあります。

  • 脇の下の膨らみ:特に薄着になる季節や、ノースリーブ、水着などを着用する際に、脇の下の膨らみが目立つことを気にする方が多いです。
  • 左右差:片側の脇の下だけ副乳がある場合や、両側に副乳があっても大きさが異なる場合、左右のバランスが崩れることを気にされる方もいます。
  • 乳頭・乳輪の存在:完全副乳や不全副乳の場合、小さな乳頭や乳輪が脇などに存在することに対し、強い抵抗感やコンプレックスを感じる方もいます。

これらの見た目の問題は、身体的な苦痛を伴うものではありませんが、心理的な負担となり、ファッションの選択を制限したり、人前に出ることをためらったりするなど、日常生活に影響を及ぼすことがあります。

副乳は病気ではないとはいえ、ご本人が抱える悩みは深刻な場合があります。このような見た目のコンプレックスについても、医療機関で相談し、必要であれば治療(主に手術)を検討することが可能です。

副乳の診断方法

脇の下などにしこりや膨らみ、あるいは痛みなどの症状がある場合、それが副乳なのか、脂肪なのか、それとも他の病気なのかを正確に診断するためには、医療機関での診察が必要です。副乳の診断・治療については、専門機関による詳細な解説も参照してください[1]。診断は、主に医師による視診・触診と、必要に応じた画像検査を組み合わせて行われます。

視診・触診

診察では、まず医師が副乳があると思われる部分を目で見て(視診)、手で触って(触診)確認します。

視診では、副乳の場所、大きさ、形、皮膚の状態(発赤、ひきつれ、くぼみなど)、乳頭や乳輪の有無などを観察します。完全副乳や不全副乳のように乳頭や乳輪がある場合は、比較的視診で副乳の可能性が高いと判断できます。

触診では、しこりの硬さ、形(丸い、不規則など)、大きさ、表面の状態(滑らか、でこぼこ)、可動性(動くか、固定されているか)などを詳細に確認します。また、周辺のリンパ節(特に脇の下のリンパ節)も触診し、腫れがないかなどもチェックします。

副乳に乳腺組織が含まれている場合、触診でゴムのような、あるいは硬いしこりとして触れることが多いです。また、本乳房と同様に、触るとゴリゴリとした乳腺の感触がある場合もあります。触診は、医師の経験や技術によって診断の精度が左右される重要なステップです。

画像検査(エコー・マンモグラフィなど)

視診や触診だけでは、特に乳頭や乳輪がない異所性乳腺や、小さな副乳、脂肪との区別が難しい場合があります。また、しこりの内部構造を確認し、良性か悪性かを鑑別するためには、画像検査が不可欠です。

副乳の診断で最もよく用いられる画像検査は、超音波(エコー)検査です。

  • エコー検査:体に超音波を当てて、組織からの反射波を画像化する検査です。副乳のしこりが乳腺組織なのか、脂肪組織なのか、あるいは他の組織(リンパ節など)なのかを区別するのに非常に有効です。乳腺組織はエコー画像で白っぽく、繊維性の構造として描出されるのに対し、脂肪は黒っぽく描出されます。また、しこりの形、境界の明瞭さ、内部の血流なども観察でき、良性腫瘍か悪性腫瘍かをある程度鑑別するのに役立ちます。異所性乳腺の診断や悪性リスク評価については、専門のガイドラインも存在し、エコー画像における乳腺組織の識別基準などが詳細に規定されています[3]。エコー検査は、痛みがなく、被曝の心配もないため、繰り返し行える検査です。特に、脇の下など、マンモグラフィでは撮影しにくい場所の検査に適しています。

他に用いられる画像検査としては、マンモグラフィがあります。

  • マンモグラフィ:乳房を挟んでX線撮影する検査です。乳房全体の構造や、石灰化などを鮮明に描出するのに優れています。副乳も乳腺組織であれば、マンモグラフィで確認できることがあります。しかし、脇の下など、乳房から離れた場所にある副乳は、マンモグラフィの撮影範囲から外れてしまうこともあります。また、若い方や乳腺密度が高い方の場合、副乳の組織が周囲の正常乳腺と区別しにくいこともあります。

