安静にしている時や、特に何もしていない時に突然心臓がバクバクする、ドキドキすると感じたことはありませんか?
このような心臓の拍動を強く感じる状態を「動悸(どうき)」と呼びます。
多くの場合、一時的なもので心配ないこともありますが、中には何らかの病気が原因である場合や、体に異常が起こっているサインである可能性も否定できません。
「まさか自分が心臓病?」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、動悸の原因は心臓そのものにある場合だけでなく、ストレスや生活習慣、他の病気、薬の副作用など多岐にわたります。
この記事では、「何もしてないのに心臓がバクバクする」という症状について、考えられる様々な原因、危険なサイン、ご自身でできる対処法、そして医療機関を受診すべきタイミングや受診すべき科について、専門的な知見をもとに分かりやすく解説します。
あなたの不安を少しでも和らげ、適切な行動をとるための情報を提供できれば幸いです。
病気が原因で心臓がバクバクする場合
心臓自体に異常がある場合や、心臓以外の病気によって動悸が引き起こされることがあります。
不整脈(頻脈、期外収縮など)
心臓の拍動リズムが乱れることを「不整脈」といいます。
不整脈には様々な種類があり、脈が速くなる「頻脈(ひんみゃく)」、脈が遅くなる「徐脈(じょみゃく)」、そして規則的なリズムの中に不規則な拍動が混じる「期外収縮(きがいしゅうしゅく)」などがあります。
安静時の動悸の原因として最も一般的なのが不整脈です。
- 頻脈: 1分間の心拍数が100回を超える状態です。
心臓が急にドキドキしたり、脈が飛ぶように感じたりします。
安静時にも起こることがあり、特に発作的に始まる頻脈(発作性上室性頻拍など)では、何もしていないのに突然心臓がバクバクし始め、しばらく続くことがあります。 - 期外収縮: 正常なタイミングよりも早く心臓が収縮する不整脈です。
「ドキン」とか「ズキン」といった強い拍動を感じたり、「一瞬脈が飛んだ」ように感じたりすることがあります。
これは、早く収縮した後の次の拍動が通常よりも強くなるためです。
健康な人にもよく見られますが、回数が多い場合や連発する場合は病的な意味を持つこともあります。 - 徐脈: 1分間の心拍数が60回を下回る状態です。
動悸として自覚することは少ないですが、重度の徐脈では、脳への血流が一時的に減少し、めまいや失神を伴うことがあります。
これらの不整脈は、心臓の電気信号の通り道に問題があったり、心臓の筋肉自体に異常があったりする場合に起こりやすくなります。
安静時や寝ている時など、心拍数が通常落ち着いている時間帯に不規則な拍動が目立ちやすくなることもあります。
心臓以外の病気(甲状腺機能亢進症、貧血など)
心臓自体に問題がなくても、全身の病気が原因で心臓に負担がかかり、動悸として感じることがあります。
- 甲状腺機能亢進症: 首の前にある甲状腺から分泌されるホルモン(甲状腺ホルモン)が過剰になる病気です。
甲状腺ホルモンは全身の代謝を活発にする働きがあるため、過剰になると心臓の働きも活発になり、安静時にも心拍数が上がって動悸を感じやすくなります。
体重減少、手の震え、汗をかきやすい、イライラするなどの症状を伴うことが多いです。 - 貧血: 血液中のヘモグロビン濃度が低下し、全身に酸素を運ぶ能力が低下した状態です。
体が酸素不足を補おうとして、心臓がより多くの血液を送り出そうと懸命に働くため、心拍数が上昇し動悸を感じやすくなります。
息切れ、めまい、倦怠感などの症状もよく見られます。
特に鉄欠乏性貧血は女性に多く見られます。 - 呼吸器疾患: 喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、肺や気管支の病気がある場合、体に十分な酸素を取り込めず、心臓が酸素を補うために拍動を速めることがあります。
また、呼吸困難感が強い場合、不安から動悸が生じることもあります。 - 低血糖: 糖尿病の治療中などで血糖値が急激に低下した場合、交感神経が刺激され、動悸、手の震え、冷や汗などの症状が出ることがあります。
- 発熱: 風邪などで熱がある時も、体の代謝が上がり、心拍数が増加するため動悸を感じやすいです。
- 脱水: 体内の水分が不足すると、血液量が減少し、心臓が不足分を補うために心拍数を増やして全身に血液を送ろうとします。
