麻疹の初期症状|いつからどんな症状?風邪との見分け方

麻疹は、麻疹ウイルスによって引き起こされる非常に感染力の強い全身性の感染症です。
その初期症状は、風邪と似ているため見過ごされがちですが、迅速な対応が求められる重要なサインです。
麻疹は時に重篤な合併症を引き起こす可能性があり、特にワクチン未接種者や免疫力の低い人が感染すると危険です。
この病気を早期に発見し、適切な対応をとるためには、初期症状を正しく理解することが非常に重要となります。
この記事では、麻疹の初期症状について、その特徴的な経過や他の病気との違い、そして感染が疑われる場合の受診目安について詳しく解説します。

麻疹 初期症状

目次

麻疹の潜伏期間とは

麻疹ウイルスに感染してから症状が現れるまでの期間を潜伏期間といいます。
この潜伏期間は、麻疹という病気の理解において非常に重要な要素の一つです。
感染源との接触から実際に体調の変化に気づくまでの間にウイルスが体内で増殖し、次の病期へ移行するための準備が進められます。

感染から初期症状までの期間

麻疹の標準的な潜伏期間は、ウイルスに感染してから約10日から12日間とされています。
ただし、個人差があり、短い場合は7日程度、長い場合は14日程度となることもあります。
この期間、感染者は自覚症状がないため、感染したことに気づかない場合がほとんどです。
しかし、潜伏期間の後半、特に発疹が出現する数日前(通常は発熱が始まった頃)からは、すでに周囲の人にウイルスをうつす可能性があります。
これは、ウイルスが体内で十分に増殖し、気道分泌物などに排出され始めるためです。

潜伏期間中は、感染者が日常生活を送る中で無意識のうちにウイルスを拡散してしまうリスクがあるため、麻疹の感染拡大を防ぐ上でこの潜伏期間の特性を知っておくことが非常に重要です。
ウイルスは主に呼吸器系の細胞に感染し、増殖を繰り返します。
体内の免疫システムがウイルスを認識し、防御反応を開始するまでの間、ウイルスは静かにその数を増やしていきます。
そして、ウイルスの量が一定レベルに達すると、いよいよ初期症状として体に現れ始めます。

潜伏期間の長さは、ウイルスの量、感染経路、個人の免疫状態など様々な要因によって影響を受ける可能性があります。
例えば、一度ワクチンを接種しているが十分な免疫ができていない場合(不完全な免疫がある場合)、潜伏期間が少し長くなることや、症状が非典型的になる「修飾麻疹」となることがあります。

潜伏期間を正確に把握することは、感染源の特定や濃厚接触者の健康観察を行う上でも不可欠です。
学校や職場などで麻疹患者が発生した場合、最後に接触した日から最長潜伏期間(約14日間)は健康状態に注意を払う必要があります。

麻疹の初期症状(カタル期)の特徴

潜伏期間を経て最初に現れる症状の時期を「カタル期」と呼びます。
このカタル期は、麻疹の病気の始まりであり、その症状が風邪と非常に似ているため、麻疹であると気づかれにくい時期でもあります。
カタル期は一般的に2日から4日間続きます。
この時期は、主に呼吸器系や目の粘膜に症状が現れることから「カタル(粘膜の炎症による分泌物)期」と呼ばれます。

初期に出やすい症状

カタル期に最も一般的で注意すべき症状は、発熱、咳、鼻水、そして目の充血です。
これらの症状は、多くのウイルス感染症、特に一般的な風邪やインフルエンザの症状と区別がつきにくいため、診断が遅れる原因となることがあります。
しかし、麻疹の場合、これらの症状にはいくつかの特徴があります。

発熱
麻疹の発熱は、カタル期を通じて比較的高い熱が出やすいという特徴があります。
多くの場合、38℃以上の熱が突然現れます。
熱はカタル期の間中続き、一度少し下がったように見えても、発疹が出現する頃に再び39℃から40℃といった高熱になることがよくあります。
このような二峰性の発熱経過は、麻疹の可能性を示唆する重要なサインの一つです。
発熱に伴い、全身の倦怠感やだるさを強く感じることが一般的です。
食欲不振を伴うこともあります。

