メトホルミンは、主に2型糖尿病の治療に用いられる経口血糖降下薬です。糖尿病の治療薬として世界中で最も広く使用されており、その有効性と安全性が確立されています。しかし、近年では糖尿病治療薬としてだけでなく、血糖値の正常化や体重減少、さらには一部の研究で「若返り効果」や特定の疾患予防に対する可能性も示唆されており、大きな注目を集めています。この記事では、メトホルミンの基本的な効果から、副作用、正しい飲み方、そして気になる体重減少や若返りといった側面まで、専門的な情報を分かりやすく解説します。メトホルミンについて正しく理解し、服用を検討されている方は必ず医師と相談するようにしましょう。
メトホルミンとは？基本情報
メトホルミンは、ビグアナイド系に分類される血糖降下薬です。1950年代に開発され、現在では世界中で2型糖尿病の第一選択薬として広く使用されています。その特徴は、他の多くの糖尿病治療薬とは異なり、インスリン分泌を直接促進するのではなく、主に肝臓での糖新生（糖を作る働き）を抑えたり、筋肉など末梢組織でのブドウ糖の利用を促進したりすることで血糖値を下げる点にあります。この作用機序から、単独で使用する限り低血糖を起こしにくいという利点があります。
また、メトホルミンはインスリン抵抗性（インスリンが効きにくくなっている状態）を改善する効果も持っています。インスリン抵抗性は2型糖尿病だけでなく、メタボリックシンドロームや多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）など、様々な疾患の病態に関わっていることが知られています。そのため、糖尿病治療薬としてだけでなく、これらの疾患に対する適応外での使用が検討されることもあります。
日本国内では、メトホルミン塩酸塩を有効成分とする様々な商品名（例：メトグルコ、グリコラン、メルビンなど）の錠剤や徐放錠が処方されています。
メトホルミンの主な効果
メトホルミンの最も主要な効果は、2型糖尿病患者さんにおいて高すぎる血糖値を正常値に近づけることです。しかし、その効果は血糖降下だけにとどまらず、様々な研究によって多角的な効果が示唆されています。
血糖値を下げるメカニズム
メトホルミンが血糖値を下げる主なメカニズムは以下の3つと考えられています。
- 肝臓からの糖放出を抑制: 肝臓は、空腹時や食間などにもグリコーゲン分解や糖新生によってブドウ糖を血液中に放出し、血糖値を維持しています。メトホルミンは、この肝臓での糖新生を抑制することで、血液中に過剰なブドウ糖が放出されるのを抑えます。これが最も重要な作用と考えられています。近年の研究では、メトホルミンが細胞内のlet-7経路を活性化することで肝臓での糖産生を抑制するメカニズムも示唆されています。（PNAS 研究論文）
- 消化管からの糖吸収を抑制: 食事から摂取した糖質は、消化・吸収されてブドウ糖として血中に入ります。メトホルミンは、小腸からのブドウ糖の吸収をわずかに遅らせることで、食後の急激な血糖値上昇を抑制する効果があると考えられています。
- 末梢組織でのブドウ糖利用を促進: 筋肉や脂肪細胞などの末梢組織において、インスリンがブドウ糖を取り込む働きを助けます。これにより、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれてエネルギーとして利用されやすくなり、血糖値が低下します。特にインスリン抵抗性がある状態では、この作用が重要になります。
これらのメカニズムによって、メトホルミンは血糖コントロールを改善し、糖尿病合併症のリスクを低減することに寄与します。
体重減少（ダイエット）効果について
メトホルミンを服用すると、体重が減少することがあります。これは、メトホルミン自体に直接的に脂肪を分解するような作用があるわけではなく、いくつかの要因が複合的に関わっていると考えられています。
考えられるメカニズムとしては、以下のようなものがあります。
- 食欲抑制: メトホルミンは、食欲を調節するホルモンに影響を与えたり、脳の満腹中枢に作用したりすることで、食欲を抑制する効果があるという報告があります。これにより、食事量が自然に減る可能性があります。
- 糖質の吸収抑制: 消化管からの糖吸収をわずかに抑制する作用も、摂取カロリーの減少につながる可能性があります。
