血圧が高いというと、一般的に上の血圧(収縮期血圧)に注目が集まりがちですが、下の血圧(拡張期血圧)が高いことも、健康上の重要なサインです。
特に下の血圧が高い状態は、年齢によって異なる原因やリスクが潜んでいることがあります。
この記事では、血圧の下が高い状態がなぜ起こるのか、その基準や放置するリスク、そして改善のための具体的な対策について、分かりやすく解説します。
ご自身の血圧や健康状態に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
血圧の下(拡張期血圧)とは?
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことです。
心臓が収縮して全身に血液を送り出すとき、血管にかかる最も高い圧力を「収縮期血圧(最高血圧)」と呼びます。
一方、心臓が拡張して血液を血管に取り込むとき、血管にかかる最も低い圧力を「拡張期血圧(下の血圧)」と呼びます。
収縮期血圧は心臓のポンプ機能や心拍出量に強く影響されやすいのに対し、拡張期血圧は主に末梢血管の弾力性や血液の戻りやすさに影響を受けやすいとされています。
特に、血管のしなやかさが失われ硬くなると、心臓が拡張している時でも血管の壁にかかる圧力が下がりにくくなります。
最高血圧(収縮期血圧)との違い
最高血圧(収縮期血圧)は、心臓が収縮して血液を勢いよく送り出したときの圧力です。
この値が高い場合は、心臓がより強い力で血液を送り出している、あるいは大血管が硬くなっているなどが考えられます。
対して、下の血圧(拡張期血圧)は、心臓が拡張して血液を吸い込んでいるときの圧力です。
この値が高い場合は、末梢の細い血管が収縮していたり、硬くなっていたりする可能性が考えられます。
特に若い世代では、動脈硬化が進んでいないにも関わらず、交感神経の緊張などによって末梢血管が収縮し、拡張期血圧が高くなるケースが見られます。
このように、最高血圧と最低血圧はそれぞれ異なる要因によって変動するため、両方の数値をバランス良く確認することが重要です。
血圧の正常値(家庭血圧・診察室血圧)
血圧の正常値は、測定する場所によって基準が異なります。
これは、医療機関での測定時には緊張などにより血圧が高くなる「白衣高血圧」という現象があるためです。
以下の表は、日本高血圧学会が推奨する血圧の正常値基準です。
測定場所 | 収縮期血圧(上の血圧) | 拡張期血圧(下の血圧) |
---|---|---|
診察室血圧 | 120mmHg未満 | 80mmHg未満 |
家庭血圧 | 115mmHg未満 | 75mmHg未満 |
家庭血圧は、リラックスした状態で繰り返し測定できるため、日頃の血圧の変動を把握しやすく、診断や治療方針の決定において非常に重要視されています。
特に早朝や夜間の家庭血圧を測定することで、診察室血圧だけでは見つけにくい「仮面高血圧」(診察室では正常だが家庭では高い)や「早朝高血圧」などの状態を把握できます。
血圧 下が高い状態(拡張期高血圧)の基準
血圧の下が高い状態、すなわち拡張期高血圧は、特定の基準値を超えた場合に診断されます。
日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室血圧で拡張期血圧が90mmHg以上、または家庭血圧で拡張期血圧が85mmHg以上の場合に高血圧と診断されます。
このうち、収縮期血圧は正常範囲内であるにも関わらず、拡張期血圧だけが高い状態を「孤立性拡張期高血圧」と呼ぶこともあります。
分類 | 収縮期血圧(上の血圧) | 拡張期血圧(下の血圧) |
---|---|---|
正常高値血圧 | 120-129mmHg | 80mmHg未満 |
高値血圧 | 130-139mmHg | 80-89mmHg |