これらの心臓以外の病気による動悸は、元の病気を治療することで改善することがほとんどです。
病気以外の原因(生理的なもの)
病気が隠れていない場合でも、以下のような生理的な要因によって安静時に動悸を感じることがあります。
ストレスや精神的なもの(不安、パニック障害など)
精神的なストレスや強い不安は、自律神経のバランスを崩し、交感神経を優位にします。
交感神経が優位になると、心拍数が上昇したり、心臓の収縮が強くなったりするため、動悸として自覚しやすくなります。
特に、パニック障害や不安障害などの精神疾患がある場合、突然激しい動悸、息苦しさ、めまい、発汗などを伴うパニック発作が起こることがあります。
何もしていないリラックスした状態でも、予期せず発作が起こり、強い動悸を感じることがあります。
これは病気そのものというよりは、病気に伴う症状として現れる動悸です。
自律神経の乱れ
自律神経は、心臓の拍動、呼吸、体温調節、消化など、自分の意思とは関係なく体の機能をコントロールしている神経です。
交感神経と副交感神経の二つのバランスによって成り立っています。
- 交感神経: 体を活動させる時に働く神経で、心拍数を増やしたり、血管を収縮させたりします。
- 副交感神経: 体をリラックスさせる時に働く神経で、心拍数を減らしたり、血管を拡張させたりします。
ストレス、不規則な生活、睡眠不足、疲労などが原因でこの自律神経のバランスが乱れると、安静時にもかかわらず交感神経が過剰に働き、心拍数が増加して動悸を感じることがあります。
これを「神経性頻脈」と呼ぶこともあります。
特に思春期や更年期の女性に見られることが多いです。
生活習慣(睡眠不足、カフェイン、アルコール、喫煙など)
日々の生活習慣も、心臓の働きに影響を与え、動悸の原因となることがあります。
- 睡眠不足: 睡眠は心身を休ませ、自律神経のバランスを整える重要な時間です。
慢性的な睡眠不足は自律神経の乱れにつながり、動悸を引き起こす可能性があります。 - カフェイン: コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインには、交感神経を刺激して心拍数を増加させる作用があります。
カフェインに敏感な方や、一度に大量に摂取した場合に動悸を感じやすいです。 - アルコール: アルコールを摂取すると、一時的に心拍数が上昇します。
特に飲酒後や翌日に動悸を感じる方もいます。
アルコールが分解される過程で発生するアセトアルデヒドも心拍数増加に関与します。 - 喫煙: タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、心拍数を増加させます。
長期的な喫煙は動脈硬化を促進し、心臓病のリスクを高めるため、間接的にも動悸の原因となり得ます。 - 過度なダイエット: 極端な食事制限や栄養不足は、体力を低下させたり、貧血を引き起こしたりすることで動悸につながることがあります。
- 急な運動不足: 普段運動しない人が急に激しい運動をすると、心臓に負担がかかり動悸を感じることがあります。
しかし、これは運動後の生理的な反応であることがほとんどです。
安静時の動悸とは少し異なります。
薬の副作用
日常的に服用している薬が原因で動悸が起こることもあります。
- 風邪薬や鼻炎薬: 鼻づまりを解消する成分(プソイドエフェドリンなど)には、血管を収縮させ、心拍数を増加させる作用を持つものがあります。
- 喘息治療薬: 気管支を広げる吸入薬や内服薬の一部には、心臓の受容体にも作用し、動悸や手の震えといった副作用が出やすいものがあります。
- 降圧剤: 一部の降圧剤(特にβ遮断薬以外の血管拡張作用を持つもの)や、利尿薬による電解質バランスの乱れが不整脈を引き起こし、動悸につながることがあります。
- 甲状腺ホルモン薬: 甲状腺機能低下症の治療でホルモン薬を服用している場合、量が多すぎると甲状腺機能亢進症のような状態になり、動悸が出ることがあります。
- カフェインやエフェドリンを含む漢方薬やサプリメント: 一見安全そうに見えるものでも、動悸を引き起こす成分が含まれていることがあります。
服用している薬と動悸の関係が疑われる場合は、自己判断で中止せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
ホルモンバランス(更年期など)
特に女性の場合、ホルモンバランスの変化が動悸の原因となることがあります。
