痰に血が混じるという症状は、経験すると非常に不安になるものです。なぜなら、もしかしたら重い病気のサインかもしれないと感じるからです。しかし、原因は様々であり、必ずしも深刻な病気とは限りません。この記事では、痰に血が混じる場合に考えられる原因や病気、そしてどのような場合に医療機関を受診すべきか、危険性の判断基準について詳しく解説します。この情報を通じて、症状への理解を深め、適切な対応をとるための一助となれば幸いです。不安な症状がある場合は、一人で抱え込まず、必ず医療機関に相談してください。
痰に血が混じる原因
痰に血が混じる現象は、「血痰(けったん)」と呼ばれます。血が混じる場所は、主に呼吸器系(気管、気管支、肺)ですが、鼻や喉からの出血が痰と混ざって排出される場合もあります。
血痰が発生する原因は多岐にわたりますが、大きく分けると以下の要素が関与しています。
- 炎症や感染症: 気道や肺の炎症や感染症によって、血管が傷つきやすくなり出血することがあります。風邪、気管支炎、肺炎、結核などが代表例です。
- 物理的な刺激: 激しい咳が続くことで、気道の内壁が傷ついて出血することがあります。また、異物の誤嚥なども原因となりえます。
- 血管の異常: 肺の血管に異常がある場合や、全身的な血管の病気が原因となることもあります。
- 腫瘍: 肺や気管支にできた腫瘍(良性・悪性問わず)が出血の原因となることがあります。
- 外傷: 胸部への強い衝撃なども血痰の原因となりえます。
- 薬剤の影響: 一部の薬剤(抗凝固薬など)の副作用として出血傾向が高まり、血痰が出やすくなることがあります。
これらの原因が単独、あるいは複合的に作用することで、痰に血が混じる症状が現れます。原因を特定するには、血の色や量、痰の状態、他の症状、既往歴などを総合的に評価することが重要です。
痰に混じる血の色や量、状態
痰に混じる血の状態は、その原因を推測する上で重要な情報となります。血の色、量、痰自体の性状などを注意深く観察してみましょう。
血の色:
- 鮮紅色: 比較的新しい出血を示唆します。気管や太い気管支など、比較的上部の気道からの出血や、肺の血管が破れた直後などにみられることが多いです。
- 暗赤色: 古い出血や、肺の奥深くからの出血を示唆します。血が肺の中で滞留してから喀出された場合などにみられます。
- サビ色(レンガ色): 肺炎など、肺の炎症に伴って血液成分が変化した場合にみられることがあります。
- ピンク色や泡状: 肺水腫など、肺に水分が溜まった際に、泡状の痰に少量の血液が混ざった場合にみられることがあります。
血の量:
- 筋状・点状: 痰の中に細い血の筋が混ざっている、あるいは小さな点のようになった状態です。比較的少量の出血であり、気管支炎や激しい咳による気道粘膜の損傷などで見られることが多いです。
- 塊状: 血の塊が混ざっている状態です。ある程度の量の出血があったことを示唆します。
- 全体に混じる: 痰全体がピンク色や赤褐色になっている状態です。肺炎や気管支拡張症など、広範囲の炎症や病変でみられることがあります。
- 多量(喀血): 大量の血液(コップ1杯以上など)を咳とともに喀出する場合です。これは血痰とは区別され、「喀血(かっけつ)」と呼ばれます。喀血は緊急性の高い状態であり、肺結核や肺がん、気管支拡張症の破裂などが原因として考えられます。
痰自体の状態:
- 透明・白色: 比較的軽い炎症や物理的な刺激の可能性があります。
- 黄色・緑色: 細菌感染を伴う炎症を示唆します。
- 粘稠: 炎症が強い場合に粘り気が増すことがあります。
- 悪臭: 肺アブセス(肺の膿瘍)など、細菌感染が原因で組織が破壊されている場合にみられることがあります。
これらの要素を組み合わせることで、原因がある程度絞り込めますが、自己判断は禁物です。特に、血痰が続く場合、量が増える場合、他の症状を伴う場合は、必ず医療機関を受診して正確な診断を受ける必要があります。
以下に、血痰の状態と可能性のある原因・緊急性の目安の例を示します。
血の色 | 血の量・状態 | 痰の状態 | 伴う症状の例 | 考えられる原因の例(あくまで可能性) | 緊急性(目安) |
