男性の貧血 原因は?女性と違う注意点|潜む病気のサインを見抜く

男性の貧血は、女性に比べてあまり一般的ではないと思われがちです。
しかし、男性でも貧血は起こります。
そして、女性の貧血の主な原因が生理による出血であるのに対し、男性の貧血は、体内のどこかに隠れた病気が潜んでいるサインである可能性が高いのが特徴です。
単なる疲れや体調不良と見過ごしてしまうと、原因となっている病気の発見が遅れてしまうこともあります。
この記事では、男性が貧血になる主な原因から、見落としがちな症状、そして早期発見のために知っておきたいことについて、医師監修のもと詳しく解説します。
気になる症状がある方は、ぜひ最後までお読みください。

目次

男性でも貧血になる?貧血の基本知識

貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンという色素が、基準値より減少した状態を指します。
ヘモグロビンは、酸素を全身に運ぶ重要な役割を担っています。
そのため、ヘモグロビンが少なくなると、体の各組織への酸素供給が不足し、さまざまな不調が現れます。

貧血の診断基準は、性別や年齢によって異なります。
一般的に、成人男性のヘモグロビン値は13.0g/dL未満、成人女性は12.0g/dL未満と定義されています(基準値は検査機関によって多少異なります)。
女性は月経や妊娠・出産などにより鉄分を失いやすいため、男性よりも貧血になりやすい傾向があります。

一方、男性は女性に比べて鉄分を失う機会が少ないため、貧血になる頻度は低いとされています。
しかし、男性が貧血になった場合、それは単なる栄養不足だけでなく、体のどこかで慢性的な出血があったり、他の病気が原因で起こっている可能性が高いのです。
そのため、「男性なのに貧血」という事実は、注意すべきサインと言えます。

男性における貧血の主な原因

男性の貧血の最も一般的な原因は、女性と同様に鉄不足によって起こる鉄欠乏性貧血です。
しかし、その鉄不足の背景に、女性とは異なる原因が隠れていることが少なくありません。
また、鉄不足以外にも、さまざまな病気が貧血を引き起こすことがあります。

鉄欠乏性貧血が男性に起こる原因

鉄はヘモグロビンを作るために不可欠なミネラルです。
体内の鉄分が不足すると、十分なヘモグロビンが作れなくなり、赤血球のサイズが小さく(小球性)、ヘモグロビン濃度が薄い(低色素性)貧血になります。
男性で鉄欠乏性貧血が起こる主な原因としては、以下のものが挙げられます。

慢性的な出血に注意

男性の鉄欠乏性貧血の原因として、最も多いのは慢性的な出血です。
自覚症状がないまま、少量ずつ長期間にわたって血液が失われることで、体内の鉄分が枯渇してしまいます。

消化管からの出血(胃潰瘍、大腸がんなど)

消化管からの慢性的な出血は、男性の貧血の最も重要な原因の一つです。
胃や腸からの出血は、見た目に分かりやすい血便(真っ赤な血)や吐血だけでなく、便に少量ずつ混じるため気づきにくいこともあります(便潜血)。

消化管からの出血を引き起こす代表的な疾患

  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍: ストレスやピロリ菌感染、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の使用などが原因で起こり、出血を伴うことがあります。
    腹痛、胃もたれ、吐き気などの症状が現れることが多いですが、自覚症状がない場合もあります。
  • 胃がん: 早期では無症状のことが多いですが、進行すると胃の不快感、食欲不振、体重減少、そして出血による貧血を引き起こします。
  • 大腸ポリープ: 良性の腫瘍ですが、表面が傷ついて出血することがあります。
    特に腺腫性ポリープは放置するとがん化するリスクがあるため注意が必要です。
    出血は少量で、便潜血検査で初めて見つかることも多いです。
  • 大腸がん: 大腸がんも早期には無症状のことが多いですが、進行すると便に血が混じったり(血便、便潜血陽性)、便通異常(便秘、下痢、細くなる)、腹痛、お腹の張り、体重減少などの症状が現れます。
    大腸がんからの慢性出血は、男性の貧血の重要な原因の一つです。
  • 憩室出血: 大腸の壁にできた小さな袋状のくぼみ(憩室)から出血することがあります。
    突然大量に出血することもありますが、慢性的な出血を伴うこともあります。
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など): 腸に炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる病気です。
    腹痛、下痢、血便などの症状を伴い、慢性的な出血によって貧血を引き起こすことがあります。
  • : 痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)からの出血も、少量でも毎日続けば貧血の原因となります。
    排便時の出血として自覚しやすいですが、少量の持続的な出血に気づかないこともあります。