- 代謝改善: インスリン抵抗性を改善することで、エネルギー代謝がより効率的に行われるようになることも、体重管理にプラスに働く可能性があります。
- 消化器症状による食事量の減少: 特に服用開始初期に起こりやすい下痢や吐き気といった消化器症状が、結果的に食事量を減らす要因となることもあります。
ただし、メトホルミンによる体重減少効果は、糖尿病患者さん、特に肥満や過体重の方でより顕著に見られる傾向があります。非糖尿病の方や、もともと体重が正常範囲にある方では、体重減少効果は限定的かもしれません。
メトホルミンで何キロ痩せる？
メトホルミンによる体重減少の程度には個人差が非常に大きく、一律に「何キロ痩せる」と断言することはできません。
いくつかの研究では、メトホルミンを数ヶ月から数年服用することで、平均して1～数キログラムの体重減少が認められたと報告されています。例えば、糖尿病予防プログラム（DPP）といった大規模な研究では、メトホルミン服用群で体重減少が認められています。（DPPにおけるメトホルミンの体重減少に関する研究）
しかし、これはあくまで「平均値」であり、全く体重が減らない人もいれば、それ以上に体重が減る人もいます。体重減少効果は、服用量、服用期間、元の体重、食事内容、運動習慣など、様々な要因に影響されます。メトホルミン単独での劇的なダイエット効果を期待するのではなく、あくまで糖尿病治療の一環として、あるいは医師の管理下で補助的に得られる可能性のある効果として捉えることが重要です。メトホルミンを服用しても、食事や運動といった基本的な生活習慣の改善なしには、大きな体重減少は期待できません。
若返り（抗老化）効果
メトホルミンが「若返り薬」や「抗老化薬」として注目されるようになったのは、近年の研究で、糖尿病患者さんにおけるがんや心血管疾患の発症率が、メトホルミン服用によって低下する可能性や、動物実験で寿命が延長したといった報告があるためです。
抗老化効果のメカニズムとしては、主に以下の点が考えられています。
- AMPK経路の活性化: メトホルミンは、細胞内のエネルギーセンサーであるAMPK（AMP活性化プロテインキナーゼ）を活性化することが知られています。AMPKの活性化は、細胞のエネルギー代謝を改善し、オートファジー（細胞内の不要物を分解・リサイクルする仕組み）を促進するなど、細胞レベルでの健康維持に重要な役割を果たします。
- 炎症の抑制: 慢性的な炎症は老化や多くの疾患に関わっていますが、メトホルミンには炎症を抑える作用があるという報告があります。
- 酸化ストレスの軽減: 酸化ストレスも細胞損傷や老化の原因となりますが、メトホルミンがこれを軽減する可能性が示唆されています。
ただし、これらの抗老化効果やがん予防効果、心血管疾患予防効果は、主に糖尿病患者さんを対象とした観察研究や動物実験で示唆されている段階であり、健康な人においてメトホルミンが老化を遅らせたり、寿命を延長したりするという、科学的に確立されたエビデンスはまだありません。 現在、健康な高齢者を対象に、メトホルミンが様々な加齢関連疾患の発症を遅らせるかどうかを検証する大規模な臨床試験（TAME試験など）が進行中ですが、その結果が出るには時間がかかります。ただし、一部のレビューでは、メトホルミンが様々な疾患による早期死亡を減らすことで、健康寿命を改善する可能性も示唆されていますが、寿命延長については議論の余地があるとしています。（メトホルミンの抗老化効果に関するレビュー）
現時点では、メトホルミンはあくまで糖尿病治療薬として承認されている薬であり、抗老化目的で健康な人が安易に服用することは推奨されません。
その他の効果（多嚢胞性卵巣症候群など）
メトホルミンは、2型糖尿病以外にも、適応外で使用されることがあります。代表的なものが多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）です。
PCOSは、月経不順や排卵障害、男性ホルモン過多といった症状が見られる疾患で、多くの患者さんにインスリン抵抗性が認められます。メトホルミンはインスリン抵抗性を改善する作用があるため、PCOS患者さんに使用することで、排卵率の改善、月経周期の正常化、男性ホルモン値の低下などが期待できることがあります。これにより、不妊治療の一環として使用されることもあります。
