【肘 内側 押すと痛い】ゴルフ肘かも?原因と対処法を解説

肘の内側を押すと痛い場合、その原因は一つとは限りません。日常生活でのちょっとした動作から、スポーツや仕事による負担、さらには病気が隠れている可能性も考えられます。特に肘の内側は、前腕の筋肉が付着する腱や、重要な神経が走行している部位であり、これらの組織に負担がかかることで痛みが引き起こされやすい場所です。「押すと痛い」という局所的な痛みは、特定の部位に炎症や損傷があるサインかもしれません。

この記事では、肘の内側を押すと痛い場合に考えられる主な原因や病気、症状別の原因特定の方法、ご自身でできる対処法や予防策、そして病院を受診すべき目安や何科を受診すれば良いかについて詳しく解説します。痛みの原因を正しく理解し、適切な対応をとるための参考にしてください。

上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)

肘の内側の痛みの原因として最もよく知られているのが、上腕骨内側上顆炎、通称「ゴルフ肘」です。テニス肘(外側上顆炎)に比べて発生頻度は低いですが、特定の動作や繰り返しの負担によって起こりやすい疾患です。

ゴルフ肘の症状と特徴

ゴルフ肘の最も典型的な症状は、肘の内側にある骨の突出部(上腕骨内側上顆)周辺の痛みです。この場所を指で押すと強い痛みが感じられます(圧痛)。

  • 動作時の痛み:
    • 手首を手のひら側に曲げる動作(掌屈)
    • 指を曲げてものをつかむ動作
    • 荷物を持つとき
    • タオルを絞る動作
    • ゴルフのスイング(特にインパクトからフォローにかけて)
    • テニスや野球での投球動作(特に肘を曲げて内側にひねる動き)
  • 安静時の痛み: 進行すると、安静にしていても肘の内側が痛むことがあります。
  • ゴルフ以外の原因: ゴルフをする人に多いことから名付けられていますが、重いものを持つ作業、コンピューター作業、大工仕事、料理など、手首や指を繰り返し使う様々な活動でも発生します。

ゴルフ肘の原因

上腕骨内側上顆には、手首を手のひら側に曲げたり、指を曲げたりする際に使う前腕の屈筋群や、肘を内側にひねる(回内)筋肉の腱が付着しています。これらの筋肉や腱に、繰り返し過剰な負担がかかることで、腱に微細な損傷が生じたり、炎症が起きたりします。

  • 繰り返しの動作: スポーツ(ゴルフ、野球、テニス、ボウリングなど)や、仕事(パソコン作業、重いものを持つ作業、組み立て作業など)、家事(料理、掃除)などで、手首や指を繰り返し使うことで腱にストレスがかかります。
  • 不適切なフォームや道具: スポーツにおいて、不適切なフォームや自分に合わない道具(重すぎるクラブ、硬すぎるラケット、合わないボールなど)を使用することで、特定の筋肉や腱に過度な負担がかかります。
  • ウォーミングアップ不足: 筋肉や腱が準備不足のまま急激な負荷をかけると、損傷しやすくなります。
  • 加齢: 年齢とともに腱の柔軟性や強度が低下し、損傷しやすくなる傾向があります。

ゴルフ肘の診断と治療

ゴルフ肘の診断は、問診や診察(身体所見)が中心となります。

  • 問診: どのような時に痛みを感じるか、痛みの程度、スポーツや仕事の内容などを詳しく伺います。
  • 診察: 肘の内側上顆部の圧痛を確認します。また、医師が手首や指を曲げる動作に抵抗をかけ、痛みが誘発されるかを確認するストレステスト(コゼンテスト、ミルズテストの変法など)を行います。
  • 画像検査: 通常、レントゲン検査では異常が見られないことが多いですが、骨棘(骨のとげ)の形成や、他の病気(変形性関節症、骨折など)を除外するために行われることがあります。超音波(エコー)検査やMRI検査は、腱の炎症や損傷の程度、滑液包炎などを評価するのに有用な場合があります。