咳・鼻水
カタル期には、咳や鼻水も一般的な症状です。
咳は乾いた、コンコンという咳で始まることが多いですが、炎症が進むにつれてひどくなり、粘り気のある痰が絡むようになることもあります。
時には犬が吠えるような特徴的な咳になることもあります。
鼻水は透明で水っぽいものから、徐々に粘り気のあるものに変化することがあります。
これらの症状は、気道全体の粘膜の炎症によって引き起こされます。
咳やくしゃみは、麻疹ウイルスが空気中に拡散される主要な手段となるため、感染拡大の観点からも重要な症状です。

目の充血(結膜炎)
麻疹のカタル期には、目の症状も高頻度で現れます。
具体的には、目の充血(結膜炎)、目やに、そして光をまぶしく感じる(羞明)といった症状が見られます。
目が赤くなり、涙や目やにが多く出ることで、目が開けにくくなることもあります。
光を避けたがるようになるのも特徴的です。
これらの目の症状は、ウイルスの直接的な感染や全身の炎症反応によって引き起こされます。
目が赤く充血している様子は、麻疹患者を識別する手がかりの一つとなることがあります。

これらの初期症状(発熱、咳、鼻水、目の充血)だけでは、麻疹を特定することは困難です。
しかし、これらの症状が揃って見られる場合や、周りで麻疹の発生情報がある場合、あるいは麻疹のワクチンを接種していない人がこれらの症状を呈した場合には、麻疹の可能性を疑い、慎重な対応が必要となります。

口の中にできる白い斑点(コプリック斑)

麻疹の初期症状の中でも、診断において特に重要かつ特徴的なサインとなるのが「コプリック斑」です。
これは麻疹に特有の症状であり、他のウイルス感染症では見られないため、麻疹の早期診断に役立ちます。

コプリック斑の出現時期と特徴
コプリック斑は、カタル期の終わり頃、具体的には発疹が出現する1~2日前に現れることが多いです。
場所は主に口の中の頬の粘膜、特に下の奥歯(臼歯)の対側のあたりによく見られますが、口の中全体や唇の裏側に見られることもあります。

コプリック斑の見た目の特徴は、直径1mm程度の小さく、白っぽい点状の斑点であることです。
この白い点の周囲は、赤く縁取られているのが典型的です。
まるで砂を撒いたような、あるいは塩の結晶が付いているような見た目と表現されることもあります。
触っても硬さはなく、表面は平らです。

コプリック斑は麻疹に非常に特徴的な症状ですが、出現している期間が非常に短いという特徴もあります。
通常、発疹が出現すると同時に消えてしまうか、発疹が出てから2日以内には見えなくなってしまいます。
そのため、医師が診察するタイミングによっては、すでに見えなくなっていることも少なくありません。
しかし、カタル期にこのコプリック斑を確認できれば、その時点で麻疹である可能性が非常に高いと判断することができます。

このコプリック斑は、麻疹ウイルスの感染によって口の中の粘膜の細胞が破壊されることで生じると考えられています。
発熱や咳、鼻水といった症状に加えて、口の中にこのような特徴的な白い斑点が見られた場合は、麻疹を強く疑い、速やかに医療機関に相談することが不可欠です。
コプリック斑の有無を確認するために、明るい場所で口の中を注意深く観察することが推奨されます。

初期症状から発疹期への経過

麻疹は病期が明確に分かれて進行する特徴があります。
カタル期(初期症状の時期)の後に続くのが、最も麻疹らしい症状が現れる発疹期です。
この時期への移行は、病状が進行していることを示し、感染力もピークを迎える時期でもあります。

発疹が出始める時期と広がり方

カタル期が2〜4日続いた後、体温が再び上昇し、発疹が出現し始めます
発疹は、通常、耳の後ろや顔(特に額や髪の生え際)から現れ始めます。
これは、麻疹ウイルスが血液に乗って全身に運ばれ、皮膚の毛細血管に到達することで炎症反応を引き起こすためです。

発疹は、最初の出現場所からわずか1〜2日という短い間に、首、体幹(胸やお腹、背中)、腕、そして最後に足の先まで、全身に急速に広がっていきます。
まるで波が打ち寄せるように上から下へと広がっていくのが特徴です。