Ⅰ度高血圧 | 140-159mmHg | 90-99mmHg |
Ⅱ度高血圧 | 160-179mmHg | 100-109mmHg |
Ⅲ度高血圧 | 180mmHg以上 | 110mmHg以上 |
孤立性収縮期高血圧 | 140mmHg以上 | 90mmHg未満 |
※上記は診察室血圧の基準です。家庭血圧の基準は異なります。
下の血圧が90mmHg以上のリスク
診察室血圧で下の血圧が90mmHg以上、あるいは家庭血圧で85mmHg以上の場合、これは高血圧の基準に該当します。
この状態が続くと、血管や心臓に負担がかかり続け、将来的に様々な病気のリスクが高まります。
拡張期血圧が高い状態は、特に若い世代や比較的初期の高血圧で見られることが多いとされています。
これは、まだ動脈硬化がそれほど進んでいない段階で、末梢血管の収縮やその他の要因が影響している可能性があるためです。
しかし、たとえ収縮期血圧が正常範囲内であっても、拡張期血圧が高いだけで、心血管疾患のリスクが上昇することが研究で示されています。血管が常に高い圧力を受けている状態は、血管の内壁を傷つけ、動脈硬化の進行を早める原因となります。
下の血圧が100mmHgを超える場合
診察室血圧で下の血圧が100mmHgを超える、あるいは家庭血圧で95mmHgを超える場合は、高血圧の中でも比較的重度な段階(Ⅱ度高血圧以上)に分類されます。
このレベルになると、血管や心臓への負担はさらに大きくなり、脳卒中や心筋梗塞、腎不全といった重篤な合併症を引き起こすリスクが飛躍的に高まります。
下の血圧が100mmHgを超えるような高い値を示す場合は、速やかに医療機関を受診し、医師の診断と適切な治療を受けることが非常に重要です。
放置すると、取り返しのつかない事態につながる可能性があります。
血圧 下が高い原因
血圧の下が高い、つまり拡張期高血圧の原因は一つではありません。
様々な要因が複合的に関わっていることが多く、年齢層によっても主な原因が異なる場合があります。
原因1:末梢血管の硬化(動脈硬化)
拡張期血圧が高い主な原因の一つに、末梢血管の硬化があります。
心臓から送り出された血液は、大動脈から枝分かれし、次第に細い血管(末梢血管)へと流れていきます。
健康な血管は弾力性があり、心臓が収縮して血液が流れてきたときは少し膨らみ、心臓が拡張して圧力が下がったときは元のサイズに戻ろうと収縮することで、血流をスムーズに保ちます。
しかし、加齢や生活習慣(喫煙、高血糖、脂質異常症など)によって動脈硬化が進むと、血管の壁が厚く硬くなり、弾力性が失われます。
特に末梢の細い血管が硬くなると、心臓が拡張して血液を取り込もうとする際にも血管が十分に広がらず、血管内の圧力が高いまま維持されてしまいます。
これが、下の血圧が高くなる原因の一つです。
末梢血管とは?なぜ硬くなる?
末梢血管とは、心臓から最も遠い位置にある、比較的細い血管の総称です。
具体的には、手足の指先や体の末端部分に分布する毛細血管や細動脈などが含まれます。
これらの血管は、全身の細胞に酸素や栄養を届け、老廃物を回収する重要な役割を担っています。
末梢血管が硬くなる原因は、主に以下の通りです。
- 加齢: 血管の弾力性は年齢とともに自然に失われていきます。
- 高血圧: 高い血圧そのものが血管の内壁にダメージを与え、動脈硬化を促進します。
- 高血糖(糖尿病): 血糖値が高い状態が続くと、血管の壁が損傷しやすくなります。
- 脂質異常症(高コレステロール): 血管の壁に悪玉コレステロールなどが蓄積し、血管を狭く硬くします。
- 喫煙: タバコの有害物質は血管を収縮させ、内壁を傷つけます。
- 肥満: 特に内臓脂肪が多いと、高血圧や脂質異常症、糖尿病などを引き起こしやすく、血管に負担がかかります。
