大人になってから、なぜか人間関係がうまくいかない、特定のことに異常にこだわる、五感で感じる刺激に人一倍敏感(あるいは鈍感)といった生きづらさを感じている方もいるかもしれません。
もしかしたら、それは発達障害の一つであるアスペルガー症候群(ASD:自閉スペクトラム症)の特性によるものかもしれません。
幼少期に診断されることが多かったアスペルガー症候群ですが、大人になってから自身の特性に気づくケースも増えています。
この記事では、大人のアスペルガー症候群の方がよく経験する「あるある」な特徴や、日常生活や仕事で直面しやすい困りごと、そして特性との付き合い方や対策について、分かりやすく解説します。
大人アスペルガー症候群(ASD)とは
アスペルガー症候群は、現在では「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名に含まれる発達障害の一つです。
ASDは、主に以下の3つの特性において、その度合いに個人差がある連続体(スペクトラム)として捉えられています。
- 対人関係や社会的コミュニケーションにおける困難さ: 相手の気持ちや場の空気を読むのが苦手、言葉の裏の意味が理解しにくい、表情や声のトーンから感情を読み取りにくい、自分の興味のあることばかり話してしまう、など。
- 限られた特定の興味やこだわり: 特定の物事に対して強い興味を持ち、深く探求する、ルーティンや規則に強くこだわる、変化を嫌う、など。
- 感覚の過敏さまたは鈍感さ: 特定の音や光、匂い、肌触りなどを非常に不快に感じる(感覚過敏)、あるいは痛みや暑さ・寒さに気づきにくい(感覚鈍感)、など。
アスペルガー症候群という診断名が使われていた頃は、知的発達の遅れを伴わないASDの人を指すことが一般的でした。
つまり、言語能力や知的な能力に大きな遅れがないため、幼少期には目立たず、社会に出てからの対人関係や仕事での困難に直面して、大人になってから特性に気づくケースが多いのです。
これらの特性は、病気のように治るものではありませんが、自身の特性を理解し、適切な知識や工夫、周囲のサポートを得ることで、生きづらさを軽減し、能力を活かして社会生活を送ることが可能です。
大人アスペルガーに共通する主な「あるある」特徴
大人のアスペルガー症候群の方々が、日常生活や人間関係の中で「私だけじゃないんだ」「これってアスペルガーの特性だったのか」と感じやすい、具体的な「あるある」をご紹介します。
これらの特徴はすべてのASDの方に当てはまるわけではなく、一人ひとり特性の現れ方や程度は異なります。
コミュニケーションに関する「あるある」
会話のキャッチボールが苦手
会話は、相手の話を聞き、それに応じた自分の意見や感想を述べ、再び相手の反応を受け取るという一連の流れで成り立っています。
しかし、アスペルガー症候群の方の中には、この「キャッチボール」がうまくいかないと感じる人が多くいます。
- 相手の話の意図が掴みきれない: 相手が遠回しに言っていることや、場の雰囲気で察するべきニュアンスを読み取るのが難しく、「結局何が言いたいの?」と思ってしまう。
- 自分の話ばかりしてしまう: 自分が興味を持っている話題になると、つい夢中になり、相手の反応や関心を無視して一方的に話し続けてしまう。
- 間の取り方が分からない: 会話中に適切な「間」を置くのが難しく、早口になったり、逆に沈黙が続いたりする。
- 話題の転換が唐突: 脈絡なく、自分の話したい話題に急に変えてしまい、相手を困惑させてしまうことがある。
文字通りの意味で受け取る(冗談や皮肉がわからない)
言葉を額面通りに受け取ってしまう傾向があります。そのため、
- 冗談が通じない: 相手が面白がって言った冗談や比喩を真に受けてしまい、笑うタイミングや返し方が分からない。
- 皮肉に気づかない: 相手が非難や批判を皮肉めかして言っても、それが皮肉であることに気づかず、そのままの意味で捉えてしまう。
