【盲腸の初期症状】痛みはどこから?危険なサインを見分けるには

盲腸(虫垂炎)は、多くの方が一度は耳にしたことのある病名でしょう。
初期症状は他の腹部の病気と似ていることも多く、見過ごしてしまうと症状が進行し、重症化するリスクもあります。
早期に適切な対応をとるためには、盲腸の初期症状を正しく理解しておくことが非常に重要です。

この記事では、盲腸(虫垂炎)の初期に現れる可能性のある様々なサインについて、具体的な症状の特徴や時間経過による変化、ご自身でできるチェック方法、そして病院での診断や治療法までを詳しく解説します。
もし「もしかして盲腸かも?」と感じることがあれば、ぜひこの記事を参考に、ご自身の症状と照らし合わせてみてください。
そして、気になる症状がある場合は、迷わず医療機関を受診することをおすすめします。

目次

盲腸 初期症状の具体的なサイン

盲腸(虫垂炎)の初期症状は、その進行段階によって様々ですが、特徴的なパターンをたどることがあります。
しかし、個人差が大きいため、典型的な症状が現れない場合もあります。
ここでは、盲腸の初期に現れる可能性のある具体的なサインについて詳しく解説します。

痛みの特徴と変化

盲腸(虫垂炎)の症状の中で、最も特徴的で重要なのが「痛み」です。
盲腸の痛みは、時間経過とともにその場所や性質が変化することが一般的です。
この痛みの変化を理解しておくことが、盲腸を疑う上で非常に役立ちます。

初期の漠然とした腹痛(みぞおち・お腹全体)

盲腸の痛みは、しばしばみぞおち(お腹の上の方、肋骨の間あたり)や、お腹全体が漠然と痛むことから始まります。
この段階では、痛みの場所がはっきりせず、「なんだかお腹の調子が悪いな」「胃がムカムカする感じかな」といった、比較的軽い不快感として感じられることが多いです。
まるで風邪の初期症状や胃の不調、食べすぎのような感覚に近いかもしれません。
痛みの性質も、「シクシク」「ズーン」といった表現されることが多く、我慢できないほどの激しい痛みであることは稀です。

なぜ盲腸の炎症なのに、みぞおちやお腹全体が痛むのでしょうか。
これは、内臓の痛みが脳に伝わる経路が関係しています。
内臓の痛みは、体の表面の痛みのようにピンポイントで認識されにくく、関連する神経が分布している範囲全体に感じられることがあります。
虫垂に関連する神経がみぞおちあたりにも分布しているため、初期には炎症部位から離れた場所で痛みを感じることがあるのです。
この初期の痛みは、数時間から1日程度続くことがあります。

右下腹部への痛みの移動

盲腸の痛みの非常に特徴的なサインとして、時間経過とともに痛みがみぞおちやお腹全体から、右下腹部へと移動することが挙げられます。
通常、初期の漠然とした痛みが始まってから数時間(多くの場合は4時間〜24時間程度)経つと、痛みの中心が徐々に右下腹部に移ってきます。

この右下腹部とは、立った状態でへそから右足の付け根を結んだ線の真ん中あたり、あるいは、右の腰骨の一番突き出た部分(上前腸骨棘)とへそを結んだ線の外側1/3あたりにある「マックバーニー点」と呼ばれる場所が典型的な痛みの部位とされています。
痛みがこの場所に固定されてくると、盲腸の炎症が進行している可能性が非常に高くなります。

痛みが移動する理由は、炎症が虫垂の壁全体に広がり、最終的に虫垂のすぐ外側にある腹膜(お腹の内側を覆う膜)にまで及ぶためです。
腹膜は知覚神経が豊富で痛みに敏感なため、炎症が腹膜に触れるようになると、より正確な炎症部位、つまり右下腹部に強い痛みを感じるようになるのです。

痛みの強さ(我慢できる?できない?)