- 運動不足: 血行が悪くなり、血管の健康が損なわれやすくなります。
- ストレス: 交感神経が優位になり、血管が収縮しやすい状態が続きます。
これらの要因が複合的に作用することで、末梢血管の硬化が進み、拡張期血圧の上昇につながるのです。
原因2:ホルモン異常など二次性高血圧の可能性
高血圧の中には、特定の病気が原因で起こる「二次性高血圧」と呼ばれるものがあります。
二次性高血圧は、原因となる病気を治療することで高血圧が改善される可能性があります。
血圧の下が高い場合も、二次性高血圧が隠れている可能性を考慮する必要があります。
拡張期高血圧を引き起こす可能性のある二次性高血圧の原因としては、以下のようなものがあります。
- 原発性アルドステロン症: 副腎から血圧を上げる作用のあるホルモン(アルドステロン)が過剰に分泌される病気です。高血圧の他に、カリウムが少なくなる「低カリウム血症」を伴うことがあります。
- 褐色細胞腫: 副腎髄質などにできる腫瘍で、血圧を上げるカテコールアミンというホルモンが過剰に分泌されます。発作的に血圧が急上昇したり、持続的に高血圧になったりします。動悸、頭痛、発汗などの症状を伴うこともあります。
- クッシング症候群: 副腎からコルチゾールというホルモンが過剰に分泌される病気です。高血圧、高血糖、肥満(中心性肥満)、皮膚の線条などが特徴です。
- 腎血管性高血圧: 腎臓につながる動脈が狭くなることで、腎臓が血圧を上げるホルモン(レニン)を過剰に分泌し、高血圧を引き起こします。
- 睡眠時無呼吸症候群: 睡眠中に何度も呼吸が止まったり弱くなったりする病気です。低酸素状態になることで交感神経が刺激され、血圧が上昇します。夜間の高血圧や、薬が効きにくい高血圧の原因となることがあります。
- 甲状腺機能亢進症: 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。心拍数増加や発汗に加え、収縮期血圧が上昇し、拡張期血圧が低下する「脈圧開大」が典型的ですが、初期や一部のケースでは拡張期血圧も上昇することがあります。
特に、若い年齢で高血圧になった場合、急に血圧が高くなった場合、標準的な降圧薬が効きにくい場合などは、二次性高血圧の可能性を疑い、詳しい検査を行うことがあります。
高齢者と若年層での原因の違い
血圧、特に収縮期血圧と拡張期血圧のバランスは、年齢によって変化する傾向があります。
- 高齢者: 加齢とともに大動脈などの太い血管が硬くなりやすいため、心臓が収縮したときに血管が十分に広がらず、収縮期血圧が高くなりやすい傾向があります。一方、末梢血管も硬くなるため拡張期血圧も高い場合がありますが、大血管の硬化の方が顕著な場合、拡張期血圧はむしろ低下し、「孤立性収縮期高血圧」となるケースが多く見られます。
- 若年層: 若い世代では、まだ動脈硬化がそれほど進んでいないことが多いです。この年代で下の血圧が高い場合、原因として以下の可能性が考えられます。
- 交感神経の緊張: ストレス、睡眠不足、喫煙、カフェインの過剰摂取などによって交感神経が活発になり、末梢血管が収縮し、拡張期血圧が上昇することがあります。
- 肥満やメタボリックシンドローム: 若い世代でも食生活の乱れや運動不足による肥満が増えており、これがインスリン抵抗性などを引き起こし、血管に悪影響を及ぼすことがあります。
- 二次性高血圧: 前述のホルモン異常などが、若い世代で発見されることもあります。
若年層で下の血圧が高い理由
若年層で拡張期血圧が高い主な理由は、血管自体は比較的しなやかさを保っているものの、自律神経のバランスの乱れや特定の生活習慣によって末梢血管が一時的、あるいは慢性的に収縮していることが挙げられます。
- ストレス: 仕事や学業、人間関係などの精神的ストレスは、交感神経を緊張させ、血管を収縮させます。