発疹の性状も特徴的です。
最初は小さく、赤く少し盛り上がった斑点として現れますが、次第に隣接する発疹と融合して、大きな紅い斑(斑丘疹)を形成していきます。
皮膚を指で押しても、赤みが消えにくいことが一般的です。
発疹が全身に広がるにつれて、皮膚全体が赤く見えるようになります。
特に顔や体幹は発疹が密に現れる傾向があります。

発疹期の症状

発疹が出現する発疹期は、麻疹の症状が最も重くなる時期でもあります。

発疹の出現と同時に、カタル期に一度下がった熱が再び急上昇し、39℃から40℃、あるいはそれ以上の高熱が数日間(通常は3〜5日)続きます。
この高熱が、全身の倦怠感や不快感をさらに強くします。

カタル期から続いていた咳や鼻水、目の充血といった症状も、この発疹期に最もひどくなることが一般的です。
激しい咳き込みや鼻詰まり、目の痛みや目やにの増加などがみられます。

その他、発疹期にはリンパ節の腫れ(特に首のリンパ節)や、下痢、腹痛などの消化器症状が見られることもあります。
全身の状態は非常に悪く、ぐったりとして食欲もなくなることが多いです。

発疹が全身に広がりきると、症状のピークは過ぎ、徐々に熱が下がり始めます。
熱が下がり始めると、発疹の色が赤紫色や茶色に変化し、盛り上がりがなくなり平坦になっていきます。
この段階を回復期と呼び、発疹は色素沈着を残しながら徐々に消退していきます。
回復期に入ると、咳などの症状も改善に向かいます。

発疹期の高熱や全身状態の悪化は、肺炎や脳炎などの重篤な合併症のリスクが高まる時期でもあります。
そのため、発疹期の患者さんの全身状態を注意深く観察し、異変があればすぐに医療的な対応をとることが非常に重要です。
発疹が出現し始めてから数日間は、最も感染力が高い期間とされています。

麻疹と他の病気(風疹など)の初期症状の違い

麻疹の初期症状は、他の様々な感染症、特に風疹や突発性発疹、伝染性紅斑(リンゴ病)といった発疹を伴う病気と似ているため、見分けることが難しい場合があります。
しかし、症状の経過や特徴に注意することで、ある程度の区別をつけることが可能になります。
特に、麻疹と風疹は症状が似ていることから混同されやすく、どちらも非常に重要な感染症であるため、その違いを理解しておくことは重要です。

風疹の症状との比較

麻疹と風疹は、どちらもウイルス感染による発疹性の疾患ですが、原因となるウイルスも病気の経過も異なります。
症状の主な違いを以下にまとめます。

項目 麻疹 風疹
原因ウイルス 麻疹ウイルス 風疹ウイルス
潜伏期間 約10~12日(7~14日) 約16~18日(14~21日)
カタル期 顕著(2~4日):高熱、激しい咳、鼻水、強い目の充血(羞明を伴う) 軽度または無し:発熱はあっても比較的低い、咳・鼻水・目の充血は軽度
コプリック斑 出現する(診断上重要):カタル期終わり頃に頬粘膜に白点(赤縁) 出現しない
発疹が出現する時期 カタル期症状が出てから2~4日後 発熱と同時か、熱が出てから間もなく
発疹の特徴 赤く盛り上がった斑点(斑丘疹)で、互いに融合しやすい。上から下へ広がる。 小さく平坦な赤い斑点(紅斑)で、融合しにくい。比較的短時間で全身に広がる。
発疹の持続期間 5~7日程度。消える際に色素沈着を残す。 2~3日程度で消える。色素沈着はほとんど残さない。
熱の高さ 高熱(39~40℃以上)が数日間続く。カタル期に一度下がることも。 比較的低い熱(37℃台~38℃台)で、発疹と同時に下がることも多い。
リンパ節の腫れ あまり目立たないか軽度 後頸部や耳介後部のリンパ節が腫れやすい
関節痛 まれ 成人(特に女性)で見られることがある。
合併症 肺炎、脳炎、中耳炎、SSPEなど重篤なものが多い 脳炎や血小板減少性紫斑病などはまれ。妊娠初期の感染による先天性風疹症候群が問題
感染力 非常に強い(空気感染、飛沫感染、接触感染) 比較的強い(飛沫感染、接触感染)

