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睡眠中に手足がピクピク?周期性四肢運動障害(PLMD)とは【原因と対策】

睡眠は心身の健康を保つ上で非常に重要ですが、中には眠っている間に起こる体の動きが原因で、質の良い睡眠が妨げられてしまうことがあります。その一つに「周期性四肢運動障害(PLMD)」があります。これは、主に睡眠中に、足や腕が定期的にピクついたり、痙攣したりする不随意な運動が繰り返される病気です。多くの患者さんは、ご自身の運動に気づかず、むしろ一緒に寝ている家族やパートナーが異常な動きに気づいて医療機関を受診することも珍しくありません。本記事では、この周期性四肢運動障害について、その症状、原因、診断方法、そして最新の治療法までを詳しく解説します。夜間の足の動きや日中の眠気でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

目次

周期性四肢運動障害とは?

周期性四肢運動障害(Periodic Limb Movement Disorder: PLMD)は、睡眠中に下肢(足)や上肢(腕)に、周期的かつ不随意な運動が繰り返し出現する睡眠関連運動障害の一つです。特に下肢に多くみられ、足首や膝、股関節の関節が伸展または屈曲する動きが特徴です。この運動は、文字通り周期的に起こり、その間隔は通常20秒から90秒と言われています。

PLMDは、睡眠中の運動自体が直接的に痛みを伴うことは少ないですが、その周期的な運動によって睡眠が頻繁に中断され、睡眠の質が著しく低下します。これにより、患者さん自身は夜間の運動に気づいていないにも関わらず、不眠や日中の過度な眠気といった症状に悩まされることになります。

この疾患は、あらゆる年齢層に発生する可能性がありますが、特に中高年以降に多く見られる傾向があります。診断には、睡眠中の体の動きを客観的に評価するための特殊な検査が必要です。

周期性四肢運動障害の主な症状

周期性四肢運動障害の症状は、主に睡眠中に現れる「体の動き」と、それに伴う「睡眠への影響」に分けられます。これらの症状は、患者さん自身が認識していないことが多い点が特徴です。

夜間の足や腕の自動運動

PLMDの最も特徴的な症状は、睡眠中に無意識に起こる四肢の周期的な運動です。具体的には、以下のような動きが観察されます。

  • 足の指が反り返る
  • 足首が上または下に曲がる(背屈または底屈)
  • 膝や股関節が曲がる(屈曲)

これらの運動は、片側または両側の四肢に同時に、あるいは交互に起こることがあります。一つの運動は比較的短時間(数秒以内)ですが、20秒から90秒という比較的規則的な間隔で繰り返し出現します。一晩に数百回、数千回と繰り返されることもあり、その頻度が高いほど睡眠への影響は大きくなります。

この運動は、特にノンレム睡眠中に多くみられ、レム睡眠中は比較的少ないとされています。前述の通り、多くの患者さんはこの運動中に完全に目が覚めるわけではなく、浅い眠りになったり、一時的に脳波が覚醒パターンを示したりする「覚醒反応」にとどまるため、ご自身の運動に気づきにくいのです。しかし、一緒に寝ているご家族やパートナーは、患者さんの激しい足の動きや寝床の揺れに気づき、心配して受診を勧めるケースが多く見られます。

睡眠への影響(不眠・日中の眠気)

睡眠中の周期的な四肢運動は、睡眠の連続性を繰り返し中断させます。完全な覚醒に至らなくても、浅い眠りや覚醒反応が生じることで、睡眠が断片化されてしまいます。その結果、以下のような睡眠障害の症状を引き起こします。

  • 不眠:

    • 入眠困難: なかなか寝付けない。
    • 中途覚醒: 夜中に何度も目が覚めてしまう。
    • 早朝覚醒: 予定よりも早く目が覚めてしまい、その後眠れない。
    • 睡眠が浅く、ぐっすり眠った感じがしない。
  • 日中の過度の眠気:

