扁桃腺を取るとどうなる?風邪や体質は変わる?メリット・デメリット

扁桃腺の腫れや痛みに悩まされ、「扁桃腺を取る」という選択肢を検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。扁桃腺の摘出手術は、これらの辛い症状を根本的に改善する有効な治療法の一つですが、手術にはメリットとデメリット、そしていくつかの知っておくべきリスクが存在します。

この記事では、扁桃腺を取るとどうなるのか、手術によって期待できる効果や、反対に起こりうる術後の変化や合併症について詳しく解説します。扁桃腺の本来の役割から、どのような場合に手術が必要とされるのか、そして手術費用や後遺症の可能性まで、扁桃腺摘出術を検討する上で知っておきたい情報を網羅的にご紹介します。

手術を受けるべきか悩んでいる方、手術後の生活がどう変わるのか不安を感じている方は、ぜひこの記事を参考に、ご自身の状況と照らし合わせながら専門医と十分にご相談いただくための一助としてください。

目次

扁桃腺の本来の役割とは?

「扁桃腺」と一般的に呼ばれる部分は、正式には「扁桃」といいます。これは、のどの奥にあるリンパ組織が集まった場所の総称です。主に、口蓋垂(のどちんこ)の両脇にある「口蓋扁桃」、舌の付け根にある「舌扁桃」、アデノイドと呼ばれる鼻の奥にある「咽頭扁桃」、耳管開口部にある「耳管扁桃」などがあります。この中でも、一般的に「扁桃腺が腫れた」という場合に指されるのは、口蓋扁桃であることがほとんどです。

これらの扁桃組織は、リンパ球などの免疫細胞が集まる場所として機能しています。口や鼻から体内に侵入しようとする細菌やウイルスといった病原体を捉え、体が免疫反応を起こすための「関所」のような役割を担っています。特に、まだ免疫システムが発達途上にある小児期においては、重要な免疫器官の一つとされています。

しかし、成長とともに他のリンパ組織や免疫機能が発達していくため、成人においては扁桃が担う免疫機能の重要性は相対的に低下すると考えられています。このため、扁桃が慢性的な炎症や肥大を引き起こし、体にとってデメリットが大きくなった場合には、摘出が検討されることがあります。

扁桃腺の摘出手術が必要となるケース

扁桃腺の摘出手術(扁桃摘出術)は、主に扁桃の機能が本来の役割を果たさず、病気の原因となっている場合に検討されます。具体的には、以下のようなケースで手術が推奨されることがあります。

繰り返す扁桃炎(習慣性扁桃炎)

扁桃炎は、扁桃に細菌やウイルスが感染して炎症を起こす病気です。のどの強い痛み、高熱、倦怠感などの症状が現れます。通常は抗生物質や解熱剤で改善しますが、年に何度も扁桃炎を繰り返す場合を習慣性扁桃炎と呼びます。

習慣性扁桃炎の明確な定義は専門家の間でも若干異なりますが、一般的には1年間に4回以上、または2年間に5~6回以上の扁桃炎を繰り返す場合に手術が検討されることが多いです。特に、高熱を伴い、日常生活や仕事・学業に大きな支障をきたしているような場合には、手術による根本的な治療が推奨されます。

繰り返し炎症を起こすことで扁桃の組織が硬くなったり、表面に膿栓(いわゆる「臭い玉」)ができやすくなったりすることもあります。このような状態では、扁桃が病原体に対する防御壁として機能するどころか、体内に炎症を引き起こす温床となってしまっていると考えられます。

扁桃肥大による症状(睡眠時無呼吸、嚥下障害など)

扁桃腺が生まれつき大きい、あるいは慢性的な炎症などによって肥大している状態を扁桃肥大といいます。特に小児期に見られることが多いですが、成人でも起こります。扁桃が大きくなると、のどの空気の通り道が狭くなり、様々な症状を引き起こします。

最も代表的な症状はいびきと睡眠時無呼吸症候群です。寝ている間に空気の通り道が塞がれることで大きないびきをかいたり、呼吸が一時的に止まったりします。これにより、睡眠の質が低下し、日中の眠気、集中力の低下、成長障害(小児の場合)などを引き起こすだけでなく、将来的な心血管疾患のリスクを高めることも知られています。睡眠時無呼吸症候群の診断基準を満たす扁桃肥大がある場合、手術によって劇的な改善が期待できます。

