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場面緘黙症(ばめんかんもく)の正しい読み方・意味とは?

「うちの子、家ではあんなにおしゃべりなのに、どうして学校では一言も話せないんだろう…」「場面緘黙症という言葉を聞いたけど、読み方も意味もよくわからない」。

このように、特定の状況でお子さんが話せなくなることに、戸惑いや不安を感じている方はいませんか?あるいは、ご自身が同じような悩みを抱えているかもしれません。

それは、ただの「恥ずかしがり屋」や「人見知り」なのではなく、場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)という状態かもしれません。

この記事では、場面緘黙症の正しい読み方から、その症状、原因、そして適切な対応方法までを、わかりやすく解説します。この記事を読めば、場面緘黙症への理解が深まり、あなたやあなたの大切な人が次の一歩を踏み出すためのヒントが見つかるはずです。

目次

場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)とは

場面緘黙症は、まだ社会的に広く知られていない側面もあります。まずは、その基本的な定義や読み方から理解を深めていきましょう。

正しい読み方とその意味

場面緘黙症は、「ばめんかんもくしょう」と読みます。

言葉を分解すると、以下のようになります。

  • 場面:特定の場所や状況
  • 緘黙(かんもく):口を閉ざして話をしないこと

つまり、「特定の場面において、話すことができなくなる」という意味です。
家庭などリラックスできる環境では問題なく話せるのに、学校や知らない人がいる場所など、特定の社会的状況になると声が出せなくなってしまうのです。

本人の意思で「話さない」ことを選んでいるわけではなく、「話したいのに話せない」という、強い不安や緊張に起因する状態です。

どのような状態を指すのか

場面緘黙症の最も特徴的な点は、話せる能力自体には問題がないことです。
家では家族と冗談を言ったり、歌を歌ったりできるのに、特定のトリガーとなる状況(場所、人など)に直面すると、まるでスイッチが切れたかのように話せなくなります。

この状態は、本人の努力や気合いで乗り越えられるものではありません。かつては「選択性緘黙」と呼ばれていましたが、「本人が意図的に黙ることを選択している」という誤解を招きやすいため、現在では「場面緘黙症」という呼称が一般的に使われています。

発達特性との関連性について

場面緘黙症は、アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』において、不安症群(不安障害)の一つに分類されています。つまり、極度の不安が原因で症状が現れると考えられているのです。

また、以下のような発達特性との関連が指摘されることもあります。

  • 生まれつき不安を感じやすい気質
  • 感覚が過敏である
  • 言葉の発達に少し遅れがある
  • 自閉スペクトラム症(ASD)の特性を併せ持つ

ただし、これらはあくまで関連性であり、全ての場面緘黙症の人がこれらの特性を持つわけではありません。原因は一人ひとり異なり、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

場面緘黙症の主な症状

場面緘黙症の症状は、「話せない」ことだけではありません。具体的な症状を知ることで、より深い理解につながります。

特定の場所や人で話せない特徴

場面緘黙症の症状は、特定の条件下で現れます。以下はその一例です。

  • 場所:学校、幼稚園・保育園、習い事の場、親戚の集まりなど
  • :先生、クラスメイト、店員、あまり会わない親戚など

家ではとても流暢に話せるのに、学校では一言も発しないというケースは非常に典型的です。
話せないだけでなく、表情がこわばる、体が固まる、視線を合わせられないといった様子が見られることもあります。

子供に見られる具体的な症状

子供の場合、学校生活の様々な場面で困難に直面することがあります。

  • 先生に名前を呼ばれても返事ができない
  • 授業中に発表や音読ができない
  • 友達の輪に入れず、一人でいることが多い
  • 「おはよう」「さようなら」などの挨拶ができない
  • 「トイレに行きたい」「気分が悪い」といったことを伝えられない
  • 給食のおかわりが頼めない

これらの状況は、本人にとって非常につらく、学校が安心できない場所になってしまう原因となります。

言葉以外のコミュニケーション

話すことはできなくても、他の方法で意思を伝えようとすることがあります。

  • うなずきや首振りで「はい」「いいえ」を表現する
  • ジェスチャーや指差しで要求を伝える
  • 筆談(文字を書くこと)でコミュニケーションをとる
  • 親しい友人や兄弟を介して、自分の意思を伝えてもらう

