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感情がわからない…失感情症(アレキシサイミア)とは?症状・原因・対処法

自分の感情がよくわからない、嬉しいはずなのに心が動かない、他人の気持ちに共感するのが難しい。もしあなたがこのような感覚を抱えているなら、それは失感情症(アレキシサイミア)という特性が関係しているかもしれません。

失感情症は病名ではなく、感情を認識したり、言葉で表現したりすることが難しい状態を指します。決して「冷たい人」というわけではなく、自分でも気づかないうちに生きづらさを感じているケースが少なくありません。

この記事では、失感情症の主な特徴から原因、そして対処法までを分かりやすく解説します。ご自身の特性を理解し、より楽に過ごすためのヒントを見つける一助となれば幸いです。

目次

失感情症とは?定義と概念

失感情症(アレキシサイミア)とは、1970年代に提唱された心理学的な概念で、「自分の感情を自覚・認知したり、言葉で表現したりすることが不得意な状態」を指します。ギリシャ語の「a(ない)」「lexis(言葉)」「thymos(感情)」を組み合わせた言葉で、「感情を表現する言葉がない」といった意味合いを持ちます。

重要なのは、失感情症は感情が全くないわけではないという点です。喜びや悲しみ、怒りといった感情そのものは生じているものの、それを「今、自分は悲しいんだ」と認識したり、「こんな理由で腹が立つ」と他者に説明したりするのが難しいのです。

これは精神疾患の正式な病名ではなく、個人の特性の一つとして捉えられています。そのため、日常生活に大きな支障がなければ、必ずしも治療が必要なわけではありません。

失感情症の主な特徴と症状

失感情症には、いくつかの代表的な特徴があります。これらの特徴は人によって現れ方が異なり、全ての項目が当てはまるとは限りません。

感情の認識・言語化が難しい

失感情症の最も中心的な特徴です。

  • 「嬉しい」「悲しい」「イライラする」といった感情を自分の中で識別するのが難しい。
  • 何か漠然とした不快感や高揚感はあるが、それがどんな感情なのか言葉にできない。
  • 他者から「今、どんな気持ち?」と聞かれても、答えに窮してしまう。

例えば、友人の結婚式に出席して祝福したい気持ちはあるものの、胸の高鳴りや感動を「嬉しい」という感情として認識できず、どう振る舞えばよいか分からなくなる、といったケースが見られます。

身体感覚と感情の関連性の理解

感情は、動悸、発汗、胃の不快感、体のこわばりといった身体的な変化としばしば結びついています。失感情症の傾向がある人は、この身体感覚と感情を結びつけて理解するのが苦手なことがあります。

  • 緊張する場面でドキドキしても、それが「不安」から来ていると認識できない。
  • 腹立たしい出来事があっても、怒りではなく原因不明の頭痛や腹痛として現れる。

そのため、原因のわからない体調不良(不定愁訴)を訴えて内科などを受診する人も少なくありません。

内的な想像力や空想の乏しさ

感情は、過去の記憶や未来への想像といった内的な精神活動と深く関連しています。失感情症の人は、この内的な世界への関心が薄く、空想や夢見が少ない傾向があると言われています。

  • 物事を事実に基づいて現実的に捉える傾向が強い。
  • 自分の内面について深く考えるよりも、外の世界の具体的な出来事に関心が向かいやすい。
  • 夢をほとんど見ない、あるいは見ても内容を覚えていないことが多い。

対人関係やコミュニケーションの特徴

感情の認識や表現が難しいため、対人関係において誤解が生じやすくなることがあります。

  • 表情の変化が乏しく、話し方が淡々としているため、他者から「何を考えているかわからない」「冷たい人」と思われがち。
  • 相手の表情や声のトーンから感情を読み取ることが難しく、共感的な反応を返すのが苦手。
  • お世辞や冗談が通じにくく、言葉を文字通りに受け取ってしまうことがある。

本人は相手を思いやっていないわけではなくても、結果として人間関係に距離ができてしまうことがあります。

失感情症の原因は?先天性・後天性の要因

失感情症の原因は一つに特定されておらず、生まれ持った先天的な要因と、成長過程や経験による後天的な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

脳機能や発達に関する先天的な要因

感情の処理に関わる脳の部位(扁桃体や前帯状皮質など)の機能的な違いが、失感情症の傾向と関連している可能性が指摘されています。また、遺伝的な要素や、生まれつきの発達特性が関係している場合もあります。特に自閉スペクトラム症(ASD)との関連は深く、ASDを持つ人の約半数に失感情症の傾向が見られるという研究報告もあります。

環境や心的外傷などの後天的な要因

幼少期の養育環境も影響を与えることがあります。例えば、感情を表現することが許されない、あるいは無視されるような環境で育った場合、自分の感情に蓋をして感じないようにする癖がつき、失感情症につながることがあります。

また、事故や災害、虐待といった強いストレスや心的外傷(トラウマ)体験も原因となり得ます。あまりにも辛い出来事を経験した際に、心を守るための防衛反応として感情を感じにくくなる(感情麻痺)ことがあるのです。これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状の一つとしても知られています。

他の精神疾患との関連性

うつ病や不安障害、摂食障害といった精神疾患の症状の一つとして、失感情症と似た状態が現れることもあります。気分の落ち込みが激しいと、喜びや楽しみといった感情を感じられなくなることがあります。

