左胸の下の痛みは、多くの人が経験する可能性のある症状です。チクチク、ズキズキ、締め付けられるような感覚など、その痛み方も様々です。この痛みの原因は一つではなく、命に関わる病気から、比較的軽度なもの、ストレスによるものまで多岐にわたります。胸痛を来たす疾患には、胸部臓器だけではなく、多種多様な疾患がみられます [参考:高知県医師会 Dr. Kawasaki 診療所だより]。
「この痛みは何だろう?」「もし重い病気だったらどうしよう」と不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、左胸の下の痛みに悩む方に向けて、考えられる様々な原因や病気、痛み方による特徴、注意すべき症状、そして何科を受診すべきかの目安について詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、痛みの背景にある可能性について理解を深め、適切な対応をとるための参考にしてください。
左胸の下の痛みの原因|考えられる病気一覧
左胸の下には、心臓、肺、胃、膵臓、脾臓など、重要な臓器が密集しています。また、肋骨やそれを覆う筋肉、神経なども存在します。これらの臓器や組織のいずれかに問題が生じると、左胸の下に痛みとして感じられることがあります。
考えられる痛みの原因は多岐にわたりますが、ここでは代表的なものをいくつかご紹介しますします。ご自身の症状に当てはまるものがあるか確認してみましょう。
命に関わる可能性のある心臓の病気
左胸の痛みと聞いて、多くの方がまず心配されるのが心臓病でしょう。確かに、心臓の病気は緊急性の高い場合が多く、注意が必要です。左胸の下の痛みとして感じられることもあります。
狭心症・心筋梗塞
狭心症や心筋梗塞は、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が狭くなったり(狭心症)、詰まったりする(心筋梗塞)ことで起こる病気です。心臓の筋肉への酸素供給が不足するため、胸の痛みや圧迫感が生じます。
- 狭心症:
- 痛みの特徴: 主に労作時(階段を昇る、重いものを持つなど)に胸の真ん中や左胸のあたりに締め付けられるような、あるいは圧迫されるような痛みが生じます。左肩や腕、顎、みぞおちなどに痛みが広がる(放散痛)こともあります。痛みは通常、数分から長くても15分程度でおさまります。安静にしたり、ニトログリセリンなどの薬を使用したりすると改善するのが特徴です。
- 左胸の下の痛みとして感じられる場合: 典型的な胸の真ん中の痛みだけでなく、左胸の下あたりが痛むと感じる方もいます。特に非典型的な症状として現れることがあります。
- 原因: 動脈硬化により冠動脈が狭くなることがほとんどです。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などがリスク要因となります。
- 注意点: 狭心症の発作は心筋梗塞の前触れである可能性があり、放置すると危険です。診断と適切な治療が必要です。
- 心筋梗塞:
- 痛みの特徴: 冠動脈が完全に詰まり、心臓の筋肉の一部が壊死してしまう状態です。狭心症よりもはるかに強い、激しい痛みが持続するのが特徴です。締め付けられるような、焼け付くような痛みが30分以上続くことが多く、安静にしても改善しません。冷や汗、吐き気、息苦しさ、意識障害などを伴うこともあります。
- 左胸の下の痛みとして感じられる場合: 心筋梗塞でも典型的な部位以外の痛みを訴えることがあります。左胸の下の激しい痛みが持続する場合、心筋梗塞の可能性も否定できません。
- 原因: 動脈硬化による冠動脈の完全閉塞が主な原因です。
- 注意点: 心筋梗塞は、一刻を争う非常に危険な病気です。上記のような症状が疑われる場合は、直ちに救急車を呼ぶ必要があります。 安静時胸痛が 20 分以上持続し,硝酸薬が無効な高リスク例や 2 週間以内に軽労作や安静時胸痛のある中等度リスク例では,ただちに入院の上,早期侵襲的治療を含めた治療が推奨されています。 [参考:日本臨床検査医学会ガイドライン]。
肺や呼吸器系の病気による痛み
呼吸器系の病気も、左胸の下の痛みの原因となることがあります。呼吸と連動して痛むことが多いのが特徴です。