---|---|---|---|---|---|
鮮紅色 | 筋状・点状 | 透明〜白 | 咳、喉の痛み | 風邪、軽い気管支炎、激しい咳による気道損傷 | 低〜中 |
鮮紅色 | 筋状・点状 | 黄色〜緑色 | 発熱、咳、胸痛 | 細菌性気管支炎、肺炎 | 中 |
鮮紅色 | 塊状、全体に混じる | 様々 | 息苦しさ、胸痛、体重減少など | 気管支拡張症、肺がん、肺結核、肺塞栓症など | 高 |
暗赤色 | 筋状・点状 | 様々 | 咳、息切れ | 慢性気管支炎、気管支拡張症 | 中 |
暗赤色 | 塊状、多量(喀血) | 様々 | 息苦しさ、胸痛、発熱など | 肺結核、肺がん、気管支拡張症、肺アブセス、血管炎など | 非常に高い |
サビ色 | 全体に混じる | 黄色〜緑色 | 発熱、咳、胸痛 | 肺炎(特に肺炎球菌性肺炎) | 中〜高 |
ピンク色 | 泡状 | 泡状 | 強い息苦しさ、動悸 | 肺水腫(心不全などが原因) | 非常に高い |
※注意点: 上記はあくまで一般的な目安です。個々の症状や状況によって緊急性は異なります。不安な場合は、上記の表に関わらず医療機関を受診してください。特に「多量(喀血)」の場合は、ためらわずに救急車を呼ぶなど、緊急対応が必要です。
痰に血が混じる際に伴うその他の症状
痰に血が混じるという症状は、しばしば他の様々な症状を伴います。これらの随伴症状は、原因となっている病気を特定する上で非常に重要な手がかりとなります。血痰以外の症状がないか、注意深く観察し、医師に伝えるようにしましょう。
血痰に伴うことのある主な症状は以下の通りです。
- 咳: 最も一般的に伴う症状の一つです。乾いた咳、湿った咳、激しい咳など、咳の性質も原因によって異なります。激しい咳が続くことで、気道が傷ついて血痰が出ることもあります。
- 発熱: 体内で炎症や感染が起きているサインです。肺炎、気管支炎、結核などの感染症が原因の場合によく見られます。
- 息苦しさ(呼吸困難): 肺や気道の病気によって、空気の通り道が狭くなったり、肺の機能が低下したりしている可能性があります。喀血を伴う場合や、肺炎、肺塞栓症、心不全などの重篤な病気が原因の場合にみられることがあります。
- 胸痛: 肺や胸膜の炎症、心臓の病気、肺塞栓症などが原因の場合にみられることがあります。咳に伴って胸が痛む場合もあります。
- 体重減少: 肺結核や肺がんなど、慢性的で消耗性の病気の場合にみられることがあります。
- 全身倦怠感: 体力や免疫力が低下しているサインです。感染症や慢性的な病気の場合にみられます。
- 声枯れ(嗄声): 喉や声帯の炎症、あるいは肺や気管支の病気が声帯を圧迫している場合などにみられることがあります。
- リンパ節の腫れ: 感染症や悪性腫瘍など、リンパ系が反応している場合にみられることがあります。
- 関節痛や皮膚症状: 全身性の病気(血管炎など)が原因の場合に、他の部位の症状として現れることがあります。
これらの症状は、単独で現れることもあれば、複数組み合わさって現れることもあります。例えば、「発熱、咳、黄色い痰、血の筋が混じる」という組み合わせであれば細菌性気管支炎や肺炎、「体重減少、微熱、咳、血痰」であれば肺結核や肺がん、といったように、随伴症状によって疑われる病気が絞られてきます。
特に、「強い息苦しさ」「激しい胸痛」「多量の喀血」「高熱が続く」「意識がもうろうとしている」「急激な体重減少」といった症状が血痰と同時に見られる場合は、緊急性の高い状態である可能性があります。すぐに医療機関を受診するか、救急車を要請するなど、迅速な対応が必要です。
痰に血が混じる場合に考えられる具体的な病気
痰に血が混じる症状は、様々な病気のサインである可能性があります。ここでは、考えられる具体的な病気をいくつかご紹介します。ただし、自己判断は危険ですので、必ず医師の診断を受けてください。
呼吸器系の病気
- 急性気管支炎: 風邪などに続いて気管支の粘膜が炎症を起こす病気です。咳がひどくなると、気道の内壁が傷ついて少量の血が混じることがあります。通常、痰は透明から黄色、緑色になります。