ゴルフ肘の治療は、症状の程度や病期に応じて段階的に行われます。多くの場合、手術以外の保存療法が選択されます。

  • 安静と活動制限: 痛みを誘発する動作を控え、肘に負担をかけないことが最も重要です。安静にしているだけでは不十分な場合が多く、日常生活やスポーツでの動作の修正が必要です。
  • 薬物療法: 炎症を抑え痛みを和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や湿布、塗り薬などが処方されます。痛みが強い場合は、医師の判断でステロイド注射が検討されることもありますが、繰り返し行うと腱を弱める可能性があるため注意が必要です。
  • 装具療法: 肘用のサポーターやバンドを装着することで、腱への負担を軽減し、痛みを和らげる効果が期待できます。特に活動時に使用すると有効です。
  • 理学療法(リハビリテーション): 痛みが軽減してきたら、前腕の筋肉のストレッチや、段階的な筋力強化を行います。特に手首や指の屈筋群、回内筋の柔軟性を高め、再発予防のための筋力をつけることが重要です。フォームの改善指導も行われます。
  • 体外衝撃波治療: 慢性的な痛みが続く場合で、腱の変性が疑われるケースに検討されることがあります。炎症部位に衝撃波を当てて組織の修復を促す治療法です。
  • 手術療法: 保存療法を十分に継続しても痛みが改善しない場合や、腱の損傷が重度の場合に検討されます。痛みの原因となっている腱の変性部分を切除したり、剥がれた腱を縫合したりする手術が行われます。

肘部管症候群

肘部管症候群は、肘の内側にある「肘部管」というトンネル状の構造の中で、尺骨神経が圧迫されたり、引っ張られたりすることで生じる神経障害です。肘の内側の痛みだけでなく、特徴的な神経症状を伴います。

肘部管症候群の症状と特徴(しびれ)

肘部管症候群の代表的な症状は、薬指(環指)と小指のしびれや痛みです。

  • しびれ: 薬指と小指(特に小指側半分)にしびれが生じます。初期には一時的なものですが、進行すると持続的なしびれとなり、夜間や朝方に強くなることがあります。肘を長時間曲げている姿勢(寝ているとき、電話をしているときなど)で悪化しやすい傾向があります。
  • 痛み: 肘の内側、特に肘部管のある部分に痛みを感じることがあります。押すと痛い(圧痛)こともあります。
  • 感覚障害: 薬指と小指の感覚が鈍くなります。熱いものや冷たいものを感じにくくなったり、細かいものが掴みにくくなったりします。
  • 運動麻痺(進行期): 尺骨神経が支配する筋肉(手の甲の骨と骨の間にある筋肉や、小指を動かす筋肉など)が弱くなり、指を広げたり閉じたりする動きがしにくくなります。進行すると、手の筋肉が痩せてしまい、指の変形(鷲手変形)が生じることもあります。
  • チネル兆候: 肘部管のある肘の内側を軽く叩くと、薬指や小指に電気が走るようなしびれが誘発されることがあります(チネル兆候陽性)。

肘部管症候群の原因

肘部管症候群の原因は様々です。

  • 圧迫: 肘部管内で尺骨神経が外部から圧迫されること。
    • 加齢による変形: 肘関節の変形(変形性肘関節症)、骨棘(骨のとげ)の形成、関節リウマチなどによる炎症や滑膜の増殖が原因となることがあります。
    • ガングリオンや腫瘍: 肘部管内にできたガングリオンや良性・悪性腫瘍が神経を圧迫することがあります。
    • 外傷: 肘の骨折や脱臼の後遺症として、肘部管の形態が変化したり、神経周囲に瘢痕組織ができたりして神経が圧迫されることがあります。
    • 外部からの持続的な圧迫: 硬い場所に肘を長時間つく習慣や、寝ている間に肘を強く曲げたままの状態が続くことなどが原因となることがあります(「スマホ肘」との関連も指摘されています)。
  • 牽引(引っ張られること): 肘関節の曲げ伸ばしによって尺骨神経が過度に引っ張られること。
    • 繰り返し動作: 野球の投球、ボウリング、テニスなど、肘を強く曲げ伸ばしするスポーツや、繰り返し行う作業によって尺骨神経にストレスがかかります。
    • 遺伝的要因: 生まれつき肘部管の構造が狭い場合や、尺骨神経が不安定で脱臼しやすい場合などがあります。
    • 肘関節の不安定性: 靭帯の損傷などにより肘関節が不安定になっていると、神経が引っ張られやすくなることがあります。