その他にも、肥大した扁桃によって食べ物が飲み込みにくい(嚥下障害)声がこもる(構音障害)といった症状が現れることもあります。これらの症状が日常生活に支障をきたしている場合にも、手術が検討されます。

その他(病巣感染など)

扁桃腺自体には目立った症状がないにもかかわらず、扁桃腺に潜む細菌が原因となって体の他の部位に病気を引き起こすことがあり、これを扁桃病巣感染症と呼びます。

代表的なものとしては、腎臓の病気であるIgA腎症、皮膚の病気である掌蹠膿疱症(しょうせきほうのうしょう)、関節や心臓に炎症を起こすリウマチ熱などがあります。これらの病気の原因として扁桃腺の慢性的な炎症が疑われる場合、扁桃摘出術を行うことで、原疾患の症状改善や進行抑制が期待できることがあります。

また、扁桃の表面に膿が溜まる扁桃周囲膿瘍を繰り返す場合や、扁桃の腫瘍が疑われる場合などにも、診断や治療のために扁桃摘出術が行われることがあります。

扁桃腺を取ることで期待されるメリット

扁桃腺の摘出手術を受けることで、手術が必要とされた原因となっている症状の根本的な改善が期待できます。扁桃腺を取ると具体的にどのような良い変化が起こるのでしょうか。主なメリットを見ていきましょう。

風邪を引きにくくなる?発熱が減る?

習慣性扁桃炎で手術を受けた場合、最も期待できる効果は扁桃炎を原因とする発熱やのどの痛みの頻度が激減することです。扁桃という炎症の温床を取り除くわけですから、扁桃炎そのものにはかからなくなります。

ただし、「風邪を全く引かなくなる」わけではありません。風邪の原因となるウイルスや細菌は扁桃以外ののどの粘膜や鼻からも侵入しますし、扁桃以外のリンパ組織も免疫機能を持っています。そのため、風邪自体にかかる可能性はゼロにはなりませんが、扁桃炎を伴うような高熱や重度ののどの痛みを伴う風邪の頻度は大幅に減ることが期待できます。

結果として、年間を通じて体調を崩す回数が減り、日常生活や仕事、学業への影響を最小限に抑えることができるようになります。

いびきや睡眠時無呼吸の改善

扁桃肥大が原因で大きないびきや睡眠時無呼吸症候群に悩まされていた場合、扁桃摘出術は非常に有効な治療法です。気道を物理的に狭めていた扁桃がなくなることで、空気の通り道が広がり、いびきが軽減または消失し、睡眠中の無呼吸や低呼吸が改善されることが期待できます。

特に小児の睡眠時無呼吸症候群の主要な原因の一つがアデノイド・扁桃肥大であり、手術による改善率は高いとされています。成人の場合も、扁桃肥大が原因であれば大きな効果が見込めます。

睡眠の質が向上することで、日中の眠気や倦怠感が解消され、集中力やパフォーマンスの向上につながります。また、長期的に見れば、睡眠時無呼吸症候群が関連する高血圧や心疾患などのリスク低減にも寄与する可能性があります。

関連疾患の改善

扁桃病巣感染症として、扁桃が原因となって体の他の場所に症状が出ていた場合、扁桃摘出術によってそれらの症状の改善が期待できます。

例えば、IgA腎症では、手術後に血尿や蛋白尿が改善したり、腎機能の低下速度が緩やかになったりすることが報告されています。掌蹠膿疱症では、皮膚の病変が改善したり、関節痛が和らいだりする可能性があります。

これらの疾患は根治が難しい場合も少なくありませんが、扁桃摘出術が症状を軽減させ、QOL(生活の質)を向上させる有効な手段となることがあります。ただし、すべてのケースで劇的な改善が得られるわけではなく、病気の種類や進行度、個人の体質などによって効果は異なります。手術前に担当医と、期待できる効果について十分な話し合いを行うことが重要です。

扁桃腺を取るデメリット・後遺症とは?