- 慢性気管支炎: 長期間(通常2年以上、1年のうち3ヶ月以上)にわたって咳や痰が続く状態です。喫煙などが主な原因となります。慢性的な炎症により気管支の粘膜が弱くなり、血痰が出やすくなることがあります。
- 肺炎: 肺に炎症が起きる病気です。細菌やウイルスなどが原因となります。痰は黄色や緑色になることが多く、時にサビ色や血が混じることがあります。高熱、咳、息苦しさ、胸痛などを伴うことが多いです。
- 気管支拡張症: 気管支が異常に拡張し、破壊されてしまう病気です。慢性的な咳や多量の痰が特徴で、気管支の壁が傷つきやすいため血痰(時に喀血)を繰り返しやすい傾向があります。
肺の病気
- 肺結核: 結核菌によって肺に炎症が起きる感染症です。咳、痰、微熱、体重減少、全身倦怠感などが主な症状ですが、肺の病変部から出血して血痰や喀血が出ることがあります。特に空洞を形成するタイプの結核で喀血のリスクが高まります。
- 肺がん: 肺にできる悪性の腫瘍です。進行すると、腫瘍からの出血や、腫瘍が気管支を刺激することによる咳で血痰が出ることがあります。血痰の量は少量で、持続することが特徴の一つです。咳、息切れ、胸痛、体重減少、声枯れなどの症状を伴うことがあります。
- 肺アブセス(肺膿瘍): 肺に膿が溜まる病気です。細菌感染が原因となることが多いです。咳とともに多量の膿性で悪臭のする痰を喀出するのが特徴ですが、炎症や組織破壊に伴って血が混じることがあります。高熱や胸痛を伴います。
- 肺塞栓症・肺梗塞: 肺の血管が血栓などで詰まり、肺組織に酸素が供給されなくなる病気です。突然の息苦しさ、胸痛などが主な症状ですが、詰まった先の肺組織が壊死(肺梗塞)すると、血痰が出ることがあります。緊急性の高い病気です。
- 間質性肺炎: 肺の組織が硬くなる病気です。原因は様々ですが、進行すると肺の構造が破壊され、時に血管が傷ついて血痰が出ることがあります。咳や息切れが主な症状です。
鼻や喉などからの出血
- 鼻出血(鼻血)の後鼻漏: 鼻の奥で出血した血液が、鼻腔から喉に流れ込み、痰と混ざって排出されることがあります。特に寝ている間に鼻血が出た場合に、朝起きて血痰として気づくことがあります。呼吸器からの出血ではないため、通常は多量になったり、息苦しさを伴ったりすることはありません。
- 咽頭炎・扁桃炎: 喉や扁桃腺の強い炎症により、粘膜が傷ついて出血し、痰に混じることがあります。喉の痛みや発熱を伴います。
- 声帯ポリープなど: 声帯にできたポリープなどが、咳や発声の際に傷ついて出血し、血痰として認識されることがあります。
その他の病気
- 心不全: 心臓の機能が低下し、肺に水分が溜まる(肺うっ血、肺水腫)と、ピンク色の泡状の痰に少量の血が混じることがあります。強い息苦しさや動悸を伴います。
- 血管炎: 全身の血管に炎症が起きる病気です。肺の血管に炎症が及ぶと、出血して血痰や喀血が出ることがあります。全身の他の症状(発熱、関節痛、皮膚の発疹など)を伴うことが多いです。
- 出血傾向を高める病気や薬剤: 血小板の減少、血液凝固因子の異常、抗凝固薬や抗血小板薬の服用などにより、出血しやすくなっている場合に、軽い刺激でも血痰が出やすくなることがあります。
これらの病気以外にも、稀な病気が原因である可能性も考えられます。痰に血が混じる症状が続く場合や、量が多い場合、他の症状を伴う場合は、自己判断せず必ず医療機関を受診し、正確な診断を受けることが重要です。
痰に血が混じったら受診が必要?危険なケースと目安
痰に血が混じるという症状に気づいたとき、最も気になるのは「病院に行くべきか、それとも様子を見ても良いか」という点でしょう。ここでは、受診が必要なケース、特に危険なサインと、比較的様子を見ても良い場合の目安、そして何科を受診すれば良いかについて解説します。
すぐに医療機関を受診すべきサイン
以下のような場合は、重篤な病気が隠れている可能性があり、速やかに医療機関を受診する必要があります。救急対応が必要な場合もあります。