これらの消化管からの出血は、内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ)や便潜血検査などによって診断されます。

尿路からの出血

尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)からの出血も、貧血の原因となることがあります。
血尿として気づくことが多いですが、肉眼では分からない microscopic hematuria(顕微鏡的血尿)が持続している場合もあります。

尿路からの出血を引き起こす代表的な疾患

  • 腎臓病: 慢性腎臓病では、腎臓の機能が低下し、赤血球を作るホルモンであるエリスロポエチンの産生が低下することによる貧血が主ですが、糸球体腎炎などで血尿を伴い、出血性の貧血も合併することがあります。
  • 尿路結石: 尿管や膀胱に結石ができると、血尿や激しい痛みを伴います。
  • 膀胱炎、腎盂腎炎: 感染症によって尿路に炎症が起こり、血尿を伴うことがあります。
    排尿時の痛みや頻尿なども伴います。
  • 膀胱がん、腎臓がん、前立腺がん: これらの悪性腫瘍からの出血も貧血の原因となります。
    血尿は比較的早期のサインとなり得ますが、進行するまで症状がない場合もあります。

尿路からの出血が疑われる場合は、尿検査、超音波検査、CT検査、膀胱鏡検査などが行われます。

食事からの鉄分摂取不足

男性の場合、極端な偏食や無理なダイエット、菜食主義などが原因で鉄分摂取量が不足することがあります。
特に、成長期や激しい運動をする男性は、多くの鉄分を必要とするため、注意が必要です。
しかし、一般的に男性は女性ほど鉄分必要量が多くないため、食事摂取不足だけで重度の貧血になることは比較的稀です。
慢性的な出血がないかを確認することがより重要です。

鉄分の吸収を妨げる要因

食事からの鉄分摂取が十分でも、体内での吸収がうまくいかないために鉄不足になることがあります。

  • 胃酸分泌の低下: 胃酸は食物中の鉄分(特に非ヘム鉄)を吸収しやすい形に変える働きがあります。
    胃切除手術後や、胃酸分泌を抑制する薬(プロトンポンプ阻害薬など)を長期間服用していると、鉄分の吸収が低下することがあります。
  • 吸収不良症候群: 炎症性腸疾患やセリアック病など、小腸での栄養吸収に障害がある病気では、鉄分を含む様々な栄養素の吸収が悪くなります。
  • 特定の食品・飲み物との同時摂取: 後述しますが、コーヒーやお茶に含まれるタンニン、特定の野菜に含まれるフィチン酸などが鉄分の吸収を妨げることがあります。

鉄欠乏以外の貧血原因

鉄欠乏性貧血以外にも、男性に貧血を引き起こす様々な原因があります。
これらは鉄欠乏性貧血よりもさらに、何らかの基礎疾患が隠れている可能性が高いです。

腎臓病による貧血

慢性腎臓病が進行すると、腎臓の機能が低下し、エリスロポエチンというホルモンの産生が不足します。
エリスロポエチンは、骨髄に働きかけて赤血球を作るのを促すホルモンです。
このホルモンが不足すると、骨髄での赤血球産生が十分に行われなくなり、貧血(腎性貧血)が起こります。
腎性貧血は、慢性腎臓病の患者さんの多くに見られる合併症です。

慢性炎症や悪性腫瘍による貧血

関節リウマチなどの自己免疫疾患や、感染症、悪性腫瘍(がん)など、体内で慢性的な炎症が続いている場合にも貧血が起こることがあります(炎症性貧血、慢性疾患に伴う貧血)。
炎症によって放出されるサイトカインという物質が、鉄の体内での利用を妨げたり、骨髄での赤血球産生を抑制したりすることで起こります。
特に悪性腫瘍は、出血を伴うことに加えて、炎症性貧血も引き起こすため、貧血が見られたら悪性腫瘍の可能性も考慮する必要があります。

血液疾患(白血病、骨髄異形成症候群など)