また、非アルコール性脂肪性肝疾患（NAFLD）や一部のがん（特に大腸がん、肝臓がんなど）に対する予防・改善効果が示唆されていますが、これらも研究段階であったり、確立された治療法として広く推奨されているわけではなかったりするため、医師の慎重な判断のもとで使用されるべきものです。最近の研究では、メトホルミンが免疫系に作用する「免疫調節作用」を持つ可能性も指摘されており、特定の疾患との関連が研究されています。（メトホルミンの免疫調節作用に関する書誌学分析）
これらの適応外使用については、保険適用外となる場合が多く、また患者さんの状態によっては適さないこともあります。必ず専門の医師とよく相談の上、治療方針を決定することが重要です。
メトホルミンの副作用と注意点
メトホルミンは比較的安全性の高い薬とされていますが、全く副作用がないわけではありません。服用にあたっては、副作用について正しく理解しておくことが重要です。
主な副作用（消化器症状など）
メトホルミンの副作用で最も多いのは、下痢、吐き気、腹痛、食欲不振、金属のような味などの消化器症状です。これらの症状は、服用開始初期に現れやすく、通常は数日から数週間で軽減するか消失します。
消化器症状を軽減するためには、以下のような方法が推奨されます。
- 少量から開始し、徐々に増量する: 最初は少ない量から始め、体の慣れを見ながら段階的に増やしていくことで、消化器への負担を減らせます。
- 食後に服用する: 食事中または食直後に服用することで、胃腸への刺激を和らげることができます。日本で広く処方されている徐放錠は、特にこの目的で食後に服用されることが多いです。
- 分割して服用する: 1日の総量を複数回（例えば朝夕2回）に分けて服用することで、一度に消化器にかかる負担を軽減できます。
これらの対策を講じても症状が改善しない場合や、症状が強い場合は、我慢せずに医師に相談しましょう。薬の種類（即放錠か徐放錠か）を変更したり、他の治療薬を検討したりすることも可能です。
その他の比較的頻度の低い副作用としては、頭痛、めまい、倦怠感などがあります。また、長期にわたってメトホルミンを服用すると、ビタミンB12の吸収が阻害され、ビタミンB12欠乏症を引き起こす可能性があります。これは貧血や神経障害の原因となることがあるため、定期的にビタミンB12の値を確認したり、必要に応じてサプリメントなどで補充したりすることが推奨される場合があります。
重大な副作用（乳酸アシドーシスなど）
メトホルミンによる最も重篤な副作用として、乳酸アシドーシスがあります。これは非常に稀な副作用ですが、発症すると重篤な状態になり、命に関わることもあります。
乳酸アシドーシスとは、体内に乳酸が過剰に蓄積し、血液が酸性に傾く状態です。メトホルミンは、乳酸の代謝に関わる肝臓や腎臓に影響を与える可能性があるため、特定の条件下で乳酸アシドーシスを引き起こすリスクが上昇すると考えられています。
乳酸アシドーシスの初期症状は非特異的で気づきにくいことがありますが、吐き気、嘔吐、腹痛、筋肉痛、過呼吸、倦怠感、意識障害などが現れることがあります。これらの症状が現れた場合は、直ちにメトホルミンの服用を中止し、救急医療機関を受診する必要があります。
メトホルミンは危ない薬？
乳酸アシドーシスという重篤な副作用のリスクがあることから、「メトホルミンは危ない薬なのではないか」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、乳酸アシドーシスは重篤な状態ですが、適正に使用すればメトホルミンは安全性の高い薬と考えられています。 乳酸アシドーシスは、メトホルミンを服用しているすべての人に起こるわけではなく、特定の危険因子がある場合にリスクが著しく上昇します。
主な危険因子は以下の通りです。
- 腎機能障害: 腎臓からメトホルミンが排泄されるため、腎臓の働きが低下していると体内に薬が蓄積しやすくなります。eGFR（推算糸球体濾過量）が低い場合にリスクが高まります。
- 肝機能障害: 乳酸の代謝は主に肝臓で行われるため、肝臓の働きが低下していると乳酸が蓄積しやすくなります。