ただし、緊張が非常に強い場面では、こうした非言語的なコミュニケーションさえも難しくなることがあります。

場面緘黙症の原因として考えられること

「なぜ、うちの子が?」と原因を知りたいと思うのは自然なことです。しかし、場面緘黙症の原因は一つに特定できるものではなく、複数の要因が影響し合っていると考えられています。

重要:親の育て方やしつけが直接的な原因ではありません。 ご自身を責める必要は全くありません。

心理的な要因

本人が生まれ持った気質が、発症の背景にあると考えられています。

  • 不安になりやすい、心配性な気質
  • 内気で、新しい環境や人に慣れるのに時間がかかる
  • 完璧主義で、失敗を極度に恐れる
  • 他人の評価を過剰に気にしてしまう

これらの気質を持つ人が、何らかのストレス状況に置かれたときに、発症の引き金となることがあります。

環境的な要因

生活環境の変化が、症状のきっかけになることもあります。

  • 入園、入学、進級、転校といった環境の大きな変化
  • 引っ越しによる生活環境の変化
  • 叱責されたり、からかわれたりした経験
  • 家庭内に緊張感がある、または過保護・過干渉な環境

これらの環境要因が、元々持っている心理的な要因と結びつき、発症につながると考えられています。

場面緘黙症と似た状態との違い

場面緘黙症は、他の状態と混同されやすいことがあります。特に「恥ずかしがり屋」との違いを理解することは、適切な対応のために非常に重要です。

恥ずかしがり屋との違い

「人見知りなだけ」「恥ずかしがり屋な性格だから」と見過ごされがちですが、両者には明確な違いがあります。

項目 場面緘黙症 恥ずかしがり屋・人見知り
話せなくなる期間 症状が1ヶ月以上続くことが多い 最初は緊張するが、慣れれば話せるようになる
話せなくなる状況 特定の状況で「全く」話せなくなる 慣れないうちは声が小さかったり口数が少なかったりする
本人の状態 強い不安や恐怖で体が固まってしまう 恥ずかしさや照れはあるが、体は比較的自由に動く
日常生活への影響 学校生活や社会生活に大きな支障が出る 多少の不便はあっても、大きな支障は出にくい

もし、お子さんの状態が単なる恥ずかしがり屋の範囲を超え、生活に支障が出ているようであれば、場面緘黙症の可能性を考える必要があります。

その他の状態との区別

診断の際には、話せない原因が他の障害や疾患によるものではないかを確認します。

  • 言語障害や吃音:話す能力そのものに問題があるわけではないか。
  • 聴覚障害:聞こえにくさが原因で話せないわけではないか。
  • 自閉スペクトラム症(ASD):コミュニケーション全般の困難さが原因ではないか。(※併存することもあります)
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD):特定のトラウマ体験が原因で話せなくなったわけではないか。

これらの状態との区別は、専門家による慎重な判断が必要です。

場面緘黙症は障害?病気?正式な位置づけ

場面緘黙症は、本人の甘えやわがままではなく、専門的な支援が必要な状態です。ここでは、その医学的な位置づけについて解説します。

診断名と定義

前述の通り、アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』では「選択性緘黙(Selective Mutism)」という診断名で、不安症群(不安障害)に分類されています。

主な診断基準には以下のような項目があります。

* 他の状況では話すことができるにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)で、話すことが一貫してできない。
* その障害が、学業上、職業上の成績、または対人コミュニケーションを妨げている。
* その障害の持続期間は、少なくとも1ヶ月(学校の最初の1ヶ月間に限定されない)である。
* 話すことができないのは、その社会的状況で要求される話し言葉の知識が不足している、または、その言葉に自信がない、という理由によるものではない。
* その障害は、コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症)ではうまく説明されず、また、自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

