背中の右肩甲骨の下あたりに感じる痛みは、日常生活でよく経験する症状の一つです。姿勢の悪さや肩こりが原因だろうと軽く考えてしまいがちですが、中には放置すると危険な病気が隠れている可能性も否定できません。痛みの種類や程度、そして痛むタイミングや伴う症状は、その原因を探る上で非常に重要な手がかりとなります。この記事では、「背中 痛い 右 肩甲骨下」という症状について、考えられる様々な原因から、痛みの特徴による見分け方、自分でできる対処法、そして最も気になる「何科を受診すべきか」「受診の目安」について詳しく解説します。ご自身の痛みに不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
背中の右肩甲骨下が痛い原因とは?
背中の右肩甲骨の下あたりに痛みを感じる場合、その原因は非常に多岐にわたります。大きく分けて、内臓の病気(内科的疾患)、筋肉や骨格の問題、そしてストレスや自律神経の乱れなどが考えられます。それぞれの原因によって、痛みの性質や伴う症状が異なるため、自身の痛みがどのタイプに当てはまるかを考えることが、適切な対処や医療機関の受診に繋がります。
内臓の病気(内科的疾患)
内臓に異常がある場合、その痛みが直接的な部位ではなく、体から離れた場所に感じる「放散痛(ほうさんつう)」として現れることがあります。背中の右肩甲骨の下あたりは、特にいくつかの内臓疾患による放散痛の好発部位として知られています。これらの病気は早期発見・早期治療が重要となる場合が多いため、内臓疾患の可能性も視野に入れることが大切です。
肝臓・胆嚢・膵臓の疾患
右肩甲骨下の痛みを引き起こす内臓疾患として、特に注意が必要なのが肝臓、胆嚢、そして膵臓に関連する病気です。これらの臓器は互いに近い位置にあり、それぞれの病気が背中、特に右側に放散痛を引き起こしやすいという特徴があります。
肝臓の疾患
肝臓は体の右側、肋骨の下あたりに位置する大きな臓器です。肝臓自体には痛覚神経が少ないため、病気が初期の段階で痛みを自覚することは少ないとされています。しかし、肝臓が腫大したり、炎症が進行して周辺組織を圧迫したりすると、右の肋骨の下や、時には背中の右肩甲骨下あたりに鈍い痛みや重苦しさを感じることがあります。考えられる疾患としては、ウイルス性肝炎(B型、C型)、アルコール性肝障害、脂肪肝、肝硬変、そして肝臓がんなどがあります。これらの病気では、痛みの他に全身倦怠感、食欲不振、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、尿の色が濃くなる、腹水によるお腹の張りなどの症状を伴うことがあります。特に肝臓がんなど、進行してから症状が出やすい病気もあるため、慢性的な肝臓病を抱えている方や、リスク要因がある方は定期的な健康診断が重要です。
胆嚢・胆管の疾患
胆嚢は肝臓の下面にぶら下がっている小さな臓器で、肝臓で作られた胆汁を一時的に貯蔵し、濃縮する働きをしています。胆管は胆汁を十二指腸へ運ぶ通り道です。胆嚢や胆管の病気もまた、右肩甲骨下への放散痛の典型的な原因の一つです。
代表的な病気は胆石症や胆嚢炎です。胆石が胆嚢の出口や胆管に詰まると、胆汁の流れが妨げられ、激しい痛みを引き起こします。この痛みは「胆石疝痛」と呼ばれ、右季肋部(みぎきろくぶ:右のあばら骨の下あたり)に始まることが多いですが、しばしば背中の右肩甲骨や右肩にかけて放散します。痛みは数分から数時間続くことがあり、食後、特に脂っこいものを食べた後に起こりやすい傾向があります。痛みに伴って、吐き気や嘔吐、発熱、黄疸などを伴うこともあります。胆嚢炎の場合は、胆石が原因であることが多いですが、胆嚢の炎症そのものによる持続的な痛みが右肩甲骨下に放散することもあります。
膵臓の疾患
膵臓は胃の裏側にある臓器で、消化酵素やインスリンなどのホルモンを分泌しています。膵臓の病気による痛みは、通常、お腹のやや上部やみぞおちあたりに感じることが多いですが、背中全体や左側の背中に放散することが一般的です。しかし、膵臓の頭部(右側)に病変がある場合や、炎症の広がり方によっては、右側の背中、あるいは右肩甲骨下あたりに痛みを感じる可能性もゼロではありません。