    • 夜間の睡眠が不十分であるため、日中に強い眠気に襲われる。
    • 会議中や運転中、あるいは単調な作業中にうとうとしてしまう。
    • 集中力や注意力が低下し、仕事や学業のパフォーマンスに影響が出る。
    • 倦怠感や疲労感を常に感じる。

患者さん自身は「よく眠れない」「昼間眠い」といった睡眠障害の症状を訴えて医療機関を受診し、検査によって初めて夜間の周期性四肢運動が判明するというパターンも少なくありません。これらの症状は、単なる寝不足と自己判断されがちですが、背景にPLMDが隠れている可能性があることを理解しておくことが重要です。

子供にみられる周期性四肢運動障害

周期性四肢運動障害は、成人だけでなく子供にも見られます。子供の場合も、夜間の睡眠中に足や腕が周期的に動くという基本的な運動パターンは成人と同じです。しかし、子供の場合は睡眠障害の訴え方が異なったり、他の行動上の問題として現れたりすることがあります。

子供のPLMDの主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 不眠: 寝付きが悪い、夜中に頻繁に起きる、朝早く起きてしまう。
  • 日中の眠気や疲労: 昼間に眠そうにしている、ぐずりやすい、集中力がない。
  • 行動上の問題: 多動性、衝動性、易怒性(怒りっぽい)など。これらの症状は注意欠陥・多動性障害(ADHD)と間違われることもあります。
  • 学業不振: 集中力の低下などから、学校での成績に影響が出る。

子供は自分の体の動きや睡眠の質の低下についてうまく言葉で説明できないことがあります。そのため、親や保護者が子供の寝相の悪さ、夜間の奇妙な動き、あるいは日中の行動の変化に気づいて専門医に相談することが診断のきっかけとなることが多いです。

子供のPLMDは、成長や発達に影響を与える可能性もあるため、早期に正確な診断を受け、適切な対応を始めることが重要です。

周期性四肢運動障害の原因

周期性四肢運動障害の原因は、まだ完全に解明されているわけではありませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。大きく分けて「原因不明の特発性」と「他の病気や薬剤による続発性」に分類されます。また、似た症状を持つ「むずむず脚症候群(RLS)」との関係も深く、両者の鑑別も重要です。

原因不明の特発性

特発性PLMDは、特定の基礎疾患や誘因が見つからないケースを指します。この場合、脳内の神経伝達物質の機能異常が関与している可能性が示唆されています。特に、ドパミンという神経伝達物質の働きが関係しているという説が有力です。

ドパミンは、運動調節や報酬系、睡眠・覚醒のリズムなど、様々な脳機能に関わっています。PLMDやむずむず脚症候群の患者さんでは、脳内の特定の部位(特に鉄分と関連が深い部位)におけるドパミンシステムの機能障害が示唆されており、これが不随意な運動や不快な感覚を引き起こしているのではないかと考えられています。

また、遺伝的な要因も関与している可能性が指摘されています。家族歴にPLMDやRLSを持つ人がいる場合、発症リスクが高まる傾向があります。しかし、特定の遺伝子がPLMDを直接引き起こすというよりは、病気になりやすい体質に関わる遺伝子が影響していると考えられています。

他の病気や薬剤による続発性

PLMDは、他の病気の症状として現れたり、特定の薬剤の副作用として誘発されたりすることがあります。これを続発性PLMDと呼びます。続発性の原因となる主な病気や状態には以下のようなものがあります。

  • 鉄欠乏性貧血: 体内の鉄分不足は、脳内のドパミン代謝に影響を与え、PLMDやRLSの原因となることが知られています。鉄欠乏の程度に関わらず、PLMD/RLS患者の多くで脳内の鉄分貯蔵が少ないことが報告されています。
  • 腎不全: 特に透析を受けている患者さんでPLMDの発症率が高いことが知られています。腎機能の低下に伴う体内の代謝異常や毒素の蓄積が原因と考えられています。
  • 末梢神経障害: 糖尿病性神経障害や他の原因による末梢神経の損傷も、PLMDの原因となることがあります。
  • 脊髄の病気: 脊髄損傷や脊髄炎など、脊髄の病気もPLMDを引き起こす可能性があります。
  • パーキンソン病: ドパミンシステムの機能障害が根底にあるパーキンソン病でも、PLMDやRLSが合併することがあります。
  • 睡眠時無呼吸症候群: 睡眠中の呼吸停止や低呼吸が繰り返される病気ですが、PLMDを合併することがあります。睡眠中の低酸素状態などが関連している可能性が指摘されています。
  • 特定の薬剤: 抗うつ薬(特にSSRIやSNRI)、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、ドーパミン拮抗薬、特定の吐き気止めなど、様々な薬剤がPLMDやRLSを誘発または悪化させることが報告されています。