出典:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)を参考に要約

これらの基準に基づき、専門医が総合的に診断を下します。

精神的な障害としての側面

場面緘黙症は、日常生活や社会参加に著しい困難を生じさせることから、精神的な障害の一つと捉えられています。必要な支援を受け、困難を軽減していくことが大切です。

状況によっては、精神障害者保健福祉手帳の申請対象となる場合もありますが、自治体の判断や個々の状態によって異なります。詳しくは、お住まいの自治体の障害福祉担当窓口にご相談ください。

場面緘黙症の診断と治療・対応方法

場面緘黙症の疑いがある場合、どこに相談し、どのような対応をしていけばよいのでしょうか。大切なのは、一人で抱え込まずに専門家の力を借りることです。

診断は専門機関で

自己判断はせず、まずは専門機関に相談しましょう。

  • 児童精神科、精神科
  • 小児科、小児神経科
  • 地域の保健センター、子育て支援センター
  • 教育支援センター(教育相談所)
  • スクールカウンセラー

まずはかかりつけの小児科や、学校の先生、スクールカウンセラーに相談してみるのも良いでしょう。そこから適切な専門機関を紹介してもらえることがあります。

効果的な治療と周囲の関わり方

場面緘黙症の治療や支援は、薬物療法よりも心理療法や環境調整が中心となります。周囲の人の正しい理解と適切な関わりが、改善への鍵となります。

治療・支援のポイント

  • 環境調整:本人が安心できる環境を整えることが最優先です。学校と連携し、プレッシャーの少ない状況を作ります(例:発表の免除、少人数のグループ活動への参加など)。
  • スモールステップ法:いきなり「話すこと」を目標にせず、小さな成功体験を積み重ねていきます。「うなずく→指差しで答える→ささやき声で言う→小さな声で言う」のように、段階的に目標を設定します。
  • 行動療法:スモールステップ法も行動療法の一種です。不安な場面に少しずつ慣れていくことで、不安を乗り越える力を育てます。
  • 正しい理解:「話せない」ことを責めたり、無理に話させようとしたりしないことが鉄則です。本人のつらさに寄り添い、「話さなくても大丈夫だよ」という安心感を与えることが大切です。

大人と子供それぞれの対応

子供の場合

学校との連携が不可欠です。担任の先生やスクールカウンセラーに場面緘黙症について正しく理解してもらい、協力体制を築きましょう。本人の負担にならない範囲で、少しずつ学校生活に参加できるような配慮を相談することが重要です。

大人の場合

大人になってから場面緘黙症の悩みを抱えている、または子供の頃の症状が続いているケースもあります。職場での理解を得ることが難しい場合もありますが、信頼できる上司や同僚に相談したり、産業医やカウンセラーのサポートを受けたりすることも有効です。筆談やチャットツールなど、自分に合ったコミュニケーション方法を活用することも一つの方法です。

場面緘黙症に関するよくある質問

最後に、場面緘黙症についてよくある疑問にお答えします。

場面緘黙症はどんな子?

場面緘黙症の子どもは、学校などでは「おとなしい」「無口な子」と見られがちですが、実は以下のような内面を持っていることが少なくありません。

  • 家ではとても明るく、おしゃべり
  • 真面目で、ルールをきちんと守ろうとする
  • 感受性が豊かで、人の気持ちに敏感
  • ユーモアのセンスがある
  • 観察力に優れている

特定の場面で話せないだけで、豊かな個性や感情を持っています。そのギャップが、周囲の誤解を招く一因にもなっています。

場面緘黙は性格によるもの?

いいえ、単なる性格の問題ではありません。
場面緘黙症は、本人の意思ではコントロールできない強い不安によって引き起こされる状態です。本人は話したいのに話せず、非常につらい思いをしています。「意地っ張り」「頑固」「反抗的」といった性格の問題として片付けてしまうと、本人はさらに傷つき、孤立を深めてしまいます。

場面緘黙症は、正しい理解と適切な支援があれば、少しずつ改善していくことが可能です。もしあなたやあなたの周りの人が悩んでいるなら、決して一人で抱え込まないでください。専門機関に相談し、安心できる環境の中で、その人らしいコミュニケーションの方法を見つけていくことが大切です。


免責事項
本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療を代替するものではありません。症状についてお悩みの方は、必ず医療機関にご相談ください。

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