肘部管症候群の診断と治療

診断は、問診、診察、画像検査、神経学的検査を組み合わせて行われます。

  • 問診: しびれや痛みの部位、出現する状況、強さ、持続時間、手の使いにくさなどを詳しく伺います。
  • 診察: 肘の内側上顆の後方(肘部管部)の圧痛を確認します。チネル兆候の有無、薬指と小指の感覚検査、尺骨神経が支配する筋肉の筋力検査を行います。
  • 画像検査: レントゲン検査で骨の変形や骨棘、過去の骨折などを確認します。MRI検査は、神経自体の状態(圧迫の程度、炎症、腫瘍など)や、神経周囲の組織を詳細に評価するのに有用です。
  • 神経伝導速度検査: 尺骨神経に沿って電気刺激を与え、神経が電気を伝える速度を測定する検査です。肘部管部で神経伝導速度が遅くなっているかを確認し、神経障害の有無や程度、圧迫部位を特定するのに非常に重要な検査です。筋電図検査と合わせて行われることもあります。

治療は、保存療法と手術療法があります。

  • 保存療法: 比較的症状が軽い場合や、神経の圧迫が一時的な場合に行われます。
    • 安静と活動制限: 肘に負担がかかる動作や、肘を長時間曲げたままの姿勢を避けます。夜間に肘を伸ばした状態に保つための装具(シーネなど)を使用することもあります。
    • 薬物療法: 炎症を抑えたり、神経の血流を改善したりする薬(NSAIDs、ビタミンB12製剤、神経障害性疼痛治療薬など)が処方されます。
    • 理学療法: 肘関節の可動域訓練、前腕や手内在筋の筋力強化、ストレッチなどが行われます。
    • ステロイド注射: 炎症が強い場合に検討されることがありますが、神経への直接の注射は避けるべきです。
  • 手術療法: 保存療法で改善しない場合や、運動麻痺が進行している場合、神経障害が重度の場合に検討されます。神経の圧迫を取り除く手術が行われます。
    • 神経剥離術: 肘部管部で神経周囲の組織を剥がし、神経の圧迫を取り除く手術です。
    • 前方移行術: 神経を肘部管から外し、肘関節の前面に移動させて、肘の曲げ伸ばしによる牽引ストレスを軽減する手術です。様々な方法があります。
    • 上腕骨内側上顆切除術: 骨棘など、神経を圧迫している原因となる骨の一部を切除する手術です。

変形性肘関節症

変形性肘関節症は、肘関節の軟骨がすり減ったり、骨の変形(骨棘の形成など)が生じたりすることで、痛みや動きの制限が現れる疾患です。進行すると関節の構造が大きく変化し、日常生活に支障をきたすことがあります。特に、肘の使い過ぎや過去の外傷が原因で起こりやすい病気です。

変形性肘関節症の症状と特徴(骨が痛い)

変形性肘関節症の症状は、関節の変形の程度によって異なります。

  • 痛み:
    • 初期には、肘を強く曲げ伸ばしした時や、スポーツ、重労働などで負担をかけた時に痛みを感じます。特に肘の内側や後ろ側に痛みが出やすい傾向があります。
    • 進行すると、安静時にも痛みを感じたり、夜間に痛みが強くなったりすることがあります。「骨が痛い」と感じるような、関節の奥の方の鈍い痛みとして感じられることもあります。肘の内側や後ろ側の特定の部位を押すと痛い(圧痛)こともあります。
  • 可動域制限: 関節の変形が進むにつれて、肘を完全に伸ばしたり、完全に曲げたりすることが難しくなります。動きの最後に痛みを感じたり、引っかかりを感じたりすることもあります。
  • 関節の音: 肘を動かすときに、「ゴリゴリ」「ギシギシ」といった音がすることがあります。
  • 腫れや熱感: 関節内に炎症が生じると、肘が腫れたり熱を持ったりすることがあります。
  • 神経症状: 変形により肘部管が狭くなり、尺骨神経が圧迫されて、肘部管症候群と同様に薬指と小指にしびれが生じることがあります。

変形性肘関節症の原因

変形性肘関節症は、関節軟骨がすり減ることで生じます。主な原因は以下の通りです。

  • 使い過ぎ: 重いものを持つ仕事や、特定のスポーツ(野球の投球、柔道、重量挙げなど)で、肘関節に繰り返し強い負担がかかることで軟骨がすり減りやすくなります。
  • 外傷: 肘の骨折、脱臼、靭帯損傷などの外傷の後遺症として、関節の適合性が悪くなったり、関節への負担が増えたりして、数年後から変形が進むことがあります。
  • 加齢: 年齢とともに軟骨の水分量が減少し、弾力性が失われてすり減りやすくなります。
  • 基礎疾患: 関節リウマチや痛風などの関節炎を繰り返していると、関節軟骨が損傷されて変形が進むことがあります。