- 心不全、呼吸不全などの低酸素状態: 組織が酸素不足になると乳酸が産生されやすくなります。
- 脱水: 血液が濃縮され、腎臓への血流量が減少し、薬の排泄が悪くなります。
- 過度のアルコール摂取: アルコールも乳酸の代謝に影響します。
- ヨード造影剤を用いた検査: 造影剤使用時には一時的に腎機能が低下することがあるため、メトホルミンの休薬が必要になります。
- 高齢者: 腎機能が低下していることが多く、脱水なども起こしやすいため注意が必要です。
これらの危険因子がない人、またはこれらを適切に管理しながら医師の指示に従って服用する場合には、乳酸アシドーシスの発症リスクは非常に低いとされています。医師は、患者さんの状態（腎機能、肝機能、既往歴など）を十分に評価した上でメトホルミンの処方を判断し、必要に応じて定期的に検査を行います。
したがって、「危ない薬」と一概に恐れるのではなく、「危険因子がある人は服用を避けるべき、または細心の注意が必要な薬」であり、「医師の指示に従って適正に使用すれば安全性の高い薬」と理解することが大切です。自己判断での服用は絶対に避けてください。
服用における禁忌・注意が必要な人
乳酸アシドーシスのリスクを避けるため、メトホルミンを服用してはいけない人（禁忌）や、慎重に投与する必要がある人がいます。
特に重要なのが腎機能です。eGFR（推算糸球体濾過量）は腎臓の働きを示す指標であり、メトホルミンの服用可否を判断する上で非常に重要です。
| 腎機能の状態 (eGFR) | メトホルミンの服用 | 出典 |
|---|---|---|
| 30 mL/min/1.73 m2 未満 (重度の腎機能障害) | 禁忌（服用してはいけません） | FDA文書 |
| 30 ～ 45 mL/min/1.73 m2 (中等度の腎機能障害) | 新規に服用を開始することは推奨されません。服用中の場合は医師の慎重な判断が必要です。 | FDA文書 |
| 45 mL/min/1.73 m2 以上 (軽度～正常の腎機能) | 服用可能ですが、定期的な腎機能検査が推奨されます（年1回など）。 | FDA文書 |
上記以外でメトホルミンが禁忌となる主なケース、または注意が必要なケースは以下の通りです。
メトホルミンが禁忌となる主なケース:
- 透析を受けている方
- 重度の肝機能障害がある方
- 心不全や呼吸不全など、乳酸アシドーシスを起こしやすい低酸素状態の方
- 脱水状態にある方
- 過度のアルコール摂取がある方（急性のアルコール中毒や慢性のアルコール依存症など）
- 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡、1型糖尿病の方（インスリン療法が優先されます）
- 重症感染症、手術前後、外傷など、血糖コントロールが難しい状態の方
- ヨード造影剤を用いた検査を受ける予定の方（検査前や検査後に一定期間休薬する必要があります）
- メトホルミンに対して過敏症の既往がある方
- 妊婦または妊娠している可能性のある方、授乳婦
注意が必要な人:
- 高齢者（特に75歳以上）
- 軽度～中等度の肝機能障害がある方
- 胃腸障害を起こしやすい方
- 不規則な食事や欠食が多い方（メトホルミン単独での低血糖は稀ですが、念のため注意が必要です）
これらの項目に該当するかどうかは、必ず医師に伝え、医師の判断に従ってください。腎機能や肝機能は血液検査で評価できます。ご自身の状態を把握し、医師と正確な情報を共有することが、メトホルミンを安全に服用するために不可欠です。
メトホルミンの飲み方・服用タイミング
メトホルミンは、その効果を最大限に引き出し、副作用を最小限に抑えるために、正しい飲み方や服用タイミングが重要です。
食前・食後、1日2回の理由
日本の添付文書では、メトホルミンは通常、1日2〜3回、食直前または食後に服用するとされています。特に消化器症状の軽減や、薬の効果を安定させる目的で、食後の服用が推奨されることが多いです。
食後に服用することで、薬の吸収が穏やかになり、胃腸への刺激を和らげることができます。また、食事によって上昇する血糖値に対して、薬の効果が適切に作用するようにタイミングを合わせるという意味もあります。