- 裏の意味を読み取れない: 建前や社交辞令に含まれる本音や、遠回しな表現の意図を理解するのが難しい。例えば、「ちょっと考えておきます」と言われたのを「本当に考えてくれる」と信じてしまう、など。
表情や声のトーンから相手の気持ちを察しにくい
非言語的な情報、つまり相手の表情、声のトーン、ジェスチャーなどから、相手の感情や意図を読み取ることが苦手な場合があります。
- 相手が怒っていることに気づかない: 相手が明らかに不機嫌な顔をしていても、本人が言葉で言わない限り、その感情を察するのが難しい。
- 嬉しいのか悲しいのか判別しにくい: 相手が曖昧な表情をしていると、それが喜びなのか悲しみなのか、あるいは単に疲れているだけなのかが分からず、どう反応して良いか迷ってしまう。
- 場の空気が読めない: 集団の中で、今どんなムードなのか、どんな発言が適切なのか、といった「空気」を察することが難しく、不適切な発言をしてしまうことがある。
自分の興味のあることばかり一方的に話してしまう
ASDの特性として、特定の物事に対する強い興味や関心があります。この興味の対象について話すとき、
- 専門用語を連発する: 相手が知らないであろう専門用語や詳細な情報まで、延々と話してしまう。
- 相手の関心を確認しない: 相手がその話題に興味があるかどうかに関係なく、自分が話したいことを話し続けてしまう。
- 話を止められない: 一度話し始めると、区切りをつけるのが難しく、相手が飽きているサインに気づきにくい。
特定のこだわりや興味に関する「あるある」
ルーティンや規則性の変化に弱い
予測できない出来事や、普段と違う状況への対応が苦手な場合があります。
- 予定変更が苦手: 急な予定変更があるとパニックになったり、強く抵抗を感じたりする。
- いつものやり方にこだわる: 物事を行う際に、自分の中で決まった手順ややり方があり、それが崩れると混乱したり、不快に感じたりする。
- 新しい環境への適応に時間がかかる: 引越しや転職など、環境が大きく変わると、慣れるまでにかなりの時間とエネルギーが必要になる。
強い興味・関心を持ち、深く掘り下げる
特定の分野に対して、驚くほど深い知識や情報を持っていることがあります。
- マニアックな知識: 興味を持った対象について、図鑑のように詳細な知識を持っていたり、歴史や構造などを徹底的に調べ上げたりする。
- コレクション: 特定のジャンルのものを熱心に集め、分類や整理に並々ならぬ情熱を注ぐ。
- 専門家顔負け: 好きな分野に関しては、専門家レベルの知識や技術を持っていることがある。
特定の収集癖やこだわりが強い例
具体的には、以下のような「あるある」が見られます。
- 特定の情報を集め続ける: 好きなアイドルや鉄道、歴史上の人物など、特定の対象に関する情報を際限なく集め、データベースのように整理する。
- 特定のアイテムにこだわる: 同じデザインや色の服ばかり買う、特定のブランドの特定のアイテムしか使わない、など。
- 特定の場所や道順にこだわる: いつも決まった道を通る、特定の席にしか座らない、など。
- 食事のこだわり: 特定の食材が食べられない、特定の調理法でしか食べられない、食べる順番が決まっている、など。
これらのこだわりは、本人にとって安心感や秩序をもたらす重要な要素である一方、周囲からは「なぜそんなにこだわるの?」と理解されにくいことがあります。
感覚に関する「あるある」
感覚の過敏さや鈍感さは、ASDの方によく見られる特性です。
特定の音や光、肌触りなどが苦手(感覚過敏・鈍感)
五感で感じる刺激に対する反応が、定型発達の人とは異なる場合があります。
- 聴覚過敏: 特定の音(例: 黒板を爪でひっかく音、赤ちゃんの泣き声、機械のモーター音、蛍光灯のジーという音など)が非常に不快で、耳を塞ぎたくなる。複数の音が同時に聞こえる場所(例: 騒がしい飲食店、人混み)が苦手。
- 視覚過敏: 蛍光灯のちらつきが気になる、特定の強い光が眩しく感じる、複雑な模様や原色の組み合わせを見ると疲れる。
- 触覚過敏: 特定の素材(例: ウール、化学繊維)の服を着るのが苦手、服のタグが気になる、人から触られるのが嫌。