変形性肘関節症の診断と治療

診断は、問診、診察、画像検査が基本となります。

  • 問診: どのような時に痛みを感じるか、痛みの部位、肘の動きの制限の有無、過去の外傷やスポーツ歴、仕事内容などを詳しく伺います。
  • 診察: 肘の変形の有無、可動域制限の程度、肘の特定部位の圧痛(特に内側や後方)、関節を動かした時の音などを確認します。
  • 画像検査:
    • レントゲン検査: 変形性肘関節症の診断に最も重要です。関節軟骨のすり減りによる関節裂隙(関節の隙間)の狭小化、骨棘(骨のとげ)の形成、関節を構成する骨の変形などを確認できます。
    • CT検査: 関節の三次元的な構造や骨棘の形態をより詳細に評価するのに有用です。
    • MRI検査: 軟骨の状態、関節内の炎症、滑液包炎、靭帯損傷などを評価するのに有用な場合があります。

治療は、症状の程度や進行度、年齢、活動レベルなどを考慮して決定されます。主に保存療法が行われ、進行した場合や症状が重い場合は手術療法が検討されます。

  • 保存療法:
    • 安静と活動制限: 痛みを誘発する動作や、肘に負担がかかる活動を控えます。
    • 薬物療法: 痛みを和らげるために、NSAIDsの内服薬や湿布、塗り薬などが処方されます。関節の炎症を抑えるために、ヒアルロン酸の関節内注射やステロイドの関節内注射が行われることもあります。
    • 理学療法(リハビリテーション): 肘関節の可動域を維持・改善するための訓練、前腕や上腕の筋力強化、関節への負担を減らすための体の使い方の指導などが行われます。
    • 装具療法: 痛みを和らげたり、関節の安定性を高めたりするために、サポーターを使用することがあります。
  • 手術療法: 保存療法で症状が改善しない場合や、強い痛み、著しい可動域制限があり日常生活に大きな支障が出ている場合に検討されます。
    • 関節鏡視下手術: 小さな切開から内視鏡を入れて、関節内の炎症組織の除去、骨棘の切除、遊離体(関節内のネズミ)の摘出などを行います。比較的負担の少ない手術法です。
    • 滑膜切除術: 関節の炎症が強い場合、炎症を起こしている滑膜を切除します。
    • 骨棘切除術: 尺骨神経を圧迫しているような大きな骨棘を切除します。肘部管症候群を合併している場合は、神経剥離術や前方移行術も合わせて行われることがあります。
    • 人工肘関節置換術: 関節の破壊が非常に進行し、強い痛みと著しい機能障害がある場合に、損傷した関節を人工関節に置き換える手術です。

その他の原因と病気

上記以外にも、肘の内側の痛みの原因となる可能性のある病気があります。

スマホ肘の症状と原因

近年、「スマホ肘」と呼ばれる状態が注目されています。これは正式な病名ではありませんが、スマートフォンの長時間使用によって肘や手に症状が出る状態を指します。

  • 症状: 肘を長時間曲げたままスマートフォンを操作することで、肘の内側、特に肘部管部の尺骨神経が圧迫され、薬指と小指にしびれや痛みが生じることがあります。これは肘部管症候群の一種と考えられます。また、前腕や手首の筋肉に負担がかかり、肘の内側や手首に痛みを感じることもあります。肘の内側を押すと痛い(圧痛)を感じることもあります。
  • 原因: スマートフォンやタブレットを操作する際に、長時間肘を深く曲げたままの姿勢を続けること、不自然な姿勢で操作すること、指を酷使することなどが原因となります。これらの姿勢や動作が、尺骨神経や前腕の筋肉に繰り返し負担をかけます。

関節リウマチの可能性

関節リウマチは、自己免疫疾患の一つで、全身の関節に慢性的な炎症を引き起こす病気です。肘関節も罹患しやすい関節の一つであり、肘の内側を含む関節全体の痛みや腫れ、朝のこわばりなどの症状が現れることがあります。