赤血球が作られる場所である骨髄に異常がある病気では、貧血が起こります。

  • 再生不良性貧血: 骨髄の造血幹細胞が障害され、赤血球だけでなく白血球や血小板も減少する難病です。
  • 骨髄異形成症候群: 骨髄で正常な血液細胞が作られにくくなる病気で、将来的に白血病に移行することもあります。
  • 白血病: 血液細胞のがんで、異常な白血球が骨髄で増殖し、正常な赤血球や血小板の産生を妨げます。

これらの血液疾患では、貧血以外にも、感染しやすくなる(白血球減少)、出血しやすくなる(血小板減少)といった症状が現れることがあります。
診断には骨髄検査が必要です。

溶血性貧血

溶血性貧血は、赤血球が通常よりも早く壊されてしまう(溶血)ことによって起こる貧血です。
赤血球の寿命は通常約120日ですが、溶血性貧血ではそれより短い期間で壊されてしまいます。
骨髄が赤血球を急いで作ろうとしますが、破壊されるペースに追いつかないと貧血になります。
原因には、自己免疫疾患、遺伝性の疾患(遺伝性球状赤血球症など)、薬剤、感染症などがあります。
黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)や脾臓の腫れなどを伴うことがあります。

ビタミンB12または葉酸の欠乏

ビタミンB12と葉酸は、赤血球が正常に成熟するために必要なビタミンです。
これらの栄養素が不足すると、赤血球が異常に大きくなり(大球性)、数が減少する貧血(巨赤芽球性貧血)が起こります。
原因としては、食事摂取不足(偏食、菜食主義)、吸収不良(胃切除後、悪性貧血、小腸の病気)、薬剤(メトトレキサートなど)、アルコール多飲などが挙げられます。
ビタミンB12欠乏では、貧血に加えて手足のしびれなどの神経症状が現れることもあります。

内分泌疾患

甲状腺機能低下症や副腎機能不全など、ホルモンの異常によって貧血が起こることもあります。
これらの病気では、造血機能が低下したり、鉄代謝に影響が出たりすることがあります。

加齢による影響(テストステロン減少など)

高齢になると、骨髄の造血機能が全体的に低下する傾向があります。
また、男性ホルモンであるテストステロンは赤血球の産生を促進する作用があるため、加齢に伴うテストステロンの減少も貧血の一因となる可能性があります。
ただし、高齢者の貧血も、慢性疾患(腎臓病、がんなど)、栄養不良、薬剤などが複合的に関与していることが多いです。

男性貧血でよく見られる症状

貧血の症状は、貧血の程度や原因、進行の速さによって異なります。
軽度の貧血では自覚症状がないことも多いですが、貧血が進行するにつれて様々な症状が現れてきます。

一般的な貧血症状

男性でも、貧血になると以下のような一般的な症状が現れます。

立ちくらみやめまい

座った状態や寝た状態から急に立ち上がったときに、目の前が真っ暗になったり、ふらついたりする症状です。
脳への酸素供給が一時的に不足するために起こります。
貧血の代表的な症状の一つです。

全身の倦怠感・疲労感

体がだるい、疲れやすい、元気が出ないといった症状です。
十分な睡眠をとっても疲れがとれない、以前は楽にできていた家事や仕事がつらく感じる、などの形で現れます。
全身への酸素供給不足により、エネルギー産生効率が低下するためと考えられます。

息切れ・動悸

少し体を動かしただけ、あるいは安静にしていても、息切れがしたり、心臓がドキドキしたりする症状です。
体が酸素不足を補うために、心臓がより速く拍動して血液を全身に送ろうとするために起こります。

顔色の悪さ(顔面蒼白)

ヘモグロビンは赤色をしているため、ヘモグロビンが減少すると皮膚や粘膜の色が薄くなります。
特に顔色、唇の色、爪の根本、まぶたの裏側(結膜)などが白っぽくなるのが特徴です。

頭痛・耳鳴り

脳への酸素供給が不足することで、頭痛が起こることがあります。
また、耳の中で「キーン」という音が聞こえる耳鳴りを伴うこともあります。

男性で見落としがちな貧血症状

上記のような一般的な症状に加えて、男性の場合、以下のような症状が貧血のサインとして見落とされがちです。

筋力の低下

全身の倦怠感とも関連しますが、以前に比べて力が入りにくくなった、重いものが持てなくなった、階段を上るのがつらくなったなど、筋力の低下や持久力の低下を感じることがあります。
筋肉への酸素供給が不十分になるためです。