考えられる病気としては、膵炎(急性または慢性)、膵臓がんなどがあります。膵炎の場合、激しい腹痛と共に背中への放散痛が特徴的で、体を丸めたり前にかがんだりすると痛みが和らぐ傾向があります。膵臓がんも進行すると痛みを伴うことがあり、背中への放散痛が見られることがあります。これらの病気では、痛みの他に吐き気、嘔吐、発熱、黄疸、体重減少、糖尿病の発症や悪化などの症状を伴うことがあります。特に急性膵炎は緊急性の高い病気ですので、激しい腹痛と背中の痛みを伴う場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
心臓・肺の疾患
心臓や肺の病気が、背中の右肩甲骨下に痛みとして現れる可能性も考えられます。ただし、心臓病による放散痛は、一般的に左肩や左腕、顎など左側に現れることが多いです。肺の病気も、炎症や胸膜への刺激によって痛みが起こることがありますが、右肩甲骨下というピンポイントで痛むケースは、肺の病変の位置や広がり方、胸膜炎の有無などによって異なります。
心臓の疾患
心臓病による痛みとして最も一般的なのは、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患です。これらの病気では、心臓への血流不足により胸に締め付けられるような痛みが生じ、左肩や左腕、顎などに放散することが多いです。右肩甲骨下への放散痛は稀ですが、非典型的な症状として現れる可能性も否定できません。また、大動脈解離という命に関わる病気では、胸から背中にかけて引き裂かれるような激しい痛みが起こることがありますが、この痛みも背中の右側に及ぶことがあります。心臓に関連する痛みの場合は、冷や汗、息切れ、吐き気などの症状を伴うことが多く、特に安静時にも強い痛みがある場合や、痛みが持続する場合は緊急性が高いため、ためらわずに救急車を呼ぶなど、迅速な対応が必要です。
肺の疾患
肺に炎症や病変がある場合、痛みを伴うことがあります。肺自体には痛覚神経がありませんが、肺を覆っている「胸膜(きょうまく)」には痛覚神経が豊富です。肺炎や胸膜炎などにより胸膜が炎症を起こすと、呼吸や咳、体の動きに伴って痛みが現れます。特に、右肺の下葉(かよう)や外側の胸膜に病変がある場合、その炎症が背中の右側や右肩甲骨下あたりに痛みとして感じられることがあります。
考えられる病気としては、肺炎、胸膜炎、自然気胸(肺に穴が開いて空気が漏れる)、肺がんなどが挙げられます。これらの病気では、痛みの他に、咳、痰、息切れ、呼吸困難、発熱、全身倦怠感などの症状を伴うことが一般的です。特に息苦しさや呼吸困難が強い場合は、緊急性の高い状態である可能性があります。
その他の内科的疾患
肝臓、胆嚢、膵臓、心臓、肺の疾患以外にも、背中の右肩甲骨下あたりに痛みを引き起こす内科的な原因はいくつか考えられます。
消化器系の疾患
胃や十二指腸の病気、特に潰瘍が進行して穿孔(穴が開く)した場合、激しい痛みが腹部だけでなく背中にも放散することがあります。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の痛みは、通常みぞおちあたりに感じることが多いですが、穿孔など重篤な状態になると背中全体や右側に痛みが広がる可能性があります。また、腸閉塞などでも腹痛や吐き気と共に背中の痛みを伴うことがあります。
腎臓・尿管の疾患
腎臓は背中の腰のあたりに位置しており、尿管は腎臓から膀胱へ尿を運ぶ管です。右の腎臓や尿管に結石などができた場合、激しい痛みを引き起こすことがあります。この痛みは「腎疝痛」や「尿管結石疝痛」と呼ばれ、通常は側腹部や腰から下腹部、足の付け根にかけて放散することが多いですが、痛みの位置や広がり方によっては背中の右肩甲骨下あたりに関連痛として感じられる可能性も考えられます。血尿や吐き気、嘔吐などを伴うことがあります。
帯状疱疹
帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)のウイルスが神経節に潜んでいて、免疫力の低下などをきっかけに再活性化することで発症します。通常、体の片側に、神経に沿ってピリピリ、チクチク、ズキズキといった痛みが現れ、数日後に赤い発疹や水ぶくれが出てきます。発疹が現れる前に痛みが先行することが多く、背中の右肩甲骨下あたりの神経が侵されている場合、発疹が出る前から強い痛みを感じることがあります。痛みの特徴としては、焼けるような痛みや電気が走るような痛みが挙げられます。
