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身体表現性障害(身体症状症)の理解と治療法|つらい症状を改善へ

原因不明の体の不調が続き、検査をしても異常が見つからない。そんな経験はありませんか? もしかしたら、それは「身体表現性障害」、現在は「身体症状症」と呼ばれる疾患かもしれません。この疾患は、体のつらい症状だけでなく、その症状に対する強い不安やこだわりを伴うのが特徴です。この記事では、身体表現性障害(身体症状症)の症状、原因、診断基準、そして効果的な治療法について、分かりやすく解説します。原因不明の体の痛みに悩んでいる方、ご家族や周囲に体の不調で苦しんでいる方がいる方は、ぜひ参考にしてください。一人で悩まず、適切な医療機関へ相談を検討しましょう。

身体表現性障害とは

身体表現性障害は、国際的な診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)において、「身体症状症および関連症群(Somatic Symptom and Related Disorders)」という新しいカテゴリーに分類されました。このカテゴリーに含まれる疾患は、目立つ身体症状が存在し、その症状に対する考え方、感じ方、行動に強い苦痛や日常生活への支障を伴うことが共通しています。

以前は「身体表現性障害」という名称が用いられていましたが、DSM-5への改訂に伴い、いくつかの旧分類疾患(身体化障害、鑑別不能型身体表現性障害、疼痛性障害、心気症など)が再編成され、主に「身体症状症」という診断名になりました。旧名称である「身体表現性障害」という言葉もまだ広く使われており、疾患の性質を理解する上では役立ちます。

目次

身体表現性障害の定義と名称変更

身体表現性障害、現在の「身体症状症」は、医学的な検査や診察で十分に説明できない、または説明できたとしてもその症状に対する精神的な苦痛や日常生活への支障が医学的な所見の程度を超えているような身体症状が持続し、その症状や健康状態に対する過度な考え(思考)、感情(感情)、行動(行動)を伴う精神疾患の一つです。

「身体症状症」への名称変更について

DSM-5で「身体症状症」という名称に変更された背景には、旧分類の「身体表現性障害」が抱えていた課題がありました。旧分類では、身体症状の種類(痛み、消化器症状、神経症状など)や、病気への不安(心気症)といった、主に症状の内容に焦点を当てて分類されていました。しかし、実際の臨床現場では、多様な身体症状が同時に存在したり、症状の種類で明確に区別することが難しかったりすることがありました。

新しい「身体症状症」の診断基準では、症状の内容そのものよりも、症状が存在すること、そしてその症状や関連する健康状態に対する患者さんの「考え方、感じ方、行動」に焦点を当てています。 具体的には、以下のような特徴が重視されます。

  • 症状のつらさや重要性について過度に考えてしまう。
  • 健康や症状に対する不安が非常に強い。
  • 症状に関して過度に時間を費やしたり、エネルギーを注いだりする(例:頻繁な医療機関受診、繰り返し検査を求める、過剰な情報収集)。

この変更により、多様な身体症状を呈する患者さんをより包括的に捉え、症状そのものへのアプローチだけでなく、症状に対する患者さんの心理的な側面への介入の重要性が明確になりました。

身体表現性障害は精神疾患です

「身体表現性障害」や「身体症状症」は、身体の症状がメインであるため、「体の病気ではないか?」と考えがちですが、これらは精神疾患に分類されます。「精神疾患」と聞くと抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは心が原因で身体に症状が現れる病気であり、「気のせい」や「怠けている」といった単純な問題ではありません。

脳と心、そして身体は密接に連携しています。強いストレスや不安、抑うつといった精神的な要因が、自律神経系や内分泌系、免疫系などを介して身体に影響を及ぼし、様々な症状を引き起こすと考えられます。例えば、緊張するとお腹が痛くなる、ストレスで頭痛がするといった経験は多くの人が持っていますが、身体表現性障害では、これらの身体反応が慢性化・重症化し、日常生活に大きな支障をきたすほどになります。