この表からもわかるように、麻疹は風疹に比べて症状が全身的に、より重く現れる傾向があります。
特に高熱の持続、激しい咳、強い目の充血、そしてコプリック斑の出現は、麻疹に特徴的な症状と言えます。
一方、風疹は比較的軽症で済むことが多く、リンパ節の腫れが目立つことや、成人女性では関節痛が見られることがある点が異なります。

診断の重要性

麻疹と他の発疹性疾患、特に風疹を正確に鑑別診断することは極めて重要です。
その理由は複数あります。

  1. 感染力の強さと伝播リスクです。
    麻疹は空気感染するため、非常に感染力が強く、免疫のない集団に入り込むと瞬く間に広がります。
    麻疹患者と診断された場合、速やかに隔離を行い、濃厚接触者の特定と対応(ワクチン接種や健康観察)を行う必要があります。
    誤って風疹など他の疾患と診断してしまうと、麻疹の患者さんが隔離されずに他の人と接触し続け、大規模なアウトブレイクにつながる可能性があります。
  2. 合併症のリスクと重症度です。
    麻疹は肺炎や脳炎といった重篤な合併症を引き起こす可能性が高く、死亡に至るケースもゼロではありません。
    特に乳幼児や免疫不全の患者さん、妊婦さんなどが感染するとリスクが高まります。
    正確な診断に基づき、適切な治療や全身管理を行うことが、これらの合併症を防ぎ、患者さんの命を守るために不可欠です。
  3. 公衆衛生上の対策です。
    麻疹は感染症法で五類感染症に定められており、医師は診断後直ちに保健所に届け出る義務があります。
    保健所は届け出を受けて、感染経路の調査や濃厚接触者への対応指示など、感染拡大防止のための公衆衛生対策を実施します。
    診断が遅れたり誤診したりすると、これらの重要な公衆衛生対策が遅れ、社会全体での感染拡大を招くことになります。

症状だけでこれらの病気を区別するのは難しいため、麻疹が疑われる場合は、血液検査やウイルス検査(咽頭ぬぐい液や尿など)による確定診断が重要になります。
特に、典型的な症状が見られない場合や、ワクチン接種歴が不明確な場合など、診断に迷うケースでは検査が不可欠です。

麻疹の初期症状が見られた場合、自己判断せずに速やかに医療機関に相談し、正確な診断を受けることが、患者さん自身の回復のためにも、周囲への感染拡大を防ぐためにも、社会全体の健康を守るためにも、極めて重要となります。

麻疹が疑われる場合の受診目安

麻疹は感染力が非常に強く、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、麻疹が疑われる症状が見られた場合には、迅速かつ慎重な対応が求められます。
自己判断で様子を見たり、一般的な医療機関にそのまま受診したりすることは、周囲への感染を広げるリスクがあるため避ける必要があります。

いつ医療機関に行くべきか

麻疹の初期症状である発熱、咳、鼻水、目の充血などが現れ、特に以下のような状況に当てはまる場合は、麻疹を強く疑い、医療機関への受診を検討すべきです。

  1. これらの症状が数日続き、改善の兆しが見られない場合。
  2. 発熱に加え、口の中に白い斑点(コプリック斑の可能性)が見られる場合。
  3. これらの症状に続いて、体に発疹が出現し始めた場合、特に顔や耳の後ろから始まり全身に広がっていくような経過の場合。
  4. 周囲で麻疹の発生が確認されている、または海外渡航歴など、麻疹ウイルスに曝露した可能性がある場合。
  5. 麻疹の予防接種(MRワクチン)を一度も受けたことがない、または接種回数が不明確な人がこれらの症状を呈した場合。
  6. 乳幼児や妊婦、免疫不全の方など、麻疹に感染した場合に重症化するリスクが高い人がこれらの症状を呈した場合。

これらのサインが見られた場合は、「ただの風邪ではないかもしれない」と疑い、速やかに医療機関に相談することが重要です。
特に、発疹が出現した後は麻疹である可能性がさらに高まります。

受診時の注意点

麻疹が疑われる場合の医療機関への受診には、感染拡大を防ぐための特別な注意が必要です。

最も重要な点は、医療機関に到着する前に、必ず事前に電話で連絡を入れることです。
症状や麻疹の可能性について伝え、受診しても良いか、受診方法について指示を仰いでください。
多くの医療機関では、麻疹が疑われる患者さんに対して、他の患者さんとの接触を避けるための特別な案内(例:別の入口から入る、隔離された待合室を利用する、特定の時間帯に来院する)を行っています。
医療機関の指示に従うことが、院内での感染拡大を防ぐために極めて重要です。