筋肉や骨格の問題
内臓疾患の可能性がない場合、背中の右肩甲骨下の痛みの原因として最も頻繁に考えられるのが、筋肉や骨格に起因する問題です。日々の生活習慣や体の使い方によって、この部位の筋肉に負担がかかり、痛みが生じることがあります。
日常的な姿勢や体の歪み
私たちの体は、重力に対してバランスを取りながら活動しています。しかし、猫背や前かがみの姿勢での長時間作業、スマートフォンを長時間見続けること、片側だけに負担をかけるような体の使い方などは、背中の特定の筋肉に過剰な負担をかけます。特にデスクワークでは、椅子に浅く腰掛けたり、背もたれに寄りかかりすぎたり、画面に顔を近づけすぎたりといった姿勢が、首や肩、そして背中にかけての筋肉を常に緊張させます。
背中の右肩甲骨周辺には、肩甲挙筋や菱形筋、広背筋といった筋肉があり、これらは腕の動きや肩甲骨の安定性に関わっています。不良姿勢が続くと、これらの筋肉が常に引き伸ばされたり、逆に縮こまったりした状態になり、血行が悪化して酸素や栄養が十分に供給されなくなります。その結果、筋肉が硬くなり、「トリガーポイント」と呼ばれる痛みの原因となるしこりができやすくなります。このトリガーポイントが、押すと痛むだけでなく、周辺の筋肉や離れた部位に痛みを放散させることがあります。右側だけが痛む場合は、利き腕の使用頻度や、カバンの持ち方、体の歪み(側弯症など)が影響している可能性も考えられます。
筋肉の炎症や張り
特定の筋肉に過剰な負荷がかかったり、急な動きをしたりすることで、筋肉が炎症を起こしたり、強く張ったりすることがあります。これを「筋筋膜性疼痛症候群」と呼ぶこともあります。
スポーツでの使いすぎ(例:野球の投球動作、テニスのサーブ、ゴルフのスイングなど)、重い物を無理な体勢で持ち上げる、普段あまり使わない筋肉を急に使った、といったことが原因となります。右肩甲骨の下あたりには、僧帽筋の下部線維、広背筋の上部、脊柱起立筋などが関わっており、これらの筋肉に炎症や強い張りが生じると、ズキズキとした痛みや重苦しさを感じます。痛みは特定の動作で強くなることが多く、安静にしていると比較的楽になる傾向があります。また、患部を押すと痛みが強くなる圧痛(あっつう)が認められることも特徴です。
寝違えや急な負荷
朝起きたら首から肩、背中にかけて痛くて動かせない、いわゆる「寝違え」も、背中の痛みの原因となります。寝違えは、不自然な姿勢で寝てしまったり、睡眠中に体が冷えたりすることで、首や肩周りの筋肉や靭帯に負担がかかり、炎症を起こしたり、筋肉が攣ったりした状態です。痛みが首だけでなく、肩甲骨周辺や背中にかけて広がることもよくあります。右肩甲骨の下あたりに痛みが出る場合は、寝ている間に右側に負担がかかる姿勢になっていた可能性が考えられます。
また、普段運動をしない人が急に激しい運動をしたり、引っ越しなどで普段持たないような重い荷物を運んだりするなど、急な負荷が背中の筋肉や関節にかかることでも痛みは生じます。これは軽い肉離れや筋挫傷、あるいは筋膜の損傷などが原因となっている可能性があります。痛みは突然発生し、特定の動きや体勢で悪化することが多いです。
ストレスや自律神経の乱れ
心と体は密接に関係しています。精神的なストレスや過労、睡眠不足などが続くと、自律神経のバランスが乱れ、体の様々な場所に不調が現れることがあります。背中の痛みも、そのサインの一つとして現れることがあります。
自律神経は、私たちの意識とは関係なく、内臓の働きや血圧、体温調節などをコントロールしている神経です。ストレスがかかると、自律神経のうち交感神経が優位になり、筋肉が緊張したり、血管が収縮したり、痛覚が過敏になったりします。この状態が続くと、肩や首だけでなく、背中の筋肉も無意識のうちに力が入ってしまい、血行不良を起こして痛みに繋がることがあります。特に、検査を受けても体のどこにも異常が見つからないのに痛みがある場合や、痛みの部位が移動したり、痛みの強さが変動したりする場合は、ストレスや自律神経の乱れが関与している可能性が考えられます。
