味覚障害は、食事が美味しく感じられない、何も食べていないのに変な味がするなど、日常生活の質を大きく低下させる可能性のある症状です。
単に不便なだけでなく、栄養状態の悪化や気分の落ち込みにつながることもあります。
味覚異常の原因は多岐にわたり、適切な診断と治療が重要です。
この記事では、味覚障害の主な原因や具体的な症状、自宅でできる対策、そして病院での検査や治療法について詳しく解説します。
ご自身の味覚に異常を感じている方は、ぜひ最後までお読みください。
味覚障害とは?
味覚は、食べ物に含まれる化学物質が舌や口の中にある「味蕾(みらい)」という感覚器官で感知され、その情報が神経を介して脳に伝えられることで生じます。
味蕾は、舌の表面にあるプツプツ(舌乳頭)の中に多く存在しますが、舌だけでなく、口蓋(口の天井)、咽頭(のど)、喉頭(こうとう)、食道上部にも分布しています。
味蕾で感知された味の情報は、顔面神経、舌咽神経、迷走神経といった複数の脳神経を通って脳の味覚野に送られ、「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」といった基本的な味として認識されます。
さらに、食べ物の温度、食感、香り(嗅覚)、視覚、さらにはこれまでの経験や心理状態といった多様な情報と統合されることで、「美味しい」「まずい」といった複雑な感覚、つまり風味として感じ取られます。
味覚障害とは、この味覚を感じるプロセスに何らかの異常が生じ、本来の味を正しく感じられなくなる状態全般を指します。
具体的には、「味が薄く感じる」「味が全くしない」「本来の味とは違う変な味がする」「何も食べていないのに常に苦い味がする」など、さまざまな訴えがあります。
味覚障害は、味蕾の機能異常、味覚神経の障害、脳の味覚野の障害など、原因となる場所によって現れ方が異なります。
また、嗅覚やその他の感覚、体の全体的な健康状態とも密接に関わっているため、原因の特定には様々な側面からの検討が必要です。
味覚障害の主な原因
味覚障害の原因は非常に多岐にわたり、一つだけでなく複数の要因が複合的に関わっていることも珍しくありません。
主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
亜鉛不足による味覚障害
味覚障害の原因の中で最も多いとされているのが、亜鉛の不足です。
亜鉛は、味蕾の細胞が新陳代謝を繰り返し、正常に機能するために必須のミネラルです。
亜鉛が不足すると、味蕾の細胞の生まれ変わりがうまくいかず、味を感じる機能が低下してしまいます。
亜鉛は体内で合成できないため、食事から摂取する必要があります。
しかし、現代の加工食品中心の食生活では亜鉛が不足しやすかったり、過度なダイエット、偏食、ストレス、アルコールの過剰摂取、特定の病気(腎臓病、肝臓病、糖尿病など)によって亜鉛の吸収が悪くなったり、体外へ排出されやすくなったりすることがあります。
高齢者の方も食事量が減ったり、消化吸収能力が低下したりすることで亜鉛不足になりやすい傾向があります。
亜鉛不足による味覚障害は、味が薄く感じる、何を食べても美味しくない、特定の味(特に甘味やうま味)が分かりにくいといった症状として現れることが多いですが、異味症(苦味や金属味)として現れることもあります。
薬剤の副作用による味覚障害
特定の薬剤の服用が原因で味覚障害が起こることがあります。
これは、薬剤が味蕾に直接影響を与えたり、唾液の分泌を抑制したり、体内の亜鉛やその他のミネラルバランスを崩したりすることによって生じると考えられています。
味覚障害を引き起こす可能性のある薬剤は非常に多く、主に以下のような種類の薬が挙げられます。
- 降圧薬(特にACE阻害薬)
- 高脂血症治療薬
- 糖尿病治療薬
- 精神科領域の薬(抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬など)
- 抗菌薬、抗真菌薬
- 抗がん剤
- 関節リウマチ治療薬
- 尿酸値を下げる薬
- 睡眠導入剤
これらの薬を飲み始めてから味覚の異常を感じるようになった場合は、薬剤の副作用の可能性が高いと考えられます。