受診時、そして医療機関への移動中は、必ずマスクを着用してください。
麻疹は空気感染もするため、マスクだけでは完全に予防できませんが、飛沫による感染リスクを減らすことができます。

医療機関への移動手段も考慮が必要です。
公共交通機関(電車、バス、タクシーなど)を利用すると、不特定多数の人に感染を広げるリスクがあります。
可能な限り、自家用車を利用するか、医療機関に相談して代替手段についてアドバイスを受けてください。
自家用車での移動が難しい場合は、医療機関への事前連絡でその旨を伝え、どのように受診すれば良いか指示を仰ぎましょう。

また、麻疹は診断されると直ちに保健所への届け出が必要となる感染症です。
受診時には、症状が現れた時期、経過、ワクチン接種歴、海外渡航歴、周囲での麻疹の発生情報などを正確に医師に伝えることが、迅速な診断と公衆衛生対策のために役立ちます。

麻疹が疑われる場合は、適切な対応をとることが自分自身と周りの人々を守るために不可欠です。
躊躇せずに医療機関へ連絡し、専門家の指示に従いましょう。

麻疹の感染経路と予防

麻疹ウイルスは、非常に感染力が強いウイルスの一つです。
その感染力の強さから、麻疹患者さんと同じ空間にいただけで、免疫がない人はほとんど感染すると言われています。
麻疹の感染経路とその予防策を理解することは、麻疹の流行を防ぐ上で最も基本的なことです。

感染力の強さ

麻疹ウイルスは、主に以下の3つの経路で感染が広がります。

  1. 空気感染(飛沫核感染): 麻疹の最も主要な感染経路であり、感染力が強い大きな理由です。
    麻疹ウイルスを含む飛沫(咳やくしゃみなどで飛び散る水分)の水分が蒸発してできた小さな粒子(飛沫核)が、空気中を長時間(数時間)漂います。
    この飛沫核を吸い込むことで、同じ部屋にいるだけで感染する可能性があります。
    患者が去った後の部屋でも感染するリスクがあるほどです。
  2. 飛沫感染: 感染者の咳やくしゃみ、会話などによって飛び散る比較的大きな飛沫を、近くにいる人が直接吸い込んだり、目や口の粘膜に付着したりすることで感染します。
    一般的に、飛沫は1〜2メートル程度しか飛ばないとされています。
  3. 接触感染: 感染者の鼻水や目やになどに直接触れたり、ウイルスが付着した物(ドアノブ、手すりなど)に触れた後、自分の手で目、鼻、口などを触ったりすることで感染します。

麻疹ウイルスは非常に小さく、環境中での生存能力も比較的高いことから、これらの複数の経路を通じて効率的に人から人へと感染が広がります。
特に、発熱が始まった頃から発疹出現後4~5日までの期間は、感染力が最も高い「最も人にうつしやすい期間」とされています。
この期間の患者さんが、免疫のない人と接触することが、麻疹の流行を招く最大の要因となります。

予防接種(ワクチン)について

麻疹を予防する最も効果的で重要な方法は、予防接種(ワクチン接種)です。
麻疹ワクチンは、生きた麻疹ウイルスを弱毒化した生ワクチンであり、接種することで体内に麻疹ウイルスに対する免疫(抗体)を作ることができます。

日本では、麻疹の予防接種は麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)として定期接種が行われています。
これは、麻疹と風疹の両方を同時に予防できるワクチンです。
麻疹の感染力の強さや重篤な合併症のリスク、そして風疹の感染力や妊娠初期の女性が感染した場合の先天性風疹症候群のリスクを考慮して、MRワクチンによる2回接種が推奨されています。

定期接種の対象者と標準的な接種スケジュールは以下の通りです。

  • 第1期: 生後1歳から2歳未満(通常、生後12〜15ヶ月の間)
  • 第2期: 小学校就学前1年間(小学校入学の1年前の4月1日から入学年の3月31日までの間)

この2回の接種によって、麻疹に対する高い免疫を獲得し、その免疫は長期にわたり持続すると考えられています。
多くの研究で、2回の接種を完了することで、麻疹に対する予防効果は95%以上に達すると報告されています。