思春期や妊娠中、産後、そして特に更年期には、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が大きく変動します。
エストロゲンの低下は自律神経のバランスを崩しやすく、ホットフラッシュ(ほてり)、発汗、イライラといった更年期症状の一つとして、動悸が現れることがあります。
安静時や夜間に起こりやすいとされています。
原因の分類 | 具体的な原因 | 特徴や伴いやすい症状 |
---|---|---|
病気(心臓) | 不整脈(頻脈、期外収縮) | 突然始まる、脈が飛ぶ・速い、胸の違和感 |
病気(心臓以外) | 甲状腺機能亢進症 | 体重減少、手の震え、汗、イライラ |
貧血 | 息切れ、めまい、倦怠感、顔色が悪い | |
呼吸器疾患(喘息など) | 息苦しさ、咳、痰 | |
低血糖 | 手の震え、冷や汗、脱力感 | |
発熱、脱水 | 全身の倦怠感、喉の渇き | |
病気以外 | ストレス、不安、パニック障害 | 精神的な負担、過呼吸、発汗、震え |
自律神経の乱れ | めまい、頭痛、倦怠感、手足の冷え | |
生活習慣(睡眠不足、カフェイン、アルコール、喫煙) | 習慣的な摂取や不足 | |
薬の副作用 | 服用中の特定の薬剤 | |
ホルモンバランス(更年期) | ホットフラッシュ、発汗、イライラ、不眠 |
安静時の動悸は、このように様々な原因が考えられます。
自己判断は難しいため、頻繁に起こる場合や症状が強い場合は医療機関への相談が重要です。
何もしてないのにバクバクする場合に併せて起こりやすい症状
何もしていない時に心臓がバクバクする動悸に加えて、他の症状が伴う場合は、注意が必要なサインであることがあります。
動悸と同時にどのような症状が現れるかに着目することで、原因の手がかりや緊急性の判断に役立ちます。
息苦しさを感じる場合
動悸に加えて息苦しさを感じる場合、いくつかの原因が考えられます。
- 心臓のポンプ機能の低下: 不整脈によって心臓が効率よく血液を送れなくなったり、心不全などの心臓の病気があったりする場合、全身に十分な酸素が行き渡らず、息苦しさを感じることがあります。
特に横になると息苦しさが増す(起坐呼吸)場合は、心不全の可能性も考えられます。 - 肺の病気: 喘息発作や肺炎、肺塞栓症などの肺や気管支の病気で呼吸がうまくできない場合、体は酸素不足を補おうと心拍数を上げるため動悸と息苦さが同時に起こります。
- パニック発作: 強い不安や恐怖に伴うパニック発作では、動悸、息苦しさ、過呼吸が典型的な症状として現れます。
息苦しさからさらに不安が増強され、症状が悪化することもあります。 - 貧血: 重度の貧血では、体が酸素不足になるため、動悸と同時に息切れや息苦しさを感じやすくなります。
息苦しさが強い場合や、安静にしていても改善しない場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
めまいを伴う場合
動悸とめまいが同時に起こる場合も、注意が必要なサインです。
- 不整脈による脳血流低下: 特に脈が異常に速い頻脈や、脈が非常に遅い徐脈性の不整脈が原因で、心臓から脳へ送られる血液量が一時的に減少し、めまいやふらつき、立ちくらみを起こすことがあります。
重症の場合は失神につながることもあります。 - 起立性調節障害: 思春期の子供などに多く見られ、立ち上がった時に血圧が低下し、動悸、めまい、立ちくらみ、倦怠感などの症状が現れます。
安静時にも動悸を感じることがあります。 - 脱水や熱中症: 体液量が減少したり、体温調節機能がうまくいかなくなったりすると、心臓への負担が増え、動悸やめまい、立ちくらみなどを起こすことがあります。
- 自律神経失調症: 自律神経のバランスが乱れることで、血圧や心拍の調節がうまくいかなくなり、動悸やめまい、ふらつきといった様々な症状が起こることがあります。
動悸に伴うめまいやふらつきは、転倒のリスクや、不整脈による脳血流障害の可能性を示唆するため、軽視せず医療機関を受診しましょう。
胸の痛みがある場合
動悸に加えて胸の痛みを感じる場合は、心臓や肺の病気など、緊急性の高い病気が隠れている可能性があるため、特に注意が必要です。
- 狭心症や心筋梗塞: 心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりすることで起こります。