痛みが右下腹部に移動した後、その痛みの強さも変化します。
初期の漠然とした痛みとは異なり、右下腹部の痛みは比較的鋭く、持続的な痛みであることが多いです。
炎症の程度によって痛みの強さは異なりますが、軽症の場合は「鈍い痛み」「重い感じ」程度であることもあれば、炎症が強く進行している場合は「ズキズキ」「キリキリ」といった強い痛みに変わることもあります。

体を動かしたり、咳をしたり、歩いたり、階段を上り下りしたりといったお腹に響くような動作をすると、痛みが増強するのが特徴です。
特に、右足を上げたり伸ばしたりする動作で痛みを感じやすくなることがあります。

痛みが強くなると、安静にしていないとつらいと感じるようになり、夜も眠れないほどになるケースもあります。

痛みの強さだけで盲腸かどうかを断定することはできませんが、みぞおちやお腹全体の痛みが右下腹部に移動し、その痛みが持続的で、体を動かすと強くなる場合は、盲腸を強く疑う必要があります。

押した時の痛み(圧痛)

盲腸を疑う重要なサインの一つが「圧痛(あっつう)」です。
圧痛とは、お腹のある部分を指で押した時に感じる痛みです。
盲腸の場合、典型的な圧痛の部位は先述した右下腹部のマックバーニー点あたりです。

ご自身で優しくお腹を押してみて、右下腹部、特に特定の場所だけが強く痛む場合は注意が必要です。
さらに特徴的なのは、「反跳痛(はんちょうつう)」と呼ばれる痛みです。
これは、押さえた指をパッと離した瞬間に、押した時よりも強い痛みを感じるというものです。
反跳痛は、腹膜炎を起こしている可能性を示唆するサインであり、炎症が虫垂の壁を越えて周囲に広がっている可能性があるため、非常に重要な所見です。
ご自身で確認するのは難しい場合もありますが、もし右下腹部を押して離すときに痛みが強くなるようであれば、速やかに医療機関を受診すべきです。

痛みの特徴をまとめると、初期のみぞおち・お腹全体の漠然とした痛みが、数時間〜1日程度で右下腹部に移動し、持続的で体を動かすと強くなる痛みに変化し、その部位に圧痛や反跳痛が見られる、というのが典型的な盲腸の痛みの経過です。
ただし、この経過をたどらない非典型的なケースも少なくないため、痛みの場所だけでなく、他の症状と合わせて判断することが重要です。

消化器系の症状

盲腸(虫垂炎)では、痛み以外にも様々な消化器系の症状を伴うことがあります。
これらの症状は、虫垂の炎症が消化管全体の動きに影響を与えることで起こります。

吐き気・嘔吐

盲腸の初期には、痛みが始まるのと同時か、痛みの少し前に吐き気や胃のむかつきを感じることがあります。
人によっては、実際に嘔吐することもあります。
特に、痛みがみぞおちにある初期の段階で吐き気や嘔吐を伴うと、「胃腸風邪かな?」「食あたりかな?」と思ってしまい、盲腸だと気づきにくいことがあります。

吐き気や嘔吐は、虫垂の炎症が自律神経を刺激したり、腸の動きを妨げたりすることで起こると考えられています。
通常、嘔吐しても腹痛が改善することはなく、むしろ痛みが続くか、時間とともに悪化していくことが多いです。
腹痛に加えて吐き気や嘔吐がある場合は、盲腸を含めた腹部の病気を疑う必要があります。

食欲不振

盲腸の炎症が起こると、多くの人が食欲がなくなります。
「なんとなくお腹の調子が悪い」「食べる気がしない」といった漠然としたものから、全く何も食べたくないという状態まで程度は様々です。
食欲不振もまた、吐き気と同様に、虫垂の炎症が消化管の働きを鈍らせることで起こると考えられています。
腹痛に加えて食欲がない状態が続く場合は、体の中で何らかの炎症が起きているサインかもしれません。

便通の変化(下痢・便秘)

盲腸(虫垂炎)では、便通に変化が見られることもあります。
典型的なのは便秘ですが、炎症が骨盤内の虫垂に及んでいる場合など、虫垂の位置によっては下痢になることもあります。
便通の変化は、虫垂の炎症が周囲の腸に影響を与え、腸の動きが乱れることで起こると考えられています。

特に、初期の段階で下痢が起こると、「胃腸炎だろう」と自己判断してしまい、盲腸の発見が遅れることがあります。
しかし、もし下痢が続いていても、右下腹部の痛みが強くなってくるようであれば、盲腸を強く疑う必要があります。
逆に、普段は便秘ではないのに急に便秘になった、という場合も盲腸のサインである可能性があります。
便通の変化だけで盲腸と判断することはできませんが、腹痛や吐き気などの他の症状と合わせて考えるべきです。