- 睡眠不足: 睡眠不足は自律神経の乱れを引き起こし、血圧を上昇させやすい状態を作ります。
- 運動不足: 運動不足は血行を悪化させ、血管の柔軟性を低下させる可能性があります。
- 喫煙: タバコに含まれるニコチンは、血管を強く収縮させる作用があります。
- アルコール: 過剰なアルコール摂取は血圧を上昇させます。
- カフェイン: 多量のカフェイン摂取も一時的に血圧を上昇させることがあります。
これらの要因は、若い世代では比較的コントロールしやすいものも含まれます。
そのため、若年層で拡張期血圧が高い場合は、まず生活習慣の見直しが重要な対策となります。
ただし、二次性高血圧の可能性もゼロではないため、一度は医療機関で相談することが推奨されます。
女性特有の血圧 下が高い原因
女性の場合、ライフステージにおけるホルモンバランスの変化が血圧に影響を与えることがあります。
- 妊娠: 妊娠中は、妊娠高血圧症候群という病態により血圧が上昇することがあります。これは主に収縮期血圧と拡張期血圧の両方が上昇しますが、拡張期血圧の上昇が目立つこともあります。
- 更年期: 閉経前後から女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少します。エストロゲンには血管を保護し、しなやかに保つ働きがあるため、その減少によって血管が硬くなりやすくなり、血圧が上昇することがあります。更年期以降は、収縮期高血圧が多く見られる傾向がありますが、拡張期高血圧も無関係ではありません。
- 経口避妊薬: 一部の経口避妊薬は、血圧をわずかに上昇させる可能性があります。もともと血圧が高い方や、血圧が上昇しやすい体質の方は注意が必要です。
これらの要因は、女性特有の健康管理において考慮すべき点となります。
下の血圧がなかなか下がらない理由
下の血圧がなかなか下がらない場合、いくつかの理由が考えられます。
- 原因が複数絡み合っている: 生活習慣の乱れ(喫煙、肥満など)に加えて、軽度の末梢血管硬化や自律神経の乱れなどが複合的に作用している可能性があります。一つの対策だけでは十分な効果が得られないことがあります。
- 隠れた二次性高血圧: 前述のホルモン異常や腎血管性高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの二次性高血圧が原因である場合、原因疾患を治療しない限り、血圧を下げるのが難しいことがあります。
- 降圧薬の種類や量が合っていない: 既に降圧薬を服用しているにも関わらず下の血圧が高い場合、処方されている薬の種類や量が、患者さんの体質や高血圧の原因に合っていない可能性があります。特に下の血圧を下げるのに適した種類の薬ではない、あるいは用量が不十分であるなどが考えられます。
- 薬の飲み忘れや自己判断での中止: 医師の指示通りに薬を服用していない場合、血圧は安定しません。
- 生活習慣の改善が不十分: 降圧薬を服用していても、喫煙、過剰な飲酒、塩分の摂りすぎ、運動不足などの生活習慣が改善されていないと、十分な降圧効果が得られないことがあります。
- ストレスの継続: 慢性的なストレスは交感神経を常に緊張させ、血管を収縮させるため、血圧が下がりにくい状態が続きます。
下の血圧が高い状態が続く場合は、自己判断せずに必ず医師に相談し、原因を再評価し、適切な治療法を検討することが重要です。
血圧 下が高いことで起こりうるリスク・症状
血圧の下が高い状態、特に拡張期高血圧は、自覚症状がほとんど現れないことが多いです。
このため、知らない間に健康リスクが進行してしまう危険性があります。
「サイレントキラー(静かなる殺人者)」と呼ばれる高血圧ですが、拡張期高血圧も例外ではありません。
どのような病気につながる?