また、定期接種の対象年齢を過ぎてしまった人や、自分が麻疹にかかったことがあるか、予防接種を受けたことがあるか(そして十分な免疫があるか)不明な人、あるいは1回しか接種を受けていない人に対しては、「キャッチアップ接種」として、追加のMRワクチン接種が推奨されています。
特に、医療従事者、教育関係者、海外渡航予定者など、麻疹に感染するリスクや感染を広げるリスクが高いと考えられる人は、抗体検査で免疫の有無を確認し、免疫がない場合はワクチン接種を検討することが重要です。

麻疹の予防接種は、個人の感染を防ぐだけでなく、社会全体での麻疹の流行を防ぐためにも不可欠です。
多くの人が免疫を持つことで、「集団免疫」が形成され、ワクチンを接種できない乳児や免疫不全の人々を麻疹から守ることにつながります。

手洗いやマスク着用といった一般的な感染対策は、飛沫感染や接触感染に対してはある程度の効果がありますが、空気感染を防ぐことはできません。
麻疹の感染を防ぐためには、予防接種による免疫獲得が最も確実な方法であることを理解しておきましょう。

麻疹の合併症のリスク

麻疹は単なる発疹性の疾患ではなく、特にワクチン未接種者が感染した場合、様々な重篤な合併症を引き起こすリスクが高い病気です。
合併症は、症状が出現してから回復するまでのどの段階でも起こり得ますが、特に発疹期に全身状態が悪化している時に注意が必要です。

肺炎

肺炎は、麻疹の合併症として最も頻繁にみられるものです。
麻疹ウイルス自体が肺に感染して肺炎を起こす場合(ウイルス性肺炎)と、麻疹によって体の免疫力が低下したところに細菌などが二次感染して肺炎を起こす場合(細菌性肺炎)があります。

麻疹による肺炎は、特に乳幼児や高齢者、免疫不全の人で重症化しやすい傾向があります。
症状としては、高熱の持続、激しい咳、呼吸困難、胸の痛みなどが見られます。
呼吸状態が悪化し、酸素投与や人工呼吸器が必要になることもあります。
麻疹による死亡例の多くは、肺炎が原因とされています。

肺炎の発生を早期に察知し、適切な治療(細菌性肺炎の場合は抗生物質投与など)を開始することが、予後を改善するために重要です。
発疹期の患者さんの呼吸状態には特に注意を払う必要があります。

脳炎

脳炎は、肺炎に比べると発生頻度は低いですが、麻疹の合併症の中で最も重篤なものの一つです。
麻疹ウイルスが直接脳に感染して炎症を起こす「麻疹脳炎」と、麻疹に感染した数年後から10年後に発症する非常にまれな神経疾患である「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」があります。

  • 麻疹脳炎: 発疹が出現してから数日後から2週間以内に発症することが多いです。
    症状は高熱、頭痛、意識障害、けいれん、麻痺などです。
    重度の後遺症が残ったり、死亡したりするリスクが高い合併症です。
    早期の診断と集中治療が必要です。
  • 亜急性硬化性全脳炎(SSPE): 麻疹に感染してから数年〜10年(平均7年)の長い潜伏期間を経て発症する、進行性の神経疾患です。
    小児期に麻疹にかかった人が、学童期以降に発症することがほとんどです。
    初期は学業不振や性格の変化といった軽い症状から始まりますが、次第にミオクローヌス(ぴくつき)、歩行障害、視力障害、認知機能の低下などが進行し、最終的には寝たきりとなり、数年で死に至る非常に予後不良な病気です。
    SSPEに対する有効な治療法は確立されていません。
    SSPEを予防する唯一の方法は、麻疹にかからないこと、すなわち麻疹の予防接種を受けることです。

SSPEは麻疹患者10万人に数人という非常にまれな合併症ですが、一度発症すると治療法がなく死に至る恐ろしい病気であるため、麻疹の予防がいかに重要であるかを改めて認識させられます。