ただし、自己判断で薬の服用を中止したり減量したりせず、必ず処方医や薬剤師に相談することが重要です。
多くの場合、薬剤の変更や中止によって味覚は回復します。
感染症(コロナなど)と味覚障害
ウイルスや細菌による感染症が原因で、一時的に味覚や嗅覚に異常が生じることがあります。
特に近年注目されたのが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)における味覚・嗅覚障害です。
新型コロナウイルスは、鼻の奥にある嗅上皮や、味覚を感じる神経経路に関わる細胞に感染することが知られており、これが味覚・嗅覚異常の原因と考えられています。
新型コロナウイルス感染症以外にも、インフルエンザや一般的な風邪でも、鼻炎や咽頭炎がひどくなると、嗅覚が低下したり、味覚に影響が出たりすることがあります。
これは、炎症によって鼻や喉の状態が悪化し、食べ物の風味が感じにくくなるためです。
感染症による味覚障害は、感染が治癒するにつれて数週間から数ヶ月で自然に回復することが多いですが、一部の方では遷延したり、後遺症として残ったりする場合もあります。
舌や口腔内の疾患
舌や口の中の状態が直接味覚に影響を与えることもあります。
- 舌炎: 舌が炎症を起こすと、味蕾がダメージを受け、味を感じる機能が低下することがあります。
- 口腔乾燥症(ドライマウス): 唾液の分泌量が減ると、食べ物の味が溶けにくくなり、味蕾まで到達しにくくなるため、味を感じにくくなります。
また、唾液には味蕾の細胞を保護し、再生を助ける成分が含まれているため、唾液不足は味蕾機能の低下にもつながります。
ドライマウスは、シェーグレン症候群などの全身疾患、薬剤の副作用、加齢、ストレスなどが原因で起こります。 - 口腔カンジダ症: 口の中にカビ(カンジダ菌)が異常繁殖すると、白い苔のようなものができたり、舌や粘膜が炎症を起こしたりして、味覚異常(特に苦味や金属味)を引き起こすことがあります。
- 歯周病や虫歯: 口の中の不衛生な環境も、味覚に悪影響を与える可能性があります。
これらの口腔内の問題は、歯科や口腔外科、耳鼻咽喉科での治療が必要です。
全身疾患の影響
体の他の部分の病気が原因で味覚障害が起こることもあります。
- 糖尿病: 糖尿病による神経障害は、味覚を伝える神経にも影響を与える可能性があります。
また、血糖コントロールが悪いと唾液の分泌が減少しやすくなります。 - 腎臓病・肝臓病: これらの病気では、体内のミネラルバランスが崩れたり、有害物質が体内に蓄積したりすることで、味覚に異常が生じることがあります(特に異味症)。
- 甲状腺機能低下症: 甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、全身の代謝が悪化し、味覚にも影響が出ることがあります。
- 自己免疫疾患: シェーグレン症候群のように、唾液腺を攻撃してドライマウスを引き起こす病気など、様々な自己免疫疾患が味覚に関与する可能性があります。
全身疾患が原因の場合は、その病気自体の治療を行うことが味覚障害の改善につながります。
神経の障害
味覚情報は、舌や口から脳へ神経を通じて伝えられます。
この神経経路のどこかに障害が生じると、味覚障害が発生します。
- 顔面神経麻痺: 顔面神経の一部は舌の前2/3の味覚を伝えています。
この神経が麻痺すると、麻痺した側の舌の味覚が低下することがあります。 - 脳腫瘍や脳血管障害(脳梗塞、脳出血など): 脳の味覚野や味覚神経の通り道に病変ができると、味覚が障害されることがあります。
- 頭部外傷: 頭部を強く打つと、味覚に関わる神経や脳の領域がダメージを受ける可能性があります。
神経系の問題が疑われる場合は、神経内科や脳神経外科での評価が必要になることがあります。
加齢による変化
年齢を重ねるにつれて、味覚機能も自然に変化していくことがあります。
- 味蕾の数の減少や機能低下: 味蕾の数は年齢とともに減少し、個々の味蕾の感度も低下すると言われています。
特に塩味や苦味を感じる能力が衰えやすい傾向があります。 - 唾液腺機能の低下: 唾液の分泌量も加齢とともに減少しやすく、これが味覚に影響を与えることがあります。
加齢による味覚の変化は自然な生理現象の一部ですが、栄養状態の悪化につながらないよう、食事内容などに注意が必要です。