扁桃腺摘出術は確立された手術法ですが、どのような手術にもリスクやデメリットは存在します。扁桃腺を取るとどうなるか、術後の生活や体にどのような影響が出る可能性があるのか、不安を感じる方も多いでしょう。ここでは、手術に伴うデメリットや後遺症について詳しく説明します。

術後の痛み・出血などの合併症

扁桃摘出術で最も避けられないのが、術後の強い痛みです。扁桃があった部分は大きな傷口となり、ものを飲み込む際に特に痛みが強くなります。食事だけでなく、唾を飲み込むことさえ辛く感じることがあります。この痛みは通常、術後数日~1週間程度がピークで、その後徐々に軽減していきますが、完全に消失するまでには2週間程度かかることが多いです。痛みに対しては、適切な鎮痛剤を使用することで管理します。

次に重要なリスクとして出血があります。手術直後だけでなく、かさぶたが剥がれる術後1週間~10日頃に再び出血する可能性があります。少量であれば自然に止まることも多いですが、出血量が多い場合や止まらない場合は、再手術が必要になることもあります。術後早期の食事制限や安静が必要なのは、この出血リスクを減らすためです。

その他の合併症としては、手術部位の感染、発熱、麻酔に関連するリスクなどがありますが、これらは比較的まれです。

一時的な味覚障害や声の変化

手術中や術後に、のどの周囲にある味覚に関わる神経(舌咽神経など)が一時的に圧迫されたり刺激を受けたりすることで、一時的な味覚障害が起こることがあります。「味が薄く感じる」「何を食べても同じ味に感じる」「特定の味が変に感じる」など、症状は様々です。ほとんどの場合、神経の腫れが引くにつれて数週間から数ヶ月で自然に改善しますが、ごくまれに長期化するケースも報告されています。

また、扁桃がなくなると、のどの奥の空間の形がわずかに変化するため、声の響き(共鳴)が変わり、一時的に声質が変わったように感じることがあります。特に、鼻に抜けるような声(開鼻声)になる場合がありますが、これも多くは一時的なもので、慣れたり自然に調整されたりすることで目立たなくなります。歌を歌う方など、声を使う機会が多い方は、事前に医師とよく相談すると良いでしょう。

免疫機能への影響は?

扁桃腺は免疫器官の一部であるため、「取ってしまうと免疫力が下がるのではないか」「風邪以外の病気にかかりやすくなるのではないか」と心配される方もいらっしゃいます。

確かに、扁桃腺は特に小児期に免疫システムの構築に関わる重要な役割を担っています。しかし、成人においては、扁桃腺以外にも全身にリンパ組織が発達しており、免疫システム全体でその機能を補うことができます。そのため、成人で扁桃腺を摘出しても、全身の免疫機能が著しく低下し、他の病気にかかりやすくなるという明確な証拠は現在のところありません。多くの研究でも、扁桃摘出後の免疫力低下は問題にならないと結論付けられています。

ただし、小児期の扁桃摘出については、特に幼い時期(例えば3歳未満)の場合、免疫機能への影響を懸念してより慎重に判断されることがあります。年齢が上がるにつれて他の免疫システムが発達するため、影響は少なくなる傾向にあります。手術の適応年齢については、医師とよく相談することが重要です。

大人・子供で違いはある?

扁桃腺摘出術におけるメリットやデメリットの現れ方には、大人と子供でいくつかの違いがあります。

  • 子供の場合:
    • 手術の主な目的: 扁桃肥大による睡眠時無呼吸や嚥下障害の改善が主な目的となることが多いです。アデノイド(咽頭扁桃)も同時に摘出することが多いです。
    • 術後の痛み: 大人より痛みに強い子もいますが、食事の困難さは同様に生じます。回復は比較的早い傾向があります。
    • 免疫機能: 前述のように、特に低年齢では免疫機能への影響をより慎重に考慮する必要があります。
    • 再発: まれに扁桃組織が再生したり、アデノイドが再肥大したりすることもあります。
  • 大人の場合:
    • 手術の主な目的: 習慣性扁桃炎や扁桃病巣感染症の治療が主な目的となることが多いです。扁桃肥大による無呼吸も対象となります。
    • 術後の痛み: 子供に比べて痛みを強く感じやすく、回復に時間がかかる傾向があります。術後の出血リスクも子供より若干高いとされます。
    • 免疫機能: 全身の免疫システムが発達しているため、扁桃摘出による免疫機能への影響は少ないと考えられています。