おならとの関連

盲腸(虫垂炎)になると、炎症によって腸の動きが鈍くなるため、お腹にガスが溜まりやすくなることがあります。
これにより、お腹が張った感じ(腹部膨満感)を覚えたり、おならが出にくくなったりすることがあります。
おならが出そうで出ない、お腹が張って苦しいといった症状も、盲腸のサインの一つとして現れる可能性があります。

全身症状

盲腸(虫垂炎)では、腹痛や消化器症状だけでなく、体全体に影響が及ぶ全身症状が見られることもあります。

発熱

盲腸の炎症が進行すると、多くの場合、発熱を伴います。
初期の段階では微熱(37度台後半程度)であることが多いですが、炎症が強くなったり、虫垂が破れて腹膜炎を起こしたりすると、38度以上の高熱になることもあります。

発熱は、体が細菌感染や炎症と戦っているサインです。
腹痛、特に右下腹部の痛みに加えて発熱がある場合は、体の中で炎症が起きている可能性が非常に高く、医療機関を速やかに受診する必要があります。
ただし、高齢者や免疫力の低下している方では、炎症が強くてもあまり熱が出ないこともあります。

倦怠感

盲腸(虫垂炎)にかかると、体が炎症と戦っているため、全身がだるく感じられたり、疲れやすくなったりといった倦怠感を伴うことがあります。
食欲不振も相まって、体力が落ちていると感じる方もいるでしょう。
倦怠感は他の様々な病気でも見られる症状ですが、前述の腹痛や消化器症状、発熱と同時に現れる場合は、盲腸を含む感染症や炎症性疾患を疑うサインとなります。

盲腸の症状はどのくらいで悪化する?時間経過と注意点

盲腸(虫垂炎)の症状は、時間とともに進行していくことが一般的です。
症状の進行スピードには個人差がありますが、一般的には数時間から24時間程度で初期の症状から特徴的な症状へと変化し、さらに進行すると重症化のリスクが高まります。

症状の進行スピード

典型的な盲腸の症状の進行は以下のようになります。

発症初期(多くは0〜12時間程度):

  • みぞおちやお腹全体が漠然と痛む。
  • 吐き気や胃のむかつき、食欲不振を伴うことがある。
  • 微熱が出始めることもある。

この段階では、他の胃腸の病気や風邪の初期と区別がつきにくいため、盲腸だと気づかないことが多いです。
しかし、この時点ですでに虫垂では炎症が始まっています。

症状の進行期(多くは12〜48時間程度):

  • 痛みがみぞおちから右下腹部へと移動し、痛みの場所が固定される
  • 右下腹部の痛みが持続的になり、体を動かすと強くなる。
  • 右下腹部に圧痛(押すと痛む)が現れる。
  • 発熱が明らかになる(微熱〜高熱)。
  • 吐き気、食欲不振、便通の変化(便秘が多い)が続く。

この段階になると、比較的盲腸を疑いやすい特徴的な症状が揃ってきます。
多くの人がこの段階で医療機関を受診します。

重症化の可能性(発症から48時間以降、あるいはもっと早く):

  • 右下腹部の痛みがさらに強くなり、反跳痛(押して離した時に強く痛む)が現れる。
  • 発熱が高くなる(38度以上)。
  • 腹部全体の強い痛みや張りが現れる。
  • 脈が速くなる、血圧が下がるなどの全身状態の悪化。

炎症が急速に進行したり、適切な治療が遅れたりすると、発症から比較的早い段階で重症化することもあります。

症状の進行スピードは、虫垂の詰まり方や細菌の種類、患者さんの免疫力などによって異なります。
中には、数時間で急速に悪化するケースもあれば、数日間かけてゆっくりと進行する「慢性虫垂炎」のような非典型的な経過をたどるケースもあります。

重症化(腹膜炎など)の危険性

盲腸(虫垂炎)で最も注意すべきは、炎症が虫垂の壁を破って、お腹全体を覆う腹膜に炎症が広がる腹膜炎(ふくまくえん)を起こすことです。
虫垂が破裂することを「穿孔(せんこう)」といいます。

腹膜炎を起こすと、右下腹部の痛みだけでなく、お腹全体が板のように硬く張り、強い痛みが広がるようになります。
体を少し動かしただけでも激しい痛みが走るため、じっとしていることしかできなくなります。
発熱も高くなり、脈が速くなる、冷や汗が出る、顔色が悪いなど、全身状態が悪化します。