ストレスと味覚
精神的なストレスや疲労も、味覚に影響を与える可能性があります。
強いストレスは、自律神経のバランスを崩し、唾液の分泌量を減らしたり、味覚を感じる脳の機能に影響を与えたりすることが考えられています。
また、うつ病や不安障害といった精神疾患に伴って味覚異常を訴える方もいます。
ストレスによる味覚障害は、原因が特定しにくい場合もありますが、ストレスを軽減するための対策や、必要に応じて精神科や心療内科でのカウンセリングや治療が有効な場合があります。
このように、味覚障害の原因は非常に多様であり、自己判断で原因を特定するのは難しいことが多いです。
正確な診断と適切な治療のためには、医療機関を受診することが強く推奨されます。
味覚障害の種類と具体的な症状
味覚障害は、単に「味がわからない」というだけでなく、様々な症状の現れ方があります。
ご自身の症状がどのタイプに近いかを知ることで、医師への説明もしやすくなります。
主な味覚障害の種類とその具体的な症状は以下の通りです。
味覚が低下・消失する(味がしない、薄い)
最も一般的に訴えられる症状です。
味覚の感度が全体的に低下したり、全く感じなくなったりします。
- 味が薄く感じる: 以前より味付けを濃くしないと満足できない、微妙な味が分からなくなった。
- 味がしない(無味症): 甘味、塩味、酸味、苦味、うま味といった基本的な味を全く感じられない。
何を食べても「紙を食べているようだ」「無機質な感じ」と表現されることがあります。 - 特定の味だけが分かりにくい: 例えば、甘味だけが感じにくい、塩味だけが分かりにくいなど、特定の味覚のみが障害される場合があります。
このタイプの味覚障害があると、食事が楽しくなくなり、食欲不振や栄養不足につながりやすくなります。
特に高齢者の方では、塩味が分からなくなり、過剰な塩分摂取につながるリスクもあります。
異味症(本来とは違う味を感じる、苦い、金属っぽいなど)
本来の食べ物の味とは違う、不快な味を感じる症状です。
何も食べていない安静時にも感じることがあります。
- 口の中が苦い: 特に舌の奥の方で常に苦味を感じるという訴えが多いです。
唾液の分泌不足、舌炎、口腔カンジダ症、特定の薬剤の副作用、消化器系の問題などが原因となることがあります。 - 口の中が金属っぽい: 口の中にコインや釘が入っているような、あるいは血のような金属味を感じる症状です。
亜鉛不足、特定の薬剤(特に抗菌薬や抗がん剤)、ドライマウスなどが原因として考えられます。 - 口の中が渋い、まずい: 漠然とした不快な味を感じる場合もあります。
異味症は、食欲不振や吐き気につながりやすく、精神的なストレスも大きい症状です。
解離性味覚障害(特定の味だけがわからない)
基本的な5つの味覚(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)のうち、特定の味覚だけが分からない、あるいは感じにくいというタイプの味覚障害です。
例えば、「甘いものだけ味がしない」「塩味だけが薄く感じる」といった症状が現れます。
このタイプの味覚障害は、味覚を伝える特定の神経経路や、脳の味覚野の特定の領域に異常がある場合に起こりうると考えられています。
原因としては、神経系の障害や一部の全身疾患などが考えられますが、原因が特定しにくい場合もあります。
自発性味覚(何も食べていないのに味がする)
何も口にしていない安静時にも、常に何らかの味(苦味、甘味、塩味など)を感じる症状です。
これは、味覚に関わる神経や脳が異常な信号を発している状態と考えられます。
異味症と似ていますが、異味症が「食べ物の味が変に感じられる」のに対し、自発性味覚は「何も食べていないのに勝手に味がする」という点が異なります。
原因としては、神経系の障害、ドライマウス、精神的な要因などが考えられます。
これらの症状は、ご本人にしかわからない感覚的なものであるため、周囲に理解されにくく、つらい思いをすることもあります。
ご自身の味覚の異常を正確に把握し、医師に具体的に伝えることが、適切な診断への第一歩となります。
味覚障害のセルフチェック方法