これらの基礎疾患や薬剤が原因となっている場合は、その治療や薬剤の見直しを行うことで、PLMDの症状が改善することが期待できます。

むずむず脚症候群(RLS)との関係

むずむず脚症候群(Restless Legs Syndrome: RLS)は、PLMDと非常によく関連しており、両者はしばしば同時に発症します。RLSは、主に安静時(特に夜間や夕方)に下肢を中心に不快な感覚(むずむず、虫が這う感じ、かゆみ、痛みなど)が生じ、その不快感を軽減するために下肢を動かしたいという強い衝動に駆られることが特徴です。運動によって一時的に症状が和らぎますが、安静にすると再び出現します。

一方、PLMDは前述の通り、睡眠中に周期的な不随意運動が出現する病気です。

特徴 むずむず脚症候群(RLS) 周期性四肢運動障害(PLMD)
主な症状 安静時の不快な感覚、脚を動かしたい衝動 睡眠中の周期的な四肢の不随意運動
発生タイミング 主に覚醒時(夕方〜夜間、安静時) 主に睡眠中
患者の認識 不快な感覚や衝動を自覚する 自身の運動に気づかないことが多い(家族などが気づく)
睡眠への影響 入眠困難、中途覚醒 睡眠の断片化、不眠、日中の眠気
診断 問診、国際診断基準 睡眠ポリグラフ検査(PSG)で周期性四肢運動を確認

重要なのは、RLS患者さんの約80%がPLMDを合併しているのに対し、PLMD患者さんでRLSを合併しているのは一部であるという点です。つまり、RLSがあればほぼPLMDもあると考えられますが、PLMDがあっても必ずしもRLSがあるとは限りません。

RLSとPLMDは、診断基準が異なります。RLSは患者さんの自覚症状が診断の中心ですが、PLMDは睡眠ポリグラフ検査で客観的に運動を確認することが診断に必須となります。どちらの病態であるか、あるいは両者を合併しているかを正確に診断することが、適切な治療につながります。

周期性四肢運動障害の診断方法

周期性四肢運動障害は、患者さん自身が夜間の運動に気づいていないことが多いため、正確な診断のためには専門的な検査が不可欠です。問診で得られる情報(不眠、日中の眠気、家族からの指摘など)を基に、睡眠専門医が診断を進めます。

睡眠ポリグラフ検査の重要性

周期性四肢運動障害の診断において、最も重要な検査は終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)です。これは、睡眠中の様々な生理現象を同時に記録する検査で、医療機関に一泊して行われるのが一般的です。

PSGでは、以下のような項目を測定・記録します。

  • 脳波(EEG): 睡眠段階(ノンレム睡眠、レム睡眠)や覚醒反応を評価します。
  • 眼球運動(EOG): レム睡眠の判定などに使用します。
  • 筋電図(EMG): 特に下肢(前脛骨筋)の筋活動を記録し、周期的な運動の有無や頻度を検出します。腕の筋電図を記録することもあります。
  • 心電図(ECG): 心拍数やリズムを記録します。
  • 呼吸: 鼻口気流、胸腹部の動きなどを記録し、睡眠時無呼吸症候群などの合併の有無を確認します。
  • 血液中の酸素飽和度(SpO2): 睡眠中の低酸素状態を検出します。
  • ビデオ記録: 体の動きを視覚的に確認します。