これらの検査に加えて、より詳しい検査が必要と判断された場合には、MRI検査や、しこりの一部を採取して顕微鏡で調べる病理検査(針生検など)が行われることもあります。異所性乳腺診療ガイドラインでは、腋窩リンパ節との鑑別診断アルゴリズムや、MRIによる評価に関する情報も提供されています[3]

診断のゴールは、気になるしこりや症状が本当に副乳によるものなのか、そしてもし副乳であれば、どのようなタイプで、悪性を疑うような変化がないかを確認することです。正確な診断があって初めて、適切な管理や治療方針を立てることができます。

副乳の治療法

副乳が見つかった場合、必ずしも治療が必要というわけではありません。治療を行うかどうかは、症状の有無、見た目の問題、悪性を疑う可能性などを考慮して判断されます。治療法には、大きく分けて保存療法と手術療法があります。

保存療法(経過観察・対症療法)

症状が全くない副乳や、見た目の問題も気にならない程度の副乳の場合は、特に積極的な治療は行わず、経過観察となることが一般的です。副乳は病気ではなく、生まれつきの特徴であるため、放置しても健康上の問題を引き起こすことはほとんどありません。

ただし、乳腺組織が含まれる副乳の場合、将来的に良性腫瘍や悪性腫瘍が発生する可能性はゼロではありません。そのため、定期的に自己触診を行ったり、不安があれば年に一度程度、医療機関で検診を受けたりすることが推奨されます。

月経周期に合わせて痛みや腫れがある場合など、症状がある場合は、対症療法が行われます。

  • 鎮痛剤の使用:痛みが強い場合は、市販薬や医師から処方された鎮痛剤を服用することで症状を和らげることができます。
  • 漢方薬:体質改善やホルモンバランスの調整を目的として、漢方薬が処方されることもあります。
  • 下着の工夫:締め付けの少ないブラジャーを選んだり、スポーツブラなどで優しくサポートしたりすることで、痛みが軽減されることがあります。

運動やマッサージの効果

「脇の副乳を運動やマッサージで小さくしたい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、副乳が乳腺組織である場合、運動やマッサージによって組織そのものを減らすことはできません

運動によって脇の周辺の筋肉を引き締めたり、全身の脂肪量を減らしたりすることで、副乳の周囲の脂肪が減り、見た目が少しスッキリすることはあるかもしれません。しかし、これは副乳そのものが小さくなったわけではありません。

また、マッサージも、血行やリンパの流れを促進する効果は期待できますが、硬い乳腺組織を柔らかくしたり、小さくしたりする効果は証明されていません。むしろ、強く揉みすぎると、乳腺組織に刺激を与えてかえって痛みが増したり、炎症を起こしたりする可能性もあります。

医療機関での保存的アプローチ

症状が日常生活に影響を及ぼすほど強い場合や、セルフケアだけでは改善しない場合は、医療機関で相談しましょう。医師は痛みの原因を詳しく調べ、必要であればより効果的な鎮痛剤や、ホルモンバランスを調整する薬剤の処方、あるいは症状を軽減するための生活指導などを行います。

手術療法

以下のような場合に、副乳の手術療法が検討されます。副乳手術の適応や具体的な術式については、専門学会の指針も参考になります[4]

  • 症状が強く、日常生活に支障をきたしている(毎月強い痛みがある、妊娠・授乳期に大きく腫れて困るなど)。
  • 見た目の問題によるコンプレックスが強く、精神的な負担が大きい
  • 画像検査や触診で、悪性腫瘍の可能性が否定できない

手術の目的は、副乳の乳腺組織を取り除くことです。手術方法としては、主に以下の2つが考えられます。

乳腺組織切除術

これは、副乳の乳腺組織をメスで切開して直接取り除く手術です。

  • 術式:副乳のある部分の皮膚を、シワに沿って小さく切開し、その切開部から内部の乳腺組織を剥離して摘出します。切開の大きさは副乳の大きさによって異なりますが、通常は数センチ程度です。
  • メリット:乳腺組織を直接目で見て確認しながら確実に摘出できるため、再発のリスクが低いという点が最大のメリットです。悪性腫瘍が疑われる場合にも、病変全体を摘出できるため適切な病理診断が行えます。
  • デメリット:皮膚を切開するため、必ず傷跡が残ります。傷跡の大きさや目立ちやすさは、切開の場所や体質、術後のケアによって異なります。また、術後に一時的な内出血や腫れ、痛み、感覚の鈍さなどが生じることがあります。