典型的な症状は、胸の中央部が締め付けられるような痛みですが、動悸や息切れを伴うこともあります。
特に労作時(運動や階段昇降時)に症状が出やすいですが、不安定狭心症など安静時にも症状が出ることがあります。 - 心筋炎: 心臓の筋肉に炎症が起こる病気です。
動悸、胸痛、息切れ、全身の倦怠感などの症状が現れることがあります。 - 心膜炎: 心臓を包む膜(心膜)に炎症が起こる病気です。
胸痛(体勢によって変化することが多い)、動悸、発熱などの症状が見られます。 - 大動脈解離: 大動脈の壁が裂ける非常に危険な病気です。
突然の激しい胸や背中の痛みが特徴的ですが、動悸や血圧低下を伴うこともあります。 - 肺塞栓症: 肺の血管に血栓が詰まる病気です。
突然の息苦しさ、胸痛、動悸、咳などの症状が現れます。 - 不安やストレス: 精神的な要因で動悸と共に胸痛を感じることもあります(心臓神経症など)。
しかし、他の重篤な病気を否定するためにも、胸痛がある場合は一度医療機関を受診することが重要です。
動悸に加えて胸の痛みがある場合は、原因によっては命に関わる可能性もあるため、様子を見ずにすぐに救急車を呼ぶか、医療機関を受診してください。
特に、痛みが強い、冷や汗を伴う、腕などに放散する痛みがある、といった場合は緊急性が高いと考えられます。
何もしてないのに心臓がバクバクする場合の危険性・注意点
安静時の動悸は、多くの場合は生理的なものや軽度の不整脈ですが、中には放置すると危険な状態につながるものも含まれています。
どのような場合に注意が必要なのか、危険なサインや危険な不整脈について知っておきましょう。
すぐに病院に行くべき危険なサイン
以下のような症状が動悸に併せて現れた場合は、迷わずすぐに医療機関を受診するか、救急車を呼んでください。
これらの症状は、心臓や他の臓器に重大な問題が起こっている可能性を示唆しています。
- 強い胸の痛みまたは圧迫感
- 呼吸困難や強い息苦しさ
- 意識が遠のく、失神、またはめまいが強く立てない
- 冷や汗を伴う
- 手足のしびれや麻痺、ろれつが回らないなど、脳卒中を疑わせる症状
- 動悸が30分以上続く
- 脈拍が異常に速い(例: 1分間に150回以上)または遅い(例: 1分間に40回以下)
- 激しい動悸が突然始まり、突然止まる(発作性の場合)
- 発熱や咳、だるさなどの風邪のような症状に続いて動悸や息切れが悪化する
これらのサインは、狭心症、心筋梗塞、重症不整脈、大動脈解離、肺塞栓症など、命に関わる病気の初期症状である可能性があります。
迅速な対応が非常に重要です。
命に関わる危険な不整脈とは?
不整脈の中には、突然死の原因となったり、心不全や脳卒中などの合併症を引き起こしたりする、特に危険性の高いものがあります。
- 心室頻拍 (VT): 心臓のポンプ機能の主体である心室が異常に速く(通常1分間に150~250回)収縮する不整脈です。
動悸、息切れ、胸痛、めまい、失神などを引き起こす可能性があり、持続時間が長かったり、心機能が低下している人では心室細動へ移行するリスクが高い危険な不整脈です。 - 心室細動 (VF): 心室が不規則に細かく震えるだけで、ポンプ機能が完全に失われた状態です。
有効な血流が途絶えるため、数秒で意識を失い、放置すれば死に至ります。
AEDによる電気ショックが唯一の救命手段となる、最も危険な不整脈です。 - 上室性頻拍: 心室よりも上の部分(心房など)から発生する頻拍性不整脈です。
通常は心室頻拍ほど緊急性は高くないことが多いですが、非常に速い拍動が長く続くと、心臓に負担がかかり心不全を引き起こしたり、基礎に心臓病がある場合は危険な状態につながったりすることがあります。 - 心房細動: 心房が小刻みに震え、心室に不規則に電気信号が伝わる不整脈です。
安静時にも動悸や脈の乱れを感じることがあります。
最も重要な合併症は、心房内にできた血栓が脳に飛んで起こる脳梗塞です。
特に高齢者や基礎疾患(高血圧、糖尿病など)がある人では、脳梗塞のリスクが高まります。
これらの危険な不整脈の診断には、心電図検査が不可欠です。
症状がある場合は、速やかに医療機関で検査を受けましょう。
放置しても大丈夫な心臓のバクバクとの見分け方
危険なサインがない、比較的軽度で一時的な動悸の場合、生理的な原因や軽度の不整脈(特に期外収縮など)である可能性が高く、経過観察で問題ないことも少なくありません。