PSGの結果を詳細に分析することで、以下の点が明らかになります。

  • 睡眠中に周期的な四肢運動が出現しているか
  • その運動の間隔は適切か(20秒〜90秒周期)
  • 運動がどの睡眠段階で起こっているか
  • 運動に伴って脳波上の覚醒反応が生じているか
  • 一晩あたりの周期性四肢運動の頻度(周期性四肢運動指数: PLM Index = 1時間あたりの運動回数)
  • 睡眠効率(寝ている時間の割合)や睡眠構造(各睡眠段階の割合)がどうなっているか
  • 睡眠時無呼吸症候群など、他の睡眠障害を合併していないか

PLMDの診断は、PSGで一定以上の頻度(例えば、小児では1時間あたり5回以上、成人では1時間あたり15回以上など、診断基準によって異なる)の周期性四肢運動が検出され、かつその運動が睡眠障害(不眠や日中の過眠など)の原因となっている場合に確定されます。患者さんの自覚症状だけでなく、客観的な運動の証拠が必要となるため、PSGは必須の検査となります。

診断基準について

周期性四肢運動障害の診断は、主に世界的に広く使用されている国際睡眠障害分類(International Classification of Sleep Disorders: ICSD)の診断基準に基づいて行われます。現行の第3版(ICSD-3)におけるPLMDの診断基準は、概ね以下の要素を含んでいます。

  1. 睡眠ポリグラフ検査(PSG)で周期性四肢運動(PLM)が認められること。

    • PLMは、下肢または上肢に繰り返し出現する伸展または屈曲の運動で、持続時間は0.5〜10秒。
    • 運動間の間隔は20〜90秒であること。
    • 一連の運動が最低4回連続して出現すること。
    • 周期性四肢運動指数(PLM Index = 1時間あたりのPLM回数)が、小児では5回以上、成人では1時間あたり15回以上など、診断基準によって異なること。
  2. PLMが、不眠、日中の過眠、または疲労の原因となっていること。

    • PSGで検出されたPLMが、実際に睡眠の断片化(脳波上の覚醒反応など)を引き起こしており、それが患者さんの訴える睡眠障害と関連していると判断される必要があります。
  3. 他の睡眠障害、医学的または精神科的疾患、あるいは薬剤の使用によって、その症状がより良く説明できないこと。

    • 例えば、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシー、うつ病などが原因で不眠や過眠が生じている場合は、そちらの診断が優先されるか、PLMDが合併していると判断されます。また、PLMを誘発する可能性のある薬剤を服用している場合は、薬剤性PLMとして診断されることもあります。
  4. むずむず脚症候群(RLS)の診断基準を満たさないこと。(またはRLSとは独立した問題として診断されること)

    • RLSとPLMDは合併することが多いため、両者の診断基準を満たす場合は、RLSとPLMDの両方として診断されます。PLMD単独の診断となるのは、RLSの診断基準を満たさない場合です。

これらの基準を満たすことで、周期性四肢運動障害と診断されます。診断に際しては、単にPSGでPLMが検出されただけでなく、その運動が患者さんの睡眠障害の原因となっているかどうかが重要視される点がポイントです。

周期性四肢運動障害の治療法

周期性四肢運動障害の治療は、症状の重症度、睡眠障害の程度、基礎疾患の有無などを考慮して決定されます。治療の主な目的は、周期性四肢運動の回数を減らすことと、運動に伴う睡眠の断片化を軽減し、睡眠の質を改善することです。治療法には、薬物療法と非薬物療法があります。

薬物療法によるアプローチ

PLMDの症状が重く、睡眠障害が顕著で日常生活に支障をきたしている場合は、薬物療法が検討されます。主に、脳内のドパミン系に作用する薬剤が使用されます。

  • ドパミン作動薬(Dopamine agonists):