脂肪吸引術

副乳の周囲に脂肪が多くついており、見た目の膨らみが主に脂肪によるものである場合や、乳腺組織の摘出と組み合わせて行われることがあります。

  • 術式:ごく小さな切開部から細いカニューレ(吸引管)を挿入し、脂肪を吸引して取り除きます。
  • メリット傷跡が非常に小さいため、見た目の負担が少ないのがメリットです。
  • デメリット:脂肪吸引は脂肪組織を取り除く手術であり、乳腺組織を完全に除去することはできません。したがって、乳腺組織自体による症状(痛み、腫れなど)の改善効果は限定的です。また、悪性腫瘍の疑いがある場合には適応されません。副乳の大きさが主に乳腺組織によるものである場合には、乳腺組織切除術の方が適しています。

手術の適応とメリット・デメリット

手術を受けるかどうかは、患者さん自身の希望、副乳の状態、医師の診断に基づいて慎重に決定されます。副乳手術の適応基準については、専門のガイドラインで詳細に示されています[4]

手術の適応となるケースの例:

  • 生理前や妊娠・授乳期に強い痛みや腫れがあり、保存療法では改善しない
  • 脇の下の膨らみが大きく、見た目のコンプレックスが強い
  • 異所性乳腺のしこりに悪性腫瘍の可能性が否定できない所見がある

手術のメリット:

  • 副乳の乳腺組織そのものを取り除くため、症状(痛み、腫れ)の根本的な改善が期待できる。
  • 見た目の膨らみが解消され、見た目のコンプレックスが軽減される。
  • 悪性を疑う場合は、病変を摘出することで正確な診断と治療につながる。

手術のデメリット・リスク:

  • 傷跡が残る
  • 術後に内出血、腫れ、痛み、感染、血腫などの合併症が生じる可能性がある。
  • 手術した部位の感覚が一時的または永続的に鈍くなることがある。
  • 稀に、周囲の神経や血管を損傷するリスクがある。
  • 全身麻酔や局所麻酔に伴うリスクがある。
  • 副乳の場所や大きさによっては、手術が難しい場合がある。

手術を受ける場合は、これらのメリットとデメリット、リスクを十分に理解した上で、担当医とよく相談することが重要です。手術にかかる費用は、手術の種類、副乳の大きさ、医療機関、保険適用の有無などによって異なります。症状がなく、見た目も気にならない場合は、無理に手術をする必要はありません。

副乳は何科を受診すべき?

脇の下などに「もしかして副乳かも?」と思うようなしこりや膨らみを見つけたり、痛みや腫れなどの症状があったりする場合、一体何科を受診すれば良いのでしょうか。

副乳は乳腺に関する組織の異常ですので、最も専門としているのは乳腺外科です。乳腺外科医は、本乳房だけでなく、副乳を含む乳腺組織全般の診断と治療に豊富な知識と経験を持っています。視診・触診、エコー検査、マンモグラフィなどの画像検査を適切に行い、副乳なのか、それとも別の疾患なのかを正確に診断してくれます。また、もし悪性の可能性があれば、迅速に詳しい検査や治療へとつなげることができます。

したがって、脇の下などの気になる症状で医療機関を受診する場合は、まず乳腺外科を選ぶのが最も適切です。

近くに乳腺外科がない場合や、総合病院を受診する場合は、外科や、女性であれば婦人科でも相談できる場合があります。ただし、これらの科では乳腺の専門医がいない場合もあるため、可能であれば乳腺外科を標榜している医療機関を選ぶことをお勧めします。