以下のような特徴がある動悸は、必ずしも緊急性は高くないと考えられます。(ただし、不安な場合は医療機関を受診することが推奨されます)
- 特定の状況で起こる: 緊張、興奮、ストレス、運動後、寝不足、多量のカフェイン摂取など、原因がはっきりしている。
- 一時的な症状: 数秒から数分で収まることが多い。
- 症状が軽い: めまい、息苦しさ、胸痛などを伴わない。
- 以前から同じような症状がある: 健康診断で異常を指摘されていない。
- 基礎疾患がない: 高血圧、糖尿病、心臓病、甲状腺疾患などの既往歴がない。
ただし、上記に当てはまる場合でも、症状が続く場合や不安が強い場合は、念のため医療機関で相談することをお勧めします。
動悸の感じ方は個人差が大きく、「大丈夫」と自己判断することはリスクを伴います。
専門家による診断を受けることが最も安心できる方法です。
何もしてないのに心臓がバクバクする時の対処法・和らげる方法
安静時に心臓がバクバクした場合、症状を和らげるためにご自身でできる対処法がいくつかあります。
原因によって効果的な対処法は異なりますが、まずは落ち着いて状況を判断し、適切な方法を試みましょう。
安静時にバクバクする場合の対処法
特に誘因がなく、突然安静時に動悸が始まった場合は、まずは体を安静にすることが大切です。
- 座るか横になる: 立ったままだと血圧が下がりやすく、めまいや失神につながる可能性があります。
安全な場所に座るか、可能であれば横になりましょう。 - 楽な姿勢をとる: ベルトや衣服を緩め、呼吸がしやすい姿勢をとります。
体を締め付けているものを解放することで、リラックス効果も得られます。 - 深呼吸を繰り返す: ゆっくりと鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出す深呼吸を繰り返します。
深呼吸には副交感神経を刺激し、心拍数を落ち着かせる効果が期待できます。 - 水分を補給する: 脱水が原因の可能性も考えられるため、可能であれば水分を少量ずつ摂取します。
冷たい水は自律神経に働きかける効果も期待できます。
これらの対処法で症状が改善しない場合や、危険なサインが伴う場合は、迷わず医療機関を受診してください。
寝る前に心臓がドキドキして眠れない時の対処法
布団に入ってリラックスしているはずなのに、心臓のドキドキが気になって眠れないという経験は、多くの方が持っているかもしれません。
これは、活動中に感じなかった期外収縮などが、体が安静になることでかえって自覚されやすくなる場合や、自律神経のバランスが夜間に乱れることなどが原因と考えられます。
- 寝る前のルーティンを作る: 入浴や読書、軽いストレッチなど、リラックスできる習慣を寝る前に取り入れ、心身を休息モードに切り替えます。
- リラクゼーションを取り入れる: 腹式呼吸、軽い瞑想、リラクゼーション音楽を聴くなど、心拍数を落ち着かせるためのリラックス法を試します。
- カフェインやアルコールを控える: 寝る数時間前からは、カフェインを含む飲み物(コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンク)やアルコールの摂取を控えます。
- 寝室環境を整える: 寝室を暗く静かにし、快適な温度・湿度に保ちます。
- 無理に眠ろうとしない: 眠れないことに囚われすぎると、かえって目が冴えてしまいます。
一時的に寝室を出て、リラックスできることをして、眠気を感じたら再び布団に入るのも一つの方法です。
これらの対処法を試しても改善しない場合や、日中の活動にも支障が出ている場合は、医療機関に相談することをお勧めします。
急に心臓がバクバクする一瞬の動悸への対処法
「ドキン」とか「ズキン」といった一瞬の強い動悸は、多くの場合が期外収縮です。
健康な人にも起こりうる生理的な現象であることが多いですが、不快感や不安を感じることもあります。
- 気にしすぎない: 期外収縮は誰にでも起こりうるものであり、頻繁に起こらない限りは基本的に心配いりません。
過度に気にすることで不安が増し、かえって動悸を悪化させることもあります。 - 姿勢を変える: 一瞬の動悸を感じた時に、座っている姿勢を変えたり、軽く体を動かしたりすることで収まることがあります。
- 迷走神経刺激を試す(一部の頻脈の場合): 発作的に始まる上室性頻拍など、特定のタイプの頻脈に対しては、迷走神経を刺激することで心拍数を落ち着かせることができる場合があります。