集中力の低下

仕事や勉強に集中できない、注意力散漫になる、物忘れが増えるといった症状も貧血によって起こり得ます。
脳機能が酸素不足の影響を受けるためと考えられます。
特に働き盛りの男性の場合、単なるストレスや加齢によるものと見過ごされやすい症状です。

性機能の低下

貧血によって全身の血行が悪くなり、体力が低下すると、性欲の減退や勃起力の低下(勃起不全、ED)といった性機能の低下を引き起こすことがあります。
男性にとっては非常にデリケートな問題であり、貧血との関連に気づかれにくい症状です。

その他の症状(爪の変化、口角炎、舌炎など)

重度の鉄欠乏性貧血では、爪がもろくなったり、反り返ったり(スプーン状爪)することがあります。
また、口角が切れたり(口角炎)、舌が荒れて痛くなったり(舌炎)することもあります。
これらは鉄分が皮膚や粘膜の健康にも重要であるために起こる症状です。

これらの症状は、貧血以外の原因でも起こりうるものですが、複数の症状が同時に現れたり、原因不明の体調不良が続いたりする場合は、貧血の可能性を考えてみる必要があります。
特に、消化器症状(腹痛、便通異常)や尿路症状(血尿、排尿痛)を伴う貧血の場合は、早急な医療機関受診が推奨されます。

年齢別の男性貧血の特徴

男性の貧血の原因や特徴は、年齢によって傾向が異なります。

若い男性の貧血

若い男性(10代後半~30代)の貧血は比較的少ないですが、起こる場合は以下のような原因が考えられます。

  • スポーツ貧血: 激しい運動をする男性、特に持久系スポーツを行うアスリートでは、汗や尿からの鉄損失、足裏の衝撃による赤血球の破壊(溶血)、運動による消化管への負担からの微量出血などが原因で鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。
  • 偏食: コンビニ食やファストフード中心の食生活、無理なダイエットなどで鉄分摂取が不足している場合。
  • 消化器系の軽微な出血: ストレス性胃炎や軽度の痔からの出血など。
  • 遺伝性の病気: ごく稀ですが、サラセミアなどの遺伝性貧血が若い頃から見つかることもあります。

若い男性の場合、貧血症状を単なる「体力がない」「寝不足」などと片付けてしまいがちなので注意が必要です。

中年男性の貧血

中年男性(40代~60代)の貧血で最も注意すべきは、消化管からの慢性出血です。

  • 消化管疾患: 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、そして胃がんや大腸がんなど、悪性腫瘍からの出血が貧血の原因となる可能性が高まります。
    定期的な健康診断や人間ドックで便潜血検査を受けることが重要です。
  • : 長年の習慣や体質により痔が悪化し、慢性的な出血で貧血を引き起こすことがあります。
  • 腎臓病: 糖尿病や高血圧などの生活習慣病が原因で慢性腎臓病が進行し、腎性貧血が起こることがあります。
  • 慢性炎症: 喫煙や肥満、過度な飲酒など、生活習慣の乱れに伴う慢性炎症が貧血の一因となる可能性もゼロではありません。

中年男性の貧血は、生活習慣病や悪性腫瘍のサインとして捉え、放置せずに医療機関を受診することが非常に重要です。

高齢男性の貧血

高齢男性(70代以上)になると、貧血の原因はより複雑になる傾向があります。

  • 合併疾患: 腎臓病、心疾患、悪性腫瘍(消化器がん、血液がんなど)、自己免疫疾患、慢性感染症など、様々な基礎疾患に伴って貧血が起こりやすくなります。
  • 栄養不良: 食欲不振、消化吸収機能の低下、特定の食品を避ける偏食などで、鉄分やビタミンB12、葉酸などの栄養素が不足しやすくなります。
  • 薬剤: 複数の薬剤を服用している場合、特定の薬剤が骨髄機能に影響を与えたり、消化管からの出血リスクを高めたりすることがあります。
  • 加齢に伴う変化: 骨髄の造血機能の低下、テストステロン減少なども貧血の一因となる可能性が指摘されています。

高齢者の貧血は、複数の原因が重なっていることが多く、原因を特定するために詳しい検査が必要になる場合があります。
単なる「年のせい」と片付けずに、専門医に相談することが大切です。