どちらの場合も、手術の適応は個々の症状や全身状態を考慮して慎重に判断されます。

手術に対する後悔を防ぐために

扁桃腺を取るという決断は、メリットだけでなくデメリットやリスクも伴うため、後で「手術しなければよかった」と後悔しないためにも、術前に以下の点をしっかり確認しておくことが重要です。

  • 手術の必要性: なぜ自分に手術が必要なのか、手術以外に選択肢はないのか、医師から十分な説明を受ける。
  • 期待できる効果: どのような症状の改善が、どの程度期待できるのか、具体的なイメージを持つ。
  • 手術のリスクと合併症: 術後の痛み、出血、味覚障害、声の変化などのリスクについて理解し、それを受け入れられるか考える。
  • 術後の回復期間と制限: 入院期間、自宅療養期間、食事や運動の制限など、具体的な術後のスケジュールや生活の変化について把握しておく。
  • 費用: 手術費用や入院費用、高額療養費制度について理解しておく。

これらの点について、疑問や不安があれば、遠慮なく医師に質問し、納得がいくまで話し合いましょう。セカンドオピニオンを検討することも有効です。十分な情報に基づいた上で、ご自身が納得して手術を選択することが、後悔を防ぐために最も大切なことです。

扁桃腺摘出術の費用

扁桃腺摘出術は、健康保険が適用される病気に対する治療として行われる手術です。そのため、医療費の自己負担割合(通常3割)に応じた費用がかかります。

手術費用に加え、入院期間中の病室代(大部屋の場合はかからないことが多いですが、個室などを希望する場合は差額ベッド代がかかります)、食事代、投薬代なども含まれます。入院期間は、通常1週間~10日程度です。

費用目安(保険適用3割負担の場合):

項目 目安費用 備考
手術費用 数万円~10万円程度 手術方法や病院によって異なる
入院費用 5万円~15万円程度 入院日数や病室(個室など)によって異なる
合計(概算) 10万円~30万円程度 高額療養費制度の適用を考慮しない場合

これはあくまで概算であり、個々のケース(手術以外の処置の有無、入院期間の延長、合併症の発生など)によって費用は変動します。正確な費用については、入院予定の病院の医療相談窓口などで事前に確認することをおすすめします。

また、医療費が高額になった場合、高額療養費制度を利用することで、自己負担額を軽減できます。これは、ひと月(1日から月末まで)にかかった医療費が自己負担限度額を超えた場合、その超えた分の金額が払い戻される制度です。自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。この制度を利用することで、実際に支払う医療費は上記の概算よりも少なくなる場合が多いです。

手術を検討する際には、医療費についても事前に確認し、経済的な負担についても理解しておくことが大切です。

まとめ:扁桃腺手術を検討されている方へ

「扁桃腺を取るとどうなる」という疑問に対し、この記事では扁桃腺の本来の役割から、手術が必要となるケース、そして最も気になる手術によるメリットとデメリット、費用について詳しく解説しました。

扁桃腺摘出術は、習慣性扁桃炎による繰り返す発熱やのどの痛み、扁桃肥大によるいびきや睡眠時無呼吸症候群といった症状に対し、非常に効果的な根本治療となり得ます。これらの症状によって日常生活の質が著しく低下している方にとっては、手術によってQOLが大幅に改善される可能性があります。

一方で、手術には術後の強い痛みや出血、一時的な味覚障害や声の変化といったデメリットやリスクも伴います。特に術後の痛みは多くの患者さんが経験し、回復には一定の期間が必要です。また、免疫機能への影響については、成人では問題ないとされることが多いですが、小児では年齢によって慎重な判断が必要です。

手術を受けるかどうかは、これらのメリットとデメリット、そしてご自身の症状の重症度や全身の状態を総合的に考慮して判断する必要があります。インターネット上の情報だけでなく、必ず耳鼻咽喉科の専門医の診察を受け、ご自身の状況について正確な診断と十分な説明を受けてください。疑問や不安な点はすべて質問し、納得のいくまで話し合った上で、手術を選択するかどうかを決めることが、後悔しないための最も重要なステップです。

この記事が、扁桃腺摘出術について理解を深め、適切な判断をするための一助となれば幸いです。

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