- Valsalva 法(バルサルバほう): 息を大きく吸い込み、鼻をつまんで口を閉じ、お腹に力を入れていきむ動作です。(※心臓病のある方や高齢者は注意が必要です。必ず医師に指導を受けてから行ってください。)
- 冷たい水を一気に飲む: 冷たい刺激が迷走神経を刺激することがあります。
- 顔を冷たい水につける: 同様に迷走神経を刺激する方法ですが、一人で行うのは危険な場合があります。
これらの迷走神経刺激法は、不整脈の種類によっては効果がない場合や、かえって危険な場合もあります。
自己判断で行わず、過去に医師から指導を受けている場合のみ試すようにしてください。
一瞬の動悸でも、頻繁に起こる場合や連発する場合は、念のため医療機関を受診しましょう。
ストレスや不安による動悸への対処法
精神的なストレスや不安が動悸の原因となっている場合は、心と体の両面からのアプローチが必要です。
- ストレス源を特定し、可能な範囲で解消・軽減する: 仕事、人間関係、プライベートなど、ストレスを感じている原因を明確にし、それに対する対策を考えます。
- リラクゼーションを取り入れる: 趣味の時間を持つ、音楽を聴く、アロマテラピー、入浴など、ご自身がリラックスできる方法を見つけて実践します。
- 適度な運動: ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、ストレス解消に役立ち、自律神経のバランスを整える効果も期待できます。
ただし、無理は禁物です。 - 十分な睡眠と休息: 規則正しい生活を送り、質の高い睡眠を確保します。
- マインドフルネスや呼吸法: 現在に意識を集中し、呼吸に意識を向けるマインドフルネスや、腹式呼吸などの呼吸法は、不安を和らげ、リラックス効果を高めます。
- 専門家への相談: ストレスや不安が強く、ご自身での対処が難しい場合は、心療内科や精神科の医師、カウンセラーなどに相談することも有効です。
ストレスや不安による動悸は、原因となる精神的な状態が改善することで症状も軽快することが多いです。
何もしてないのに心臓がバクバクする場合の病院受診
安静時の動悸が続く場合や、症状が強い場合、または不安が強い場合は、医療機関を受診して原因を特定することが大切です。
いつ病院に行くべきか、何科を受診すれば良いのか、そして病院ではどのような検査が行われるのかについて解説します。
病院に行くべきタイミング
以下のような場合は、早期に医療機関を受診することをお勧めします。
- 動悸に加えて、強い胸痛、息苦しさ、めまい、失神などの危険なサインがある場合(この場合は救急対応が必要なこともあります)
- 動悸が頻繁に起こるようになった、または以前より症状が強くなった場合
- 動悸が長く続く場合(数十分以上など)
- 安静時に起こることが多い場合
- 健康診断などで心臓に異常を指摘されたことがある場合
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、甲状腺疾患などの基礎疾患がある場合
- 動悸が原因で日常生活に支障が出ている(眠れない、不安で外出できないなど)場合
- 原因が分からず、症状に対して強い不安を感じている場合
症状が一時的なものであっても、繰り返す場合は一度専門医に相談することで安心につながります。
何もしてないのに心臓がバクバクするのは何科を受診すればいい?
安静時の動悸でまず最初に受診すべき科は、循環器内科です。
心臓の病気、特に不整脈が動悸の最も一般的な原因の一つだからです。
循環器内科では、心電図や心臓超音波などの専門的な検査によって、心臓の機能やリズムに異常がないかを調べることができます。
ただし、問診や検査の結果、心臓に明らかな異常が見られず、ストレスや不安などの精神的な要因が強く疑われる場合は、心療内科や精神科への受診を勧められることもあります。
また、甲状腺機能亢進症が疑われる場合は内分泌内科、貧血が疑われる場合は血液内科や内科、呼吸器疾患が疑われる場合は呼吸器内科など、動悸以外の症状や疑われる原因に応じて適切な専門科を紹介される場合があります。
まずはかかりつけ医の内科を受診し、相談してみるのも良いでしょう。
症状や経過を詳しく話すことで、適切な診療科への紹介や、初期的な検査を受けることができます。
病院ではどのような検査が行われる?