年齢別の男性貧血の特徴をまとめると、以下のようになります。

年齢層 特徴的な貧血原因 特に注意すべき点
若い男性 スポーツ貧血、偏食、軽度の消化管出血 症状を見過ごしやすい
中年男性 消化管からの慢性出血(潰瘍、ポリープ、がん)、痔、腎臓病 悪性腫瘍や生活習慣病のサイン
高齢男性 複数の合併疾患、栄養不良、薬剤、加齢に伴う変化 原因が複雑、詳細な検査が必要なことが多い

このように、男性の貧血は年齢によってその背景に潜む原因の可能性が変わってきます。

男性貧血の診断と治療

貧血が疑われる場合や、健康診断などで貧血を指摘された場合は、必ず医療機関を受診し、原因を特定するための検査を受けることが重要です。

貧血の診断基準と検査方法(血液検査など)

貧血の診断は、まず血液検査によって行われます。

主な検査項目

  • ヘモグロビン(Hb): 血液中のヘモグロビンの量。貧血の診断に最も重要な項目です。
    男性では通常13.0g/dL未満が貧血とされます。
  • ヘマトクリット(Ht): 血液全体に占める赤血球の体積の割合。ヘモグロビンと同様に貧血の指標となります。
  • 赤血球数(RBC): 血液中の赤血球の数。
  • MCV(平均赤血球容積): 赤血球1個あたりの平均的な大きさ。
    鉄欠乏性貧血ではMCVが小さくなります(小球性貧血)。
    ビタミンB12・葉酸欠乏ではMCVが大きくなります(大球性貧血)。
  • MCH(平均赤血球ヘモグロビン量): 赤血球1個あたりのヘモグロビン量。
  • MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度): 赤血球の体積に対するヘモグロビンの濃度。
    鉄欠乏性貧血ではMCHCが低くなります(低色素性貧血)。
  • 網赤血球: 骨髄で新しく作られた若い赤血球。
    貧血の原因を探る手がかりになります。
  • 血清鉄: 血液中に溶けている鉄の量。
  • フェリチン: 体内に貯蔵されている鉄の量を示す指標。
    鉄欠乏性貧血の診断に非常に有用です。
    フェリチン値が低い場合は、体内の鉄が不足していることを強く示唆します。
  • トランスフェリン: 鉄を運ぶタンパク質。
    鉄が不足するとトランスフェリンが増加します。
  • 総鉄結合能(TIBC)、不飽和鉄結合能(UIBC): 鉄と結合できるタンパク質の容量を示す指標で、トランスフェリンと関連します。
  • ビタミンB12、葉酸: これらのビタミンが不足しているかを調べます。
  • 腎機能関連項目(クレアチニン、eGFRなど): 腎臓の機能を確認します。
  • 炎症マーカー(CRPなど): 体内の炎症の有無や程度を確認します。

これらの血液検査の結果から、貧血の種類(鉄欠乏性貧血、腎性貧血、巨赤芽球性貧血など)や重症度、そして原因の手がかりが得られます。

さらに、血液検査で鉄欠乏性貧血が強く疑われる場合や、他の種類の貧血が疑われる場合は、原因を特定するために追加の検査が行われます。

  • 便潜血検査: 消化管からの出血の有無を調べます。
    陽性の場合は、内視鏡検査などが推奨されます。
  • 内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ): 消化管内部を直接観察し、潰瘍、ポリープ、腫瘍などの出血源や病変を探します。
    男性貧血の原因特定には非常に重要な検査です。
  • 尿検査: 血尿の有無や腎臓の機能などを調べます。
  • 画像検査(腹部超音波、CT、MRIなど): 腎臓、肝臓、脾臓、リンパ節などに異常がないかを調べます。
  • 骨髄検査: 血液疾患が疑われる場合に行われます。
    骨髄液や骨髄組織を採取し、血液細胞が作られる様子や異常がないかを調べます。