1日の総量を複数回（例えば朝食後と夕食後の2回）に分けて服用するのは、薬の血中濃度を一定に保ち、安定した血糖降下効果を持続させるためです。特に即放錠の場合、効果の持続時間が比較的短いため、1日複数回の服用が必要となります。徐放錠（効果がゆっくりと放出されるタイプ）の場合は、1日1回の服用で効果が持続するものもありますが、こちらも消化器症状を考慮して1日2回に分けることもあります。
服用量や回数は、患者さんの血糖値の状態、腎機能、年齢、併用薬などを考慮して、医師が個別に決定します。自己判断で服用量を変更したり、服用回数を増やしたりすることは絶対に避けてください。
効果時間について
メトホルミンの血糖降下作用は、服用後比較的速やかに現れます。即放錠の場合、服用後数時間で効果のピークに達し、効果は数時間持続します。徐放錠の場合は、有効成分が時間をかけてゆっくりと放出されるため、効果の発現は穏やかですが、より長時間（例えば24時間など）効果が持続するように設計されています。
血糖降下効果そのものは服用している期間中持続しますが、体重減少や抗老化といった効果は、単回服用で得られるものではありません。これらの効果については、継続的な服用が必要であり、効果を実感できるようになるまでにはある程度の期間（数週間から数ヶ月以上）がかかるのが一般的です。
メトホルミンの効果はどのくらいで出るのか？
血糖降下効果:
メトホルミンの血糖降下効果は、服用を開始して数日から1週間程度で現れ始め、多くの場合、数週間から1ヶ月程度で安定した効果が得られます。医師は、服用開始から数週間後に採血を行い、血糖値やHbA1c（過去1～2ヶ月の血糖値の平均を反映する指標）の値を確認して、効果が出ているか、量を変える必要があるかなどを判断します。
体重減少効果:
体重減少効果は、血糖降下効果よりも遅れて現れる傾向があります。効果が見られ始めるまでには数週間から数ヶ月かかることが多く、その効果の程度や現れるまでの期間には個人差が大きいです。服用を続けても体重が全く減らない方もいらっしゃいます。
その他の効果（抗老化など）:
抗老化効果など、研究段階の効果については、そもそも人での有効性が確立されていません。もし効果があるとすれば、非常に長期的な服用が必要になると考えられますが、現時点では明確な「効果が出るまでの期間」を示すことはできません。
いずれの効果についても、医師の指示に従って根気強く服用を続けること、そして生活習慣の改善を同時に行うことが重要です。
メトホルミンは市販されている？
結論から言うと、メトホルミンは日本国内では医師の処方箋なしには購入できません。 薬局やドラッグストアで市販されている血糖降下薬やサプリメントの中に、メトホルミンが含まれているものはありません。
メトホルミンは、効果が高い反面、乳酸アシドーシスのような重篤な副作用のリスクもゼロではないため、医師が患者さんの病状や体の状態（特に腎機能や肝機能）を慎重に評価し、禁忌や注意点を考慮した上で安全に使用できると判断した場合にのみ処方される「処方箋医薬品」に分類されています。
インターネットなどを通じて海外から個人輸入することも可能ですが、これは非常に危険な行為であり、厚生労働省などからも注意喚起が行われています。個人輸入された医薬品には、以下のようなリスクがあります。
- 偽造薬の可能性: 有効成分が全く入っていない、量が不足している、不純物が混入しているなど、効果がないだけでなく健康を害する偽造薬であるリスクが高いです。
- 品質が保証されない: 適切な製造管理や品質管理がなされているか不明です。
- 自己判断によるリスク: 自身の病状や体の状態に合わない薬を自己判断で服用することで、重篤な副作用を見過ごしたり、かえって病状を悪化させたりするリスクがあります。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象外: 個人輸入した医薬品による健康被害は、国の医薬品副作用被害救済制度の対象外となり、適切な補償が受けられません。
安全かつ効果的にメトホルミンを服用するためには、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けて処方してもらうようにしましょう。
メトホルミンが過去に中止になった理由