腹膜炎は、お腹の中に細菌がばらまかれた状態であり、命に関わる重篤な状態です。
一刻も早い治療が必要となり、緊急手術が必要になることがほとんどです。

腹膜炎以外にも、虫垂の周囲に膿が溜まる膿瘍(のうよう)を形成することもあります。

これらの重症化を防ぐためには、盲腸の初期症状を見逃さず、症状が軽いうちに、あるいは典型的な症状が出始めたら、速やかに医療機関を受診することが何よりも重要です。
特に、痛みが急速に強くなる、右下腹部の痛みに加えて全身状態が悪化している(高熱、顔色が悪い、ぐったりしているなど)場合は、緊急性が高いと考えられますので、ためらわずに救急外来を受診しましょう。

盲腸かな?と思ったら|セルフチェックと診断方法

もしご自身の体調が「盲腸かもしれない」と感じたら、まずは落ち着いて症状を確認し、適切な行動をとることが大切です。

盲腸の症状セルフチェックリスト

以下の項目に当てはまるかどうか、ご自身の症状と照らし合わせてみましょう。
ただし、これはあくまで自己判断のためのチェックリストであり、診断ではありません。
一つでも当てはまる場合や、気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

  • 数時間前〜1日前に、みぞおちや胃のあたり、またはお腹全体が漠然と痛みましたか?
    盲腸の初期によく見られる、痛みがはっきりしない段階です。
  • その痛みが、時間経過とともに右下腹部へと移動してきましたか?
    盲腸の非常に特徴的な痛みの移動です。
  • 右下腹部の痛みが、持続的に続いていますか?
    痛みが断続的ではなく、常に続いているか確認しましょう。
  • 右下腹部の痛みが、体を動かしたり、歩いたり、咳をしたりすると強くなりますか?
    お腹に響くような動作で痛みが強くなるのは、炎症が腹膜に近いところまで及んでいるサインかもしれません。
  • 右下腹部を優しく押してみると、特定の場所が強く痛みますか?(圧痛)
    典型的なのは、へそと右の腰骨の突き出た部分を結んだ線の真ん中あたりです。
  • 吐き気や胃のむかつきを感じますか?実際に嘔吐しましたか?
    痛みに先行したり、同時に現れたりすることがあります。
  • 食欲がありませんか?
    体の炎症や消化管の不調によるサインです。
  • 便通に変化がありましたか?(便秘や下痢)
    普段と違う便通があるか確認しましょう。
  • 微熱や発熱がありますか?
    体の中で炎症が起きているサインです。
  • 体がだるく、倦怠感がありますか?
    全身症状の一つです。

【特に注意が必要なサイン】

  • 右下腹部を押さえていた指をパッと離した時に、強い痛みを感じますか?(反跳痛)
    腹膜炎の可能性がある危険なサインです。
  • 痛みが急速に強くなっていますか?
    炎症が急速に進行している可能性があります。
  • 38度以上の高熱が出ていますか?
    炎症が強い、あるいは他の原因も考えられます。
  • お腹全体が硬く張って、激しい痛みがありますか?
    腹膜炎の可能性が非常に高いです。

これらのチェックリストはあくまで参考です。
症状は人それぞれ異なり、典型的な経過をたどらないこともあります。
特に、高齢者や小さなお子さん、免疫力が低下している方などは、症状が分かりにくかったり、典型的な痛みのパターンを示さなかったりすることがあります。
少しでも気になる症状があれば、自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。

【何科を受診すればいいの?】

盲腸(虫垂炎)が疑われる場合、まずは消化器内科を受診するのが一般的です。
夜間や休日でかかりつけ医が開いていない場合、あるいは痛みが非常に強いなど緊急性が高いと感じる場合は、救急外来を受診しましょう。
事前に病院に電話で症状を伝えておくと、スムーズに対応してもらえることがあります。

病院での診断プロセス(問診、触診、検査)

医療機関を受診すると、医師は様々な方法で盲腸(虫垂炎)かどうかを診断します。
診断は通常、問診、触診、そして必要に応じて検査を組み合わせて行われます。

1. 問診:症状や経過を詳しく聞く

医師はまず、患者さんの症状について詳しく質問します。

  • いつから、どのような症状(痛み、吐き気、発熱など)がありますか?
  • 痛みが始まった場所、現在の場所、痛みの変化はありますか?
  • 痛みの性質(シクシク、ズキズキ、キリキリなど)や強さはどうですか?
  • 体を動かしたり、咳をしたりすると痛みは強くなりますか?
  • 吐き気や嘔吐、食欲不振はありますか?
  • 便通に変化はありますか?(便秘、下痢)
  • 熱はありますか?
  • 現在服用している薬はありますか?
  • これまでに似たような症状はありましたか?
  • 持病はありますか?