  • 症状: 肘関節に痛み、腫れ、熱感が生じます。朝起きた時に肘がこわばって動かしにくい(朝のこわばり)のが特徴的な症状です。押すと痛い(圧痛)だけでなく、安静時にも痛むことがあります。進行すると関節の破壊が進み、変形や可動域制限が生じます。全身症状として、倦怠感や微熱を伴うこともあります。
  • 原因: 関節リウマチは、免疫システムが誤って自分自身の関節を攻撃してしまうことで起こります。詳しい原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因や環境要因(喫煙、歯周病など)が複合的に関与していると考えられています。
  • 診断と治療: 診断は、症状、身体所見、血液検査(リウマチ因子、抗CCP抗体、炎症反応など)、画像検査(レントゲン、超音波、MRI)を総合して行われます。治療は、免疫の働きを抑えるための抗リウマチ薬(DMARDs)、生物学的製剤、JAK阻害薬などによる薬物療法が中心となります。ステロイドやNSAIDsは炎症や痛みを抑えるために用いられます。理学療法も重要です。

肘の骨・関節・靭帯の損傷(外傷)

転倒や打撲、スポーツ中の接触など、肘に強い力が加わることで、骨折、脱臼、靭帯損傷といった外傷が生じることがあります。これらの外傷は、肘の内側の痛みの直接的な原因となります。

  • 症状: 外傷直後から強い痛みが生じ、肘を動かすのが困難になります。内出血や腫れを伴うことが多く、変形が見られることもあります。肘の内側を押すと激痛が走る場合があります。
  • 原因: 転倒して肘をつく、スポーツ中に相手と衝突する、投球動作などで肘に急激な過負荷がかかる(靭帯損傷など)といった直接的または間接的な外力によるものです。
  • 診断と治療: 診断は、問診(受傷状況)、診察(腫れ、圧痛、変形、不安定性)、画像検査(レントゲン、CT、MRI)によって行われます。骨折や脱臼の場合は、整復・固定(ギプスや手術)が行われます。靭帯損傷の場合は、保存療法(固定、リハビリ)または手術(靭帯修復・再建)が選択されます。

肘の滑液包炎(テーブルに肘をつくと痛い)

肘関節の周りには、骨や腱、皮膚の摩擦を軽減するための滑液包という袋状の組織があります。特に肘の突出部(肘頭)の皮下には大きな滑液包があり、この部分に炎症が起きるのが肘頭滑液包炎です。肘の内側ではなく外側〜後方の疾患ですが、内側上顆部にも小さな滑液包があり、ここに炎症が起きる内側上顆滑液包炎も原因の一つとして考えられます。

  • 症状: 滑液包のある部位(肘の内側上顆部周辺など)に痛みや腫れが生じます。炎症が強い場合は、熱感や発赤を伴うこともあります。特に、テーブルに肘をつくなど、患部を圧迫すると痛みが強くなるのが特徴です。肘の内側上顆部に触れると、ブヨブヨとした腫れや痛みを感じることがあります。
  • 原因: 繰り返し肘をつくなど、患部への慢性的な圧迫や摩擦、一度の強い打撲、細菌感染(化膿性滑液包炎)などが原因となります。ゴルフ肘や野球肘に合併して生じることもあります。
  • 診断と治療: 診断は、問診、診察(腫れ、圧痛、熱感)、画像検査(超音波検査が有用)によって行われます。感染が疑われる場合は、滑液の吸引・検査を行います。治療は、安静、患部の冷却、NSAIDsの内服や外用薬、滑液包内へのステロイド注射などが行われます。感染性の場合は、抗生物質による治療が必要です。稀に、保存療法で改善しない場合や再発を繰り返す場合に、滑液包を切除する手術が行われます。

これらの病気以外にも、腱鞘炎や神経の絞扼性障害など、肘の内側の痛みの原因となる可能性は複数あります。痛みの正確な原因を特定するためには、専門医の診察を受けることが重要です。

痛み方・症状別の原因特定

肘の内側を押すと痛いという症状は共通していても、痛みの感じ方や、どのような時に痛むのかといった付随する症状によって、原因として考えられる病気をある程度絞り込むことができます。ご自身の症状をよく観察し、どのパターンに近いかを確認してみましょう。ただし、これはあくまで目安であり、自己診断は禁物です。

押した時の痛みの特徴

「肘の内側を押すと痛い」という症状は、特定の組織に炎症や損傷、圧迫が生じていることを強く示唆します。特にどの部分を押すと痛いか、痛みの強さはどの程度か、といった特徴が手がかりになります。