この疾患は、患者さんにとって非常に現実的でつらい身体的な苦痛を伴います。しかし、医学的な検査では異常が見つからないことが多いため、周囲から理解されにくく、「大げさだ」「気にしすぎだ」と言われてしまうこともあります。このような誤解は、患者さんの孤立感を深め、さらなる精神的な苦痛をもたらす可能性があります。身体表現性障害が正式な精神疾患であることを理解することは、適切な診断と治療への第一歩となります。

身体表現性障害の主な症状と特徴

身体表現性障害(身体症状症)の症状は非常に多様であり、体のあらゆる部分に現れる可能性があります。単に身体の不調があるだけでなく、その症状に対して特定の「とらわれ」があるのが大きな特徴です。

多様な身体症状について

身体症状症でみられる症状は多岐にわたります。特定の部位に固定されることもあれば、時間とともに変化したり、あちこちに移動したりすることもあります。一般的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 疼痛:
    頭痛、腹痛、腰痛、胸痛、関節痛、手足の痛み、全身の痛みなど。痛みの性質(刺すような痛み、ズキズキする痛み、締め付けられる痛みなど)も様々です。医学的な原因が見つからない痛みが持続する場合、この疾患の可能性が考えられます。
  • 消化器症状:
    吐き気、嘔吐、腹部膨満感、下痢、便秘、呑酸(胸焼け)など。過敏性腸症候群(IBS)と診断されることもありますが、身体症状症の範疇で捉えられることもあります。
  • 神経学的症状:
    手足の麻痺や脱力、けいれん、声が出せない(失声)、見えない(失明)、聞こえない(難聴)、感覚異常(しびれ、ピリピリ感)、めまい、失神発作など。これらの症状は、神経系の器質的な病気(脳卒中、多発性硬化症など)と間違われやすいため、慎重な鑑別が必要です。転換性障害(機能性神経症状症)として分類されることもあります。
  • 疲労感:
    慢性的な疲労感、だるさ。休息しても改善しない強い倦怠感。線維筋痛症や慢性疲労症候群との関連も指摘されることがあります。
  • 心血管・呼吸器症状:
    動悸、胸部不快感、息苦しさ、過換気、立ちくらみなど。パニック障害と症状が似ている場合もあります。
  • その他の症状:
    皮膚のかゆみ、発疹(医学的に説明できないもの)、性器や尿路に関する症状(排尿困難、性交痛など)など。

これらの身体症状は、医学的な検査で異常が見つからないにもかかわらず、患者さんにとっては非常に現実的でつらい苦痛を伴います。また、複数の症状が同時に現れることも少なくありません。

症状への過度なとらわれと苦痛

身体症状症の大きな特徴は、単に身体症状があるだけでなく、その症状や健康状態に対する過度な「とらわれ」があることです。具体的には、以下のような心理的・行動的な側面が見られます。

  • 症状の重篤性への過度な懸念:
    些細な身体の感覚や軽い症状を、非常に重篤な病気の兆候ではないかと過度に心配する。医師から「異常なし」と言われても納得できず、別の病気ではないかと不安がり続ける。
  • 健康に対する高度な不安:
    常に自分の健康状態について心配している。体の変化に敏感で、病気なのではないかという思考から離れられない。
  • 症状や健康に対する過剰な時間・エネルギーの消費:
    症状の原因を突き止めるために、複数の医療機関を受診したり、繰り返し検査を求めたりする。インターネットで症状について過度に調べ続けたり、知人や家族に症状について繰り返し話したりする。
  • 病気であることの確信:
    医学的な根拠がなくても、自分は何か重い病気にかかっていると強く信じている。
  • 症状への固執:
    症状が生活の中心になり、症状のことばかり考えてしまう。症状のために外出を控えたり、活動を制限したりする。

このような過度な「とらわれ」は、患者さん自身に多大な精神的な苦痛をもたらし、日常生活の質を著しく低下させます。また、医療機関を頻繁に受診することで、医療費の増大や、医師との関係性の悪化につながることもあります。