拡張期血圧が高い状態が長く続くと、全身の血管、特に細い末梢血管に持続的に高い圧力がかかることになります。
これにより血管の内壁がダメージを受け、動脈硬化が促進されます。
動脈硬化は、以下の様々な重篤な病気の原因となります。
- 脳血管疾患:
- 脳梗塞: 脳の血管が詰まり、脳の組織に酸素や栄養が行き渡らなくなる病気です。手足の麻痺、言語障害、意識障害などを引き起こします。
- 脳出血: 脳の血管が破れて脳内に出血する病気です。激しい頭痛、吐き気、麻痺などを引き起こします。
- くも膜下出血: 脳の表面にある血管が破れて脳とそれを覆う膜の間に血液が広がる病気です。「バットで殴られたような」と形容される激しい頭痛が特徴です。
- 心臓病:
- 狭心症・心筋梗塞: 心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりする病気です。胸の痛みや圧迫感を引き起こします。
- 心肥大: 心臓が常に高い圧力に逆らって血液を送り出すため、心臓の筋肉が厚くなります。進行すると心臓の機能が低下し、心不全につながります。
- 心不全: 心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなる状態です。息切れ、むくみ、疲労感などの症状が現れます。
- 腎臓病:
- 腎硬化症: 腎臓の細い血管が動脈硬化によって硬くなり、腎臓の機能が低下する病気です。進行すると慢性腎臓病となり、最終的には透析が必要になることもあります。
- 大動脈瘤・大動脈解離: 全身で最も太い血管である大動脈の壁が弱くなったり裂けたりする病気です。命に関わる緊急性の高い状態です。
- 末梢動脈疾患: 手足などの末梢の血管が動脈硬化で狭くなったり詰まったりする病気です。歩行時に足の痛みやしびれが生じ、進行すると安静時にも痛みが生じたり、潰瘍ができたりします。
拡張期高血圧は、特に若年~中年期における将来的な心血管疾患のリスク因子として重要視されています。
たとえ現時点で症状がなくても、放置せずに適切な管理を行うことが非常に大切です。
脈圧(上と下の血圧の差)が大きいリスク
脈圧とは、収縮期血圧と拡張期血圧の差のことです(脈圧 = 収縮期血圧 – 拡張期血圧)。
例えば、血圧が140/80mmHgの場合、脈圧は60mmHgとなります。
脈圧が大きいということは、心臓が収縮したときと拡張したときで血管にかかる圧力の差が大きいということです。
特に高齢者で収縮期血圧が高く、拡張期血圧が低い「孤立性収縮期高血圧」の場合に脈圧が大きくなることが多いです。
これは、加齢などにより大血管が硬化し、心臓が収縮したときの衝撃を吸収できず、その分、圧力が大きく跳ね上がる一方で、心臓が拡張したときには硬くなった血管が血液を十分に保持できず、圧力が急速に低下するためです。
脈圧が大きい状態も、心血管疾患のリスクを高めることが知られています。
特に、脈圧が60mmHg以上の場合は注意が必要とされています。
これは、硬くなった血管が血液の波を十分に吸収できず、血管や心臓に大きな負担をかけているサインと考えられます。
若年層で拡張期血圧が高い場合は、まだ大血管の硬化は少ないことが多いため、脈圧はそれほど大きくならないこともあります。
しかし、拡張期高血圧自体が末梢血管への負担を示唆するため、やはりリスク管理が必要です。
下の血圧が高いだけなら問題ない?
「上の血圧は正常なのに、下の血圧だけが高い。これって大丈夫?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
結論から言うと、下の血圧が高いだけでも、健康上の問題があり、放置は推奨されません。
かつては、下の血圧が高い方が動脈硬化のリスクが高い、高齢者では上の血圧の方が重要視される、などと考えられていた時期もありました。
しかし、近年の大規模な研究により、収縮期血圧、拡張期血圧のどちらが高くても、あるいは両方高くても、心血管疾患のリスクは上昇することが明確に示されています。
特に、以下の場合は注意が必要です。
- 下の血圧が持続的に90mmHg(家庭血圧なら85mmHg)以上の場合: これは高血圧の基準に該当するため、放置せずに適切な管理が必要です。
- 若い世代で下の血圧が高い場合: 前述のように、ストレスや生活習慣の影響が大きい可能性がありますが、将来の動脈硬化や心血管疾患のリスクを減らすためにも、早期の介入が有効です。
- 下の血圧が高いことに加えて、肥満、脂質異常症、高血糖、喫煙などの危険因子を複数持っている場合: リスクはさらに高まります。
下の血圧が高いだけでも、血管や心臓への負担は確実に蓄積していきます。