ストレスに関連する背中の痛みは、特定の場所がピンポイントで痛むというよりは、漠然とした重苦しさやだるさ、あるいは広範囲にわたる痛みとして感じられることが多いです。また、痛みだけでなく、不眠、頭痛、めまい、動悸、胃腸の不調、全身の倦怠感といった他の自律神経失調症の症状を伴うこともあります。このような痛みに対しては、痛みを和らげる対症療法だけでなく、ストレスの原因を取り除いたり、リラクゼーションを取り入れたりするなど、心身両面からのアプローチが必要となります。線維筋痛症のように、広範囲に慢性的な痛みが続く病気も、ストレスが誘発因子となることがあります。
痛みの特徴から原因を推測するチェックリスト
ご自身の背中の右肩甲骨下の痛みが、内臓疾患によるものなのか、筋肉や骨格によるものなのか、あるいはストレスによるものなのかをある程度推測するために、痛みの特徴を整理してみましょう。以下のチェックリストは、あくまで自己判断の目安であり、正確な診断は医療機関で行う必要があります。
痛む場所(右下、右脇腹、肩甲骨周辺)
痛みの中心がどこにあるか、あるいは痛みがどの範囲に広がっているかによって、原因を推測する手がかりになります。
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右肩甲骨の「すぐ下」あたりが中心の痛み:
- 筋肉の問題(菱形筋、僧帽筋下部、脊柱起立筋など)の可能性が高い。特定の動作や姿勢で痛むことが多い。
- まれに、右肺の下葉や胸膜の炎症。
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右肩甲骨の下から「右脇腹」にかけての痛み:
- 胆嚢や胆管の疾患(胆石症、胆嚢炎など)の可能性。特に食後に痛む場合や、吐き気などを伴う場合に疑われます。
- 右の腎臓や尿管の疾患(結石など)の可能性。腰から下腹部にかけての痛みも伴うことが多い。
- まれに、消化器系の問題(胃潰瘍穿孔など)。
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右肩甲骨の「周辺全体」や「肩から背中」にかけて広がる痛み:
- 広範囲の筋肉の張りや筋膜の問題、不良姿勢によるもの。
- 寝違え。
- ストレスや自律神経の乱れによる痛み。痛みの範囲がはっきりしないことも。
- 帯状疱疹の初期症状(ピリピリ感)。
痛みの種類(ズキズキ、重い、ズーンとする、筋肉痛様)
痛みの感じ方も、原因を特定する上で重要な情報です。
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ズキズキ、チクチク、ピリピリとした鋭い痛み:
- 炎症を伴う病気(胆嚢炎、胸膜炎など)。
- 神経痛(帯状疱疹など)。
- 急性の筋肉の損傷(肉離れなど)。
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重い、ダルい、ズーンとする鈍い痛み:
- 慢性的な筋肉の張りや疲労。
- 内臓の腫大や圧迫(肝臓病など)。
- ストレスや自律神経の乱れによる痛み。
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締め付けられるような痛み:
- 虚血性の痛み(心臓病など、ただし右肩甲骨下は非典型的)。
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筋肉痛様、こりのような痛み:
- 筋肉や骨格の問題による可能性が最も高い。
伴う症状(息苦しい、吐き気、発熱など)
痛みに加えて、どのような症状が同時に現れているかは、特に内臓疾患の可能性を判断する上で非常に重要なサインとなります。
伴う症状 | 考えられる主な原因 | 緊急性 |
---|---|---|
息苦しい、呼吸困難 | 肺の疾患(肺炎、胸膜炎、気胸)、心臓病、大動脈解離 | 高い(要注意) |
発熱 | 炎症や感染症(肺炎、胆嚢炎、膵炎、腎盂腎炎など) | 高い(要注意) |
吐き気、嘔吐 | 消化器系疾患、胆嚢・胆管疾患、膵臓疾患、腎臓・尿管結石、心臓病(非典型的) | やや高い |