これらの質問を通して、医師は症状の始まり、進行、他の病気との区別などを判断するための情報を集めます。
症状を正確に伝えることが、診断の第一歩となります。

2. 触診:お腹の状態を確認する

問診の後、医師はお腹の状態を触って確認します。

  • お腹の張りがないか:全体的に硬くなっているかなどを確認します。
  • 圧痛の場所と程度:特にお腹の右下腹部を優しく押してみて、痛みの場所や強さを確認します。マックバーニー点などの虫垂の典型的な位置を中心に触診します。
  • 反跳痛の有無:押さえた指を離した時に痛みが強くなるかどうかを確認します。反跳痛は腹膜炎を強く示唆するサインです。
  • 筋性防御の有無:お腹の筋肉が硬く緊張している状態(筋性防御)がないかを確認します。これは、お腹の中に強い炎症がある場合に現れることがあります。

触診は、炎症の場所や広がり、重症度を判断する上で非常に重要な診察です。

3. 検査:血液検査や画像検査

問診と触診で盲腸が疑われる場合、さらに診断を確定したり、他の病気との区別をつけたりするために、以下のような検査が行われることがあります。

  • 血液検査

    • 白血球数:体に炎症や感染があると、白血球の数が増加することが多いです。
    • CRP(C反応性タンパク):体の中の炎症の程度を示すマーカーです。盲腸炎がある場合、CRPの値が高くなることがあります。

血液検査は、体内で炎症が起きているかどうか、その程度を知るために役立ちます。

  • 画像検査

    • 腹部超音波検査(エコー検査):体の表面から超音波を当てて、お腹の中の臓器を観察する検査です。虫垂が腫れているか、周囲に膿が溜まっていないかなどを比較的簡便に確認できます。特に小児や妊婦さんなど、被ばくを避けたい場合に優先されることが多い検査です。
    • CT検査:X線を使って体の断面画像を撮影する検査です。虫垂の状態をより詳細に、立体的に観察することができます。虫垂の腫れや周囲への炎症の広がり、穿孔の有無などを正確に診断するのに非常に有用です。腹部全体を一度に調べられるため、盲腸以外の腹部の病気(憩室炎、卵巣の病気など)との鑑別診断にも役立ちます。ただし、X線被ばくがあるため、必要に応じて行われます。
    • 腹部X線検査(レントゲン):腸閉塞や消化管の穿孔(穴が開くこと)など、他の緊急性の高い病気を鑑別するために行われることがあります。虫垂炎そのものを直接診断することは少ないですが、関連する所見が見られることもあります。

これらの検査結果と、問診・触診の所見を総合的に判断して、最終的な診断が下されます。
場合によっては、婦人科の病気(卵巣出血、骨盤内炎症性疾患など)や尿路結石、憩室炎など、他の腹部の病気と症状が似ていることがあるため、鑑別診断のために追加の検査が行われることもあります。

盲腸になりやすい人の特徴と原因

盲腸(虫垂炎)は、誰にでも起こりうる病気ですが、比較的かかりやすい年代や、リスクを高める可能性のある要因がいくつか知られています。

かかりやすい年代:

盲腸炎は、10代から30代の若い世代に最も多く見られます。
この年代では、免疫機能の発達や腸内環境の変化などが影響していると考えられています。
しかし、高齢者や小さなお子さんにも起こります。
特に高齢者の場合、症状が非典型的で診断が遅れたり、進行が早かったりすることがあるため注意が必要です。

考えられる原因やリスク要因:

虫垂炎の直接的な原因は、虫垂の入り口が詰まることによる細菌感染ですが、その詰まりを引き起こす要因として以下が考えられています。

  • 糞石(ふんせき):硬くなった便が虫垂の中に入り込み、石のようになって虫垂の入り口を塞いでしまうことがあります。これが虫垂炎の最も一般的な原因の一つです。
  • リンパ組織の腫れ:虫垂の壁にはリンパ組織が多く含まれています。風邪などの感染症にかかった際に、このリンパ組織が腫れて虫垂の入り口を狭くしてしまうことがあります。特に子供の虫垂炎では、この原因が多いと言われています。
  • 異物:まれに、果物の種や消化されにくい食べ物のカスなどが虫垂に入り込み、詰まりの原因となることがあります。
  • 寄生虫:ごくまれですが、寄生虫が虫垂に入り込むことで炎症を引き起こすことがあります。
  • 遺伝的要因や体質:虫垂の形や長さ、位置などには個人差があり、特定の形状が詰まりやすさに関連している可能性も指摘されていますが、明確な遺伝的な傾向は確立されていません。
  • 食生活:食物繊維の少ない食事や不規則な食生活が便秘を引き起こし、糞石ができやすくなることで、虫垂炎のリスクを高める可能性が示唆されています。しかし、食生活と虫垂炎の明確な因果関係は十分に解明されているわけではありません。
  • 喫煙:喫煙は、体内の炎症反応を促す可能性があり、虫垂炎のリスクを高めるという研究報告もあります。
  • 虫垂炎の既往歴:過去に虫垂炎(特に保存的治療で治癒した場合)を経験したことがある人は、再発のリスクがやや高くなることがあります。

これらの要因全てが直接的に虫垂炎を引き起こすわけではありませんが、複数の要因が重なることで発症リスクが高まる可能性はあります。
しかし、特定の原因がはっきりしないまま発症することも多く、予防策も確立されているわけではありません。
重要なのは、リスク要因を過度に恐れることではなく、症状が出た際に早期に医療機関を受診することです。

盲腸の治療法

盲腸(虫垂炎)の治療法は、炎症の程度や進行具合によって異なります。
大きく分けて、「保存的治療」と「手術療法」の二つがあります。

保存的治療(抗生剤など)

虫垂の炎症が比較的軽度で、虫垂が破裂している徴候がない場合、手術をせずに抗生物質を中心とした薬物療法で炎症を抑える「保存的治療」が選択されることがあります。

保存的治療の対象となるケース:

  • 症状が出始めてから時間が短い(多くは24〜48時間以内)。
  • 右下腹部の痛みが軽度〜中等度で、反跳痛や筋性防御がない。
  • 発熱が軽度(微熱程度)。
  • 血液検査で白血球数やCRPの上昇が軽度。
  • 画像検査で虫垂の腫れが軽度で、周囲への炎症の広がりや膿瘍、穿孔がない。

治療内容:

入院して点滴で抗生物質を投与するのが一般的です。
炎症を抑えるために消炎鎮痛剤が併用されることもあります。
食事は絶食または少量から始め、炎症の回復に合わせて段階的に進めます。
安静を保ち、定期的に血液検査や診察で炎症の程度や症状の変化を注意深く観察します。

メリットとデメリット:

  • メリット

    • 手術をせずに済むため、体への負担が少ない。
    • 入院期間が比較的短くなる可能性がある。
    • 手術痕が残らない。
  • デメリット

    • 薬物療法で炎症が十分に抑えられず、症状が悪化して結局手術が必要になることがある(治療失敗)。
    • 一旦症状が改善しても、数ヶ月から数年以内に虫垂炎を再発するリスクがある(一般的に20〜30%程度)。

保存的治療を選択した場合でも、治療中に症状が悪化したり、一度治癒しても繰り返し症状が出たりする場合は、最終的に手術が検討されます。

手術療法(虫垂切除術)

盲腸(虫垂炎)の治療として最も確実なのは、炎症を起こしている虫垂そのものを切除する手術療法です。

手術療法の対象となるケース:

  • 炎症が中等度〜重度の場合(痛みが強い、発熱が高い、血液検査の炎症反応が高いなど)。
  • 症状が出始めてから時間が経過している。
  • 画像検査で虫垂の腫れが強い、周囲に炎症が広がっている、膿瘍や穿孔の徴候がある。
  • 保存的治療で症状が改善しない、あるいは悪化した。
  • 虫垂炎を繰り返している。
  • 診断が不確実で、他の緊急性の高い腹部の病気(卵巣茎捻転など)も否定できない場合。

手術の種類:

虫垂切除術には、主に以下の二つの方法があります。

  • 開腹手術:右下腹部を数センチ切開して、虫垂を切除する方法です。炎症が非常に強い場合や、腹膜炎を起こしている場合、腹腔鏡手術が難しい場合などに選択されます。

  • 腹腔鏡手術:お腹に数カ所(通常2〜3カ所)小さな穴を開け、そこからカメラや手術器具を挿入して、モニターを見ながら虫垂を切除する方法です。多くの虫垂炎の手術は現在、この方法で行われています。傷が小さく、術後の痛みが比較的少なく、回復が早いというメリットがあります。ただし、過去に開腹手術を受けたことがあるなど、お腹の中の状態によっては難しい場合もあります。

炎症の程度にもよりますが、手術時間は通常30分から1時間程度です。
虫垂を切除した後は、切り口を縫合またはステープラーで閉じて手術終了となります。
腹膜炎を起こしている場合は、お腹の中を洗浄したり、ドレーンと呼ばれる管を留置して溜まった膿や浸出液を体外に出したりすることもあります。

術後の経過:

手術後は、しばらくの間絶食し、点滴で水分や栄養を補給します。
腸の動きが回復し、おならが出るようになったら、水分から食事を再開します。
手術方法や炎症の程度にもよりますが、入院期間は軽症の場合は数日、腹膜炎を起こしている場合は1週間〜10日程度かかることが多いです。
術後の合併症として、傷口の感染、腹腔内膿瘍、腸閉塞などがまれに起こる可能性があります。

メリットとデメリット:

  • メリット

    • 炎症を起こしている虫垂そのものを取り除くため、再発の心配がほとんどない
    • 炎症が重症化する前に確実に治療できる。
  • デメリット

    • 手術による体への負担がある。
    • 手術痕が残る(腹腔鏡手術では小さく目立ちにくい)。
    • 入院が必要となる。

どちらの治療法を選択するかは、患者さんの症状、炎症の程度、全身状態、年齢などを総合的に判断し、医師とよく相談して決定されます。
特に、虫垂炎は時間経過とともに悪化する可能性があるため、診断がつき次第、迅速に治療方針を決定することが重要です。

まとめ:盲腸の初期症状を見逃さず、早期受診を

盲腸(虫垂炎)は、早期に発見し適切な治療を行えば比較的良好な経過をたどることが多い病気です。
しかし、初期症状が他の腹部の不調と似ていることが多いため、見過ごしてしまうと炎症が進行し、腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こす危険性があります。

盲腸の典型的な初期症状は、みぞおちやお腹全体の漠然とした痛みが、時間経過とともに右下腹部へと移動し、持続的で体を動かすと強くなるというものです。
これに加えて、吐き気、食欲不振、便通の変化、発熱、倦怠感といった症状を伴うことがあります。
特に、右下腹部の痛みに加えて発熱がある場合や、右下腹部を押した時に強い痛みを感じる(圧痛)、離した時に痛みが強くなる(反跳痛)場合は、盲腸の可能性が高く、注意が必要です。

この記事でご紹介したセルフチェックリストは、ご自身の症状を確認する上で参考になりますが、あくまで自己判断の補助としてください。
症状は人それぞれ異なりますし、非典型的な経過をたどることもあります。

「もしかして盲腸かも?」と少しでも疑う症状があれば、自己判断せずに、速やかに医療機関(消化器内科など)を受診することが何よりも重要です。
特に、痛みが急速に強くなっている、高熱が出ている、お腹全体がひどく痛む・硬くなっているなど、症状が重いと感じる場合は、迷わず救急外来を受診してください。

早期に医療機関を受診することで、正確な診断を受け、炎症が軽度のうちに保存的治療で対応できる可能性が高まります。
たとえ手術が必要になったとしても、炎症が軽いうちに行うことで、体への負担も少なく、回復も早まることが期待できます。

ご自身の体からのサインを見逃さず、いつもと違うお腹の痛みや不調を感じたら、「大丈夫だろう」と軽く考えずに、専門医の診察を受けるようにしましょう。

免責事項:

この記事は盲腸(虫垂炎)の一般的な情報を提供することを目的としており、医療行為や医学的アドバイスを意図したものではありません。
個々の症状や病状は異なりますので、ご自身の健康状態に関するご質問や懸念については、必ず医療専門家にご相談ください。
この記事の情報に基づいて行われた行動や判断について、執筆者および公開者は一切責任を負いません。

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