- 嗅覚・味覚過敏: 特定の匂い(例: 香水、柔軟剤、タバコの煙、特定の食品の匂い)が耐えられないほど不快に感じる。特定の食品の味や食感が苦手で食べられないものが多い。
- 感覚鈍感: 痛みや暑さ・寒さに気づきにくい、空腹や満腹を感じにくい、特定の刺激がないと落ち着かない(体を揺らす、特定のものを触るなど)。
これらの感覚特性は、日常生活のあらゆる場面でストレスの原因となることがあり、定型発達の人にはその辛さが理解されにくいことがあります。
感情コントロールに関する「あるある」
怒りやフラストレーションを感じやすい(攻撃的になることも)
自分の思い通りにならない、予測できないことが起きる、感覚的に不快な刺激を受ける、コミュニケーションがうまくいかない、といった状況で、強いフラストレーションを感じやすい傾向があります。
- 突然怒り出す: 周囲から見ると些細なきっかけで、急に激しく怒ったり、感情を爆発させたりすることがある。
- 感情の切り替えが苦手: 一度ネガティブな感情になると、そこから抜け出すのに時間がかかる。
- 攻撃的な言動: 強いストレスやパニック状態に陥ると、言葉遣いが乱暴になったり、物を投げたりするなどの攻撃的な行動が出てしまうことがある(ただし、これはすべてのASDの人に当てはまるわけではありません)。
感情表現が苦手、不器用
自分の感情を言葉や表情で適切に表現するのが苦手な場合があります。
- 感情が分かりにくい: 嬉しい、悲しい、といった感情を顔に出しにくく、周囲から「何を考えているのか分からない」と思われやすい。
- 感情を言葉にするのが難しい: 自分が今どんな気持ちなのかをうまく言葉で説明できず、モヤモヤとした不快感だけが残る。
- 共感しているように見えない: 相手が困っていたり悲しんでいたりしても、どのように声をかけたり反応したりすれば良いか分からず、冷たい人だと思われてしまうことがある。
その他の行動や思考の「あるある」
物事を論理的に考えすぎる、白黒思考
あいまいな状況や人間関係の複雑さを理解するのが難しく、物事を「正しいか間違いか」「良いか悪いか」のように二極化して捉えがちです。
- 融通がきかない: ルールや約束事を非常に重視し、状況に応じた例外や柔軟な対応が難しい。
- 正論ばかり言う: 相手の気持ちや状況を考慮せず、自分の考える「正しいこと」をそのまま伝えてしまい、人間関係に摩擦を生じさせることがある。
- 妥協が難しい: 自分の意見や考えを曲げることが苦手で、意見の異なる相手との妥協点を見つけるのが難しい。
曖昧な指示が理解できない
具体的な情報や明確な手順が示されないと、何をどうすれば良いのか分からなくなります。
- 「適当に」「いい感じに」が苦手: 「これ適当にやっておいて」「いい感じにしといて」といった抽象的で曖昧な指示では、何を求められているのかが理解できず、フリーズしてしまう。
- 言葉の裏を読めない: 「ちょっとそこにあるあれ取って」など、指示が具体的でないと、どれを指しているのか分からず困惑する。
- 確認が多い: 不安から、「これで合っていますか?」「具体的にはどうすれば良いですか?」といった確認を何度も繰り返してしまう。
同時進行や臨機応変な対応が苦手
複数のタスクを同時にこなすことや、予期せぬ状況に素早く対応することが苦手な場合があります。
- マルチタスクが混乱する: 複数の指示を同時に受けたり、複数の作業を並行して行ったりすると、どれから手をつければ良いか分からなくなり、ミスが増える。
- 想定外の出来事に弱い: 計画通りに進まない状況や、急なトラブルが発生すると、パニックになったり、どう対応して良いか分からなくなったりする。
- マニュアルがないと困る: やり方が確立されていない新しいことや、マニュアルに書かれていない状況に対応するのが難しい。
タイプ別に見る大人アスペルガーの「あるある」
アスペルガー症候群(ASD)の特性の現れ方には個人差があり、大きく3つのタイプに分けられることがあります。
