膝曲げると痛いのはなぜ?原因と自分でできる対処法

膝を曲げたときに感じる痛みは、日常生活に支障をきたす辛い症状です。
立ち上がる、座る、階段を昇り降りする、しゃがむといった動作は、膝を曲げることで成り立っているため、痛みが続くと行動範囲が狭まり、QOL(生活の質)が大きく低下してしまいます。
多くの人が経験する膝の痛みですが、その原因は一つではありません。
加齢による変化だけでなく、スポーツによる怪我、病気、日常生活での体の使い方など、様々な要因が考えられます。
痛みを放置してしまうと、症状が悪化したり、別の部位にも負担がかかってしまったりする可能性があります。
この記事では、膝を曲げると痛いと感じる場合に考えられる主な原因や病気、痛む場所別の原因、自分でできる対処法、そしてどのような場合に医療機関を受診すべきか、どのような治療法があるのかについて、専門家の知見をもとに詳しく解説します。
ご自身の痛みの原因を知り、適切な対処や治療を選ぶための参考にしてください。

目次

膝の曲げ伸ばしで痛みが出る代表的な病気

膝を曲げると痛いという症状は、特定の病気のサインであることがあります。
ここでは、膝の曲げ伸ばしに関連してよく見られる代表的な病気について解説します。

変形性膝関節症

変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減り、関節が変形することで痛みや機能障害が生じる病気です。
特に高齢者に多く見られ、加齢による軟骨の老化が主な原因ですが、肥満、遺伝、過去の怪我(骨折や靭帯損傷など)などもリスク因子となります。

症状:
初期段階では、立ち上がりや歩き始めなど、動作の開始時に膝の痛みが現れることが多いですが、休むと軽減します。
膝を曲げた際に、ゴリゴリといった音が聞こえることもあります。
進行すると、安静時にも痛みが続くようになり、膝の曲げ伸ばしが困難になったり、O脚やX脚に変形したりすることがあります。
特に階段の昇り降りや、和式トイレでのしゃがみ込みなど、膝を深く曲げる動作で強い痛みを感じやすくなります。

診断:
問診で症状や痛みの経過を確認し、触診で膝の動きや腫れ、圧痛などを調べます。
確定診断にはX線(レントゲン)検査が用いられ、関節の隙間の狭小化や骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の突起、骨の変形などを確認します。
必要に応じてMRI検査を行い、軟骨や半月板、靭帯の状態をより詳しく調べることもあります。

治療:
治療は、痛みの軽減と関節機能の維持・改善を目的とします。
保存療法が中心となり、痛みが強い場合は薬物療法(鎮痛剤、湿布)や関節内注射(ヒアルロン酸、ステロイド)が行われます。
同時に、膝への負担を減らすための減量や、膝周りの筋力を強化する運動療法(リハビリテーション)も重要です。
サポーターや杖などの装具療法も痛みの軽減に役立ちます。
これらの保存療法で効果が見られない場合や、関節の変形が進行して日常生活に著しい支障が出ている場合には、手術療法(後述)が検討されます。

半月板損傷

半月板は、膝関節の大腿骨と脛骨の間にあるC字型の軟骨組織で、内側と外側にそれぞれ一つずつあります。
体重を分散させたり、関節への衝撃を吸収したり、関節の安定性を高めたりする役割を担っています。
半月板が傷つくことを半月板損傷といいます。

症状:
スポーツ中などに膝を強く捻ったり、急停止・方向転換をしたりすることで損傷することが多いですが、加齢により半月板が変性し、軽い負荷でも損傷することもあります。
症状としては、膝の曲げ伸ばし時の痛み、特に膝を完全に伸ばしたり曲げたりする際に痛みが強くなることがあります。
損傷した半月板の一部が関節に挟まり込むと、「ロッキング」と呼ばれる現象が起こり、膝が急に動かせなくなることもあります。
また、膝に水が溜まったり、引っかかり感やクリック音を感じたりすることもあります。

診断:
問診で受傷の経緯や症状を詳しく聞き、徒手検査(マクマレーテストなど)で半月板の損傷を示唆する所見がないか調べます。
半月板はX線には写らないため、診断にはMRI検査が有効です。
MRIによって損傷の有無や程度、種類を正確に評価できます。