その他合併症

麻疹は全身の様々な臓器に影響を及ぼす可能性があるため、肺炎や脳炎以外にも様々な合併症を引き起こすことがあります。

  • 中耳炎: 比較的頻度の高い合併症です。
    特に乳幼児で起こりやすく、発熱や耳の痛みを引き起こします。
    難聴につながる可能性もあります。
  • クループ(喉頭気管気管支炎): 喉や気管の炎症により、声枯れや犬が吠えるような特徴的な咳(ケンケン咳)、呼吸困難を引き起こします。
  • 心筋炎: 心臓の筋肉に炎症が起こる合併症で、不整脈や心不全を引き起こす可能性があります。
  • 腸炎: 下痢や腹痛といった消化器症状がみられることがあります。
    脱水症状に注意が必要です。
  • 角膜潰瘍: 目の炎症が重度になると、角膜に潰瘍ができ、視力障害の原因となることがあります。
  • 免疫抑制: 麻疹ウイルスは免疫細胞に感染し、一時的に体の免疫機能を低下させます。
    これにより、肺炎以外の様々な細菌やウイルスによる二次感染を起こしやすくなります。

これらの合併症は、麻疹患者さんの状態をさらに悪化させ、回復を遅らせたり、後遺症を残したり、最悪の場合には命を奪ったりする可能性があります。
麻疹の予防接種は、これらの恐ろしい合併症を防ぐためにも極めて重要です。
特に、乳幼児期の適切なタイミングでの2回の予防接種は、麻疹とその重篤な合併症から子どもたちを守るための最善の方法です。

まとめ:麻疹 初期症状を正しく理解し早期対応を

麻疹の初期症状は、発熱、咳、鼻水、目の充血といった、よくある風邪の症状と非常に似ています。
このため、病気の初期段階で麻疹であると気づくことは容易ではありません。
しかし、カタル期と呼ばれるこの初期症状の時期を経て、口の中に麻疹に特徴的な白い斑点「コプリック斑」が現れ、その後、顔から始まり全身に広がる発疹が出現するという、特徴的な経過をたどることが多いのが麻疹の特徴です。
特に、発疹が出現する頃には高熱が再び見られることが一般的です。

麻疹は、空気感染するほど感染力が非常に強く、免疫を持たない人が感染すると、肺炎や脳炎といった重篤な合併症を引き起こすリスクが高い危険な病気です。
特に、幼い子どもや免疫力の低い人、妊婦などが感染すると重症化しやすく、命に関わることもあります。
また、感染から数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という、治療法がなく死に至る進行性の脳の病気を引き起こす可能性もゼロではありません。

これらのリスクを回避し、麻疹の感染拡大を防ぐためには、麻疹の初期症状を正しく理解し、少しでも感染が疑われる場合には迅速かつ適切な行動をとることが非常に重要です。

  • 発熱や咳、鼻水、目の充血といった症状が数日続く場合
  • 口の中に白い斑点が見られる場合
  • 体に発疹が出現し始めた場合
  • 麻疹の流行情報がある地域にいたり、ワクチン未接種であったりする場合

これらの状況に当てはまる場合は、「もしかしたら麻疹かもしれない」と疑い、すぐに医療機関に相談してください。
受診する際は、必ず事前に医療機関に電話で連絡し、麻疹の可能性や症状について伝え、受診方法の指示を仰ぐようにしましょう。
これは、他の患者さんや医療スタッフへの感染を防ぐために不可欠なステップです。
公共交通機関の利用は可能な限り避け、マスクを着用して受診しましょう。

麻疹に対する最も効果的な予防策は、予防接種(MRワクチン)です。
日本では定期接種として、生後1歳と小学校入学前の2回接種が推奨されています。
この2回の接種により、麻疹に対する高い免疫を獲得し、感染や重症化、そして恐ろしい合併症から身を守ることができます。
定期接種を受けていない方や、免疫があるか不明な方は、医療機関で相談し、ワクチン接種を検討することを強くお勧めします。

麻疹は、早期発見と適切な対応、そして最も重要な予防策であるワクチン接種によって防ぐことができる病気です。
自分自身と大切な人、そして社会全体を麻疹から守るために、正しい知識を持ち、適切な行動を心がけましょう。

【免責事項】
この記事は麻疹の初期症状に関する一般的な情報提供を目的としており、病気の診断や治療に関する医療的なアドバイスを意図したものではありません。
ご自身の症状について不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
この記事の情報に基づいて行った行動によって生じた、いかなる結果についても、当方は一切責任を負いません。

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