治療の基本方針

男性貧血の治療は、貧血の種類と原因によって大きく異なります。

鉄剤による補充療法

鉄欠乏性貧血と診断された場合は、鉄剤を服用して体内の鉄分を補充するのが基本的な治療です。
鉄剤には飲み薬(内服薬)と注射薬があります。

  • 内服鉄剤: 通常、最初に選択される治療法です。
    効果が出るまでに時間がかかりますが、比較的安全で自宅で治療できます。
    胃の不快感や吐き気、便秘・下痢、便の色が黒くなるなどの副作用が出ることがあります。
    副作用が強い場合は、鉄剤の種類を変えたり、量を調整したりします。
    効果判定のため、定期的に血液検査でヘモグロビン値やフェリチン値を測定します。
    貧血が改善しても、体内の貯蔵鉄を十分にするために、通常数ヶ月間の服用が必要です。
  • 注射鉄剤: 内服鉄剤で効果が不十分な場合や、副作用で内服が続けられない場合、消化管からの吸収が悪い場合などに用いられます。
    内服よりも早く効果が出ますが、アナフィラキシーなどの重篤な副作用のリスクもゼロではないため、医療機関で慎重に投与されます。

原因疾患の治療

男性貧血において最も重要なのは、貧血の原因となっている病気を見つけて、その病気を治療することです。
原因疾患が治療されない限り、いくら鉄剤を補充しても貧血は改善しなかったり、再発したりします。

  • 消化管からの出血が原因であれば、内視鏡的に止血処置を行ったり、潰瘍や炎症を治療したりします。
    悪性腫瘍が見つかった場合は、手術や化学療法、放射線療法などの治療を行います。
  • 腎臓病が原因の腎性貧血であれば、腎臓病の治療と並行して、エリスロポエチン製剤の注射や鉄剤の補給が行われます。
  • 血液疾患が原因であれば、それぞれの病気に応じた専門的な治療(化学療法、造血幹細胞移植など)が行われます。
  • ビタミンB12や葉酸の欠乏が原因であれば、これらのビタミンを補充します。
    吸収不良が原因の場合は、注射による補充が必要なこともあります。
  • 慢性炎症や悪性腫瘍に伴う貧血の場合は、原因となっている病気を治療することで貧血も改善することが期待されます。

このように、男性の貧血治療は、単にヘモグロビン値を上げるだけでなく、その背景にある病気を特定し、根本的に治療することが最も重要です。

男性貧血を改善するための対策

貧血の治療は原因に応じた医療的な介入が不可欠ですが、日々の生活の中で貧血を改善・予防するための対策も重要です。
特に鉄欠乏性貧血に対しては、食事や生活習慣の見直しが有効です。

食事による鉄分補給

食事から十分な鉄分を摂取することは、鉄欠乏性貧血の改善・予防の基本です。
鉄分には、動物性食品に多く含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に多く含まれる「非ヘム鉄」の2種類があり、ヘム鉄の方が体内への吸収率が高いという特徴があります。

鉄分が豊富な食品

食品カテゴリ 具体例 鉄分の種類 特徴
肉類 豚レバー、鶏レバー、牛もも肉、豚赤身肉、鶏肉 ヘム鉄 吸収率が高い。ビタミンB群も豊富。
魚介類 カツオ、マグロ、アサリ、シジミ、イワシ缶詰、干しエビ ヘム鉄 アサリ、シジミは特に豊富。
野菜・海藻 ほうれん草、小松菜、ひじき、きくらげ、大豆製品、納豆 非ヘム鉄 吸収率はヘム鉄より低いが、種類が豊富。
その他 卵黄、ごま、アーモンド、プルーン、ドライフルーツ 非ヘム鉄 おやつや間食にも取り入れやすい。

※食品に含まれる鉄分量は種類や調理法によって異なります。

鉄分の吸収を高める食べ合わせ(ビタミンCなど)

非ヘム鉄は吸収率が低いですが、特定の栄養素と一緒に摂ることで吸収率を高めることができます。

  • ビタミンC: ビタミンCは非ヘム鉄を吸収しやすい形に変える働きがあります。
    鉄分の多い食品と一緒に、レモンなどの柑橘類、いちご、キウイ、ピーマン、ブロッコリーなどのビタミンCが豊富な野菜や果物を摂るのがおすすめです。
  • 動物性タンパク質: 肉や魚に含まれる動物性タンパク質も非ヘム鉄の吸収を助けると言われています。
    野菜(非ヘム鉄)を食べる際は、肉や魚(ヘム鉄+タンパク質)も一緒に摂ると効率的です。

鉄分の吸収を妨げる飲み物・食べ物(タンニン、カフェイン、フィチン酸など)