治療:
損傷の程度や種類、症状によって治療法が異なります。
小さな損傷や変性による損傷で症状が軽度な場合は、保存療法が選択されます。
安静、アイシング、圧迫、挙上(RICE処置)を行い、痛みが強い場合は鎮痛剤を使用します。
サポーターで膝の安定性を高めることもあります。
保存療法で症状が改善しない場合や、ロッキングなどの機械的な症状がある場合、大きな損傷の場合は手術療法が検討されます。
手術は関節鏡を用いて行われることが多く、損傷した部分を切除したり(切除術)、縫合したり(縫合術)します。

靭帯損傷

膝関節には、大腿骨と脛骨をつなぎ、関節の安定性を保つための4つの主要な靭帯があります。
膝の前後方向の安定性に関わる前十字靭帯(ACL)と後十字靭帯(PCL)、そして左右方向の安定性に関わる内側側副靭帯(MCL)と外側側副靭帯(LCL)です。
これらの靭帯が、スポーツ中の接触や転倒などによる強い外力によって引き伸ばされたり、断裂したりすることを靭帯損傷といいます。

症状:
損傷した靭帯の種類や程度によって症状は異なります。
靭帯を損傷した瞬間に「ブチッ」といった断裂音を聞くことがあります。
強い痛みや腫れ、内出血が生じ、膝の曲げ伸ばしが困難になることが多いです。
特に前十字靭帯損傷では、膝の「ぐらつき」や「外れそうな感じ」(不安定感)が主な症状となり、膝を完全に伸ばしたり曲げたりすることが難しくなることがあります。
側副靭帯損傷の場合は、膝の側方への不安定感が生じます。

診断:
受傷の状況や症状、痛みの程度などを問診で詳しく聞き取ります。
徒手検査(ラックマンテスト、前方引き出しテストなど)で靭帯の緩みや不安定性を調べます。
X線検査で骨折の有無を確認し、確定診断や損傷の程度を評価するためにMRI検査が非常に有用です。

治療:
損傷の程度が軽い場合(部分断裂など)や、後十字靭帯や側副靭帯の損傷で不安定性が少ない場合は、保存療法が選択されます。
サポーターや装具で膝を固定し、安静を保ちながら、痛みが軽減したらリハビリテーションを行います。
完全断裂や、スポーツ活動への復帰を目指すアスリートの前十字靭帯損傷などで、高度な不安定性が残る場合は、手術療法(靭帯再建術など)が検討されます。

関節リウマチ

関節リウマチは、自己免疫疾患の一つで、本来体を守るはずの免疫システムが誤って自分自身の関節を攻撃してしまう病気です。
全身の関節に慢性的な炎症を引き起こし、特に手指や足の小さな関節によく見られますが、膝関節にも高頻度で発症します。

症状:
膝関節に炎症が起こると、痛み、腫れ、熱感が生じます。
特に朝起きたときに膝がこわばって動かしにくい「朝のこわばり」は関節リウマチに特徴的な症状の一つです。
炎症が続くと、関節の軟骨や骨が破壊され、関節が変形して機能障害を引き起こします。
膝を曲げ伸ばす際に強い痛みを感じるようになり、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

診断:
問診で関節の症状(痛み、腫れ、こわばりなど)や全身症状(微熱、倦怠感など)について詳しく聞き取ります。
血液検査で炎症反応(CRP、赤沈)や自己抗体(リウマトイド因子、抗CCP抗体)の有無を調べます。
X線検査で関節の骨破壊や変形を確認します。
診断には、これらの所見や国際的な診断基準が用いられます。

治療:
早期発見・早期治療が非常に重要です。
薬物療法が中心となり、炎症を抑え、病気の進行を遅らせるために、抗リウマチ薬(MTXなど)や生物学的製剤、JAK阻害薬などが使用されます。
痛みが強い場合は、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やステロイドが処方されることもあります。
薬物療法と並行して、関節の機能維持・改善のために理学療法や作業療法が行われます。
関節の破壊が進み、機能障害が著しい場合は、手術療法(人工関節置換術など)が検討されます。

その他の病気(膝蓋骨軟骨軟化症、ランナー膝など)