メトホルミンは、過去に一度、安全性の懸念から使用が控えられた時期がありました。これは、1970年代に別のビグアナイド系薬剤であるフェンホルミンやブホルミンにおいて、乳酸アシドーシスによる死亡例が多数報告されたためです。
ビグアナイド系薬剤は、体内で乳酸の産生を増やしたり、乳酸の代謝を阻害したりする作用があるため、腎機能障害などがある場合に乳酸アシドーシスを起こしやすいことが問題となりました。特にフェンホルミンは、メトホルミンよりもこのリスクが高いことが明らかになり、多くの国で使用が中止されました。日本でも、フェンホルミンは現在使用されていません。
メトホルミンが中止になった理由は何ですか？
正確には、メトホルミン自体が「中止」になったわけではありませんが、同じビグアナイド系薬剤であるフェンホルミンでの乳酸アシドーシスの問題を受けて、メトホルミンも同様のリスクがあるのではないかという懸念から、一時期、日本を含む一部の国で処方が控えられたり、慎重な使用が求められたりする時期がありました。
しかし、その後の詳細な研究や大規模な臨床試験の結果、メトホルミンはフェンホルミンに比べて乳酸アシドーシスのリスクが著しく低いこと、そして適切な禁忌や注意を守って使用すれば、乳酸アシドーシスの発症は非常に稀であることが明らかになりました。また、メトホルミンの血糖降下効果や心血管イベント抑制効果といったメリットが、リスクを上回るというエビデンスが蓄積されました。
これらの科学的根拠に基づき、現在ではメトホルミンは世界保健機関（WHO）の必須医薬品リストにも掲載されるほど、2型糖尿病治療において最も重要な薬剤の一つとして位置づけられています。
過去に安全性の懸念があったのは事実ですが、現在のメトホルミン製剤は、長年の臨床経験と研究によってそのリスクとベネフィットが十分に評価されており、医師の管理下で適正に使用される限りは安全性の高い薬と言えます。
まとめ｜メトホルミンの効果を正しく理解しましょう
メトホルミンは、2型糖尿病治療の基盤となる非常に重要な薬剤です。血糖値を下げる効果はもちろんのこと、体重減少効果や、研究段階ではありますが抗老化効果といった側面も注目されています。
その主な効果は、肝臓からの糖放出抑制、消化管からの糖吸収抑制、末梢組織での糖利用促進による血糖降下作用です。これにより、血糖コントロールを改善し、糖尿病合併症の予防につながることが期待できます。体重減少効果は、食欲抑制や代謝改善などが関与していると考えられていますが、効果の程度には個人差があります。抗老化効果は、AMPK活性化などを介したメカニズムが示唆されていますが、現時点では確立された効果ではなく、今後の研究結果が待たれます。多嚢胞性卵巣症候群や免疫調節作用など、適応外で使用されるケースもありますが、これらは医師の慎重な判断が必要です。
メトホルミンを安全に服用するためには、副作用や禁忌について正しく理解することが不可欠です。最も注意すべき重大な副作用は乳酸アシドーシスですが、これは腎機能障害（特にeGFR 30未満）などの危険因子がある場合にリスクが高まります。医師は、患者さんの状態を評価し、これらのリスクを避けるために適切な用量や服用方法を指示します。消化器症状などの一般的な副作用は、少量からの開始や食後服用などで軽減できることが多いです。
メトホルミンは処方箋医薬品であり、市販はされていません。安全のためにも、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けて処方してもらいましょう。過去に安全性の懸念から一時的に使用が控えられた時期がありましたが、現在の製剤は適正使用下であれば安全性の高い薬とされています。
メトホルミンの服用を検討されている方や、服用中に気になる症状がある方は、必ず医師に相談してください。ご自身の健康状態や病歴、服用中の他の薬などを医師に正確に伝えることが、安全かつ効果的に治療を進める上で最も重要です。メトホルミンの多角的な効果に期待が寄せられていますが、あくまでも医学的な根拠に基づいた正しい理解が必要です。
免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや診断に代わるものではありません。メトホルミンの服用に関する判断は、必ず医師と相談の上で行ってください。