黄疸(皮膚や白目が黄色い) | 肝臓疾患、胆嚢・胆管疾患、膵臓疾患(特に膵臓がんなど) | 高い |
強い腹痛 | 消化器系疾患、胆嚢・胆管疾患、膵臓疾患、腎臓・尿管結石 | 高い |
血尿 | 腎臓・尿管結石 | 中程度 |
しびれ、麻痺 | 神経系の問題(脳卒中など、ただし背中の痛みとは直接関連しないことも)、帯状疱疹後神経痛 | 要確認 |
全身倦怠感、食欲不振 | 慢性疾患(肝臓病、がんなど)、ストレス、自律神経失調症 | 中程度 |
体重減少 | 慢性疾患(がん、慢性膵炎など) | 中程度 |
体の発疹や水ぶくれ | 帯状疱疹 | 中程度 |
痛むタイミングや動作との関連性
痛みがいつ、どのような状況で現れるかも原因特定の手がかりになります。
- 特定の動作や体勢で痛む: 体を動かす、特定の姿勢をとる、押すなどで痛む場合、筋肉や骨格の問題の可能性が高いです。
- 安静にしていても痛む、夜間も痛む: 内臓疾患や炎症、神経系の病気など、比較的重い病気の可能性も考えられます。特に夜間痛は注意が必要です。
- 食後に痛む: 胆嚢や胆管の疾患の可能性が考えられます。
- 呼吸や咳で痛む: 肺や胸膜の疾患の可能性が考えられます。
- 朝起きた時に痛む: 寝違えや、睡眠中の不自然な姿勢、体の冷えによる筋肉の張りの可能性。
- ストレスを感じる時に痛む、痛みが移動する: ストレスや自律神経の乱れによる痛みの可能性。
これらのチェックリストを通して、ご自身の痛みの性質を整理してみてください。特に、伴う症状が内臓疾患を示唆する場合や、痛みが強く日常生活に支障をきたす場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
右肩甲骨下の痛みに自分でできる対処法
痛みの原因が内臓疾患など緊急性の高いものでないことが前提ですが、筋肉の張りや疲労、不良姿勢などが原因で右肩甲骨下が痛む場合は、ご自身でできる対処法で痛みを和らげることができる場合があります。ただし、これらの方法は一時的な緩和を目的としたものであり、痛みが続く場合や悪化する場合は必ず医療機関を受診してください。
ストレッチやマッサージ
筋肉の緊張や血行不良が原因の痛みには、ストレッチやマッサージが有効な場合があります。無理のない範囲で、ゆっくりと行うことが大切です。痛みが強いときは無理に行わないでください。
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肩甲骨周りのストレッチ:
- 両腕を前に伸ばして組み、背中を丸めながら肩甲骨を左右に開くように伸ばします。
- 片方の腕を胸の前で横に伸ばし、もう片方の腕で支えて体の方に引き寄せます。肩甲骨周りの筋肉が伸びるのを感じましょう。
- 両手の指先を肩に置き、肘で大きな円を描くように前回し、後ろ回しをそれぞれ数回行います。
- タオルなどを使って、両手でタオルの端を持ち、頭の後ろを通して背中側で引っ張り合うようにストレッチします。
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背中のストレッチ:
- 椅子に座った状態で、体を左右にひねります。
- 四つん這いになり、息を吐きながら背中を丸め、息を吸いながら背中を反らせる「猫と牛のポーズ」。
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セルフマッサージ:
- テニスボールなどを床や壁と背中の間に挟み、痛気持ち良いと感じる場所でゆっくりと圧をかけたり、小さく転がしたりして筋肉の凝りをほぐします。右肩甲骨の下あたりを中心に、痛みの強い「トリガーポイント」を探して集中的に行うのも良いでしょう。ただし、骨の上を強く押さないように注意し、あまり強くやりすぎると揉み返しがくることもあるので注意が必要です。
姿勢の改善
日頃の姿勢が痛みの大きな原因となっている場合が多いです。特に長時間同じ姿勢でいることが多い方は、意識的に姿勢を改善することが重要です。