「もしかして味覚がおかしいかも?」と感じたら、まずはご自身で簡単にチェックしてみることができます。
ただし、これはあくまで目安であり、正確な診断は専門医による必要があります。
セルフチェックの結果で気になる点があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
簡単なチェックリスト
以下の項目にいくつか当てはまるか確認してみましょう。
- 以前に比べて、食べ物の味が薄く感じるようになった。
- 何を食べても味がしない、またはほとんど味がしないと感じる。
- 甘味、塩味、酸味、苦味、うま味のうち、特定のものだけが感じにくい。
- 何も食べていないのに、口の中が苦い、金属っぽいなど、変な味がする。
- 食事中に、本来の味とは違う不快な味(苦味、渋味など)を感じることがある。
- 食事が美味しくなくなり、食べる楽しみが減った。
- 以前に比べて、味付けを濃くするようになった。
- 口の中が以前より乾きやすくなったと感じる。
- 新しい薬を飲み始めてから、味覚がおかしくなった。
- 風邪やコロナなどの感染症にかかった後から、味覚がおかしい。
- 舌がピリピリしたり、痛んだりすることがある。
- 最近、強いストレスを感じている、あるいは疲労がたまっている。
- 偏食気味だったり、過度なダイエットをしている。
セルフチェックでわかること
上記のチェックリストは、ご自身の味覚に異常がある可能性や、どのようなタイプの味覚異常かを判断する手がかりになります。
また、味覚異常以外に口の乾きや舌の痛みといった症状があるか、生活習慣や病歴に心当たりがあるかなどを整理することで、原因を推測するヒントが得られます。
しかし、セルフチェックだけで味覚障害の原因や重症度を正確に診断することはできません。
味覚障害は、亜鉛不足のような比較的単純な原因から、全身疾患や神経系の障害といった専門的な治療が必要な病気が隠れている可能性もあります。
セルフチェックで一つでも気になる項目があったり、味覚の異常が数日間続いたりする場合は、迷わず医療機関を受診してください。
特に、口の乾きや舌の痛みなどの他の症状を伴う場合、急に味覚が全くしなくなった場合、特定の薬を飲み始めてから症状が出た場合は、早めに医師に相談することが重要ですし、耳鼻咽喉科、内科、歯科口腔外科、神経内科といった他の診療科の医師と連携して診療が行われることもあります。
味覚障害の治し方と治療法
味覚障害の治療は、その原因によって異なります。
原因を正確に診断し、それに基づいた適切な治療を行うことが、味覚の回復につながります。
自己判断での治療は避けるようにしましょう。
病院での薬物療法
味覚障害の薬物療法として最も一般的に行われるのが、亜鉛製剤の投与です。
血液検査で亜鉛不足が確認された場合や、亜鉛不足が強く疑われる場合に処方されます。
亜鉛製剤を服用することで、味蕾の新陳代謝が促進され、味覚機能の回復が期待できます。
効果が現れるまでには通常、数週間から数ヶ月かかることがあります。
亜鉛製剤以外にも、原因や症状に応じて様々な薬が用いられることがあります。
- 唾液分泌促進薬: 口腔乾燥症(ドライマウス)が原因で味覚障害が起きている場合に、唾液の分泌を促す薬が処方されることがあります。
- ステロイド薬: 炎症が原因で味覚障害が起きている場合や、原因が特定できない場合に、炎症を抑える目的で使用されることがあります。
- ビタミンB群製剤: ビタミンB群も味覚神経の機能維持に関与しているため、不足が疑われる場合に処方されることがあります。
薬剤の選択や用量は、患者さんの状態や原因によって医師が判断します。
必ず医師の指示通りに服用することが重要です。
食事や栄養による対策(亜鉛など)
亜鉛不足による味覚障害の場合、食事からの亜鉛摂取を意識することが重要です。
日頃の食生活を見直し、亜鉛を豊富に含む食品を積極的に取り入れましょう。
亜鉛を多く含む食品
食品カテゴリ | 食品例 |
---|---|
魚介類 | 牡蠣、うなぎ、ホタテ |
肉類 | 牛肉、豚レバー、鶏肉 |
豆類 | 大豆、豆腐、納豆 |
種実類 | ごま、アーモンド、カシューナッツ |
その他 | チーズ、卵黄、抹茶 |
特に牡蠣や牛肉は亜鉛含有量が非常に多い食品として知られています。