医療機関を受診すると、動悸の原因を探るために様々な検査が行われます。
- 問診・身体診察:
- いつから、どのような時に、どのような動悸が起こるのか(突然始まるか、ゆっくり始まるか、リズムは速いか遅いか、規則的か不規則かなど)
- 動悸の持続時間、頻度、誘因(ストレス、運動、特定の食べ物など)
- 動悸以外の症状(胸痛、息苦しさ、めまい、失神など)の有無
- これまでの病歴(心臓病、高血圧、糖尿病、甲状腺疾患など)、服用中の薬、アレルギー、生活習慣(喫煙、飲酒、カフェイン摂取、睡眠など)について詳しく聞かれます。
- 聴診で心臓の音や呼吸音を確認します。
- 心電図検査:
- 安静時心電図: 仰向けになって安静にした状態で心臓の電気的な活動を記録します。
検査を受けている間に動悸が起こっていれば診断の手がかりになりますが、発作性の不整脈では検査時に症状が出ていないと異常が見つからないこともあります。 - ホルター心電図(24時間心電図): 小型軽量の心電計を装着し、日常生活を送りながら24時間心電図を記録します。
動悸が起こった時間帯の心電図を確認することで、発作性の不整脈の検出に非常に有効です。
症状を感じた時刻を記録しておくことで、その時の心電図波形と照らし合わせることができます。 - イベントレコーダー: 動悸が infrequent(たまにしか起こらない)な場合に、症状が出た時に自分で記録を開始する携帯型の心電計です。
数週間から数ヶ月間装着することがあります。
- 安静時心電図: 仰向けになって安静にした状態で心臓の電気的な活動を記録します。
- 血液検査:
- 貧血の有無(ヘモグロビン値など)
- 甲状腺ホルモンの値(甲状腺機能亢進症の診断)
- 血糖値(糖尿病や低血糖の評価)
- BNPなどの心臓に関連するマーカー(心不全の評価)
- 電解質バランス(カリウム、マグネシウムなど)
- 炎症反応(CRPなど)
- 胸部X線検査:
- 心臓の大きさや形、肺の状態(肺うっ血、肺炎など)を確認します。
- 心臓超音波検査(心エコー):
- 超音波を使って心臓の筋肉の厚さ、動き、弁の機能、心臓の大きさなどを調べます。
心臓の形態的な異常やポンプ機能の状態を確認するのに役立ちます。
- 超音波を使って心臓の筋肉の厚さ、動き、弁の機能、心臓の大きさなどを調べます。
- 負荷心電図:
- 運動しながら心電図を記録し、運動によって誘発される不整脈や虚血性心疾患(狭心症など)を調べます。
安静時の動悸の原因特定というよりは、他の心臓病の評価のために行われることがあります。
- 運動しながら心電図を記録し、運動によって誘発される不整脈や虚血性心疾患(狭心症など)を調べます。
- 心臓カテーテル検査:
- 不整脈の原因箇所を詳しく調べたり、治療(カテーテルアブレーション)を行ったりするために行われる精密検査です。
虚血性心疾患(冠動脈の状態)を詳しく調べるためにも行われます。
- 不整脈の原因箇所を詳しく調べたり、治療(カテーテルアブレーション)を行ったりするために行われる精密検査です。
これらの検査を組み合わせて行うことで、動悸の原因が心臓病によるものか、他の病気によるものか、生理的なものかなどを総合的に判断し、適切な治療法が選択されます。
検査方法 | 目的・わかること |
---|---|
問診・身体診察 | 症状の詳細、病歴、生活習慣、基本的な身体の状態把握 |
安静時心電図 | 検査時の心臓の電気的活動、不整脈や虚血の兆候 |
ホルター心電図 | 24時間の心臓の電気的活動、日常生活での不整脈の頻度や種類 |
イベントレコーダー | 症状が出た時の心電図記録(たまにしか症状が出ない場合) |
血液検査 | 貧血、甲状腺機能、血糖値、電解質、心臓マーカーなどの評価 |
胸部X線検査 | 心臓の大きさ、肺の状態 |
心臓超音波検査 | 心臓の形態、動き、弁の機能、ポンプ機能 |
負荷心電図 | 運動による不整脈や虚血性変化 |
心臓カテーテル検査 | 不整脈の発生源の特定、冠動脈の状態の評価(精密検査) |
日常生活で心臓のバクバク(動悸)を予防するには