それぞれのタイプによって、「あるある」と感じる困りごとや周囲から見た印象も異なります。
タイプ名 | 主な特徴 | コミュニケーション傾向 | 周囲からの見え方(「あるある」として) | 困りごととして現れやすい「あるある」 |
---|---|---|---|---|
受動型 | 自分から積極的に関わろうとせず、誘われれば応じる。自己主張が少ない。 | 自分から話しかけることは少ない。相手からの話しかけには応じるが、会話を広げるのは苦手。 | 「おとなしい人」「受け身な人」「何を考えているか分からない」と見られやすい。トラブルを避けるため、人に合わせすぎることがある。 | 自分の意見を言えず、損をしてしまう。嫌なことでも断れない。頼まれごとを断れず抱え込んでしまう。集団の中で孤立しやすい。 |
積極奇異型 | 自分から積極的に関わろうとするが、一方的で空気が読めない。変わった人と思われがち。 | 自分の話したいことを一方的に話し続ける。距離感が近すぎる、馴れ馴れしいと思われがち。相手の都合を考えず話しかける。 | 「変わった人」「マイペース」「話が一方的」「空気が読めない」と見られやすい。悪気はないのに、相手を不快にさせてしまうことがある。 | 人間関係でトラブルが多い。悪気がないのに誤解されやすい。自分の言動が周囲にどう影響しているかに気づきにくい。孤立しやすく、傷つきやすい。 |
孤立型 | 自分から関わろうとせず、誘われても応じない。一人を好む。 | 人と話すこと自体に関心が薄い、または苦手。必要なこと以外は話さない。アイコンタクトが少ない。 | 「近寄りがたい人」「付き合いが悪い人」「一匹狼」と見られやすい。無理に話しかけられるのを嫌がる。 | 人間関係が広がりにくい。困った時に周囲に頼ることが難しい。孤立感を感じやすい。情報交換が苦手で、必要な情報が得られにくい。 |
これらのタイプはあくまで傾向を示すものであり、厳密に分けられるものではありません。
また、状況や相手によって、どのタイプのような振る舞いをするかは変わり得ます。
自身のタイプを知ることで、どのような場面で困りやすいか、どのような対策が有効かを考えるヒントになります。
大人アスペルガーが日常生活や仕事で直面する「あるある」な困りごと
大人アスペルガーの特性は、知的な遅れがない場合、学生時代まではあまり問題にならずに過ごせることもあります。
しかし、社会人になり、より複雑な人間関係や柔軟な対応が求められる場面が増えることで、特性による困りごとが顕在化しやすくなります。
対人関係での「あるある」な困りごと
- 友人関係が築きにくい: 共通の趣味や関心事があれば深く関われるが、それ以外の雑談や表面的な付き合いが苦手で、広く浅い友人関係を築くのが難しい。
- 会社の飲み会やイベントが苦痛: 目的のない集まりや、気を遣うだけの場が苦手で、どう振る舞って良いか分からず疲れてしまう。
- 悪気なく相手を怒らせてしまう: 正論を言いすぎたり、相手の気持ちを考えない発言をしたりして、意図せず相手を傷つけたり怒らせたりしてしまう。
- パワハラやいじめの標的になりやすい: 空気が読めない、反論が苦手(特に受動型)、変わった言動(積極奇異型)などが原因で、からかいや嫌がらせの対象になってしまうことがある。
- 恋愛関係がうまくいかない: 相手の気持ちを察するのが苦手なため、相手のサインに気づかず関係が進展しなかったり、逆に一方的にアプローチしすぎてしまったりする。
仕事での「あるある」な困りごと
- 報連相(報告・連絡・相談)が苦手: タイミングが分からなかったり、何をどこまで伝えれば良いか分からなかったりして、必要な情報共有が滞りがちになる。
- 曖昧な指示でミスをする: 具体的な指示がないと作業が進められず、自己判断で進めてしまい、結果的に求められていたものと違うものが出来上がってしまう。
- マルチタスクでパニックになる: 複数の業務を同時にこなすのが難しく、優先順位をつけるのに苦労したり、締め切りを守れなくなったりする。
- 臨機応変な対応ができない: 想定外の事態や急な変更があると、対応に時間がかかったり、フリーズしてしまったりする。