日常生活への支障

身体症状症における身体症状とそれへの過度なとらわれは、患者さんの日常生活に深刻な支障を引き起こします。

  • 社会的活動の制限:
    症状がつらい、いつ症状が出るか分からないといった不安から、仕事や学校に行くのが困難になったり、友人との約束をキャンセルしたりするなど、社会的な活動を避けるようになることがあります。
  • 学業や職業上の困難:
    症状のために集中力が低下したり、欠席・欠勤が増えたりすることで、学業成績が低下したり、仕事の継続が難しくなったりすることがあります。
  • 人間関係への影響:
    家族や友人に対して、症状への理解やサポートを過度に求めたり、症状について繰り返し訴えたりすることで、関係が悪化することがあります。逆に、周囲からの無理解や否定的な態度によって孤立感を深めることもあります。
  • 経済的な問題:
    頻繁な医療機関受診や様々な検査、治療への支出が増え、経済的な負担が大きくなることがあります。
  • 生活の質の低下:
    身体的な苦痛、精神的な不安、社会的な制限により、生活全体の満足度が著しく低下します。

これらの症状やそれに伴う苦痛は、患者さん自身の努力だけではコントロールすることが難しく、専門的な支援が必要となります。

身体表現性障害の原因

身体表現性障害(身体症状症)の原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。特定の明確な生物学的な原因が見つからないことが多い点がこの疾患の特徴です。

ストレスとの関連性

身体症状症の発症や悪化には、ストレスが深く関連していると考えられています。

  • 心理的ストレス:
    人間関係の問題、仕事や学業のプレッシャー、経済的な困難、喪失体験、過去のトラウマ(虐待や事故など)といった心理的なストレスは、身体に様々な影響を与えます。ストレス反応として分泌されるホルモン(コルチゾールなど)や、自律神経系の乱れが、身体の感覚を過敏にしたり、実際に痛みを引き起こしたりすることがあります。
  • 身体的ストレス:
    過労、睡眠不足、病気、怪我なども身体に負担をかけ、症状の発現や悪化の要因となることがあります。

身体症状症の患者さんは、ストレスに対して身体症状という形で反応しやすい傾向があると考えられます。これは、感情を言葉で表現するのが苦手であったり、感情に気づきにくかったりする場合に、無意識のうちに身体が代わりに表現しているという見方もあります(身体化)。

心理的・環境的要因

ストレス以外にも、様々な心理的・環境的な要因が身体症状症の発症に関与していると考えられています。

  • 幼少期の経験:
    幼少期のトラウマ(身体的・精神的虐待、ネグレクトなど)は、脳や神経系の発達に影響を与え、後の人生でストレスへの対処が難しくなったり、身体感覚の異常につながったりする可能性があります。また、幼い頃に病気がちであったり、家族に病気の人が多かったりといった経験も、健康や病気への過度な関心につながることがあります。
  • 学習:
    過去に身体症状によって周囲から注目されたり、困難な状況から逃れることができたりした経験があると、無意識のうちに身体症状が強化されることがあります。
  • 文化的な要因:
    特定の文化圏では、感情を表現することよりも身体の不調を訴えることの方が受け入れられやすいといった文化的な背景も影響する可能性があります。
  • 家庭環境:
    過干渉や過保護な家庭環境、家族間のコミュニケーションの問題なども、心理的なストレスとなり、身体症状の発現に関与する可能性があります。

身体化障害(旧称)の原因について

旧分類である「身体化障害」では、特に感情の抑圧過去のトラウマが原因として重視されていました。感情をうまく認識したり表現したりできない人が、抑圧された感情や満たされない欲求を身体症状として表出するという考え方です。

現在の身体症状症の理解では、感情の抑圧も一つの要因として挙げられますが、それだけでなく、身体の感覚に対する過敏性、病気への誤った認知(破局的思考など)、健康行動の異常(回避行動、過剰な健康チェックなど)といった認知行動的な側面も重要な要因として捉えられています。