  • 上腕骨内側上顆の骨の突出部(肘の内側の出っ張り)のピンポイントな痛み: ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)が最も可能性が高いです。前腕の屈筋群の腱が付着する部位への負担が原因です。
  • 上腕骨内側上顆の後方、肘を曲げた時に触れる溝の部分の痛みやしびれ: 肘部管部であり、尺骨神経の圧迫による肘部管症候群が疑われます。押すと薬指や小指にしびれが走る(チネル兆候)ことがあります。
  • 肘関節の内側全体、または関節の奥の方の痛み: 変形性肘関節症や関節リウマチ、滑膜炎などが考えられます。骨の変形や関節内の炎症が関与している可能性があります。
  • 押した時の痛みに加え、ブヨブヨとした腫れを伴う: 滑液包炎の可能性が高いです。特に肘をよくつく習慣がある場合に起こりやすいです。

肘を伸ばすと痛い場合

肘の内側の痛みに加え、肘を伸ばす特定の動作で痛みが誘発される場合もあります。

  • 肘を完全に伸ばしきるときに痛む: 変形性肘関節症で、肘の内側や後方に骨棘ができている場合や、関節内の組織が挟まり込んでいる場合に生じることがあります。また、肘の内側の靭帯損傷や、関節の不安定性がある場合も、伸ばす際に痛みや不安感が生じることがあります。
  • 肘を伸ばしながら、手首を手のひら側に曲げる、または内側にひねる動作で痛む: ゴルフ肘の可能性が高いです。これらの動作で前腕の屈筋群や回内筋が収縮し、付着部である内側上顆に牽引力がかかるため痛みが生じます。
  • 肘を伸ばすこと自体はあまり痛くないが、重いものを持とうとすると痛む: ゴルフ肘の典型的な症状です。ものを持つ際に前腕の屈筋群が強く働き、内側上顆に負担がかかるためです。

安静時にも痛む場合

動かしたり押したりした時だけでなく、安静にしている時にも肘の内側が痛む場合、炎症や病状が進行している可能性が考えられます。

  • 安静時、夜間や朝方に痛みが強い、関節の腫れや熱感がある: 関節リウマチや感染性の関節炎、進行した変形性肘関節症などが考えられます。関節内の炎症が持続的に起きている状態です。
  • 安静時にも薬指・小指のしびれが持続する、特に夜間や朝方に強い: 肘部管症候群がある程度進行している可能性があります。神経への圧迫が解除されにくい状況にあることが考えられます。
  • 外傷後、常に強い痛みがあり、動かすとさらに増悪する: 骨折や重度の靭帯損傷など、組織の大きな損傷が考えられます。

肘のグリグリした部分の痛み

肘の内側には、触れるとグリグリとした骨の出っ張り(上腕骨内側上顆)があります。この部分自体や、その周辺の痛みが問題となる場合が多いです。

  • グリグリした骨の部分をピンポイントで押すと痛い: 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)の典型的な圧痛点です。
  • グリグリした後ろ側(少し凹んでいる部分)を押すと、薬指・小指にしびれが走る、または痛みを感じる: 肘部管部であり、肘部管症候群が強く疑われます。
  • グリグリした骨の部分の周りが腫れてブヨブヨしており、押すと痛む: 内側上顆部の滑液包炎の可能性があります。

これらの症状パターンはあくまで目安であり、複数の原因が合併している可能性もあります。正確な診断のためには、必ず専門医の診察を受けましょう。

肘の内側の痛みの対処法と予防

肘の内側の痛みを感じ始めたら、まずはご自身でできる対処法を試み、痛みの悪化を防ぐことが重要です。また、痛みの再発を防ぐための予防策も合わせて行うと良いでしょう。

日常生活での注意点

痛みを軽減し、悪化を防ぐためには、日常生活での肘の使い方に注意が必要です。

  • 原因となる動作を避ける: 痛みを誘発するような手首の曲げ伸ばし、内側にひねる動作、重いものを持つ作業などを極力控えます。スポーツや仕事での特定の動作が原因の場合は、その動作を一時的に中止するか、負担のかからない方法に変更します。
  • 肘への負担を軽減する: パソコン作業をする際は、手首や肘が不自然な角度にならないよう、机や椅子の高さを調整したり、エルゴノミクスに基づいたキーボードやマウスを使用したりします。重いものを持つ際は、肘や手首だけでなく、体全体を使って持ち上げるように意識します。
  • 肘を長時間曲げたままの姿勢を避ける: スマートフォンを長時間使用する際や、寝ている間に肘を深く曲げたままにならないよう、姿勢に気をつけます。電話をする際は、イヤホンやスピーカーフォンを活用するなどの工夫をします。
  • 患部を圧迫しない: 硬い場所に肘をつく習慣がある場合は避けます。特に内側上顆滑液包炎や肘部管症候群がある場合は、患部への直接的な圧迫は痛みを増悪させることがあります。