気胸
気胸は、肺に穴が開いて空気が漏れ出し、肺がしぼんでしまう病気です。
- 痛みの特徴: 突然の、強い胸の痛みや息苦しさが主な症状です。痛みは通常、深呼吸や咳で強くなります。左肺に発生した場合は、左胸の下あたりが痛むことがあります。
- 原因: 若い痩せ型の男性に自然に発生することが多いですが、肺気腫など既存の肺疾患がある方や、外傷によっても起こります。
- 注意点: 痛みが強い場合や息苦しさがひどい場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。肺のしぼみ具合によっては処置が必要です。
肺炎・胸膜炎
肺炎は肺に炎症が起きる病気で、胸膜炎は肺を覆う胸膜に炎症が起きる病気です。しばしば併発します。
- 痛みの特徴: 呼吸や咳と連動して、鋭い痛みが胸に生じます。特に胸膜炎では、深呼吸するたびに痛みが強くなる「呼吸性胸痛」が典型的な症状です。炎症が左肺の下部に及ぶと、左胸の下あたりに痛みを感じることがあります。
- 原因: 細菌やウイルスなどの感染が主な原因です。
- 注意点: 発熱、咳、痰、息苦しさなどの症状を伴います。感染症であるため、適切な抗生物質や抗ウイルス薬による治療が必要です。
消化器系の病気
左胸の下は胃などの消化器系の臓器とも近接しています。消化器系の問題が、みぞおちだけでなく左胸の下あたりに痛みとして感じられることもあります。
胃炎・胃潰瘍
胃炎は胃の粘膜の炎症、胃潰瘍は胃の粘膜が深く傷つきえぐれた状態です。
- 痛みの特徴: みぞおちの痛みが最も典型的ですが、痛みが左胸の下あたりに広がることもあります。胃炎の場合は食後や空腹時に痛みが生じやすく、胃潰瘍の場合は空腹時に痛みが強まり、食事をすると和らぐことが多いです。ズキズキ、キリキリ、焼け付くような痛みなど様々です。
- 原因: ピロリ菌感染、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用、ストレス、アルコール、喫煙などが原因となります。
- 注意点: 胃潰瘍が進行すると出血や穿孔(穴が開く)などの合併症を引き起こす可能性があり危険です。適切な診断と治療が必要です。
逆流性食道炎
胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜に炎症を起こす病気です。
- 痛みの特徴: 主な症状は胸焼け(胸骨の後ろが焼けるような感じ)や呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)ですが、胸の痛みとして感じられることもあります。みぞおちから胸にかけて痛むことが多く、左胸の下あたりに痛みを感じる方もいます。食後や横になったときに症状が悪化しやすい傾向があります。
- 原因: 食道と胃の間の筋肉(下部食道括約筋)が緩む、胃酸の分泌が多い、腹圧が高い(肥満、前かがみの姿勢など)などが原因となります。
- 注意点: 放置すると食道潰瘍や食道狭窄、まれにバレット食道を経て食道がんのリスクが高まることがあります。
膵臓・胆嚢の病気(急性膵炎など)
膵臓は胃の奥にある臓器で、消化酵素やホルモン(インスリンなど)を分泌します。胆嚢は肝臓で作られた胆汁を貯蔵し、濃縮する袋状の臓器です。これらの病気も痛みの原因となることがあります。
- 痛みの特徴:
- 急性膵炎: 突然の激しい上腹部痛(みぞおち周辺)が特徴ですが、痛みが背中や左脇腹、左胸の下あたりに広がることもあります。痛くなる場所は多少バリエーションがあるものの、「痛み」は最もよく見られる症状の一つです。多いのは左の肋骨のすぐ下あたりや、左の肩甲骨付近から左の背中の肋骨の下あたりまで。左の首や左の腕、左脚が痛くなる方もいらっしゃいます。痛みの種類は千差万別で、「なんとなく違和感がある」という方から、「軽い鈍痛が続く」「重くて辛い」「差し込むように痛い」まで、いろいろなパターンがあります。 [参考:ひらはたクリニック]。体を丸めると痛みが和らぐ傾向がありますが、動くと悪化することが多いです。吐き気、嘔吐、発熱などを伴います。
- 胆石症・胆嚢炎: 右上腹部痛が典型的ですが、痛みがみぞおちや左胸の下あたりに感じられることもあります。特に脂肪分の多い食事の後などに痛みが誘発されやすい傾向があります。