性格傾向との関連

特定の性格傾向を持つ人が、身体症状症を発症しやすい可能性が指摘されています。

  • 完璧主義:
    自分にも他人にも高い基準を求め、失敗を過度に恐れる傾向。プレッシャーを感じやすく、そのストレスが身体症状として現れることがあります。
  • 真面目で責任感が強い:
    何事も一生懸命に取り組みますが、物事を一人で抱え込みやすく、ストレスを発散するのが苦手な場合があります。
  • 感受性が高い/繊細:
    周囲の出来事や他者の感情に影響を受けやすく、傷つきやすい傾向。心理的な刺激が身体反応に繋がりやすい可能性があります。
  • 感情表現が苦手:
    自分の感情、特にネガティブな感情(怒り、悲しみ、不安など)を言葉で表現するのが苦手な場合、身体が代わりに感情を「表現」してしまうことがあります。
  • 健康不安が強い:
    元々健康や病気に対する心配が強い傾向がある人は、些細な身体のサインを病気の兆候と捉えやすく、身体症状症に繋がりやすいと考えられます。

ただし、これらの性格傾向を持つ人が全て身体症状症になるわけではありません。性格傾向はあくまで素因の一つであり、他の要因と組み合わさることで発症のリスクが高まると考えられます。

身体表現性障害の診断

身体表現性障害(身体症状症)の診断は、身体的な疾患の可能性を排除することと、精神的な評価の両面から慎重に行われます。原因不明の身体症状がある場合に、すぐに身体症状症と診断されるわけではありません。

身体的な検査と医学的評価

まず最も重要なステップは、症状の原因が本当に身体的な病気によるものではないかを徹底的に調べることです。身体症状症と診断される前に、患者さんは様々な科(内科、外科、整形外科、神経内科など)を受診し、多くの検査を受けることが一般的です。

医師は、患者さんの訴える症状について詳しく問診を行い、身体診察を行います。必要に応じて、以下のような検査を実施します。

  • 血液検査:
    炎症反応、ホルモン値、自己抗体など、様々な病気に関連する項目を調べます。
  • 画像検査:
    レントゲン、CT、MRI、超音波検査などを用いて、体の内部に異常がないかを確認します。
  • 生理機能検査:
    心電図、脳波検査、内視鏡検査、呼吸機能検査などを行い、特定の臓器の働きに問題がないかを調べます。

これらの検査を総合的に行っても、症状を十分に説明できるような明確な身体的な異常が見つからない場合に、身体症状症を含む精神的な要因による疾患の可能性が考えられるようになります。ただし、既存の身体疾患がある場合でも、その疾患の程度では説明できないほどの強い苦痛や、症状への過度なとらわれがある場合には、身体症状症が合併していると診断されることもあります。

精神的な評価と診断基準(DSM-5)

身体的な検査で異常が見つからない、あるいは既存の疾患だけでは症状が説明できない場合に、精神科医や心療内科医による精神的な評価が行われます。この評価では、患者さんの症状の詳細、症状が始まったきっかけ、症状に対する考え方や感情、日常生活への影響、既往歴(精神疾患を含む)、家族歴、生育歴、現在のストレス状況などを詳しく問診します。

診断は、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)に定められた診断基準に基づいて行われます。身体症状症の主な診断基準の要点は以下の通りです。

  • 一つ以上の身体症状が存在し、それがつらい、または日常生活に著しい支障をきたしている。
  • 身体症状そのものだけでなく、その症状や関連する健康状態に対する過度な考え、感情、または行動が以下のいずれかによって示されている。
    • 症状の重篤性に対する不釣合いで持続的な考え。
    • 健康や症状に対する持続的な高度の不安。
    • これらの症状や健康上の懸念に対し、過剰な時間とエネルギーを費やすこと。
  • 身体症状は持続的である(通常6ヶ月以上)。

つまり、身体症状症の診断では、身体症状の存在だけでなく、その症状に対する患者さんの心理的な反応や行動パターンが重視されます。医師は、問診を通してこれらの基準を満たすかどうかを判断します。

器質的な疾患との鑑別

身体症状症の診断において、器質的な(身体的な)疾患との鑑別は非常に重要です。身体症状症の症状は、神経疾患、内分泌疾患、自己免疫疾患、慢性感染症、悪性腫瘍など、様々な身体疾患の症状と似ていることがあります。

適切な身体的な検査が行われずに身体症状症と診断されてしまうと、本当に治療が必要な身体疾患が見過ごされてしまうリスクがあります。そのため、身体症状症の診断は、慎重な医学的評価と、身体疾患の可能性を十分に検討した上で、精神科医や心療内科医によって行われるべきです。