- 多量の喀血: 痰に少量の血が混じる血痰ではなく、大量の血液(コップ一杯以上など)を咳とともに吐き出す「喀血」の場合は、一刻も早く医療機関を受診してください。命に関わる危険な状態である可能性があります。救急車を呼ぶなど、緊急対応が必要です。
- 血痰の量が急に増えた: 少量の血痰だったものが、短期間に量が増えた場合は注意が必要です。病状が悪化しているサインかもしれません。
- 血痰が続く、あるいは繰り返す: 一時的なものではなく、数日以上続く場合や、一度治まっても再び血痰が出る場合は、慢性的な病気や進行性の病気が原因である可能性が考えられます。
- 強い息苦しさ(呼吸困難)を伴う: 肺や気道の機能が低下している可能性があり、酸素が十分に体に供給されていないサインかもしれません。
- 激しい胸痛を伴う: 心臓や肺、血管などの病気が原因である可能性があり、緊急性の高い状態を示唆することがあります。
- 高熱(38℃以上)が続く: 感染症が重症化している可能性があります。
- 意識がもうろうとしている、顔色が悪い: 重症のサインです。
- 急激な体重減少を伴う: 悪性腫瘍や慢性的な消耗性疾患の可能性が考えられます。
- 声枯れが続く: 肺や気管支の病気が声帯に影響を及ぼしている可能性もゼロではありません。
- 高齢者や基礎疾患(心臓病、肺疾患、腎臓病、糖尿病、出血傾向のある病気など)がある方: 体力が低下しており、病状が急変するリスクが高いため、早めに受診することをお勧めします。
- 喫煙者: 肺がんやCOPDなど、喫煙に関連する病気のリスクが高いため、血痰が出た場合は特に注意が必要です。
- 血をサラサラにする薬(抗凝固薬、抗血小板薬)を服用している方: 出血が止まりにくい、あるいは重篤な出血につながるリスクがあるため、血痰が出た場合は主治医に相談してください。
様子を見ても良い場合(風邪、少量など)
比較的緊急性が低いと考えられる場合もあります。しかし、自己判断はあくまで暫定的なものであり、少しでも不安があれば医療機関を受診することを強くお勧めします。
- 風邪や軽い気管支炎の最中で、激しい咳の後に一時的にごく少量の血筋が混じった場合: 咳で気道粘膜が傷ついた一時的な出血の可能性があります。他の症状(高熱、息苦しさなど)がなく、血痰もすぐに治まるようであれば、数日間様子を見ても良いかもしれません。
- 鼻血が出た後に、痰に血が混じった場合: 鼻血が喉に流れ込んだ後鼻漏が原因であれば、呼吸器からの出血ではないため、鼻血自体が止まっている、あるいは少量であれば様子を見ても良い場合があります。ただし、鼻血が頻繁に出る、止まりにくいといった場合は耳鼻咽喉科を受診してください。
- 数回、ごく少量の血痰が出ただけで、その後は全く出ず、他の症状も全くない場合: 一時的な軽い炎症や刺激によるものの可能性も考えられます。
【重要な注意点】
上記はあくまで「比較的様子を見ても良い場合がある」という目安です。これらのケースであっても、症状が続いたり、悪化したり、他の症状が現れたりした場合は、必ず医療機関を受診してください。特に、喫煙習慣がある方や高齢者、既往歴のある方は、自己判断せずに早めに医療機関に相談することが賢明です。
何科を受診すれば良いか
痰に血が混じる症状が出た場合、最初に受診すべきは呼吸器内科です。痰や咳など、呼吸器に関する症状を専門的に診ている科だからです。
ただし、以下のような場合は他の科も選択肢となります。
- 鼻血や喉の痛みが主な症状で、鼻や喉からの出血が疑われる場合: 耳鼻咽喉科。
- どこを受診すれば良いか分からない、かかりつけ医がいる場合: まずは内科やかかりつけ医に相談する。必要に応じて専門医を紹介してもらえます。
- 多量の喀血や強い息苦しさ、胸痛など、緊急性の高い症状がある場合: 迷わず救急外来を受診するか、救急車を要請してください。
不安な場合は、地域の医療相談窓口や、かかりつけ医に電話で相談してみるのも良いでしょう。
痰に血が混じる症状に関連する疑問(ストレス、コロナ、朝だけなど)
痰に血が混じる症状について、よく聞かれる疑問に答えます。
ストレスは原因になる?