- 原因:
- 急性膵炎: アルコールの過剰摂取、胆石、高脂血症、薬剤などが原因となります。
- 胆石症・胆嚢炎: 胆汁の成分が固まって石ができる(胆石)ことが原因です。
- 注意点: 急性膵炎は重症化すると命に関わる可能性のある病気です。激しい痛みを伴う場合は、緊急受診が必要です。
筋肉・骨・神経が原因の痛み
左胸の下の痛みは、内臓だけでなく、体の構造そのものである筋肉、骨、神経に原因がある場合も少なくありません。比較的頻繁に見られる原因です。
肋間神経痛
肋間神経痛は、肋骨に沿って走る神経が刺激されることで起こる痛みです。
- 痛みの特徴: ピリピリ、チクチク、ズキンとするような痛みが、片側の肋骨に沿って現れるのが特徴です。深呼吸、咳、くしゃみ、体の向きを変えるなどの特定の動作や体勢で痛みが誘発されたり、強くなったりします。痛む場所は肋骨に沿っていればどこでも起こり得ますが、左胸の下あたりに痛みを感じる方も多くいます。痛みが一時的で数秒から数分でおさまることもあれば、持続することもあります。
- 原因: 原因がはっきりしない「特発性肋間神経痛」が多いですが、帯状疱疹(ヘルペスウイルス)、肋骨骨折、変形性脊椎症、胸椎椎間板ヘルニアなど、神経を圧迫したり炎症させたりする病気が原因となることもあります。脊椎や肋骨に原因がない場合に起こる症候性肋間神経痛の代表的なものは、帯状疱疹です。 [参考:済生会]
- 注意点: 帯状疱疹が原因の場合は、痛みだけでなく皮膚に赤い発疹や水ぶくれが現れます。発疹に気付く前に神経痛のような痛みが先行することがあります。心臓・太い血管や肺などの内臓の疾患が原因で起こる胸の痛みとの違いは、痛む場所や範囲がはっきりしており、肋骨に沿って起こる比較的鋭い痛みとされています。 [参考:済生会]。
筋肉痛・骨折・打撲
左胸の下の肋骨や胸壁の筋肉の損傷も、痛みの原因となります。
- 痛みの特徴:
- 筋肉痛: 重いものを持ち上げる、激しい咳を続けるなど、特定の動作や運動の後に生じます。痛む部分を押すと痛みが強くなる(圧痛)ことが多いです。体を動かしたり、体勢を変えたりすると痛みます。
- 骨折・打撲: 外からの強い力(転倒、衝突など)によって肋骨にヒビが入ったり折れたり、あるいは胸壁を強く打撲した場合に生じます。痛む場所がはっきりしており、押すと激しい痛みがあります。深呼吸や咳でも痛みが響きます。
- 原因: 強い咳、無理な体勢での作業、スポーツによる負荷、外傷など。
- 注意点: 肋骨骨折の場合、折れた骨が肺や他の臓器を傷つける可能性もゼロではありません。特に痛みが強い場合や息苦しさを伴う場合は、医療機関を受診して確認することが重要です。
ストレスや精神的な要因
体の検査をしても明らかな異常が見つからないにも関わらず、痛みが続く場合があります。このような痛みには、ストレスや不安などの精神的な要因が関わっている可能性があります。
心臓神経症・パニック障害など
心臓神経症は、動悸や息切れ、胸の痛みなど、心臓病を思わせる様々な症状が現れるにも関わらず、心臓の検査では異常が見つからない状態です。精神的なストレスや不安が原因と考えられています。パニック障害でも、胸痛や息苦しさを伴うパニック発作が起きることがあります。
- 痛みの特徴: 左胸やその下あたりに、チクチク、ズキズキ、締め付けられるような痛みなど、様々な痛み方があります。痛みの感じ方や強さは日によって、あるいは時間帯によって変動することがあります。特定の状況(ストレスを感じるとき、人前に出るときなど)で症状が悪化しやすい傾向があります。
- 原因: 長期的なストレス、精神的な緊張、不安、過労などが引き金となることが多いです。
- 注意点: 身体的な病気が原因ではないことを確認するためにも、一度医療機関を受診して検査を受けることが大切です。身体的な異常がないと診断された場合は、精神的な側面からのアプローチ(カウンセリング、薬物療法など)が有効な場合があります。
女性特有の原因
女性の場合、ホルモンバランスの変化が胸の痛みに影響を与えることがあります。
ホルモンバランスの乱れなど
月経周期に伴って胸の張りや痛みを感じる女性は多くいますが、左胸の下あたりに痛みを訴える方もいます。これは、ホルモンバランスの変化が乳腺組織やその周辺に影響を与えるためと考えられています。