逆に、身体疾患の診断がついている場合でも、その症状への過度な苦痛やとらわれが医学的な所見の程度を超えている場合には、身体症状症が併存していると診断され、適切な精神的なサポートや治療が必要となることがあります。

適切な診断のためには、患者さんが体の不調を感じたら、まずはかかりつけ医や専門の診療科(内科、外科など)を受診し、必要な身体的な検査を受けることが大切です。そこで異常が見つからず、症状やそれへのとらわれが続く場合に、精神科医や心療内科医に相談することを検討しましょう。

身体表現性障害の治療法

身体表現性障害(身体症状症)の治療は、身体症状そのものの軽減と、症状に対する過度なとらわれや苦痛の軽減を目指して行われます。主に精神療法が中心となりますが、状況に応じて薬物療法が併用されることもあります。

精神療法(認知行動療法など)

身体症状症に対する治療で最も効果が期待できるとされているのが精神療法です。特に認知行動療法(CBT)が推奨されています。

  • 認知行動療法(CBT):
    • 目的:
      症状に対する誤った考え方(認知の歪み)や、症状を悪化させる行動パターンを修正することを目指します。
    • 具体的なアプローチ:
      • 病気や症状に対する知識の提供(心理教育):
        身体症状症がどのような病気か、なぜ身体症状が現れるのかなどを理解することで、病気に対する誤解や不安を軽減します。
      • 身体感覚への過度な注意の修正:
        身体の些細な感覚に過敏になりすぎないように、注意をコントロールする練習をします。
      • 破局的思考の修正:
        些細な症状を「何か重大な病気の前兆だ」と悲観的に捉える考え方を、より現実的な考え方に修正する練習をします。
      • 健康行動の調整:
        過剰な健康チェックや医療機関受診を減らし、逆に症状を恐れて避けていた活動(外出、運動など)を少しずつ再開する練習をします(行動活性化)。
      • ストレス対処スキルの習得:
        ストレスを感じやすい状況やストレスに対する反応パターンを特定し、リラクゼーション法や問題解決スキルなど、より効果的なストレス対処法を身につけます。
      • 感情への気づきと表現:
        身体症状の背景にある感情(不安、怒り、悲しみなど)に気づき、それを言葉で表現する練習をします。

CBTは、セラピストとの対話を通して、患者さん自身が自分の考え方や行動パターンを理解し、より建設的な対処法を身につけていく能動的な治療法です。継続することで、症状に対する不安が軽減し、日常生活への支障が改善することが期待できます。

CBT以外にも、以下のような精神療法が用いられることがあります。

  • 精神力動療法:
    過去の経験や無意識の葛藤が現在の症状にどう影響しているかを理解することを目指します。
  • 対人関係療法(IPT):
    対人関係の問題が症状の発現や持続にどう影響しているかに焦点を当て、対人関係の改善を目指します。
  • 森田療法:
    症状をあるがままに受け入れ、症状にとらわれずに建設的な行動を積み重ねることを重視します。

どの精神療法が適しているかは、患者さんの状況や治療目標によって異なります。

薬物療法

薬物療法は、身体症状そのものに直接的に効果がある薬は少ないですが、身体症状症にしばしば合併する不安や抑うつ、睡眠障害などの精神症状に対して有効な場合があります。これらの合併症を治療することで、結果的に身体症状やそれへの苦痛が軽減されることがあります。

主に用いられる薬は以下の通りです。

  • 抗うつ薬(SSRI, SNRIなど):
    不安や抑うつ症状の改善に効果があります。また、一部の抗うつ薬は、神経性の痛みに対して効果を示すこともあります。セロトニンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで作用します。効果が出るまでに数週間かかることがあります。
  • 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など):
    強い不安症状や不眠に対して一時的に用いられることがありますが、依存性のリスクがあるため、長期間の使用は避けるのが一般的です。
  • 睡眠導入剤:
    不眠が強い場合に用いられます。