- チームワークが難しい: 他のメンバーとの連携がうまくいかなかったり、自分のやり方に固執してしまい、チームの和を乱してしまうことがある。
- 興味のない業務は集中できない: 自分が興味を持てない定型的・反復的な業務や、苦手な業務に対して、集中力を維持するのが難しい。
- 感覚過敏による困難: 職場の騒音や照明、特定の匂い(例: 同僚の香水)などが気になって、業務に集中できない。
生活管理での「あるある」な困りごと
- 片付け・整理整頓が苦手: 物の分類やどこに何を置くかといったルール作りが難しく、部屋が散らかってしまいやすい。
- 金銭管理が苦手: 衝動買いをしてしまったり、計画的にお金を使うのが難しかったりする。特定のコレクションにお金を使いすぎてしまうこともある。
- 体調管理が難しい: 自分の体の感覚(空腹、疲労、痛みなど)に気づきにくく、無理をして体調を崩してしまうことがある。睡眠リズムが乱れやすい人もいる。
- 時間管理が難しい: 締め切りや予定を把握するのが苦手で、遅刻したり、ギリギリにならないと行動できなかったりする(特に興味のないことに対して)。
これらの困りごとは、アスペルガー症候群の特性によるものであり、本人の努力や怠慢だけが原因ではありません。
特性を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
「これってアスペルガーのあるあるかも?」と感じたら
もし、ここまで読んで「自分にも当てはまることがたくさんある」「もしかして、自分もアスペルガー症候群の特性があるのかもしれない」と感じたなら、それは自己理解を深める大切なステップです。
自己チェックリストで確認(女性の場合の注意点)
インターネット上には、アスペルガー症候群の特性に関する様々なチェックリストやセルフテストが存在します。
「AQテスト(自閉症スペクトラム指数)」や「Mチャット(乳幼児向け)」の成人版を参考に、ご自身の特性を客観的に見てみるのも良いでしょう。
ただし、これらのチェックリストはあくまで目安であり、自己診断はできません。
また、女性の場合、男性に比べて特性が目立ちにくい「カモフラージュ(擬態)」と呼ばれる行動をとることが多いため、チェックリストだけでは特性が見えにくい場合があります。
女性は、周囲に合わせて無理にコミュニケーションを取ろうとしたり、感情を抑圧したりすることで、内面に大きなストレスを抱え込んでいることがあります。
女性のASDに関する情報も参考にしながら、ご自身の状況を振り返ってみてください。
重要なのは、「自分はアスペルガー症候群かもしれない」という可能性を否定せず、自身の困りごとや生きづらさの背景に発達特性があるのかもしれない、と考えてみることです。
専門機関への相談・受診
もし、自己チェックリストで当てはまる項目が多かったり、日常生活や仕事で強い困りごとを感じていたりする場合は、専門機関に相談することをお勧めします。
専門家のアドバイスや診断を受けることで、自身の特性を正確に理解し、適切な支援や対策を見つけることができます。
相談先としては、以下のような場所があります。
- 精神科・心療内科: 発達障害の診断や、二次障害(不安障害、うつ病など)の治療を行っています。発達障害を専門としている医師がいるか、事前に確認すると良いでしょう。
- 発達障害者支援センター: 発達障害のある方やその家族からの相談に応じ、様々な情報提供や支援機関との連携を行っています。診断の有無に関わらず相談できます。
- 精神保健福祉センター: 心の健康に関する相談や、精神疾患・発達障害に関する情報提供や支援を行っています。
- ハローワークの専門援助部門: 発達障害のある方の就職に関する相談や支援を行っています。
- 就労移行支援事業所: 発達障害のある方が一般企業への就職を目指すための様々なプログラム(ビジネスマナー、PCスキル、コミュニケーション訓練など)を提供しています。