- 痛みの特徴: 生理前や生理中に痛みが強くなり、生理が終わると和らぐ傾向があります。痛みの程度は個人差があり、チクチクしたり、張るような痛みだったりします。
- 原因: 黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌増加などが関与していると考えられています。
- 注意点: ホルモンバランスに関連する痛みであることが多いですが、念のため他の原因が隠れていないか医療機関に相談することも可能です。
左胸の下の痛みの種類・症状別
痛みの感じ方は、原因を探る上で重要なヒントになります。左胸の下の痛みが、どのような種類・症状で現れているかを確認してみましょう。膵臓の病気でも「軽い鈍痛が続く」「重くて辛い」「差し込むように痛い」など、いろいろなパターンの痛みがあります。 [参考:ひらはたクリニック]。
ズキズキする痛み
ズキズキする痛みは、様々な原因で起こりうる比較的一般的な痛み方です。
- 考えられる原因: 筋肉痛、肋間神経痛、胃炎、膵炎、ストレスなどが考えられます。心臓病の場合も非典型的にズキズキした痛みとして感じられることがありますが、典型は締め付けられるような痛みです。
- 特徴: 痛みの強さや頻度は様々です。特定の動作で悪化したり、体勢を変えると楽になったりする場合は、筋肉や神経、骨の問題の可能性が高まります。食後や空腹時に痛みが生じる場合は、胃など消化器系の問題が疑われます。
チクチクする痛み
チクチク、ピリピリといった電気的な痛みは、神経系の問題が関わっている可能性を示唆します。
- 考えられる原因: 肋間神経痛、帯状疱疹の初期、ストレスなどが考えられます。皮膚に近い表面的な痛みとして感じられることもあります。
- 特徴: 痛む範囲が比較的小さく、限局していることが多いです。触ったり、特定の場所を押したりすると痛みが誘発されることがあります。チクチクした痛みが続く場合、肋間神経痛の可能性が高いです。
締め付けられるような痛み
胸が締め付けられるような、あるいは圧迫されるような痛みは、心臓病の典型的な症状としてよく知られています。
- 考えられる原因: 狭心症、心筋梗塞などの心臓病が最も強く疑われます。ただし、逆流性食道炎やストレス(心臓神経症など)でも、同様の痛みとして感じられることがあります。
- 特徴: 痛みが胸の真ん中や左胸あたりに生じ、左肩や腕などに放散することが多いです。運動時や緊張時に痛みが生じ、安静で改善する場合は狭心症、安静にしても改善せず持続する場合は心筋梗塞の可能性が高まります。消化器系やストレスによる場合は、症状が現れる状況や他の随伴症状(胸焼け、息切れなど)が異なります。
咳や息苦しさを伴う痛み
痛みに加えて咳や息苦しさを伴う場合は、呼吸器系や心臓に問題がある可能性があります。
- 考えられる原因: 気胸、肺炎・胸膜炎、心不全などが考えられます。
- 特徴: 咳や深呼吸をするたびに痛みが強くなる場合は、胸膜炎や気胸が強く疑われます。息苦しさが強く、ゼーゼーするような喘鳴を伴う場合は、気管支炎や喘息なども考慮されます。心不全の場合、労作時の息切れや夜間の呼吸困難感を伴うことがあります。
動くと痛む・体勢によって痛む
特定の動きや体勢をとると痛みが現れたり、強くなったりする場合は、筋肉、骨、神経などの体の構造に原因がある可能性が高いです。
- 考えられる原因: 肋間神経痛、筋肉痛、肋骨骨折・打撲、胸椎の病気(ヘルニアなど)、胸膜炎などが考えられます。
- 特徴: 痛む部分を押すと痛みが誘発されることが多く、痛む場所が比較的はっきりしています。深呼吸や咳でも痛みが強くなる場合は、肋骨や胸膜の問題も考慮されます。
たまに痛む・継続する痛み
痛みの頻度や持続時間も、原因を考える上での手がかりとなります。
- たまに痛む(一時的): 肋間神経痛の発作、ストレス、逆流性食道炎の一過性の症状などが考えられます。特定の状況(ストレスを感じたとき、無理な体勢をとったときなど)で一時的に痛みが生じることがあります。
- 継続する痛み: 胃炎・胃潰瘍、慢性的な炎症、肋骨骨折(回復過程)、慢性的なストレスなどが考えられます。痛みが数日間、数週間と続く場合は、何らかの慢性的な問題が背景にある可能性があります。