- 座る時の姿勢: 椅子には深く腰掛け、背筋を伸ばします。膝の角度は約90度、足の裏は床につけるか、フットレストを使用します。デスクワークの場合、画面の高さを目の高さに合わせ、キーボードやマウスは体に近づけて、肘の角度が90度くらいになるように調整します。時々立ち上がってストレッチをしたり、軽く体を動かしたりする休憩を取りましょう。
- 立つ時の姿勢: お腹を軽く引っ込め、胸を張り、肩の力を抜きます。頭頂部から糸で吊られているようなイメージで立つと、自然と良い姿勢になります。片足に体重をかける癖がある人は、意識して両足に均等に体重をかけましょう。
- 寝る時の姿勢: 自分に合った高さの枕を選び、首や背骨が自然なS字カーブを描けるような寝姿勢を保ちましょう。横向きで寝る場合は、膝を軽く曲げ、体の間に抱き枕などを挟むと楽になることがあります。
温める・冷やす
痛みの性質によって、温めるか冷やすかを使い分けることが推奨されます。
- 温める(温湿布、カイロ、お風呂など): 慢性的な筋肉の張りや疲労、血行不良による鈍い痛みには、温めることが効果的です。血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが緩和されることが期待できます。湯船にゆっくり浸かるのも良いでしょう。ただし、炎症が強い急性の痛みがある場合は、温めるとかえって悪化することがあるので注意が必要です。
- 冷やす(冷湿布、アイスパックなど): 急性の痛みや、触ると熱を持っているような強い炎症がある場合は、冷やすことが有効です。炎症を抑え、痛みを鎮める効果があります。ただし、長時間冷やしすぎると血行が悪化することがあるため、一度に冷やす時間は15〜20分程度にとどめ、間隔を空けて行いましょう。筋肉の張りだけの場合は、冷やすより温める方が効果的なことが多いです。どちらか迷う場合は、温めてみて痛みが和らぐか、あるいは冷やしてみて痛みが和らぐかで判断してみるのも一つの方法です。
これらのセルフケアは、痛みが軽度で、かつ危険なサインを伴わない場合に試みるべきです。痛みが強い場合、急に始まった場合、または伴う症状がある場合は、必ず医療機関を受診して原因を特定することが最優先です。
背中の右肩甲骨下が痛い場合の受診目安と何科に行くべきか
背中の右肩甲骨下の痛みに不安を感じている方は、どのような場合に医療機関を受診すべきか、そして何科に行けば良いのかを知っておくことが非常に重要です。放置すると危険な病気が隠れている可能性もあるため、適切なタイミングで専門家の診断を受けることが大切です。
危険なサイン(緊急性の高い症状)
以下の症状が痛みに伴って現れている場合は、放置せずにすぐに医療機関を受診するか、救急車を呼ぶことを強く推奨します。これらは、命に関わる可能性のある病気のサインであることがあります。
- 突然発症した、今まで経験したことのないほどの強い痛み
- 胸の痛みや圧迫感を伴う場合
- 息苦しさや呼吸困難がある場合
- 高熱(38℃以上)が出ている場合
- 強い吐き気や嘔吐が続く場合
- 意識が朦朧としている、応答がおかしい場合
- 体の麻痺やしびれがある場合
- 冷や汗が止まらない場合
- 痛みが徐々に、あるいは急激に悪化している場合
- 痛みの他に、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)がある場合
- 血尿が出ている場合
これらの症状は、心筋梗塞、大動脈解離、急性膵炎、胆嚢炎、重症肺炎など、緊急性の高い病気の可能性を示唆しています。ためらわずに、迅速な対応を心がけてください。
まず何科を受診すべき?(整形外科 vs 内科)
背中の右肩甲骨下の痛みの原因は多岐にわたるため、何科を受診すべきか迷うことがあるかもしれません。一般的に、痛みの性質や伴う症状によって、最初に受診する科の目安を立てることができます。
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整形外科を受診すべき目安:
- 痛みが特定の動作や体勢で強くなる。
- 体をひねったり、腕を上げたりすると痛む。
- 押すと痛む場所がある(圧痛)。
- 朝起きた時に痛みが強い(寝違えなど)。
- スポーツや重労働、不良姿勢など、筋肉や骨格に負担がかかる原因が明らか。