これらの機関に相談する際は、ご自身の「あるある」と感じる具体的なエピソードや、困っていること、どのような時に生きづらさを感じるかなどを整理しておくと、スムーズに相談が進みます。
診断を受けるかどうかはご自身の判断ですが、診断されることで、福祉サービスや職場の合理的配慮を利用できるようになる場合もあります。
大人アスペルガーの特性との付き合い方・対策
大人になってアスペルガー症候群の特性に気づいても、すぐに困りごとが解消されるわけではありません。
しかし、自身の特性を理解し、工夫したり周囲に協力してもらったりすることで、生きづらさを軽減し、より自分らしく生きることが可能になります。
セルフケア・自分でできる工夫
- 自身の特性を理解する: 自分がどのような状況で困りやすいのか、どのような刺激が苦手なのか、どのようなコミュニケーションが得意・不得意なのかなどを具体的に把握することが、対策の第一歩です。特性を否定せず、「そういうものなんだ」と受け入れることも大切です。
- 苦手な状況を避ける・調整する: 感覚過敏がある場合は、騒がしい場所を避ける、耳栓やノイズキャンセリングヘッドホンを使用する、照明を調整するといった工夫が有効です。人混みが苦手なら、混雑する時間を避けるなどの対策が考えられます。
- ルーティンや構造化を取り入れる: 予測できない状況が苦手な場合は、日々のスケジュールを立てて視覚化する、作業手順をリスト化するなど、生活や仕事に構造化を取り入れることで安心感を得られます。
- 休憩を積極的に取る: コミュニケーションや感覚刺激などで疲れやすい傾向があるため、意識的に一人になる時間を作ったり、休憩を取ったりすることが重要です。
- 興味・関心を活かす: 強い興味や関心を持っている分野は、集中力を発揮しやすい強みです。これを仕事や趣味に活かすことで、達成感や喜びを感じることができます。
- 感情のマネジメント方法を学ぶ: 怒りや不安を感じやすい場合は、感情が高ぶる前に気づくサイン(体の変化など)を把握する、深呼吸をする、一時的にその場を離れる、信頼できる人に話を聞いてもらうなど、自分なりの対処法を見つけることが有効です。アンガーマネジメントの技法などを学ぶのも良いでしょう。
- 具体的に伝える練習をする: 曖昧な指示が苦手な場合は、「具体的に教えていただけますか?」「〇〇ということで合っていますか?」など、分からない点を具体的に質問する練習をしましょう。また、自分の意見や要望を伝える際も、感情を交えずに論理的に伝える工夫をします。
- 視覚的なツールを活用する: 予定やTo Doリストは文字だけでなく、カレンダーアプリやチェックリストなど視覚的なツールを活用すると管理しやすくなります。
周囲の理解や配慮を求める
親しい家族や友人、職場の信頼できる人など、自身がアスペルガー症候群の特性を持っていることをオープンに話せる人がいれば、理解や協力を得ることで困りごとが軽減される場合があります。
- 特性について説明する: ご自身の特性について、書籍やインターネットの情報などを参考に、分かりやすく説明することで、周囲の理解を深めることができます。「こういう特性があるので、〇〇な状況が苦手です」「〇〇のように具体的に指示してもらえると助かります」といった具体的な伝え方をすると、相手もどのように配慮すれば良いか理解しやすくなります。
- 必要な配慮を伝える: 職場などで診断を受けている場合は、上司や人事に相談し、特性に応じた合理的配慮(例: 静かな作業スペースの確保、業務内容の明確化、指示の出し方の工夫など)を求めることを検討しましょう。診断がなくても、困りごとを具体的に伝え、相談に乗ってもらうことは可能です。
- 協力をお願いする: 苦手なことや困っていることについて、具体的にどのような協力を求めているかを伝え、周囲にお願いしてみましょう。一人で抱え込まず、頼ることも大切です。
ただし、特性をオープンにすることにはリスクも伴います。
相手を選び、信頼できる人に限定するなど、慎重に行うことが重要です。
相談機関・支援サービスの活用