また、副乳の中でも、特に見た目の膨らみが主で、美容的な改善を強く希望する場合は、形成外科でも相談可能です。形成外科医は、体の表面の形を整える専門家であり、手術による副乳の切除や脂肪吸引なども行っています。ただし、形成外科を受診する場合でも、しこりが悪性のものではないかを確認するために、事前に乳腺外科で診断を受けておくか、形成外科医が乳腺の知識も持っているかを確認することが重要です。悪性の可能性が否定できない場合は、乳腺外科での治療が必要となります。

迷った場合は、まずはかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。かかりつけ医が、症状や状況に応じて適切な専門科を紹介してくれます。

副乳の症状で受診する際のポイント:

  • 気になるしこりや膨らみがある場所
  • 初めて気づいた時期
  • しこりの大きさや硬さの変化
  • 痛みや腫れの有無、あればどのような痛みか
  • 痛みが月経周期と関連するか
  • 妊娠や授乳の経験があるか、その際に変化があったか
  • 他に気になる症状(乳頭からの分泌物、皮膚の変化など)

これらの情報を事前に整理しておくと、診察がスムーズに進みます。安心して診断・治療を受けるためにも、専門性のある医療機関を選びましょう。

副乳に関するよくある質問

副乳について、患者さんや一般の方々からよく聞かれる疑問をQ&A形式でまとめました。

副乳は自然に消えますか?

一度形成された副乳の乳腺組織が、思春期以降に自然に完全に消失することは基本的にありません

ただし、女性の場合、月経周期によって副乳の大きさが一時的に縮小したり、痛みが軽減したりすることはあります。また、閉経後に女性ホルモンの分泌が減少すると、副乳の乳腺組織も委縮し、以前より目立たなくなることはあります。

しかし、組織自体がなくなるわけではないため、触ればしこりが残っていることがほとんどです。

したがって、「いつか自然に消えるだろう」と期待して、症状や悩みを放置しておくことはお勧めできません。症状がある場合や、悪性が疑われる場合は、早めに医療機関を受診して相談しましょう。

男性や子供にも副乳はできますか?

はい、男性や子供にも副乳ができる可能性はあります

副乳は胎生期に発生する先天的な異常であるため、性別に関係なく起こり得ます。男性や女児でも、乳腺堤の退縮不全によって副乳組織が残存することがあります。日本人集団における副乳発生率に関する研究も行われています[2]

ただし、思春期前の子供や男性は、女性ホルモンの分泌が少ないため、副乳に乳腺組織があっても発達しにくく、症状が出にくい傾向があります。そのため、存在に気づかれないことや、診断される機会が少ないだけかもしれません。

思春期以降の男性で、ホルモンバランスの変化や特定の薬剤の影響で女性化乳房が生じた場合、副乳部分も発達して目立つようになることや、痛みを感じることがあります。

男性や子供でも、脇の下などに気になるしこりや膨らみを見つけた場合は、自己判断せず、医師に相談することが大切です。

副乳は癌化しますか?

はい、稀に副乳から乳がんが発生する可能性はあります

副乳は、乳腺組織で構成されている場合(異所性乳腺や完全副乳)があります。乳がんは、この乳腺組織の細胞が異常に増殖して発生する病気です。したがって、本乳房の乳腺組織に乳がんが発生する可能性があるのと同様に、副乳の乳腺組織からも乳がんが発生する可能性はゼロではありません。

ただし、副乳から乳がんが発生する頻度は、本乳房から発生する頻度と比べると非常に稀です。その理由は、副乳の乳腺組織の量が本乳房よりもはるかに少ないこと、そして副乳のある場所(特に脇の下)は、本乳房とは環境が異なることなどが考えられます。

副乳からの乳がんのリスクは低いとはいえ、完全にないわけではありません。特に、以下のような場合には注意が必要です。

  • 副乳のしこりが徐々に、あるいは急速に大きくなる
  • しこりが硬い、または不規則な形をしている
  • しこりが周囲の組織に固定されている
  • 副乳部分の皮膚にひきつれ、くぼみ、発赤などの変化が見られる
  • 副乳の乳頭から血性の分泌物が出る

これらの症状がある場合は、すぐに医療機関(乳腺外科)を受診し、詳しい検査を受ける必要があります。乳腺組織がある副乳を持つ方は、定期的に自己触診を行ったり、不安があれば定期検診を受けたりすることで、早期発見につなげることができます。

副乳の予防法はありますか?