薬物療法はあくまで補助的な治療であり、精神療法と組み合わせて行うことが推奨されます。薬の種類や量は、患者さんの症状や体質、他の病気の有無などを考慮して医師が慎重に判断します。自己判断で薬を中止したり、量を変更したりせず、必ず医師の指示に従うことが重要です。

医師・医療機関への受診の重要性

原因不明の身体症状や、その症状への強い不安で悩んでいる方は、一人で抱え込まず、早めに医師・医療機関に相談することが非常に重要です。

表:身体症状症の治療法の種類と概要

治療法 主な目的 具体的なアプローチ 特徴
精神療法 症状への過度なとらわれや苦痛の軽減、ストレス対処能力の向上、認知行動パターンの修正 認知行動療法(CBT)、精神力動療法、対人関係療法、森田療法など 身体症状症の主要な治療法。患者さんが能動的に取り組むことで、症状に対する考え方や行動を変化させる。
薬物療法 合併する不安、抑うつ、睡眠障害などの精神症状の改善 抗うつ薬(SSRI, SNRIなど)、抗不安薬、睡眠導入剤など あくまで補助的な治療。身体症状自体に直接効くとは限らないが、精神症状の改善により身体症状が軽減される場合がある。
その他 ペインクリニック(痛みが主の場合)、リハビリテーション、マインドフルネス、自律訓練法など 症状の種類や程度に応じて、補助的に行われることがある。

まずはかかりつけ医に相談するか、症状に応じた専門の診療科(内科、消化器内科、神経内科など)を受診し、身体的な病気の可能性を調べてもらいましょう。身体的な異常が見つからず、医師から精神的な要因も考えられると言われた場合は、精神科や心療内科への受診を検討してください。

精神科医や心療内科医は、身体的な側面だけでなく、心理的な側面も含めて患者さんの状態を総合的に評価し、身体症状症の診断や適切な治療計画を立てることができます。

早期に適切な診断と治療を受けることで、不必要な検査や医療機関への頻繁な受診を減らし、症状や苦痛を軽減し、日常生活の質を改善することが期待できます。

身体表現性障害と関連する精神疾患

身体表現性障害(身体症状症)の患者さんは、他の精神疾患を合併しやすいことが知られています。特に、不安障害や抑うつは高頻度で見られます。

不安障害や抑うつとの合併

身体症状への過度なとらわれや、それが日常生活に及ぼす影響は、患者さんに強い不安抑うつを引き起こします。

  • 不安障害:
    • 病気不安症(旧称:心気症):
      身体症状症と診断基準は異なりますが、身体の些細な変化を病気の兆候ではないかと過度に心配する点で共通しています。身体症状症では実際に身体症状があるのに対し、病気不安症では身体症状はほとんどないか、あっても軽微であることが多いですが、診断が重なることもあります。
    • 全般性不安障害:
      様々なことに対して慢性的な心配や不安を感じる疾患です。身体症状症の患者さんは、身体の不調だけでなく、将来のことや人間関係など、幅広いことについて不安を感じやすい傾向があります。
    • パニック障害:
      突然の強い不安発作(パニック発作)を特徴とする疾患です。パニック発作では、動悸、息苦しさ、胸部不快感、めまい、手足のしびれといった身体症状が強く現れるため、身体症状症と誤診されたり、合併したりすることがあります。
    • 社交不安障害:
      他者からの評価を恐れ、社会的な状況で強い不安を感じる疾患です。身体症状症の患者さんが、人前で症状が出ることへの不安から社交的な場面を避けるようになることもあります。
  • 抑うつ:
    • 身体症状が続くことによる苦痛、日常生活への支障、周囲からの無理解などが原因で、うつ病を発症することがあります。抑うつ気分、興味や喜びの喪失、疲労感、集中力低下、睡眠障害、食欲不振といったうつ病の症状は、身体症状症の身体症状と重なる部分もあり、診断を複雑にすることがあります。
    • 逆に、うつ病の症状として身体の不調が現れることもあります。

これらの不安障害や抑うつが合併している場合、身体症状そのものを治療するだけでなく、併存する精神疾患に対しても適切な治療を行うことが、身体症状全体の改善や、患者さんのQOL(生活の質)向上に不可欠です。精神療法(CBTなど)や薬物療法は、これらの合併症に対しても有効であることが多いため、身体症状症と併せて治療が進められます。

身体表現性障害についてよくある質問

身体表現性障害は治りますか?