効果的なセルフケア(ストレッチ、サポーター)

痛みの初期段階や、痛みが軽減してきた回復期には、適切なセルフケアを行うことで症状の改善や再発予防につながります。

  • 安静と冷却(急性期): 痛みが強く、熱感や腫れがある急性期には、患部を安静にし、アイスパックなどで1回15〜20分程度冷却します。1日に数回行うことで、炎症を抑え痛みを和らげる効果が期待できます。直接氷を皮膚に当てると凍傷の可能性があるため、タオルなどで包んで使用しましょう。
  • 温熱(慢性期): 急性期の炎症が治まり、痛みが鈍くなってきた慢性期には、患部を温めることで血行が促進され、組織の回復を助ける効果が期待できます。温かいシャワーや入浴、ホットパックなどで患部を温めます。ストレッチやマッサージの前に行うと効果的です。ただし、熱感や腫れがある場合は温めないようにしましょう。
  • ストレッチ: 前腕の筋肉の柔軟性を高めるストレッチは、ゴルフ肘の症状緩和や予防に有効です。
    • 前腕屈筋群のストレッチ: 肘を伸ばし、手のひらを上に向けて指先を下に向けます。もう一方の手で指先を持ち、ゆっくりと手前に引き寄せます。前腕の内側が伸びるのを感じながら、20〜30秒キープします。痛みのない範囲で行いましょう。
    • 前腕回内筋のストレッチ: 肘を軽く曲げ、手のひらを上に向けます。もう一方の手で手首を持ち、ゆっくりと手のひらを下(内側)にひねっていきます。前腕の内側が伸びるのを感じながら、20〜30秒キープします。
    • ※ポイント: 痛みを感じるほど強く引っ張らないこと。呼吸を止めずにリラックスして行うこと。毎日継続することが大切です。
  • 筋力強化(回復期): 痛みが軽減したら、軽い負荷から始めて前腕の筋肉を強化します。これにより、腱への負担を分散し、再発を予防する効果が期待できます。
    • リストカール: 軽いダンベルや抵抗バンドを使用し、手のひらを上にして前腕を台などに固定し、手首だけを手のひら側に曲げる動作を繰り返します。
    • リバースリストカール: 手のひらを下にして同様に行います。
    • 回内・回外運動: 軽いダンベルなどを持ち、前腕を台などに固定し、手のひらを上・下にひねる動作を繰り返します。
    • ※ポイント: 痛みを伴う場合は中止すること。無理のない範囲で、徐々に負荷を増やしていくこと。正しいフォームで行うことが重要です。
  • マッサージ: 痛む部分やその周囲の前腕の筋肉を優しくマッサージすることで、筋肉の緊張を和らげ、血行を促進する効果が期待できます。ただし、炎症が強い急性期には避けるべきです。
  • サポーターの活用: 肘用のサポーターやバンドは、患部の保護や保温、適度な圧迫による痛みの軽減、腱への負担軽減などの効果が期待できます。
    • ゴルフ肘用バンド/ストラップ: 肘から数センチ下、前腕の一番太い部分に巻き付けることで、筋肉の収縮力を分散させ、内側上顆への牽引ストレスを軽減します。
    • 肘用サポーター: 肘全体を覆うタイプで、保温や圧迫、関節の安定性を高める効果があります。
    • ※ポイント: サイズが合わないものや、締め付けが強すぎるものは逆効果になることがあります。痛みが軽減されるか、動きが楽になるかを確認しながら選びましょう。就寝中は外すのが一般的です。

これらのセルフケアは、痛みの緩和や予防に役立ちますが、症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。

痛みが治らない場合

セルフケアを試しても痛みが改善しない、むしろ悪化している、痛みが長期間続いている(数週間以上)、日常生活に支障が出ている、といった場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診する必要があります。特に、以下のような症状が伴う場合は、早めの受診が必要です。

  • 痛みが強く、日常生活や仕事、スポーツができない。
  • 安静にしていても痛みが続く、夜間に痛みが強い。
  • 肘の見た目に明らかな変形がある、腫れがひどい、熱を持っている。
  • 肘の動きが制限される、曲げ伸ばしが困難。
  • 薬指や小指のしびれがある、感覚が鈍い、指の力が入りにくい。
  • 強い打撲や転倒など、明らかな外傷が原因で痛みが生じた。

これらの症状は、単なる腱の炎症ではなく、骨折、靭帯損傷、神経の圧迫、関節の炎症など、より専門的な診断と治療が必要な病気が隠れている可能性を示唆します。

肘の痛みの受診目安と適切な診療科

肘の内側の痛みは、放置すると慢性化したり、病状が進行したりする可能性があります。適切な時期に専門医の診断を受けることが、早期回復への近道です。

どんな症状なら病院に行くべき?