直接的にストレスが原因で痰に血が混じることは稀ですが、間接的な影響は考えられます。
- 免疫力の低下: ストレスによって免疫力が低下すると、感染症にかかりやすくなり、気管支炎や肺炎などによる血痰のリスクが高まる可能性があります。
- 咳の誘発: ストレスが咳を誘発したり、咳を悪化させたりすることがあります。激しい咳が続くことで、気道粘膜が傷ついて少量の血痰が出る場合があります。
- 心因性の症状: 非常に稀ですが、ストレスが原因で自律神経のバランスが乱れ、身体的な症状として現れる可能性もゼロではありません。
しかし、ストレスだけが原因で血痰が出ることは考えにくいため、血痰が出た場合はまず呼吸器系の病気を疑い、医療機関を受診することが重要です。
コロナ感染症との関連は?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴って、痰に血が混じることが報告されています。
コロナウイルスによって気道や肺に炎症が起き、咳が続くことで、気道粘膜が傷つき出血することがあります。また、重症化した肺炎では血痰が見られることもあります。
ただし、血痰が出たからといって必ずしもコロナ感染症であるとは限りません。他の様々な原因が考えられます。コロナ感染症が疑われる他の症状(発熱、咳、倦怠感、味覚・嗅覚異常など)がある場合は、医療機関や自治体の相談窓口に相談してください。
朝だけ痰に血が混じるのはなぜ?
「朝起きて痰を出すと、決まって少量の血が混じっている」という場合、いくつかの原因が考えられます。
- 就寝中の分泌物の貯留と排出: 寝ている間に鼻や喉、気管支の分泌物(鼻水や痰)が喉の奥に溜まりやすくなります。起床時にこれを喀出する際に、炎症や軽い傷がある部分から出血が起こり、血痰として現れることがあります。
- 鼻血の後鼻漏: 寝ている間に軽い鼻血が出て、それが喉に流れ込み、朝の痰と混ざって排出される。これは比較的よくある原因です。
- 慢性的な炎症: 慢性気管支炎や気管支拡張症などがある場合、気管支に慢性的な炎症があり、夜間の分泌物貯留と朝の喀出の際に血痰が出やすくなることがあります。
- 環境の影響: 寝室の空気が乾燥していると、気道が乾燥して傷つきやすくなり、朝の咳で出血することもあります。
朝だけの血痰で、量がごく少量であり、他の症状(咳がひどい、息苦しい、体重減少など)が全くない場合は、一時的なものや軽い炎症の可能性も考えられます。しかし、続く場合や量が増える場合は、やはり一度医療機関を受診して原因を調べてもらうことをお勧めします。特に喫煙者や高齢者、呼吸器の既往歴がある方は注意が必要です。
痰に血が混じる場合の検査と治療
痰に血が混じる症状で医療機関を受診した場合、原因を特定するために様々な検査が行われます。診断に基づき、適切な治療が開始されます。
一般的な検査:
- 問診と身体診察: いつから、どのような状態の血痰が出るか、量や色、頻度、他の症状(咳、発熱、息苦しさ、胸痛など)の有無、喫煙歴、既往歴、服用中の薬などについて詳しく聞かれます。聴診器で肺の音などを聞く身体診察も行われます。
- 胸部X線検査(レントゲン): 肺や心臓の全体像を把握する基本的な検査です。肺炎や結核、肺がん、心不全などの病変が写ることがあります。
- 胸部CT検査: X線検査よりも詳細に肺や気管支、血管の状態を調べることができます。病変の位置や広がり、性質などをより正確に評価するのに有用です。
- 血液検査: 体内の炎症の程度、感染の有無、貧血の有無、出血傾向、全身状態などを調べます。
- 喀痰検査: 痰を採取して、色や粘稠度、細胞の様子などを顕微鏡で調べたり、細菌や結核菌などの病原体がいないか培養検査をしたりします。がん細胞の有無を調べる細胞診を行うこともあります。
- 気管支鏡検査: 口や鼻から細いカメラのついたチューブを気管支に挿入し、気管支の内壁を直接観察する検査です。出血部位の確認、組織の採取(生検)、異物の除去などが行えます。血痰の原因を特定する上で非常に重要な検査となることがあります。