膝を曲げると痛い原因となる病気は上記以外にもいくつかあります。

  • 膝蓋骨軟骨軟化症: 膝のお皿(膝蓋骨)の裏側の軟骨が柔らかくなったり、傷ついたりする病気です。
    特に若い女性や成長期のアスリートに多く見られます。
    太ももの筋肉のアンバランスや、膝蓋骨の不安定性、使いすぎなどが原因となります。
    症状は、膝の前面、特に膝蓋骨の周囲の痛みで、階段の昇り降りや、長時間座った後に立ち上がる際、膝を深く曲げる動作(しゃがむ、自転車を漕ぐなど)で痛みが強くなります。
    安静やリハビリテーション、装具療法などで改善することが多いです。
  • ランナー膝(腸脛靭帯炎): 太ももの外側にある腸脛靭帯が、膝の外側で大腿骨と摩擦を起こし、炎症が生じるスポーツ障害です。
    ランニングやジャンプを繰り返すスポーツをする人に多く見られます。
    症状は、膝の外側の痛みで、特に膝の曲げ伸ばしを繰り返す動作中に痛みが強まります。
    痛む場所別に見る膝の痛みの原因としても後述します。
  • 棚障害: 膝関節の中にある「棚」と呼ばれる滑膜のヒダが、膝の曲げ伸ばしで骨と挟まり、炎症や痛みを引き起こす病気です。
    特に膝蓋骨の内側に痛みを感じることが多く、膝の引っかかり感やクリック音を伴うこともあります。
  • オスグッド・シュラッター病: 成長期に、脛骨上部の骨端部(成長軟骨がある部分)が、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)による牽引力によって炎症を起こし、痛みや腫れ、隆起が生じる病気です。
    膝を伸ばす動作や、しゃがむ動作で痛みが強くなります。

これらの病気も、膝の曲げ伸ばしの痛みとして現れることがあります。
痛みの特徴や発症時期、生活習慣などを考慮して診断が進められます。

痛む場所別に見る膝の痛みの原因

膝の痛みは、その痛む場所によって原因をある程度絞り込むことができます。
ここでは、膝のどのあたりが痛むかに着目して、考えられる原因を解説します。

膝の内側が痛い場合

膝の内側の痛みは、比較的多くの人が経験する部位です。

  • 変形性膝関節症(初期〜中期): 日本人に最も多く見られるタイプの変形性膝関節症では、膝の内側の軟骨がすり減りやすく、初期から内側に痛みを感じることが多いです。
    特に立ち上がり、歩き始め、階段の昇り降りで痛みます。
    O脚が進行すると、内側への負担が増加し、痛みが増強します。
  • 内側側副靭帯損傷: 膝の内側にある内側側副靭帯が、膝の外側からの衝撃などによって損傷した場合に、内側に痛みや圧痛、腫れが生じます。
    痛みの程度は損傷の度合いによって異なります。
  • 鵞足炎(がそくえん): 膝の内側の下方、脛骨の内側にある鵞足(がそく)と呼ばれる腱の集合部に炎症が生じるものです。
    太ももの内側の筋肉(縫工筋、薄筋、半腱様筋)の腱が付着する部位で、使いすぎやランニング、O脚などが原因となります。
    歩行時や階段の昇り降り、膝の曲げ伸ばしで痛みが生じます。

膝の外側が痛い場合

膝の外側の痛みは、スポーツをしている人に多く見られることがあります。

  • ランナー膝(腸脛靭帯炎): 前述の通り、ランニングなどで膝の曲げ伸ばしを繰り返すことにより、腸脛靭帯と大腿骨外側上顆が擦れて炎症を起こし、膝の外側に痛みが生じます。
    特に下り坂や長距離を走った後に痛みが強くなる傾向があります。
  • 変形性膝関節症(進行期や変形タイプによる): 変形性膝関節症が進行し、膝の変形が内側だけでなく外側にも及んだ場合や、X脚に変形している場合などに膝の外側が痛むことがあります。
  • 外側側副靭帯損傷: 膝の内側からの外力によって、膝の外側にある外側側副靭帯が損傷した場合に、外側に痛みや圧痛、腫れが生じます。
  • 外側半月板損傷: 内側半月板損傷ほど頻度は多くありませんが、外側半月板が損傷した場合に、膝の外側に痛みや引っかかり感が生じることがあります。