失感情症の診断方法と心理検査(TAS-20など)

前述の通り、失感情症は正式な病名ではないため、医師が「失感情症です」と診断を下すことは一般的ではありません。その人の特性を理解するための一つの「状態」として評価されます。

評価のためには、専門家による面接や心理検査が行われます。最も広く使われているのが「TAS-20(トロント・アレキシサイミア尺度)」という質問紙形式の心理検査です。

TAS-20では、主に以下の3つの側面から失感情症の傾向を測定します。

評価項目 内容
感情の同定困難 自分の感情を識別し、感情と身体感覚を区別する能力
感情の表出困難 自分の感情を言葉で他者に伝える能力
外的思考 内的な感情や空想よりも、外的な出来事に関心が向く傾向

これらの質問に答えることで、失感情症の傾向がどの程度あるのかを客観的に把握することができます。ただし、自己判断は禁物であり、必ず専門家の解釈のもとで総合的に判断される必要があります。

失感情症の治療・改善方法と対処法

失感情症の特性による生きづらさを和らげるためには、いくつかの方法があります。「治療」というよりも、「困難を軽減し、特性と上手く付き合っていくためのトレーニング」と捉えるとよいでしょう。

感情への気づきを高める精神療法

カウンセリングなどの精神療法を通じて、自分の感情に気づき、言葉にする練習を行います。

  • 心理療法・カウンセリング: 信頼できる専門家との対話の中で、安心して自分の感覚や考えを話す練習をします。カウンセラーは、話の中から感情につながるヒントを見つけ出し、本人が感情に気づく手助けをします。
  • 認知行動療法(CBT): ある出来事に対して自分がどう感じ、どう考え、どう行動したかを振り返り、身体感覚と思考、感情のつながりを理解していくアプローチです。

日常生活でできる対処法・トレーニング

専門家のサポートと並行して、日常生活の中で取り組めることもあります。

  • 感情日記をつける: その日あった出来事と、その時の「身体の感覚(例:胸がザワザワした、肩が重いなど)」や「気分」を簡単に記録します。「感情」がわからなくても、「身体感覚」から記録を始めるのがポイントです。
  • 感情の語彙を増やす: 小説や映画、ドラマなどを鑑賞し、「この登場人物は今どんな気持ちだろう?」と考えてみましょう。「嬉しい」の中にも「誇らしい」「安堵した」「ワクワクする」など、様々な言葉があることを知る良い機会になります。
  • マインドフルネス: 「今、ここ」の自分の身体感覚や呼吸に意識を集中させる瞑想です。評価や判断をせず、ただありのままの感覚に気づく練習は、感情と身体のつながりを理解する助けになります。

薬物療法が必要なケース

失感情症そのものに直接的な効果を示す薬はありません。しかし、背景にうつ病や不安障害などがあり、それらが日常生活に大きな影響を及ぼしている場合には、気分の落ち込みや不安を和らげるために抗うつ薬や抗不安薬などが処方されることがあります。

失感情症と関連する精神疾患・発達特性

失感情症は、単独の特性として存在する場合もありますが、他の精神疾患や発達特性と併存することも少なくありません。

発達障害(ASD、ADHDなど)

特に自閉スペクトラム症(ASD)とは深い関連性が指摘されています。ASDの特性である「社会的コミュニケーションの困難」や「限定された興味」などが、失感情症の特徴と重なる部分があります。ただし、ASDを持つ人すべてが失感情症というわけではありません。

PTSDやトラウマ関連障害

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の主要な症状の一つに「感情の麻痺」があります。これは、トラウマ体験による圧倒的な苦痛から心を守るための防衛反応であり、結果として失感情症の状態を引き起こすことがあります。

うつ病や不安障害

うつ病になると、これまで楽しめていたことに興味がなくなったり、喜びを感じられなくなったりする「アンヘドニア(快感消失)」という症状が現れることがあります。これは感情が平板化している状態であり、失感情症とよく似ています。

失感情症かもしれないと思ったら:専門機関への相談

もし、この記事を読んで「自分に当てはまるかもしれない」「日常生活や人間関係で困難を感じている」と思った場合は、一人で抱え込まずに専門機関に相談することを検討してみてください。

精神科や心療内科を受診する目安

以下のような状況があれば、一度専門医に相談してみることをお勧めします。

  • 感情がわからないことで、仕事や学業、家庭生活に支障が出ている。
  • 人間関係がうまくいかず、孤立感や生きづらさを強く感じている。
  • 原因不明の身体の不調(頭痛、腹痛、めまいなど)が続いている。
  • 気分の落ち込みや強い不安感が長く続いている。

受診の際は、「自分の感情がよくわからない」「身体の感覚はあるが、それが何の感情か結びつかない」といった具体的な困りごとを伝えることが大切です。

相談できる公的な機関

医療機関の受診に抵抗がある場合は、まず公的な相談窓口を利用するのも一つの方法です。

  • 精神保健福祉センター: 各都道府県・政令指定都市に設置されており、心の健康に関する相談を専門家(医師、心理士、精神保健福祉士など)が無料で受け付けています。
  • 市区町村の相談窓口: 自治体によっては、保健センターなどで心の健康相談を実施しています。

これらの機関では、必要に応じて適切な医療機関や支援機関を紹介してもらうこともできます。


免責事項

本記事は、失感情症に関する情報提供を目的とするものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。心身の不調や具体的な症状については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

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