左胸の下の痛みに伴う注意すべき症状
左胸の下の痛みに加えて、以下のような症状が現れている場合は、緊急性の高い病気の可能性も考慮し、迅速な対応が必要です。
緊急性の高い症状
以下の症状が一つでも当てはまる場合は、迷わず救急車を呼ぶか、救急外来を受診してください。
- 痛みが突然始まり、非常に強い
- 痛みが30分以上続いている(特に締め付けられるような痛み)
- 痛みが背中、肩、腕、顎、みぞおちなどに広がっている
- 冷や汗をかいている
- 吐き気や嘔吐を伴う
- 呼吸が苦しい、息切れがひどい
- 顔色が悪い、唇が紫色になっている
- 意識がもうろうとしている
- 脈が速い、不規則
- めまいや立ちくらみがする
これらの症状は、心筋梗塞や大動脈解離など、生命に関わる可能性のある重篤な病気の兆候である可能性があります。自己判断で様子を見たりせず、速やかに医療機関に連絡することが最優先です。標準 12 誘導心電図は救急部到着から 10 分以内にとるように努めるなど、迅速な検査・対応が必要です。 [参考:日本臨床検査医学会ガイドライン]。
左胸の下の痛みは何科を受診すべき?
左胸の下の痛みの原因は多岐にわたるため、何科を受診すれば良いか迷うことも多いでしょう。まずは症状に応じて、適切な診療科を選ぶことが大切です。緊急性を要する疾患を、急性腹症と同様、速やかに診断し、対応することが重要です。 [参考:高知県医師会 Dr. Kawasaki 診療所だより]。
まず相談すべき診療科
痛みの原因がはっきりしない場合や、どの診療科が適切か判断に迷う場合は、まずは総合内科やかかりつけ医に相談するのが良いでしょう。問診や簡単な診察を行った上で、より専門的な診療科を紹介してもらえます。
症状別の適切な診療科と受診の目安
以下に、症状から推測される原因に基づいた適切な診療科と受診の目安を示します。ただし、あくまで目安であり、上記の「緊急性の高い症状」がある場合は、迷わず救急医療機関を受診してください。
主な症状 | 考えられる主な原因 | 適切な診療科 | 受診の目安 |
---|---|---|---|
締め付けられるような痛み、労作時の痛み、放散痛、息切れ、冷や汗など | 狭心症、心筋梗塞、心不全など | 循環器内科 | 緊急性の高い症状があれば直ちに救急受診。 そうでなければ早めに受診。 |
胃の痛み、胸焼け、呑酸、食後の痛み、空腹時の痛み | 胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎、膵炎、胆石症など | 消化器内科 | 激しい痛み、嘔吐、黄疸などがあれば緊急受診。そうでなければ早めに受診。 |
呼吸と連動する痛み、咳、息苦しさ、発熱 | 気胸、肺炎、胸膜炎、気管支炎など | 呼吸器内科 | 息苦しさが強い、高熱が続く場合は早めに受診。 |
体を動かすと痛む、体勢で痛む、押すと痛い、チクチクする痛み、肋骨に沿った痛み | 肋間神経痛、筋肉痛、肋骨骨折・打撲、胸椎の病気、帯状疱疹(発疹があれば皮膚科も) | 整形外科、神経内科 | 痛みが強い、発疹がある、外傷後などは早めに受診。痛みが軽く、続く場合は様子見も。 |
検査で異常なし、ストレスや不安を感じるときに悪化する、精神的な症状を伴う | 心臓神経症、パニック障害、自律神経失調症など | 心療内科、精神科 | 身体的な病気がないことを確認した上で、症状が改善しない場合は受診を検討。 |
生理周期に関連する痛み | ホルモンバランスの乱れなど | 婦人科 | 痛みが強い、不安な場合。 |
原因が不明、判断に迷う | 様々な可能性 | 総合内科、かかりつけ医 | まず相談し、必要に応じて専門科へ紹介してもらう。 |
痛みの原因を特定するためには、医師による問診、身体診察、そして必要に応じてレントゲン検査、心電図、血液検査、胃カメラ、CT、MRIなどの画像検査が行われます。自己判断せず、専門家の診断を受けることが最も重要です。
左胸の下にある臓器について
左胸の下の痛みの原因となる可能性のある臓器や組織について、具体的にどのあたりに位置しているのかを簡単に説明します。ご自身の痛む場所が、これらの臓器と関連しているかイメージしてみましょう。