しゃがむと膝が痛い場合

しゃがむ動作は、膝関節に体重の数倍の負担がかかるため、様々な原因で痛みが生じやすいです。

  • 変形性膝関節症: 軟骨がすり減っている場合、膝を深く曲げて骨同士が接近することで強い痛みが生じます。
    特に和式トイレや正座が困難になります。
  • 半月板損傷: 損傷した半月板が骨に挟まり込むことで、膝を完全に曲げたり伸ばしたりする際に強い痛みや引っかかり(ロッキング)が生じます。
    しゃがみ込みの途中でロックされることがあります。
  • 膝蓋骨軟骨軟化症 / 膝蓋大腿関節症: 膝のお皿の裏側の軟骨に問題がある場合、膝を深く曲げた際に膝蓋骨が大腿骨に対して不適切な動きをしたり、軟骨への圧迫が増したりすることで、膝の前面(お皿の周囲)に痛みが生じます。
  • 棚障害: しゃがみ込みの動作で、棚と呼ばれるヒダが関節に挟まり、痛みを引き起こすことがあります。

膝を伸ばすと痛い場合

膝を伸ばす動作での痛みは、曲げる動作とは異なる原因が考えられます。

  • 変形性膝関節症: 変形が進み、骨棘などが形成されている場合、膝を伸ばしきった際に骨同士がぶつかり、痛みが生じることがあります。
  • 半月板損傷: 損傷した半月板が関節に挟まり込み、膝を完全に伸ばせない(伸展制限)とともに、伸ばそうとすると痛むことがあります(ロッキングの前段階)。
  • 膝蓋腱炎(ジャンパー膝): 膝のお皿の下にある膝蓋腱に炎症が生じるスポーツ障害です。
    ジャンプやランニングなどで膝の屈伸を繰り返すことで発生し、特に膝を伸ばす動作(ジャンプの着地や蹴り出しなど)や、膝蓋腱部分を押すと痛みます。
  • オスグッド・シュラッター病: 成長期に脛骨の骨端部が隆起し、膝を伸ばす際に痛みが強く現れます。
  • 大腿四頭筋の柔軟性低下: 太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が硬くなっていると、膝を伸ばしきる際に筋肉が引っ張られ、膝の前面に痛みを感じることがあります。

痛む場所や痛みの種類(鋭い痛み、鈍い痛み、ズキズキする痛みなど)を観察することは、痛みの原因を推測する上で重要な手がかりとなります。
しかし、自己判断は難しいため、正確な診断のためには医療機関を受診することが推奨されます。

膝の曲げ伸ばしの痛みに自分でできること

膝の痛みが比較的軽い場合や、医療機関を受診するまでの間、自宅でできる対処法やセルフケアがあります。
しかし、痛みが強い場合や、原因が不明な場合は、自己判断せず医療機関を受診することが最も重要です。

まずは安静・適切なアイシング

痛みが急に出た場合や、運動後などに痛みが強い場合は、まず膝を安静にすることが重要です。
痛む動作やスポーツは中止し、膝に負担をかけないようにします。

炎症が原因で痛みや腫れ、熱感がある場合は、アイシング(冷却)が効果的です。
ビニール袋に氷と少量の水を入れて、痛む部分を中心に15分〜20分程度冷やします。
これを1日に数回繰り返します。
凍傷を防ぐために、タオルなどを巻いて直接肌に当てないように注意しましょう。

ただし、慢性の痛みの場合は、温める方が痛みが和らぐこともあります(後述)。
痛みの性質によって冷却と温熱を使い分けることが大切です。

痛みを和らげるストレッチ

膝の痛みには、膝周りの筋肉の緊張や柔軟性の低下が関わっていることがあります。
適切なストレッチを行うことで、筋肉の柔軟性を高め、膝関節への負担を軽減し、痛みを和らげる効果が期待できます。
ただし、痛みが強い時や、ストレッチで痛みが増す場合は中止してください。

太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)のストレッチ

大腿四頭筋が硬いと、膝蓋骨の動きが悪くなったり、膝関節への圧迫が増したりすることがあります。

  • 立つか、横向きに寝ます。
  • 片方の手で、同じ側の足首を持ち、かかとをお尻に引き寄せます。
  • 太ももの前面が伸びているのを感じながら、20秒から30秒キープします。
  • 反対側の足も同様に行います。