身体表現性障害(身体症状症)は、適切な診断と治療を受けることで、症状やそれに対する苦痛を軽減し、日常生活への支障を改善することが十分に可能です。完全に症状がゼロになるかどうかは個人差がありますが、症状との付き合い方や、症状に過度にとらわれずに生活するスキルを身につけることで、以前のような生活を取り戻すことができます。治療は継続が重要であり、一進一退を繰り返すこともありますが、根気強く取り組むことが大切です。

家族はどう接すれば良いですか?

家族や周囲の人は、患者さんのつらい身体症状を決して「気のせい」だと否定せず、まずはつらさに共感し、話をじっくり聞くことが大切です。ただし、症状を過度に心配したり、症状を理由にした回避行動を助長したりするのではなく、適切な医療機関への受診を勧めたり、治療への協力をしたりするなど、回復に向けた建設的なサポートを心がけましょう。患者さんが症状にとらわれずに社会的な活動に参加できるように励ますことも重要です。身体表現性障害は精神疾患であることを理解し、患者さん自身も苦しんでいることを認識してください。

どこで相談できますか?(精神科、心療内科)

まず、身体の不調を感じたら、かかりつけ医や症状に応じた専門の診療科(内科、消化器内科など)を受診し、身体的な病気の可能性を調べてもらうことが重要です。医学的な検査で異常が見つからず、症状やそれへのとらわれが続く場合は、精神科医や心療内科医に相談することを検討してください。精神科や心療内科は、心と体の両面からアプローチし、身体症状症の診断や治療を行う専門機関です。

保険は適用されますか?

身体表現性障害(身体症状症)の診断に基づく治療は、医療保険が適用されます。 精神科や心療内科での診察、精神療法、薬物療法など、必要な医療行為に対して保険が適用されるため、医療費の自己負担は原則として3割となります(年齢や所得によって異なります)。

「気のせい」と言われますが?

身体表現性障害における身体症状は、医学的な検査で異常が見つからないことが多いですが、それは決して「気のせい」ではありません。 脳と心、そして身体は密接に連携しており、ストレスや心理的な要因が、神経系などを介して実際に身体症状を引き起こすメカニズムが存在します。患者さんにとって、その身体症状は非常に現実的でつらい苦痛です。周囲からの「気のせい」という言葉は、患者さんの苦痛を否定し、孤立感を深めてしまう可能性があります。身体表現性障害は正式な精神疾患であり、治療を必要とする病気であるという理解が重要です。

【まとめ】身体表現性障害は「気のせい」ではない、適切な診断と治療を

身体表現性障害、現在は「身体症状症」と呼ばれるこの疾患は、原因不明のつらい身体症状に加え、その症状への過度なとらわれや強い苦痛を伴う精神疾患です。痛み、疲労、消化器症状、神経症状など、その症状は多岐にわたり、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

この疾患の原因はストレスや心理的・環境的な要因が複雑に絡み合っていると考えられており、単に「気のせい」で片付けられるものではありません。患者さんにとっては非常に現実的な苦痛であり、適切な医療的な支援が必要です。

診断は、まず身体的な病気を慎重に除外した上で、精神的な評価に基づいて行われます。そして、治療の中心となるのは、症状に対する考え方や行動を修正する認知行動療法などの精神療法です。必要に応じて、合併する不安や抑うつに対して薬物療法が併用されることもあります。

原因不明の身体の不調に悩み続けている方、その症状への強い不安や苦痛を感じている方は、一人で抱え込まず、まずはかかりつけ医や専門医に相談してください。身体的な検査で異常がなければ、精神科医や心療内科医への受診を検討しましょう。早期に適切な診断と治療を受けることで、症状をコントロールし、以前のような生活を取り戻すことが十分に可能です。


免責事項
この記事は、身体表現性障害(身体症状症)に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや診断、治療を推奨するものではありません。個別の症状や状態については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。この記事の情報に基づいて行う一切の行為について、当方は責任を負いかねます。

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