バランスの取れた食事を心がけ、これらの食品を献立に加えるようにしましょう。
サプリメント活用の可能性
食事からの摂取が難しい場合や、医師の指導のもとで、亜鉛サプリメントを活用することも一つの方法です。
ただし、サプリメントはあくまで栄養補助食品であり、食事からの摂取が基本です。
また、亜鉛の過剰摂取は、銅の吸収を妨げたり、吐き気や下痢などの症状を引き起こしたりする可能性があります。
サプリメントを服用する場合は、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な量と期間を守るようにしてください。
亜鉛以外にも、ビタミンB群(特にビタミンB12)や鉄分なども味覚や神経機能に関与しているため、これらの栄養素の不足も味覚異常の原因となることがあります。
バランスの取れた栄養摂取を心がけることが大切です。
原因疾患の治療
味覚障害が全身疾患(糖尿病、腎臓病、肝臓病、甲状腺疾患など)や口腔内の疾患(舌炎、口腔カンジダ症、歯周病など)、神経系の障害などが原因で起こっている場合は、その原因となっている病気そのものを治療することが最も重要です。
原因疾患が改善すれば、それに伴って味覚障害も回復する可能性が高まります。
各分野の専門医(内科医、歯科医、口腔外科医、神経内科医など)との連携が必要になる場合もあります。
生活習慣の改善
生活習慣の見直しも、味覚障害の改善や予防に役立ちます。
- 禁煙・節酒: タバコやアルコールは味蕾に悪影響を与える可能性があります。
- 適切な口腔ケア: 丁寧な歯磨きや舌の清掃で、口の中を清潔に保ちましょう。
ただし、舌を強く磨きすぎると味蕾を傷つける可能性があるので注意が必要です。 - 十分な睡眠と休息: 体調を整えることは、味覚機能の回復にもつながります。
- ストレスの管理: ストレスを溜め込まず、適度な休息や趣味などでリフレッシュしましょう。
- 水分補給: 口腔乾燥を防ぐために、こまめに水分を摂りましょう。
これらの生活習慣の改善は、味覚障害だけでなく、全身の健康にとっても重要です。
味覚障害の治療は、原因を正確に特定し、患者さん一人ひとりの状態に合わせて行う必要があります。
自己流の対策で改善しない場合や、症状が悪化する場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医の診断と指導を受けるようにしてください。
味覚障害は自然に回復する?
味覚障害が自然に回復するかどうかは、その原因によって異なります。
原因によっては比較的短期間で回復するものもあれば、治療をしても回復に時間がかかったり、残念ながら回復が難しかったりする場合もあります。
回復までの期間と目安
- 一過性の原因(風邪などの感染症、軽度の亜鉛不足、特定の薬剤の一時的な服用など): これらの原因による味覚障害は、原因が解消されるにつれて、数日〜数週間、長くても数ヶ月以内に自然に回復することが多いです。
例えば、風邪が治ったり、原因となる薬剤の服用を中止したりすれば、味覚も徐々に戻ってくる可能性があります。 - 慢性の原因(慢性の亜鉛不足、全身疾患、神経系の障害、口腔乾燥症など): これらの原因による味覚障害は、回復に時間がかかる傾向があります。
亜鉛不足の場合、亜鉛製剤を服用しても味蕾が再生するのに時間がかかるため、数ヶ月間は治療を続ける必要があります。
全身疾患が原因の場合は、その病気のコントロールがうまくいかないと味覚も改善しにくいことがあります。
神経系の障害や加齢による変化は、回復が難しい場合もあります。
一般的に、味覚障害の症状が始まってから医療機関を受診するまでの期間が短いほど、回復しやすいと言われています。
味覚異常を感じたら、様子を見すぎずに早めに専門医に相談することが重要です。
回復しない場合の対処法
治療を受けても味覚障害が十分に回復しない場合や、回復が難しいと診断された場合でも、生活の質を維持するための工夫は可能です。
- 香りを活用する: 味覚が障害されていても、嗅覚が保たれていれば、食べ物の香りから風味を感じることができます。