立ったまま行う場合は、壁や椅子などに手をついてバランスをとっても良いでしょう。
膝や腰を反らしすぎないように注意します。

太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)のストレッチ

ハムストリングスが硬いと、骨盤の傾きに影響し、膝関節への負担が増えることがあります。

  • 床に座り、片方の足を前にまっすぐ伸ばします。
    もう片方の足は膝を曲げて楽な姿勢をとります。
  • 伸ばした足のつま先を天井に向けます。
  • 背筋を伸ばし、股関節から前屈するように上体を倒していきます。
  • 太ももの裏側が伸びているのを感じながら、20秒から30秒キープします。
    無理に伸ばしすぎず、気持ちよく伸びている感覚で行います。
  • 反対側の足も同様に行います。

椅子に座ったまま行うこともできます。
椅子に浅く座り、片足を前に伸ばしてかかとを床につけ、つま先を上げます。
背筋を伸ばして上体を前に倒します。

膝周りの筋肉を温める・マッサージする際の注意点

慢性の痛みや、膝の動きが悪いと感じる場合は、膝周りの筋肉を温めることが血行を促進し、痛みを和らげるのに役立つことがあります。
ホットパックや蒸しタオル、お風呂などで温めます。
ただし、炎症による腫れや熱感がある急性期には温めるとかえって症状が悪化することがあるため、この場合は冷却を選択します。

膝周りの筋肉を優しくマッサージすることも、筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減する効果が期待できます。
特に太ももの前や横、裏側の筋肉など、硬くなっている部分を中心に、指の腹などで優しく揉みほぐします。
関節そのものや、強く押すと痛みが増す場所はマッサージしないように注意しましょう。
また、マッサージも炎症が強い急性期は避けるのが無難です。

これらのセルフケアはあくまで痛みの軽減や予防に役立つものですが、痛みの根本原因を解決するものではありません。
痛みが改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。

膝の痛みは自然に治る?病院に行く目安

膝の痛みが一時的なものであれば、自然に治癒することもあります。
例えば、軽い使いすぎによる筋肉痛や、一時的な負担による関節の違和感などは、安静にしていれば数日で改善することがあります。
しかし、痛みの原因が病気や怪我である場合、放置すると症状が悪化したり、回復に時間がかかったり、将来的に深刻な問題につながったりすることがあります。

痛みが続く場合・悪化する場合

以下のような場合は、自己判断せずに医療機関(整形外科など)を受診することを強くお勧めします。

  • 安静にしていても痛みが続く、または夜間も痛む場合
  • 痛みが徐々に強くなってきている場合
  • 痛みが1週間以上続く場合
  • 痛みのために日常生活(歩く、階段を昇り降りするなど)に支障が出ている場合

これらの症状は、関節の内部で何らかの異常が進行している可能性を示唆しています。
早期に正確な診断を受け、適切な治療を開始することが、痛みの改善や病気の進行を抑えるために非常に重要です。

突然の激しい痛みや腫れがある場合

以下のような症状が突然現れた場合は、比較的緊急性の高い状態である可能性があります。
すぐに医療機関を受診しましょう。

  • 突然、耐えられないほどの激しい痛みが現れた場合
  • 膝が急に腫れて、熱を持っている場合
  • 膝を動かすと激痛が走る場合
  • 膝に体重をかけられない場合
  • 膝が完全に曲がらない、または伸ばせない(ロッキング)場合
  • 膝がぐらぐらする、不安定な感じがする場合

これらの症状は、靭帯断裂、半月板の重度な損傷、骨折、感染症など、早急な対応が必要な病気や怪我のサインである可能性があります。

膝に水が溜まっているかチェックする方法

膝に水が溜まる(関節水腫)のは、関節内で炎症が起きているサインの一つです。
見た目で膝が腫れている、膝のお皿の周囲が膨らんでいる、膝の裏側が腫れている(ベーカー嚢腫)などで気づくことがあります。