    • ロピニロール(Ropinirole)、プラミペキソール(Pramipexole)など。
    • これらの薬剤は、脳内のドパミン受容体を刺激することでドパミン不足を補い、周期性四肢運動を抑制する効果があります。元々はパーキンソン病の治療薬として開発されましたが、PLMDやRLSの治療にも広く使用されています。
    • 通常、就寝前に服用します。少量から開始し、効果を見ながら増量することが多いです。
    • 主な副作用としては、吐き気、めまい、眠気、低血圧などがありますが、多くは一時的です。長期使用により「augmentation(アグメンテーション)」と呼ばれる症状の悪化(日中の早い時間からの症状出現、症状範囲の拡大など)が起こる可能性があり、注意が必要です。
  • ベンゾジアゼピン系薬剤(Benzodiazepines):

    • クロナゼパム(Clonazepam)など。
    • これらの薬剤は、脳の活動を抑制することで、周期性四肢運動の出現頻度を減らす効果があります。また、睡眠を深くする作用もあり、睡眠の断片化を軽減する効果も期待できます。
    • 就寝前に服用します。
    • 主な副作用としては、日中の眠気、ふらつき、記憶障害などがあります。また、長期連用により依存性を生じるリスクがあるため、漫然とした使用は避けるべきです。
  • その他の薬剤:

    • ガバペンチン(Gabapentin)やプレガバリン(Pregabalin)などの抗てんかん薬が、PLMDやRLSの治療に使用されることもあります。これらは神経の過剰な興奮を抑えることで、症状を軽減すると考えられています。副作用として眠気やめまいなどがあります。
    • オピオイド系鎮痛薬が重症例に使用されることもありますが、依存性のリスクが高いため慎重な判断が必要です。

どの薬剤を選択するかは、患者さんの年齢、症状の重症度、併存疾患、他の服用薬などを総合的に考慮して、専門医が判断します。

薬を使わない非薬物療法(マッサージ・生活習慣改善など)

薬物療法と並行して、あるいは症状が比較的軽度な場合には、薬を使わない非薬物療法も有効です。生活習慣の改善や、特定の要因への対処が中心となります。

  • 原因となる基礎疾患の治療: 鉄欠乏性貧血や腎不全、末梢神経障害など、PLMDの原因となっている可能性のある基礎疾患があれば、その疾患の治療を優先することでPLMDの症状が改善することがあります。鉄欠乏がある場合は、鉄剤の補給が有効な治療法となります。
  • 原因薬剤の見直し: PLMDを誘発または悪化させる可能性のある薬剤を服用している場合は、医師と相談の上、可能であれば他の薬剤に変更したり、減量したりすることを検討します。
  • 睡眠衛生の改善: 質の良い睡眠を確保するための一般的な対策も有効です。

    • 毎日同じ時間に寝て起きる規則正しい生活を送る。
    • 寝室を快適な環境にする(温度、湿度、騒音、光)。
    • 就寝前のカフェイン、アルコール、ニコチンの摂取を控える。これらはPLMDの症状を悪化させる可能性があります。
    • 寝る前に刺激的な活動(スマホ、パソコン、テレビなど)を避ける。
  • 適度な運動: 日中の適度な運動は睡眠の質を改善する効果がありますが、就寝直前の激しい運動は避けるべきです。
  • マッサージや温熱療法: 足や腕のマッサージや入浴など、体を温めることで症状が一時的に緩和されることがあります。

非薬物療法は、薬物療法のような即効性は期待できませんが、長期的に症状を安定させ、薬物療法による副作用のリスクを軽減する上で重要な役割を果たします。特に鉄欠乏の是正は、可能であれば薬物療法よりも優先して行うべきアプローチです。治療は患者さん一人ひとりの状態に合わせてカスタマイズされるため、専門医とよく相談しながら進めることが大切です。

周期性四肢運動障害を放置するとどうなる?