ハーブやスパイス、柑橘類の皮など、香りの強い食材を活用したり、食事中にアロマを焚いたりすることで、食事がより楽しめるようになる場合があります。 - 食感や温度を楽しむ: 味覚以外の感覚(食感、温度、見た目)に意識を向けることで、食べる体験を豊かにすることができます。
様々な食感の食材を組み合わせたり、温かいものと冷たいものを組み合わせたりしてみましょう。 - 見た目を工夫する: 料理の色合いを鮮やかにするなど、見た目を美しくすることで食欲を刺激する効果も期待できます。
- 管理栄養士に相談する: 味覚障害によって食欲が低下したり、栄養バランスが偏ったりする可能性がある場合は、管理栄養士に相談し、栄養状態を維持するための具体的なアドバイスを受けることを検討しましょう。
- 精神的なケア: 味覚障害は、食事の楽しみを奪い、気分の落ち込みにつながることがあります。
つらい気持ちを一人で抱え込まず、家族や友人に話を聞いてもらったり、必要に応じてカウンセリングを受けたりすることも大切です。
治療を受けても症状が改善しない場合は、別の原因が隠れていないか、診断が適切であったかなどを再評価するために、再度医療機関を受診するか、セカンドオピニオンを求めることも検討しましょう。
特に専門性の高い病院の味覚外来などを受診することも有効です。
味覚障害の診断と検査
味覚障害の診断では、患者さんからの詳しい問診に加え、様々な検査が行われます。
原因を正確に特定するためには、いくつかの検査を組み合わせるのが一般的です。
受診すべき診療科(耳鼻咽喉科など)
味覚障害の診療を専門的に行っているのは、主に耳鼻咽喉科です。
耳鼻咽喉科医は、鼻、喉、耳といった感覚器に関わる臓器の専門家であり、味覚に関わる神経や口の中の状態も詳しく診察することができます。
多くの病院では、味覚障害で受診する場合、まずは耳鼻咽喉科を受診するのが一般的です。
ただし、味覚障害の原因が全身疾患や神経系の障害など、他の病気による可能性が高い場合は、内科、歯科口腔外科、神経内科といった他の診療科の医師と連携して診療が行われることもあります。
かかりつけ医に相談し、適切な診療科を紹介してもらうのも良いでしょう。
大学病院などでは、専門の「味覚外来」を設けているところもあります。
病院で行われる主な検査
病院では、以下のような検査が行われ、味覚障害の原因や程度を調べます。
- 問診: 最も重要な検査の一つです。
いつから、どのような味覚異常があるか、症状の程度や変化、既往歴(過去にかかった病気)、現在服用している薬(市販薬やサプリメント含む)、食生活、喫煙習慣、飲酒習慣、ストレスの状況、鼻や口の他の症状(鼻づまり、口の乾き、舌の痛みなど)について詳しく尋ねられます。 - 口腔内の視診・触診: 舌の状態(色、形、苔のつき方、炎症の有無など)、口の粘膜の状態、唾液の量などを医師が目で見たり触ったりして調べます。
- 電気味覚検査: 舌の表面に微弱な電気刺激を与え、どのくらいの強さで味(主に酸味や金属味として感じられる)を感じるかを調べる検査です。
味覚の閾値(いきち:味を感じ取れる最小の濃度)を客観的に評価できます。 - ろ紙ディスク法: 味の種類(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)ごとに、濃度の異なる味の溶液を含ませた小さなろ紙を舌の特定の部位に載せ、どの濃度で味を感じるか、どのような味を感じるかを調べる検査です。
舌のどの部分の味覚が障害されているかを知るのに役立ちます。 - 全口的方式味覚検査: 口全体に味の溶液を含ませて味覚を評価する検査です。
ろ紙ディスク法よりも日常的な味覚に近い評価ができます。 - 血液検査: 亜鉛、鉄、銅などのミネラル、ビタミンB群、血糖値、腎機能、肝機能、甲状腺ホルモンなどの値を調べ、味覚障害の原因となる全身疾患や栄養不足がないかを確認します。
- 画像検査: 必要に応じて、脳腫瘍や神経の圧迫など、神経系の異常がないかを調べるために、頭部のMRIやCT検査が行われることがあります。
唾液腺の機能や病変を調べるために、唾液腺の検査が行われることもあります。
これらの検査の結果を総合的に判断し、味覚障害の原因を特定し、最適な治療法が選択されます。
検査には時間がかかる場合や、複数の診療科を受診する必要がある場合もありますが、正確な診断のためには重要なステップです。