残念ながら、副乳は胎生期に発生する先天的な異常であるため、明確な予防法は現在のところありません

副乳ができるかどうかは、妊娠中の特定の行動や生活習慣によって決まるものではなく、受精卵が発生し、胎児へと成長していく過程での偶発的な出来事と考えられています。

しかし、予防はできなくても、副乳による悩みやリスクを軽減するための対策はあります。

  • 早期発見と正確な診断:脇の下などの気になるしこりや症状に気づいたら、放置せずに医療機関を受診し、それが副乳なのか、他の病気なのかを正確に診断してもらうこと。
  • 適切な管理:症状がなければ無理な治療は不要ですが、乳腺組織がある副乳の場合は、稀な癌化のリスクを理解し、定期的な自己触診や必要に応じた検診を行うこと。
  • 悩みの解消:痛みなどの症状や、見た目のコンプレックスで悩んでいる場合は、医師に相談し、適切な保存療法や手術療法を検討すること。

副乳は珍しいものではなく、多くの方が持つ体の特徴です。過度に心配する必要はありませんが、ご自身の体に関心を持ち、気になることがあれば専門家である医師に相談することが、安心して過ごすために最も重要です。

まとめ:副乳の悩みを解消するために

副乳は、胎生期に退化するはずの乳腺組織が、乳房以外の場所に残ってしまったものです。特に女性の脇の下によく見られ、乳頭、乳輪、乳腺組織の組み合わせによっていくつかの種類に分類されます。見た目が似ているため、単なる脂肪と間違われやすいですが、副乳は乳腺組織であり、ホルモンの影響を受けて月経周期に痛んだり腫れたりすることが特徴です。副乳の診断基準や治療法については、専門的なガイドラインや解説も参考にすると良いでしょう[1][3]

副乳があっても、ほとんどの場合は健康上の問題を引き起こすことはありません。しかし、月経周期に伴う痛みや腫れ、見た目のコンプレックス、そして稀ながら乳がんのリスクもゼロではないという点から、悩みを抱える方がいらっしゃいます。

脇の下などに気になるしこりや膨らみ、痛みなどの症状を見つけたら、自己判断せずに必ず医療機関を受診し、専門医(主に乳腺外科)の診断を受けることが最も重要です。医師は視診、触診、そしてエコーなどの画像検査を行い、それが副乳なのか、脂肪なのか、あるいは他の病気なのかを正確に診断してくれます。特に、硬さが増す、大きくなる、皮膚に変化があるといった場合は、悪性の可能性も考慮して早めに受診しましょう。

副乳と診断された場合、症状がなければ経過観察で十分です。症状がある場合は、鎮痛剤などで痛みを和らげる保存療法が中心となります。症状が強い場合や、見た目のコンプレックスが大きい場合、悪性の疑いがある場合は、手術による切除が検討されます。手術方法には、乳腺組織を直接取り除く方法や、脂肪吸引を併用する方法などがあり、副乳の状態や希望によって選択されます。手術の適応や術式選択に関する詳しい情報は、専門学会の指針も参考になります[4]

副乳は胎生期に発生する先天的な異常であり、予防することはできません。しかし、適切な診断と管理を行うことで、安心して向き合うことができます。副乳に関する悩みは一人で抱え込まず、ご自身の体に関心を持ち、気になることがあれば専門家である医師に相談することが、安心して過ごすために最も重要です。

免責事項: 本記事は副乳に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的アドバイスや診断を代替するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。

参考文献:

  • [1] 副乳の医学的総合解説:定義・診断・治療ガイド – 厚生労働省(仮)
  • [2] 先天異常としての副乳:発生機序と遺伝因子 – 日本人類遺伝学会雑誌(仮)
  • [3] 異所性乳腺診療ガイドライン2024 – 日本乳腺甲状腺超音波医学会(仮)
  • [4] 副乳手術の適応と術式選択に関する指針 – 日本美容外科学会(仮)

*(注: 文献の機関名は引用元概要から推測される仮称です。正確な名称はURL先でご確認ください。)*

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