- その他: 必要に応じて、心電図、心臓超音波検査、血管造影検査、呼吸機能検査なども行われることがあります。
治療:
血痰の治療は、原因となっている病気によって全く異なります。原因が特定されれば、その病気に対する根本的な治療が行われます。
- 感染症(肺炎、気管支炎など): 細菌感染の場合は抗菌薬(抗生物質)、ウイルス感染の場合は対症療法が中心となります。結核の場合は結核菌に対する特別な複数の薬を長期間服用します。
- 炎症性疾患(気管支拡張症など): 炎症を抑える薬(ステロイドなど)、気管支を広げる薬(気管支拡張薬)、増えた分泌物を喀出しやすくする薬(去痰薬)などが使われます。感染を伴う場合は抗菌薬も使用されます。
- 肺がん: 手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤)、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など、病期やがんの性質に応じた治療が行われます。
- 出血に対する治療: 出血量が多い場合や止まりにくい場合は、止血剤が使用されたり、気管支鏡で出血部位を特定して止血処置が行われたり、カテーテルを用いて出血している血管を詰める(血管塞栓術)といった処置が行われることもあります。喀血量が多い場合は、気道を確保するための処置や輸血が必要になることもあります。
- その他の病気: 血管炎に対する免疫抑制剤、心不全に対する心臓の機能を改善する薬など、原因となる病気に応じた治療が行われます。
このように、血痰の検査と治療は原因によって多岐にわたります。自己判断や民間療法で済ませようとせず、必ず医療機関で専門的な検査を受け、適切な診断と治療を受けることが、症状の改善や重篤な病気の早期発見・治療に繋がります。
まとめ:痰に血が混じったら早期の受診を検討しましょう
痰に血が混じる「血痰」は、誰にとっても不安な症状です。この記事では、血痰の原因、血の色や量による違い、伴う症状、考えられる様々な病気、そしてどのような場合に医療機関を受診すべきかの目安について詳しく解説しました。
血痰の原因は、風邪や激しい咳による一時的な気道粘膜の損傷といった比較的軽度なものから、肺炎、結核、肺がん、肺塞栓症といった早期発見・早期治療が非常に重要な重篤な病気まで多岐にわたります。
血痰が続く場合、量が増える場合、あるいは息苦しさ、胸痛、高熱、体重減少などの他の症状を伴う場合は、特に注意が必要です。これらのサインが見られる場合は、迷わずに速やかに医療機関、特に呼吸器内科を受診してください。多量の喀血の場合は、緊急性の高い状態であり、ためらわずに救急車を要請するなど緊急対応が必要です。
ごく少量の血痰で一時的なものであり、他の症状が全くない場合は、数日様子を見ることも可能かもしれませんが、不安を感じる場合は念のため医療機関を受診することをお勧めします。特に喫煙習慣がある方や高齢者、基礎疾患がある方は、自己判断せず早めに相談することが大切です。
医療機関では、問診、身体診察に加えて、胸部X線検査やCT検査、喀痰検査、必要に応じて気管支鏡検査などが行われ、正確な原因を診断します。診断に基づき、原因に応じた適切な治療が開始されます。
血痰は、体のどこかで出血が起きているサインであり、その原因を特定することが最も重要です。自己判断で安易に考えず、「いつもと違うな」「気になるな」と感じたら、早めに専門医に相談し、適切な検査と診断を受けることが、ご自身の健康を守る上で非常に重要です。
【免責事項】
本記事は、痰に血が混じる症状に関する一般的な情報を提供することを目的としており、医学的な診断や治療を保証するものではありません。個々の症状や状況については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断と指示に従ってください。本記事の情報に基づいて行ったいかなる行為についても、当方は責任を負いかねます。