動悸の予防には、原因となる要因を取り除くこと、特に健康的な生活習慣を維持することが重要です。
病気が原因である場合は、その病気の適切な治療が予防につながります。
- 規則正しい生活を送る: 毎日同じ時間に寝て起きるなど、生活リズムを整えることで、自律神経のバランスが安定しやすくなります。
- 十分な睡眠を確保する: 睡眠不足は自律神経の乱れにつながります。
個人差はありますが、1日7〜8時間の睡眠を目安にしましょう。 - バランスの取れた食事: 栄養バランスの偏りは、貧血や血糖値の変動を引き起こす可能性があります。
特に鉄分を意識して摂取したり、暴飲暴食を避けたりすることが大切です。 - 適度な運動: ウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で継続的に有酸素運動を行うことは、心肺機能を高め、自律神経を整えるのに有効です。
ただし、すでに心臓病がある場合は、必ず医師に相談してから運動強度を決めましょう。 - 禁煙: 喫煙は心臓や血管に大きな負担をかけます。
動悸に限らず、様々な病気のリスクを高めるため、禁煙は非常に重要です。 - 節酒: アルコールの過剰摂取は動悸の原因となります。
適量を守りましょう。 - カフェインの摂取量を控える: コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど、カフェインを多く含む飲み物を飲みすぎないように注意します。
特に動悸を感じやすい方は、摂取量を減らしたり、ノンカフェインのものを選んだりすると良いでしょう。 - ストレスを上手に管理する: ストレスを完全に避けることは難しいですが、自分なりのストレス解消法を見つけ、こまめにストレスを発散することが大切です。
リラクゼーション、趣味、友人との交流などが有効です。 - 基礎疾患の適切な管理: 高血圧、糖尿病、脂質異常症、甲状腺疾患などの持病がある場合は、医師の指示に従ってきちんと治療を受け、病状を安定させることが、動悸だけでなく様々な合併症の予防につながります。
- 定期的な健康診断: 定期的に健康診断や人間ドックを受けることで、自覚症状がない病気の早期発見につながります。
これらの生活習慣の見直しは、動悸の予防だけでなく、心臓病をはじめとする様々な病気のリスクを減らし、健康寿命を延ばすことにもつながります。
できることから一つずつ取り組んでみましょう。
まとめ
何もしていない安静時に心臓がバクバクする動悸は、多くの人が経験しうる症状です。
その原因は、不整脈などの心臓の病気から、甲状腺機能亢進症や貧血といった心臓以外の病気、さらにはストレス、自律神経の乱れ、生活習慣、薬の副作用、ホルモンバランスの変化など、多岐にわたります。
動悸に加えて、強い胸痛、息苦しさ、めまい、失神、冷や汗といった危険なサインがある場合は、命に関わる病気の可能性もあるため、すぐに医療機関を受診することが非常に重要です。
迷った場合は救急車を呼ぶことも検討してください。
危険なサインがなく、軽度で一時的な動悸であっても、頻繁に繰り返す場合や、症状に対して強い不安を感じる場合は、一度循環器内科を受診して相談することをお勧めします。
医師による問診、心電図、血液検査などの検査によって、動悸の原因を特定し、適切な診断と治療を受けることができます。
ご自身でできる対処法としては、安静にする、深呼吸をする、寝る前のリラックス、カフェインやアルコールを控える、ストレスを管理するなどがあります。
また、日頃からの規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、節酒などは、動悸の予防に有効です。
動悸は体が発する大切なサインかもしれません。
「何もしてないのに」と感じても、その裏には何らかの原因が隠れている可能性があります。
ご自身の体と向き合い、必要であれば専門家の助けを借りながら、健康的な毎日を送りましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。個人の症状については、必ず医師の診察を受けるようにしてください。