周期性四肢運動障害によって引き起こされる睡眠の断片化や睡眠不足を放置すると、様々な心身の健康問題や日常生活への悪影響が生じる可能性があります。夜間の運動自体に気づいていない場合でも、日中の症状(眠気、疲労など)が見られる場合は注意が必要です。

慢性的な睡眠不足のリスク

PLMDによる慢性的な睡眠不足は、以下のような深刻な健康リスクを高めることが多くの研究で示されています。

  • 心血管疾患: 高血圧、冠動脈疾患、脳卒中などのリスクが上昇します。睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、血圧や心拍数を上昇させることが知られています。
  • 代謝性疾患: 2型糖尿病、肥満のリスクが増加します。睡眠不足は食欲を調節するホルモン(グレリン、レプチン)のバランスを崩し、過食を招いたり、インスリン抵抗性を引き起こしたりすることがあります。
  • 免疫機能の低下: 睡眠不足は免疫システムの働きを弱め、感染症にかかりやすくなったり、病気からの回復が遅れたりする原因となります。
  • 精神疾患: うつ病や不安障害の発症リスクが高まります。睡眠と精神状態は密接に関連しており、慢性的な睡眠障害は気分の落ち込みやイライラ感につながりやすいです。

これらの健康問題は、単に体の不調にとどまらず、長期的に患者さんの寿命や生活の質に大きく影響を及ぼす可能性があります。

日常生活や精神面への影響

慢性的な睡眠不足は、身体的な健康だけでなく、日常生活や精神面にも様々な悪影響をもたらします。

  • 日中の過度の眠気: 最も一般的な影響の一つです。仕事中や授業中に集中力が続かない、うとうとしてしまうといった問題が生じます。特に自動車の運転中に強い眠気に襲われると、交通事故のリスクが著しく高まります。作業中のミスや効率の低下にもつながります。
  • 集中力・記憶力の低下: 睡眠は脳の休息と情報の整理に重要な役割を果たしています。睡眠が不足すると、集中力や注意力が散漫になり、新しいことを学習したり、情報を記憶したりする能力が低下します。
  • 判断力の低下: 複雑な問題を解決したり、適切な判断を下したりする能力が低下します。これは仕事や日常生活の様々な場面で問題となります。
  • 気分の変動、易怒性: 睡眠不足は精神的な安定を損ない、イライラしやすくなったり、些細なことで怒りを感じたり、気分の落ち込みを感じやすくなります。
  • 社会生活への影響: 家族や友人との関係が悪化したり、社会的な活動から遠ざかったりすることもあります。
  • QOL(生活の質)の著しい低下: これらの様々な影響が複合的に作用し、患者さんの生活全般の質が著しく低下してしまいます。

周期性四肢運動障害は、夜間の運動自体が自覚されにくいため、単なる不眠や日中の眠気として軽視されがちです。しかし、その背景にある睡眠の断片化は、上記のような様々なリスクを内包しています。これらの問題を防ぎ、健康的な生活を取り戻すためには、周期性四肢運動障害を正しく診断し、適切に治療することが非常に重要です。

周期性四肢運動障害に関するよくある質問

周期性四肢運動障害(PLMD)や関連するむずむず脚症候群(RLS)については、様々な疑問が生じやすい疾患です。ここでは、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

RLSの原因は何ですか?

むずむず脚症候群(RLS)の正確な原因も、PLMDと同様にまだ完全に解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 脳内の鉄代謝異常: 脳内の特定の部位(特に黒質)における鉄分の不足が、ドパミンシステムの機能障害を引き起こし、RLSの症状に関与しているという説が有力です。血清フェリチン値(体内の貯蔵鉄を示す指標)が低い場合にRLSを発症しやすいことが知られています。
  • ドパミンシステムの機能障害: 脳内のドパミンという神経伝達物質の合成、輸送、または受容体の機能に異常があることが示唆されています。ドパミンは運動調節に関わる重要な物質です。
  • 遺伝的要因: 家族にRLSの人がいる場合、本人も発症しやすい傾向があります。RLSにはいくつかの関連遺伝子が報告されています。
  • 続発性RLS: PLMDと同様に、他の病気や状態、薬剤が原因となることがあります。

    • 鉄欠乏性貧血
    • 腎不全(特に透析患者)
    • 妊娠(特に後期)
    • 末梢神経障害
    • 脊髄の病気
    • 特定の薬剤(抗うつ薬、抗精神病薬など)
    • カフェイン、アルコール、ニコチンの過剰摂取

これらの原因が単独で、あるいは複合的に作用してRLSを発症させると考えられています。

寝てる時に足がビクビクするのはなぜですか?