- 内臓の症状(発熱、吐き気、息苦しさなど)を伴わない。
整形外科では、問診、触診、レントゲン検査などを行い、骨や関節、筋肉、神経の異常を調べます。必要に応じてMRIやCT検査を行うこともあります。
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内科を受診すべき目安:
- 痛みが特定の動作や体勢に関係なく、安静にしていても続く。
- 夜間も痛みが強い。
- 痛み以外に、発熱、吐き気、息苦しさ、食欲不振、全身倦怠感、黄疸などの症状を伴う。
- 食後に痛みが強くなる。
- 過去に内臓疾患を指摘されたことがある。
内科では、問診、聴診、触診に加え、血液検査、尿検査、腹部超音波(エコー)検査、胸部レントゲン検査などを行い、内臓の異常を調べます。必要に応じてCTやMRIなどの画像検査、内視鏡検査、心電図なども行われます。
迷う場合や、複数の症状がある場合:
痛みの原因が整形外科的なものか内科的なものか判断に迷う場合や、複数の症状が複雑に絡み合っている場合は、総合病院の総合内科を受診するか、かかりつけ医に相談することをおすすめします。総合内科では、初期診断として様々な可能性を検討し、必要に応じて適切な専門科(消化器内科、呼吸器内科、循環器内科、神経内科など)に紹介してもらうことができます。かかりつけ医がいる場合は、これまでの病歴や体質などを考慮した上で、適切なアドバイスや専門医への紹介を受けることができるでしょう。
受診する際は、いつから痛みがあるか、痛みの性質(ズキズキ、重いなど)、痛む場所、痛むタイミング、痛みが強くなる・弱くなる状況、伴う症状、これまでの病歴、現在服用している薬などを具体的に医師に伝えることが、正確な診断に繋がります。
専門医への相談の重要性
初期に受診した科で原因が特定できない場合や、特定の疾患が強く疑われる場合は、専門医への相談が必要となります。
例えば、
- 肝臓・胆嚢・膵臓の病気が疑われる場合は、消化器内科。
- 心臓の病気が疑われる場合は、循環器内科。
- 肺の病気が疑われる場合は、呼吸器内科。
- 腎臓・尿管の病気が疑われる場合は、泌尿器科。
- 神経系の病気や、診断が難しい痛み(線維筋痛症など)の場合は、神経内科やペインクリニック。
- 帯状疱疹の場合は、皮膚科または神経内科。
など、痛みの原因として考えられる病気の種類に応じて、より専門的な検査や治療を受けるために紹介されることになります。痛みの原因特定は時には複雑で、複数の専門科の連携が必要となる場合もあります。自己判断で原因を決めつけず、専門医の診断とアドバイスに従うことが、痛みの解消と健康の維持のために最も重要です。
まとめ|不安な背中の痛みは医療機関へ
背中の右肩甲骨下の痛みは、多くの人が経験する比較的ありふれた症状の一つですが、その原因は単純な筋肉疲労から、早期の治療が必要な内臓疾患まで、非常に幅広い可能性があります。不良姿勢や筋肉の張りによる痛みであれば、日々のストレッチやマッサージ、姿勢の改善などで緩和されることもありますが、中には見過ごすと危険なサインとなる痛みも存在します。
特に、痛みが強い、急に始まった、安静にしていても痛む、あるいは発熱、吐き気、息苦しさ、黄疸などの全身症状を伴う場合は、内臓の病気やその他の重篤な病気が隠れている可能性が高いため、決して自己判断せず、速やかに医療機関を受診することが極めて重要です。
痛みの特徴や伴う症状から、ある程度原因を推測することは可能ですが、正確な診断は医師にしかできません。まずは痛みの性質や疑われる原因に応じて、整形外科か内科、あるいは総合病院の総合内科を受診することをおすすめします。専門医の診断を受け、適切な治療を開始することが、痛みの解消への一番の近道です。
この記事で解説した情報が、背中の右肩甲骨下の痛みに悩む方の不安を軽減し、適切な行動に繋がる一助となれば幸いです。ご自身の体の声に耳を傾け、不安な痛みは必ず専門家へご相談ください。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としたものであり、診断や治療を保証するものではありません。背中の痛みに際しては、必ず医療機関を受診し、専門医の診断と指示に従ってください。