前述の「痛みが治らない場合」に挙げた症状に加え、以下のような症状が一つでも当てはまる場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。

症状 受診の必要性 考えられる原因(例)
安静にしていても痛む 高い 炎症、神経の圧迫、進行した変形性関節症、関節リウマチ
夜間や朝方に痛みが強い 高い 炎症、関節リウマチ、神経の圧迫
薬指・小指にしびれがある 高い 肘部管症候群
指の力が入りにくい 高い 肘部管症候群(進行期)、神経損傷
肘が腫れている、熱感がある 高い 炎症、関節炎、滑液包炎、感染
肘の曲げ伸ばしが困難 高い 変形性関節症、関節炎、骨折、脱臼、靭帯損傷
肘の見た目に変形がある 高い 骨折、脱臼、進行した変形性関節症
強い外傷(打撲・転倒など)後 高い 骨折、脱臼、靭帯損傷
痛みが数週間以上続く 高い 慢性的な炎症、腱の変性、治癒が遅れている損傷など
セルフケアで改善しない 高い より専門的な治療が必要な可能性

これらの症状がなくても、痛みが気になる、不安があるという場合も、早めに受診して原因をはっきりさせることが大切です。

肘の痛みは何科を受診すれば良い?

肘の痛み、特に骨、関節、筋肉、腱、神経といった運動器に関わる痛みやしびれは、整形外科が専門です。整形外科医は、これらの組織の病気や外傷の診断・治療に精通しており、適切な検査(レントゲン、MRI、神経伝導速度検査など)や治療(薬物療法、リハビリテーション、注射、手術など)を提供できます。

「肘 内側 押すと痛い」という症状の場合、整形外科を受診するのが最も適切です。

もし、関節の腫れや全身症状(微熱、倦怠感など)を伴う場合は、関節リウマチの可能性も考慮し、リウマチ科を標榜している整形外科や内科、またはリウマチ専門医がいる医療機関を受診することも選択肢の一つです。

神経のしびれが主な症状で、脳や脊髄の疾患も否定したい場合は、脳神経内科を受診することもありますが、肘部管症候群などの末梢神経障害であれば、まずは整形外科で相談するのが一般的です。

皮膚の発赤や強い熱感、腫れがあり、感染が疑われる場合は、早急に医療機関(整形外科または外科)を受診してください。

最初からどの専門医が良いか判断に迷う場合は、まずは近くの整形外科クリニックを受診することをお勧めします。そこで専門的な診断を受け、必要であれば適切な専門医やより高度な医療機関(総合病院など)へ紹介してもらうことができます。

受診する際は、いつから、どのような時に、どのような痛みを感じるか、痛む場所、しびれの有無、過去の外傷や病歴、仕事やスポーツでの肘の使い方などを具体的に医師に伝えられるように準備しておくとスムーズです。

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まとめ:肘の痛みに悩んだら

肘の内側を押すと痛いという症状は、上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)、肘部管症候群、変形性肘関節症、滑液包炎、外傷、関節リウマチなど、様々な原因が考えられます。それぞれの病気には特徴的な症状があり、痛む場所や、どのような動作で痛むか、しびれの有無などが原因特定の手がかりとなります。

初期の軽い痛みであれば、原因となる動作を避け、安静や冷却、適切なストレッチやサポーターの活用といったセルフケアで改善することも少なくありません。しかし、痛みが強い、安静時も痛む、しびれがある、動きが制限される、外傷が原因であるなど、症状が重い場合や改善が見られない場合は、自己判断せずに必ず整形外科を受診してください。

整形外科医は、問診や診察、画像検査、神経学的検査などを通じて痛みの正確な原因を診断し、一人ひとりの病状や生活スタイルに合わせた適切な治療法(薬物療法、リハビリテーション、注射、手術など)を提案してくれます。

肘の痛みは、放置すると慢性化したり、機能障害につながったりする可能性もあります。痛みに悩んだら、まずはご自身の症状を注意深く観察し、必要に応じて専門医の診察を受け、適切な診断と治療につなげることが、早期回復と健康な肘を保つための重要なステップです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的アドバイスを代替するものではありません。個々の症状については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。

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