寝ている間に足がビクビクしたり、ピクついたりする現象は、いくつかの原因が考えられます。その中でも代表的なものが「周期性四肢運動(PLM)」と「夜間ミオクローヌス」です。

  • 周期性四肢運動(PLM): 周期性四肢運動障害(PLMD)の項目で詳しく解説したように、睡眠中に20秒〜90秒間隔で、足首や膝などが伸展または屈曲する比較的規則的な動きです。PLMDの診断に必須となる運動です。
  • 夜間ミオクローヌス: 睡眠中に突発的かつ不規則に起こる、速い筋肉のぴくつきや単収縮です。例えば、寝入りばなに体がビクッと大きく動く「ジャーキング」も夜間ミオクローヌスの一種です。PLMのような周期性はなく、間隔も不規則です。夜間ミオクローヌス自体は病的なものではなく、健康な人にも起こり得ます。しかし、頻繁に起こる場合は睡眠を妨げ、睡眠障害の原因となることがあります。

その他にも、てんかん発作や他の神経疾患が原因で睡眠中に不随意運動が起こる可能性もゼロではありません。寝ている間の足の動きによって睡眠が妨げられたり、日中の眠気や疲労感がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診して原因を特定することが重要です。睡眠専門医に相談し、必要に応じて睡眠ポリグラフ検査を受けることで、足の動きがPLMなのか、夜間ミオクローヌスなのか、あるいは他の原因によるものなのかを正確に診断することができます。

RLSと周期性四肢運動障害は同じ病気ですか?

むずむず脚症候群(RLS)と周期性四肢運動障害(PLMD)は、しばしば合併するため混同されやすいですが、厳密には異なる病気です。しかし、両者は原因や治療法において多くの共通点を持っています。

特徴 むずむず脚症候群(RLS) 周期性四肢運動障害(PLMD)
中核症状 覚醒時の不快な感覚と脚を動かしたい衝動 睡眠中の周期的な四肢の不随意運動
主な発生時期 夕方〜夜間、安静時(主に覚醒時) 睡眠中
診断のポイント 患者の自覚症状に基づいた国際診断基準 睡眠ポリグラフ検査(PSG)による客観的な運動の検出
関連性 RLS患者の約80%がPLMDを合併する PLMD患者の一部がRLSを合併する
病態の共通点 脳内のドパミン系や鉄代謝の異常が関与している可能性 脳内のドパミン系や鉄代謝の異常が関与している可能性
治療薬の共通点 ドパミン作動薬などが有効な場合が多い ドパミン作動薬などが有効な場合が多い

両者は共通のメカニズム(ドパミン系や鉄代謝異常など)を持つと考えられており、同じ薬剤が治療に用いられることも多いですが、診断基準が異なるため、区別して診断されます。特に、日中の不快な感覚を伴う場合はRLSの要素が強いと考えられます。どちらの疾患であるか、あるいは両方を合併しているかは、問診とPSGの結果を総合的に判断して診断されます。

周期性四肢運動障害の専門機関

周期性四肢運動障害は、睡眠中に起こる運動が原因で睡眠障害を引き起こす疾患であるため、睡眠障害全般を専門とする医療機関や医師に相談するのが最も適切です。

どこに相談すべきか

周期性四肢運動障害の診断と治療に対応できる主な専門機関は以下の通りです。

  • 睡眠専門外来: 大学病院や総合病院の中には、睡眠障害を専門に診る外来を設けている場合があります。睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行う設備が整っており、睡眠専門医が診断・治療を行います。最も専門的なアプローチが期待できます。
  • 神経内科: 周期性四肢運動は神経系の機能に関連する症状であるため、神経内科医が診断・治療を行うこともあります。特に、他の神経疾患(パーキンソン病、末梢神経障害など)が疑われる場合には適しています。
  • 精神科: 不眠や日中の眠気といった睡眠障害は、精神科でも広く扱われます。精神科医の中にも睡眠医療に詳しい医師がいます。うつ病や不安障害など、精神的な問題が併存している場合にも適しています。
  • 呼吸器内科: 睡眠時無呼吸症候群など、呼吸に関連する睡眠障害を専門としていますが、PSGを行う設備があるため、PLMDの検査・診断が可能な場合もあります。