自己チェックの方法としては、「膝蓋跳動(しつがいちょうどう)」を確認する方法があります。

  • 仰向けになり、膝を軽く伸ばします。
  • 片方の手で太ももの前面(膝の上の方)を膝蓋骨に向かって押さえます。
  • もう片方の手の指で膝蓋骨を軽く下に向かって押してみます。
    • 通常、膝蓋骨は骨の上に直接乗っている感触がありますが、膝に水が溜まっていると、膝蓋骨がフワフワと浮いた感じがしたり、押すと沈んでからまた浮き上がってくるような感覚(跳動)があったりします。
    • また、膝蓋骨の周囲を指で押すと、反対側に液体が移動するような感触があることもあります。

膝の腫れや熱感、膝蓋跳動が確認できる場合は、関節内で炎症が起きている可能性が高いため、医療機関を受診して原因を調べてもらうことが重要です。

膝の曲げ伸ばしの痛みに対する治療法

医療機関を受診した場合、痛みの原因や程度、患者さんの年齢、活動性などを考慮して、様々な治療法の中から最適なものが選択されます。
治療法は大きく分けて、保存療法、再生医療、手術療法があります。

保存療法(薬物療法、装具療法など)

多くの膝の痛みは、まず保存療法から開始されます。

  • 薬物療法:
    • 鎮痛剤・抗炎症薬: 痛みを和らげ、炎症を抑えるために、内服薬(NSAIDsなど)や外用薬(湿布、塗り薬)が処方されます。
    • 関節内注射: 関節内の炎症を抑え、痛みを軽減するために、ステロイド注射が行われることがあります。
      また、関節液の補充や軟骨保護を目的に、ヒアルロン酸注射が行われることもあります。
  • 理学療法(リハビリテーション):
    • 運動療法: 膝周りの筋力(特に太ももの筋肉)を強化したり、関節の可動域を改善したり、体のバランスを整えたりするための運動指導が行われます。
      個々の状態に合わせたプログラムが作成されます。
    • 物理療法: 温熱療法や電気療法、超音波療法などが痛みの緩和や血行促進を目的に行われることがあります。
  • 装具療法:
    • サポーター: 膝の安定性を高めたり、痛みを軽減したりする目的で使用されます。
      様々な種類があり、症状や目的に合ったものが選ばれます。
    • インソール(足底板): 足のアライメントを調整することで、膝にかかる負担を軽減する効果が期待できます。
    • 杖: 膝への荷重を減らし、痛みを軽減するために使用されます。

再生医療

近年、変形性膝関節症や半月板損傷などの治療法として、再生医療が注目されています。
自身の組織や細胞を利用して、傷ついた組織の修復や再生を促すことを目的とした治療法です。

  • PRP療法(多血小板血漿療法): 患者さん自身の血液から採取した血小板を濃縮し、膝関節内に注入する治療法です。
    血小板に含まれる成長因子が、組織の修復や炎症の抑制を促す効果が期待されています。
  • 幹細胞治療: 患者さん自身の脂肪などから採取した幹細胞を培養し、関節内に注入する治療法です。
    幹細胞が軟骨やその他の組織への分化や、周囲の組織の修復を促進する効果が期待されています。

これらの再生医療は、保険適用外の自由診療となることが多く、治療費が高額になる傾向があります。
また、すべての症例に効果があるわけではなく、研究段階の側面もあるため、治療を受ける際は医師と十分に相談し、治療内容や期待できる効果、リスクなどについて理解することが重要です。

手術療法

保存療法で痛みが改善しない場合や、関節の変形や損傷が重度で日常生活に著しい支障が出ている場合は、手術療法が検討されます。
病気の種類や進行度に応じて様々な手術法があります。