自覚症状がないからといって油断せず、健康診断などで指摘された場合は、必ず医療機関に相談し、原因の特定と適切な対策を始めることが大切です。
血圧 下が高い場合の対策・改善方法
血圧の下が高い、拡張期高血圧を改善するためには、原因に応じた対策が必要です。
多くの場合、生活習慣の見直しが有効ですが、必要に応じて薬物療法が検討されることもあります。
生活習慣の改善で血圧を下げる
血圧の下が高い原因が、主に生活習慣の乱れや自律神経のバランスの乱れによるものである場合、生活習慣の改善が非常に重要かつ有効な対策となります。
食事の見直し(減塩、カリウム、食物繊維)
食事は血圧に大きな影響を与えます。
特に以下の点に注意して食事内容を見直しましょう。
- 減塩: 塩分(ナトリウム)を摂りすぎると、体内の水分量が増え、血管にかかる圧力が上昇します。加工食品、インスタント食品、漬物、麺類の汁などに塩分が多く含まれているため、意識的に減らすことが重要です。目標は1日あたり6g未満です。だしや香辛料、レモンなどを活用して薄味に慣れましょう。
- カリウム: カリウムは体内の余分なナトリウムを排泄するのを助ける働きがあり、血圧を下げる効果が期待できます。野菜、果物、海藻、豆類などに豊富に含まれています。積極的に食事に取り入れましょう。ただし、腎臓病などでカリウム制限が必要な場合は、医師や管理栄養士に相談してください。
- 食物繊維: 食物繊維は、コレステロールの吸収を抑えたり、食後の血糖値の上昇を緩やかにしたりする効果があり、動脈硬化予防に役立ちます。また、ナトリウムの排泄を助ける可能性も指摘されています。野菜、果物、きのこ類、海藻、未精製穀物などに多く含まれています。
- 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を控える: これらは悪玉(LDL)コレステロールを増やし、動脈硬化を促進する可能性があります。肉の脂身、バター、生クリーム、インスタントラーメン、菓子パン、マーガリンなどに多く含まれます。
- DASH食: 高血圧予防・改善に効果的な食事法として「DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)」があります。これは、野菜、果物、低脂肪乳製品を多く摂り、全粒穀物、魚、鶏肉、ナッツ類を適量摂り、赤肉、菓子類、砂糖入り飲料、飽和脂肪酸を控えるという食事パターンです。バランスの取れた食事が重要です。
食品群 | 積極的に摂りたい食品 | 控えたい食品 |
---|---|---|
塩分 | だし、香辛料、レモン、酢などによる風味付け | 加工食品、漬物、麺類の汁、塩辛い調味料 |
カリウム | 野菜、果物、海藻、豆類 | (特になし、腎臓病以外) |
食物繊維 | 野菜、果物、きのこ類、海藻、未精製穀物 | (特になし) |
脂質 | 魚、植物油(オリーブオイルなど) | 肉の脂身、バター、揚げ物、菓子パン |
その他 | 低脂肪乳製品 | 赤肉、砂糖入り飲料、菓子類 |
適正体重の維持(BMI25kg/m2未満)
肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、高血圧の大きなリスク因子です。
体重が増加すると、血液量が増えたり、血管を収縮させる物質が増えたりして、血圧が上昇しやすくなります。適正体重(BMI 25kg/m2未満)を維持すること、あるいは適正体重をオーバーしている場合は数キログラム減量するだけでも、血圧を下げる効果が期待できます。
BMIは「体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)」で計算できます。
例えば、身長160cm(1.6m)、体重64kgの方の場合、BMIは 64 ÷ 1.6 ÷ 1.6 = 25 となります。
運動習慣(有酸素運動)
適度な運動は、血圧を下げるのに効果的です。
特にウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動が推奨されます。
有酸素運動を行うと、血管の内皮機能が改善され、血管が拡張しやすくなるため、血圧を下げる効果が期待できます。
また、運動は体重管理やストレス解消にも役立ち、相乗効果で血圧を下げることにつながります。
- 目標: 毎日30分以上、あるいは週に合計150分以上の有酸素運動を目指しましょう。
- 強度: 少し息が上がる程度の「ややきつい」と感じる強さが目安です。会話ができる程度のペースが良いでしょう。