逆に、鉄分の吸収を妨げてしまう食品や飲み物もあります。

  • タンニン: コーヒーや紅茶、緑茶などに含まれるタンニンは、非ヘム鉄と結合して吸収を妨げます。
    鉄分の多い食事を摂る際は、これらの飲み物は食事中や食後すぐは避け、食後1~2時間以上経ってから飲むようにすると良いでしょう。
  • カフェイン: カフェインも鉄分の吸収を妨げる可能性が指摘されています。
  • フィチン酸: 穀物や豆類に含まれるフィチン酸も非ヘム鉄の吸収を妨げることがあります。
    ただし、日常的な摂取量であればそれほど気にする必要はない場合が多いです。
  • カルシウム: 牛乳や乳製品に多いカルシウムも鉄分の吸収を妨げる可能性があります。
    ただし、これも摂取量や体質によります。

これらの食品を完全に避ける必要はありませんが、鉄分をしっかり摂りたい食事の際には、摂取タイミングを工夫したり、量を調整したりするとより効果的です。

生活習慣の見直し

食事以外にも、健康的な生活習慣を送ることが、貧血の改善や全身の健康維持につながります。

  • 十分な睡眠: 体を休ませ、修復する時間として十分な睡眠を確保しましょう。
  • 適度な運動: 全身の血行を促進し、造血機能を刺激する可能性があります。
    ただし、過度な運動はかえって貧血を悪化させることもあるため、自分の体力に合った無理のない範囲で行いましょう。
    特にスポーツ貧血の場合は、練習量の調整や栄養摂取の見直しが必要です。
  • ストレス管理: 過度なストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱し、消化吸収機能にも影響を与えることがあります。
    自分に合った方法でストレスを解消しましょう。
  • 過度な飲酒・喫煙を控える: アルコールはビタミンB群の吸収を妨げたり、肝臓に負担をかけたりする可能性があります。
    喫煙は全身の血行を悪くし、ビタミンCを破壊するため、鉄分の吸収にも悪影響を与えることがあります。

市販薬(サプリメント・鉄剤)の利用について

貧血が気になる場合、市販の鉄分サプリメントや、医師の処方がなくても薬局で購入できる鉄剤を利用しようと考える方もいるかもしれません。
しかし、男性の貧血は、隠れた病気が原因である可能性が高いことを忘れてはいけません。

市販のサプリメント・鉄剤の利用について注意点

  • 原因の特定が最優先: 自己判断で鉄分を補給しても、貧血の原因が鉄欠乏以外の場合(腎臓病、血液疾患、悪性腫瘍など)は効果がありません。
    むしろ、原因疾患の発見が遅れてしまい、病状を進行させてしまうリスクがあります。
  • 鉄過剰症のリスク: 原因不明のまま鉄剤を飲み続けると、体内に鉄分が過剰に蓄積されてしまう「鉄過剰症」になる可能性があります。
    鉄過剰症は、肝臓や心臓などにダメージを与える危険性があります。
  • 副作用: 市販の鉄剤でも、胃腸症状などの副作用が現れることがあります。
  • 薬剤師への相談: 市販薬を利用する際は、必ず薬剤師に相談し、自分の症状や体質に合っているか、他の薬との飲み合わせは大丈夫かなどを確認しましょう。

したがって、男性が貧血を指摘された場合や、貧血が疑われる症状がある場合は、まず医療機関を受診して原因を特定することが最も重要です。
医師の指導のもと、必要であれば鉄剤の処方やサプリメントの利用について相談しましょう。

こんな症状は要注意:医療機関を受診する目安

貧血症状は、日常生活でよくある疲れや体調不良と似ているため、見過ごされがちです。
しかし、男性の貧血は隠れた病気のサインである可能性が高いため、以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

  • 立ちくらみやめまい、全身の倦怠感が続いている
  • 少し体を動かしただけで息切れや動悸がするようになった
  • 顔色が明らかに悪くなった、唇やまぶたの裏が白い
  • 原因不明の頭痛や耳鳴りが続く
  • 以前より明らかに体力が落ちた、疲れやすくなった
  • 仕事や勉強に集中できなくなった、物忘れが増えた
  • 性欲が減退した、勃起力が低下した
  • 便の色がおかしい(黒っぽいタール便、鮮血が混じる)、血尿がある
  • 腹痛や腹部の不快感がある
  • 原因不明の体重減少がある
  • 健康診断で貧血を指摘された
  • 貧血以外の症状(発熱、リンパ節の腫れ、関節の痛みなど)も伴う