一人で抱え込まず、専門機関や支援サービスを積極的に活用することも非常に有効です。
支援の種類 | 支援内容の例 | 利用を検討すべき人 |
---|---|---|
医療機関(精神科・心療内科) | 診断、二次障害(うつ病、不安障害など)の治療、特性に関するアドバイス、服薬指導(必要に応じて) | 特性に起因する心身の不調がある人、診断を受けたい人、専門的な医学的アドバイスが必要な人 |
発達障害者支援センター | 本人・家族からの相談、特性に関する情報提供、支援計画作成、他の支援機関との連携調整、ペアレントメンターやピアサポートの紹介 | 診断の有無に関わらず、特性に関する悩みや困りごとがある人、どのような支援があるか知りたい人、他の機関に繋いでもらいたい人 |
精神保健福祉センター | 心の健康相談、精神疾患・発達障害に関する情報提供、家族相談 | 心の不調を感じている人、発達障害かどうかわからず漠然とした不安がある人、家族としてどのように関われば良いか悩んでいる人 |
障害者就業・生活支援センター | 就職活動に関する相談、職場定着の支援、日常生活に関する助言、関係機関との連携 | 就職や働き続けることに困難を感じている人、仕事だけでなく生活全般の困りごとについて相談したい人 |
就労移行支援事業所 | 就職に向けた訓練(ビジネスマナー、コミュニケーション、PCスキルなど)、求職活動の支援、職場実習、職場定着支援 | 一般企業への就職を目指したいが、どのように準備すれば良いか分からない人、訓練を通じてスキルを身につけたい人 |
当事者会・家族会 | 経験談の共有、情報交換、仲間との交流、心理的な支え | 同じ特性を持つ人やその家族と繋がり、悩みを共有したり、具体的な工夫を聞いたりしたい人、孤立感を感じている人 |
これらの支援サービスを活用することで、自身の特性をより深く理解し、具体的な困りごとへの対処法を学び、社会生活を送りやすくするためのサポートを得ることができます。
重要なのは、一人で抱え込まず、誰かに相談することです。
まとめ:大人アスペルガーの「あるある」を知り、より生きやすく
大人になってからアスペルガー症候群(ASD)の特性に気づくことは、戸惑いや不安を感じるかもしれません。
しかし、「あるある」と感じる自身の困りごとや生きづらさの背景に発達特性があることを知ることは、決してネガティブなことだけではありません。
それは、これまでの自分を理解し、受け入れ、これからどのように生きていけばより快適になるのかを考える、前向きな一歩となるからです。
この記事でご紹介した「あるある」特徴や困りごとは、多くの大人アスペルガーの方が経験していることです。
決してあなた一人だけが悩んでいるわけではありません。
自身の特性を理解し、一人で抱え込まずに周囲に頼ったり、専門機関の支援を受けたりすることで、困りごとを軽減し、自分らしい生き方を見つけることができます。
アスペルガー症候群の特性は、困りごとの側面だけでなく、特定の分野への高い集中力や深い知識、正直さ、論理的な思考力など、素晴らしい強みとなる側面も持ち合わせています。
自身の「あるある」を知ることは、苦手なことへの対策だけでなく、得意なことや好きなことを再発見し、それを活かしていくためのヒントにもなります。
もし、この記事を読んで「もしかしたら…」と感じたなら、まずはご自身の特性についてもう少し調べてみたり、信頼できる人に相談してみたり、専門機関に問い合わせてみたりすることをお勧めします。
適切な理解とサポートがあれば、大人アスペルガーの特性と共に、より生きやすく、豊かな人生を送ることが可能です。
免責事項:
本記事は、アスペルガー症候群(ASD)に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的診断や助言を行うものではありません。ご自身の状態についてご心配な場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。また、ご紹介した対策や支援は一般的な例であり、効果には個人差があります。