- 継続: 毎日続けることが理想ですが、難しい場合は週3~4回でも効果があります。無理のない範囲で、楽しく続けられる運動を見つけましょう。
運動を始める前に、特に持病がある方や高齢の方は、医師に相談することをお勧めします。
禁煙・節酒
- 禁煙: タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、一時的に血圧を上昇させます。
また、タバコの有害物質は血管の内壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。
喫煙は高血圧だけでなく、心血管疾患やがんなど、様々な病気のリスクを大幅に高めます。禁煙は、血圧を下げるだけでなく、全身の健康にとって最も重要かつ効果的な対策の一つです。 - 節酒: 過剰なアルコール摂取は血圧を上昇させます。
毎日多量に飲む習慣がある方は、飲酒量を減らすことで血圧が下がることが期待できます。
推奨される飲酒量は、男性で日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、焼酎なら0.6合、ワインならグラス2杯程度まで、女性は男性の半分程度です。
週に数日は休肝日を設けることも大切です。
十分な睡眠
睡眠不足は自律神経のバランスを乱し、交感神経を優位にさせ、血圧を上昇させる原因となります。毎日7時間程度の質の良い睡眠をとることを心がけましょう。
規則正しい生活、寝る前のリラックスタイムの確保などが、質の良い睡眠につながります。
水分摂取との関係
水分摂取と血圧の関係は少し複雑です。
一般的に、十分な水分摂取は血液の粘度を下げ、血流をスムーズに保つのに役立ちます。
特に脱水状態は血圧変動を招く可能性があります。
ただし、塩分を多く含んだ飲み物や、アルコール、カフェインの過剰摂取は血圧を上昇させる可能性があります。
高血圧の方の場合、医師から水分制限の指示がある場合を除き、基本的には適度な水分(水やお茶など)を摂ることが推奨されます。
ただし、心不全などで体液貯留が問題となる場合は、水分制限が必要なこともありますので、必ず医師の指示に従ってください。
ストレスマネジメント
慢性的なストレスは、交感神経を刺激し、血管を収縮させ、血圧を上昇させる大きな要因となります。
ストレスを完全に無くすことは難しいですが、ストレスをうまく管理し、軽減するための方法を見つけることが重要です。
- リラクゼーション: 深呼吸、瞑想、ヨガ、ストレッチなど、心身をリラックスさせる時間を作りましょう。
- 趣味や楽しみ: 好きな音楽を聴く、読書をする、映画を見る、友人と話すなど、自分が楽しめる時間を持つことで気分転換を図りましょう。
- 適度な運動: 運動はストレス解消にも非常に効果的です。
- 十分な睡眠: 質の良い睡眠は、ストレスに対する抵抗力を高めます。
- 問題解決: ストレスの原因となっている問題に対し、可能な範囲で解決策を考えたり、周囲に相談したりすることも大切です。
薬物療法について
生活習慣の改善だけでは目標とする血圧値まで下がらない場合や、血圧が非常に高い場合、合併症のリスクが高い場合などは、医師の判断により薬物療法が検討されます。
拡張期高血圧に対して用いられる降圧薬には様々な種類があり、患者さんの年齢、合併症の有無、他の病気や服用中の薬との関係などを考慮して、最適な薬が選択されます。
- カルシウム拮抗薬: 血管を拡張させる作用があり、血圧を下げるのに広く使われます。
- ACE阻害薬・ARB: 血管を収縮させるホルモン(アンジオテンシンⅡ)の働きを抑え、血管を拡張させます。腎臓を保護する作用もあり、腎臓病を合併している場合などに用いられます。
- β遮断薬: 心臓の拍動をゆっくりさせ、心臓から送り出す血液量を減らすことで血圧を下げます。心拍数が高い場合や、狭心症などを合併している場合に用いられることがあります。若い世代で交感神経の緊張が原因と考えられる拡張期高血圧にも効果的な場合があります。
- α遮断薬: 末梢血管を拡張させる作用があります。
- 利尿薬: 体内の余分な水分や塩分を排泄させ、血液量を減らすことで血圧を下げます。
これらの薬は、単独で用いられることもありますが、複数の薬を組み合わせて服用することで、より効果的に血圧をコントロールできる場合もあります。降圧薬は医師の指示通りに服用することが非常に重要です。
自己判断で中止したり、量を調整したりすると、かえって危険な場合があります。
医療機関を受診する目安
「血圧の下が高い」と言われたら、必ずしもすぐに薬が必要なわけではありませんが、一度は医療機関を受診し、詳しい検査を受けて原因やリスクを評価してもらうことが強く推奨されます。
どのような時に受診すべきか?