こんな味覚の異常は要注意!病院へ行くタイミング
味覚の異常を感じても、「一時的なものだろう」と様子を見てしまう方は少なくありません。
しかし、中には放っておくと改善が難しくなったり、他の病気が隠れていたりする場合もあります。
以下の項目に当てはまる場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
- 味覚の異常が数日〜1週間以上続いている: 一過性の味覚異常は比較的短期間で改善することが多いですが、それ以上続く場合は何らかの原因が考えられます。
- 日常生活に支障が出ている: 食事が美味しく感じられないことで食欲が低下したり、偏食になったりして、体重が減少している場合。
また、味付けがわからず、塩分や糖分を摂りすぎてしまう場合なども注意が必要です。 - 他の症状を伴う場合: 味覚異常だけでなく、口の乾き、舌の痛みやしびれ、舌の荒れ、顔の麻痺、鼻づまり、嗅覚の低下、原因不明の発熱などを伴う場合は、原因となる病気がある可能性が高いです。
- 特定の薬を飲み始めてから症状が出た: 服用している薬の副作用が原因である可能性が高いです。
自己判断で中止せず、医師や薬剤師に相談してください。 - セルフチェックで複数の項目に当てはまった: 簡単なセルフチェックでも気になる点が多い場合は、専門医の評価を受けることをお勧めします。
- 急に味覚が全くしなくなった: 特に急激な味覚の消失は、神経系の問題など、より注意が必要な病気のサインである可能性もゼロではありません。
味覚障害は、放っておくと回復が遅れたり、うつ病などの精神的な問題につながったりすることもあります。
また、隠れた全身疾患のサインである可能性も否定できません。
「これくらいで病院に行くのは大げさかな」と思わず、少しでも気になる場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
早めに原因を特定し、適切な治療を開始することが、早期回復の鍵となります。
まとめ
味覚障害は、食事が美味しく感じられなくなるだけでなく、全身の健康や精神状態にも影響を及ぼす可能性のある重要な症状です。
「味がしない」「苦い」「金属っぽい味がする」など、その現れ方も様々です。
味覚障害の原因は、亜鉛不足、薬剤の副作用、感染症(コロナなど)、口腔内の疾患、全身疾患、神経の障害、加齢、ストレスなど、非常に多岐にわたります。
一つの原因だけでなく、複数の要因が複合的に関わっていることも少なくありません。
味覚障害を改善するためには、まずはその原因を正確に診断することが最も重要です。
自己判断で市販薬やサプリメントを試したり、様子を見すぎたりせず、早めに医療機関、特に耳鼻咽喉科を受診することを強くお勧めします。
病院では、詳しい問診に加え、電気味覚検査やろ紙ディスク法、血液検査など様々な検査を行い、原因を特定します。
原因が特定できれば、亜鉛製剤の投与、原因疾患の治療、口腔ケア、薬剤の調整、生活習慣の改善など、原因に応じた適切な治療や対策が行われます。
亜鉛不足による味覚障害は、亜鉛製剤の服用や食事からの亜鉛摂取を増やすことで改善が期待できます。
味覚障害の回復には、原因や重症度によって個人差があり、数週間で回復することもあれば、数ヶ月以上の治療が必要な場合もあります。
早期に診断・治療を開始するほど回復しやすい傾向があるため、「おかしいな」と感じたら、できるだけ早く専門医に相談することが大切です。
たとえ回復に時間がかかったり、完全に回復しなかったりする場合でも、香りの活用や食感を楽しむなど、食事の工夫で生活の質を維持することは可能です。
一人で悩まず、医療機関のサポートを受けながら、ご自身の味覚と向き合っていくことが重要です。
免責事項:
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状に対する診断や治療を推奨するものではありません。
味覚に異常を感じる場合は、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
記事の内容に基づいて行った行為によって生じた一切の損害について、当方は責任を負いかねます。