  • 関節鏡視下手術: 膝に数カ所の小さな穴を開け、関節鏡と呼ばれるカメラや専用の器具を挿入して行う手術です。
    半月板損傷の切除や縫合、靭帯再建術、遊離体(関節内のネズミ)の除去など、比較的侵襲の少ない手術が可能です。
  • 高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ): 変形性膝関節症で、膝の内側に負担が集中してO脚が進んでいる場合に検討される手術です。
    脛骨の上部を意図的に骨折させ、角度を調整してプレートなどで固定することで、膝の内側にかかる荷重を外側に分散させ、痛みを軽減し、自身の関節を温存することを目的とします。
    比較的活動性の高い若い世代の患者さんに適応となることが多いです。
  • 人工関節置換術: 変形性膝関節症が進行し、軟骨がほぼなくなり、関節の破壊が進んで強い痛みと機能障害が生じている場合に検討される手術です。
    傷んだ膝関節の一部または全てを、金属やプラスチックでできた人工関節に置き換えることで、痛みを劇的に軽減し、関節の動きを改善します。
    痛みが強く、日常生活に大きな支障が出ている高齢の患者さんに多く行われます。
治療法の種類 主な対象 目的 特徴
保存療法 軽度〜中等度の痛み、炎症 痛みの軽減、炎症の抑制、関節機能の維持改善 非侵襲的。
多くのケースで第一選択となる。
継続的なリハビリテーションが必要。
薬物療法 痛み、炎症 痛みのコントロール 内服、外用、注射など。
副作用の可能性もある。
理学療法 筋力低下、可動域制限、動作不良 筋力強化、柔軟性向上、正しい動作の習得 患者自身の努力が重要。
装具療法 関節の不安定性、荷重の軽減 膝のサポート、痛みの緩和 日常生活での負担軽減に役立つ。
再生医療 軟骨損傷、半月板損傷、変形性膝関節症(初期) 組織の修復・再生促進 比較的新しい治療法。
自費診療の場合が多い。
効果や安全性に個人差がある。
PRP療法 成長因子による治癒促進 自身の血液を使用。
幹細胞治療 幹細胞による組織再生 自身の組織から幹細胞を採取。
手術療法 保存療法で効果不十分、重度な損傷・変形 痛みの劇的な軽減、関節機能の再建 侵襲的。
入院やリハビリテーションが必要。
関節鏡視下手術 半月板損傷、靭帯損傷、遊離体 損傷部位の修復・除去 小さな傷口。
比較的回復が早い。
高位脛骨骨切り術 変形性膝関節症(O脚)、比較的若い世代 荷重軸の矯正、自己関節温存 骨を切る手術。
長期的なリハビリテーションが必要。
人工関節置換術 重度の変形性膝関節症、関節破壊 関節の置き換え、痛みの除去 劇的な痛みの改善が期待できる。
人工関節には寿命がある。

どの治療法が適切かは、医師が診断に基づき、患者さんの希望やライフスタイルも考慮して総合的に判断します。

まとめ:膝の曲げ伸ばしの痛みは放置せず専門家へ相談

膝を曲げると痛いという症状は、単なる疲れや一時的なものではなく、変形性膝関節症、半月板損傷、靭帯損傷、関節リウマチなど、様々な病気や怪我のサインである可能性があります。
これらの病気や怪我は、早期に発見し、適切な治療を開始することが非常に重要です。
放置してしまうと、痛みが慢性化したり、関節の破壊や変形が進行したりして、将来的に治療がより難しくなる可能性があります。

痛む場所や痛みの性質によってある程度の原因を推測することは可能ですが、正確な診断のためには専門家である医師の診察が不可欠です。
特に、痛みが続く場合、痛みが強くなってきている場合、腫れや熱感を伴う場合、膝の動きに制限がある場合、不安定感がある場合などは、迷わず整形外科を受診しましょう。

医療機関では、問診や触診、X線検査、必要に応じてMRI検査などを行い、痛みの原因を特定します。
診断に基づき、薬物療法、リハビリテーション、装具療法といった保存療法から、再生医療、手術療法まで、様々な選択肢の中から患者さん一人ひとりに合った最適な治療計画が提案されます。

ご自身でできるセルフケアとして、痛みが強い急性期には安静とアイシング、慢性期には温熱やストレッチ、マッサージなどがありますが、これらはあくまで痛みの軽減や症状の進行予防を目的とした補助的なものです。
痛みの根本原因を解決し、安全に症状を改善させるためには、専門家である医師のサポートが不可欠です。

膝の痛みは、決して我慢するものではありません。
痛みを放置せず、まずは医療機関に相談し、ご自身の膝の状態を正確に把握することから始めましょう。
適切なケアと治療を受けることで、痛みを和らげ、快適な日常生活を取り戻すことが可能です。

免責事項: 本記事は、膝の痛みの原因や治療法に関する一般的な情報を提供するものであり、医師の診断や治療に代わるものではありません。
個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。

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