以下のような場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
- 健康診断などで下の血圧が90mmHg(家庭血圧なら85mmHg)以上を指摘された場合: 特に繰り返し測定しても高い場合は、医療機関を受診しましょう。
- 家庭血圧で下の血圧が持続的に90mmHg(家庭血圧なら85mmHg)を超える場合: ご自身で血圧を測っていて高い値が続く場合は、受診が必要です。
- 下の血圧が100mmHg(家庭血圧なら95mmHg)を超える場合: かなり高い値であり、重篤なリスクが考えられるため、早急に受診してください。
- 血圧が高いことに加えて、頭痛、めまい、動悸などの症状がある場合: 高血圧による症状である可能性があり、注意が必要です。
- 家族に高血圧や心血管疾患の方がいる場合: 遺伝的な要因も関わる可能性があるため、早めに相談しましょう。
- 若い年齢で高血圧を指摘された場合: 二次性高血圧の可能性も考慮し、詳しい検査が必要です。
どの科を受診すれば良いか迷う場合は、まずはかかりつけの内科医に相談するか、高血圧専門医や循環器内科を受診するのが良いでしょう。
医師に相談する際のポイント
医療機関を受診する際には、以下の情報を整理しておくと、医師の診断や治療方針の決定に役立ちます。
- 測定した血圧の値: いつ、どのくらいの血圧だったか、可能であれば家庭血圧の記録(血圧手帳など)を持参しましょう。
- 自覚症状: 頭痛、めまい、動悸、息切れなど、気になる症状があれば伝えましょう。
- 既往歴: 現在かかっている病気や、これまでに経験した大きな病気、手術などを伝えましょう。
- 服用中の薬やサプリメント: 市販薬、漢方、サプリメントも含め、現在服用しているものを全て伝えましょう。お薬手帳を持参するのが便利です。
- アレルギー: これまでに薬や食物などでアレルギー反応を起こしたことがあれば伝えましょう。
- 生活習慣: 食事、運動、喫煙、飲酒、睡眠時間、ストレスの状況など、普段の生活について伝えましょう。
- 家族歴: 両親や兄弟など、ご家族に高血圧、心臓病、脳卒中などの病気があるか伝えましょう。
これらの情報を正確に伝えることで、医師は患者さんの状態をより詳しく把握し、適切な診断や治療法を提案することができます。
遠慮せずに、疑問や不安に感じていることはすべて質問しましょう。
まとめ:血圧 下が高い場合は原因を知り適切な対策を
血圧の下が高い「拡張期高血圧」は、最高血圧ほど注目されないこともありますが、特に若年~中年期において、将来的な心血管疾患のリスクを高める重要なサインです。
主な原因としては、末梢血管の硬化や収縮、自律神経の乱れ、そして稀にホルモン異常などによる二次性高血圧が考えられます。
自覚症状がほとんどないため見過ごされがちですが、放置すると動脈硬化が進行し、脳卒中や心臓病、腎臓病などの重篤な病気につながるリスクが高まります。
もし健康診断などで下の血圧が高いと指摘された場合や、ご自身で測定して高い値が続く場合は、放置せずに必ず医療機関を受診しましょう。
医師は血圧の値だけでなく、年齢、体質、他の病気の有無、生活習慣などを総合的に評価し、高血圧の原因やリスクを特定します。
拡張期高血圧の対策としては、減塩、バランスの取れた食事、適正体重の維持、適度な運動、禁煙、節酒、十分な睡眠、ストレスマネジメントといった生活習慣の改善が基本となります。
これらの対策は、拡張期血圧だけでなく、収縮期血圧の改善や全身の健康にもつながります。
生活習慣の改善だけでは目標値に達しない場合や、リスクが高い場合は、医師の判断により薬物療法が検討されます。
「血圧の下が高いだけだから大丈夫」と自己判断せず、専門家である医師の意見を聞き、ご自身の体の状態を正しく理解することが、健康な将来を守るための第一歩です。
早期に適切な対策を行うことで、高血圧による合併症を防ぎ、健康寿命を延ばすことができます。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の健康状態については、必ず医師にご相談ください。