これらの症状が一つでも、あるいは複数現れている場合は、内科や消化器内科、泌尿器科、血液内科などをまずは受診してみましょう。
かかりつけ医がいる場合は、まず相談するのが良いでしょう。

貧血原因不明と言われたら?さらなる検査が必要なケース

最初の診察や基本的な血液検査で「貧血の原因が特定できない」と言われることも、ごく稀にあります。
特にヘモグロビン値以外の血液検査項目に異常がない場合や、一般的な原因(鉄欠乏、炎症など)が否定された場合などです。

しかし、男性の貧血はほぼ必ず何らかの原因があります。
原因不明と言われたとしても、それで安心せず、さらなる精密検査が必要となるケースがあります。

  • 消化管出血が疑われるが、胃カメラ・大腸カメラで病変が見つからなかった場合: 小腸からの出血の可能性も考えられます。
    小腸は内視鏡での観察が難しいため、カプセル内視鏡検査(小さなカメラを内蔵したカプセルを飲み込み、小腸の画像を撮影する方法)や、バルーン内視鏡検査、血管造影検査などが検討されます。
  • 鉄欠乏性貧血でも出血源が特定できない場合: 便潜血検査や内視鏡検査で異常が見つからなくても、微量な出血が続いている可能性があります。
    改めて検査を行ったり、より詳しい画像検査(CT、MRIなど)を検討したりします。
  • 一般的な貧血の原因が否定された場合: 腎性貧血、血液疾患、溶血性貧血、内分泌疾患、稀な遺伝性疾患など、鉄欠乏性貧血以外の原因をより深く探る必要があります。
    血液内科の専門医や、必要に応じて腎臓内科、内分泌内科などの専門医への紹介が必要になることがあります。
  • 骨髄検査が必要な場合: 再生不良性貧血や骨髄異形成症候群、白血病など、骨髄の異常が疑われる場合は、骨髄液や骨髄組織を採取して詳しく調べる骨髄検査が不可欠です。

原因不明の貧血と言われた場合でも、症状がある限り、あるいはヘモグロビン値が改善しない限り、諦めずに専門医の診察を受け、必要な検査を続けることが重要です。
原因を正確に特定することが、適切な治療への第一歩となります。

まとめ:男性の貧血は原因特定が重要、早期発見のために医療機関へ相談を

男性の貧血は女性に比べて少ないものの、その背景には消化管からの出血(胃潰瘍、大腸ポリープ、大腸がんなど)や、腎臓病、血液疾患、悪性腫瘍といった、単なる栄養不足ではない重要な病気が隠れている可能性が非常に高いという特徴があります。
貧血は、これらの隠れた病気のサインとして現れていることが多いのです。

立ちくらみ、倦怠感、息切れといった一般的な貧血症状に加えて、筋力低下、集中力低下、性機能低下など、男性で見落とされがちな症状にも注意が必要です。
これらの症状が続いたり、便に血が混じる、血尿がある、原因不明の体重減少といった症状を伴う場合は、単なる体調不良と考えずに、必ず医療機関を受診してください。

貧血の診断は血液検査から始まり、原因を特定するために便潜血検査、内視鏡検査、画像検査、場合によっては骨髄検査などが行われます。
男性貧血の治療は、鉄剤による補充だけでなく、原因となっている病気を根本的に治療することが最も重要です。

日々の生活では、バランスの取れた食事で鉄分を補給し、鉄分の吸収を助ける栄養素(ビタミンCなど)を意識して摂ることが予防や改善に役立ちます。
しかし、自己判断でのサプリメントや市販薬の利用は、原因特定を遅らせたり、鉄過剰症のリスクがあるため避けましょう。

男性の貧血は「男性だから大丈夫だろう」と軽視せず、体の異常を知らせる重要なサインとして真摯に受け止めることが大切です。
早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが、健康を守るために最も重要な行動となります。

免責事項: この記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。
ご自身の症状については、必ず医師や専門家にご相談ください。
情報の利用によって生じた結果について、当サイトは一切の責任を負いかねます。

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