受診先を選ぶ際には、可能であれば睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行う設備があるか、睡眠専門医がいるかを確認することをお勧めします。特にPLMDの確定診断にはPSGが不可欠だからです。

かかりつけ医に不眠や日中の眠気を相談し、PLMDの可能性を指摘された場合は、専門機関への紹介状を書いてもらうこともできます。

(必要に応じて地域情報:東京の専門医など)

(地域情報は一般的な記述に留める)
例えば、東京や大阪のような大都市圏には、睡眠専門外来を設置している大学病院や大規模病院が複数あります。また、睡眠障害を専門とするクリニックも存在します。これらの医療機関では、高度な睡眠ポリグラフ検査や専門的な治療を受けることができます。お住まいの地域で睡眠専門医や睡眠専門外来を探すには、インターネットで「〇〇県 睡眠専門外来」「〇〇市 睡眠障害 クリニック」といったキーワードで検索したり、日本睡眠学会のウェブサイトなどで専門医や認定施設を調べたりする方法が有効です。

受診する際は、現在の症状(いつから、どのような症状か、夜間の動きについて家族の指摘はあるかなど)、睡眠の状態(寝付き、夜中の覚醒、睡眠時間など)、日中の状態(眠気、疲労感、集中力など)、これまでに診断された病気、服用中の薬などを整理して伝えると、スムーズな診断につながります。

まとめ

周期性四肢運動障害(PLMD)は、睡眠中に足や腕が周期的に動く不随意運動が繰り返される睡眠関連運動障害です。患者さん自身は夜間の運動に気づかないことが多く、その運動によって引き起こされる睡眠の断片化が、不眠や日中の過度の眠気といった睡眠障害の症状として現れるのが特徴です。

PLMDの原因は、原因不明の特発性と、鉄欠乏、腎不全、神経疾患、特定の薬剤などによる続発性に分けられます。むずむず脚症候群(RLS)とは関連が深く、しばしば合併しますが、RLSは覚醒時の不快な感覚が主体であるのに対し、PLMDは睡眠中の運動が主体であり、異なる疾患として区別されます。

PLMDの正確な診断には、睡眠中の体の動きや睡眠状態を客観的に評価する終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が不可欠です。PSGの結果と患者さんの症状を総合的に判断し、国際的な診断基準に基づいて診断が行われます。

治療法には、ドパミン作動薬やベンゾジアゼピン系薬剤などを用いる薬物療法と、鉄剤補給、原因薬剤の見直し、睡眠衛生の改善といった非薬物療法があります。症状や原因に合わせて、これらの治療法が単独で、あるいは組み合わせて行われます。

周期性四肢運動障害によって生じる慢性的な睡眠不足は、高血圧、糖尿病、心血管疾患、精神疾患などの様々な健康リスクを高めるだけでなく、日中の強い眠気による事故リスクの増加、集中力や判断力の低下、QOLの著しい低下を招きます。

夜間の足のピクつきや日中の原因不明の眠気、不眠でお悩みの場合、周期性四肢運動障害の可能性も考慮し、放置せずに睡眠専門医や神経内科医といった専門機関に相談することが重要です。適切な診断と治療を受けることで、夜間の運動を軽減し、睡眠の質を改善し、健康的な日常生活を取り戻すことが期待できます。


【免責事項】

この記事は、周期性四肢運動障害に関する一般的な情報提供を目的としています。記載内容は、医学的な診断や治療を保証するものではありません。ご自身の症状についてご心配な場合は、必ず医師や専門医療機関にご相談ください。個別の診断や治療方針は、医師が患者さんの状態を詳しく診察した上で判断するものです。

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