左胸の下に位置する主な臓器
左胸の下、具体的には左の肋骨弓の下あたりからみぞおちにかけての領域には、以下のような重要な臓器や構造が存在します。
- 肺(左下葉): 肺は左右にありますが、左肺の下の部分は左胸の下、肋骨の下あたりに位置しています。肺そのものには痛みを感じる神経が少ないため、通常は肺の病気で痛みが出ることは少ないですが、肺を覆う「胸膜」に炎症が起きたり(胸膜炎)、肺がしぼんだりする(気胸)と、その場所の痛みを強く感じます。
- 心臓(一部): 心臓は胸のほぼ中央にありますが、やや左側に偏っています。特に心臓の左下部や後壁に問題がある場合、左胸の下やみぞおち、背中などに痛みが感じられることがあります。
- 胃: 胃はみぞおちのやや左寄り、左胸の下あたりに位置する袋状の臓器です。胃炎や胃潰瘍、胃がんなどの病気で痛みが生じます。
- 膵臓(体部・尾部): 膵臓は胃の奥に位置し、細長い形状をしています。左胸の下あたりには膵臓の体部や尾部が存在します。膵炎などで炎症が起きると、激しい痛みが生じます。膵臓の病気で痛みやすい場所は、左の肋骨のすぐ下あたりや、左の肩甲骨付近から左の背中の肋骨の下あたりとされています。 [参考:ひらはたクリニック]。
- 脾臓: 脾臓は左の肋骨の下、胃の左隣あたりに位置する臓器です。リンパ球の生成や古い赤血球の処理などを行います。通常は痛みませんが、病気で腫れたり損傷したりすると痛みが生じることがあります。
- 大腸(横行結腸の一部、下行結腸の上部): 大腸の一部も左胸の下あたりを通過しています。腸の動きや炎症などで痛みが生じることもあります。
- 横隔膜: 胸腔と腹腔を隔てる筋肉の膜です。横隔膜に炎症や刺激があると、肩や首、あるいは胸やみぞおちなどに関連痛として痛みを感じることがあります。
- 肋骨・肋間筋・肋間神経: 左胸の下の肋骨、その間にある筋肉(肋間筋)、そしてそこに沿って走る神経(肋間神経)は、体の外側からの刺激や姿勢、動きによって痛みが生じやすい部分です。
これらの臓器や組織のどれに問題があるかによって、痛みの性質や現れ方、伴う症状が異なってきます。
まとめ|左胸の下の不安な痛みは早めの受診を
左胸の下の痛みは、多種多様な原因によって引き起こされます。軽い筋肉痛や神経痛であることもあれば、胃炎や逆流性食道炎といった消化器系の問題、さらには狭心症や心筋梗塞、急性膵炎のような、迅速な対応が必要な重篤な病気のサインである可能性も否定できません。
痛み方(ズキズキ、チクチク、締め付けられるなど)や、痛みが現れるタイミング、特定の動作や体勢との関連、そして発熱や息苦しさ、吐き気といった他の随伴症状の有無は、痛みの原因を特定する上で重要な手がかりとなります。
特に、痛みが非常に強い、突然始まった、長く続いている、冷や汗や息苦しさを伴うなど、「緊急性の高い症状」がある場合は、一刻も早く医療機関を受診することが必要です。緊急性を要する疾患も含まれるため、ためらわずに救急車を呼ぶなどの対応をとってください。 [参考:高知県医師会 Dr. Kawasaki 診療所だより]。
緊急性の高い症状がない場合でも、痛みが続く場合や、痛みが強くなる傾向がある場合、あるいは痛みの原因が分からず不安を感じる場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。まずは総合内科やかかりつけ医に相談し、必要であれば循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、整形外科、心療内科などの専門医の診察を受けるようにしましょう。
この記事が、左胸の下の痛みに悩む方にとって、ご自身の症状について理解を深め、適切な次のステップを踏み出すための一助となれば幸いです。自己判断は避け、医療専門家の診断とアドバイスを受けることが、健康と安心への最も確実な道です。
免責事項: 本記事は、一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。個人の症状については、必ず医師または他の医療専門家の診断を受けてください。本記事の情報に基づいて行った行動によって生じたいかなる損害についても、一切の責任を負いかねます。