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うつ病の人が「言ってほしい言葉」とは?NGな声かけと大切な接し方

うつ病は、心と体に大きな影響を与える病気です。
気分の落ち込みや倦怠感、意欲の低下など、さまざまな症状が現れ、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
そんな大切な人がうつ病になったとき、「何かしてあげたい」「力になりたい」と思う一方で、どのような言葉をかければ良いのか、どのように接すれば良いのか分からず、悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
良かれと思って伝えた言葉が、かえって相手を傷つけてしまうのではないかと不安になることもあるかもしれません。

この記事では、うつ病の方が「本当に」求めている言葉や、具体的な声かけの例、そして逆に「言ってはいけない」NGワードとその理由について解説します。
うつ病の方への理解を深め、より良いコミュニケーションを築くためのヒントを提供します。
医師監修のもと、うつ病の症状と言葉の受け止め方の関連性にも触れ、科学的な視点から適切な寄り添い方をお伝えします。
大切な人に寄り添うための、心温まる言葉を見つける手助けとなれば幸いです。

目次

うつ病の人が「本当に」求めていること

うつ病は、単なる「気の持ちよう」や「怠け」ではありません。
脳内の神経伝達物質のバランスが崩れるなど、脳の機能的な障害によって引き起こされる病気です。
そのため、意志の力だけで治せるものではありませんし、健康な時と同じように考えたり行動したりすることが難しくなります。

うつ病の人は、自分自身を強く責める傾向にあります。
「どうして自分はこんなこともできないんだろう」「周りに迷惑をかけている」といった自責の念に囚われやすく、自己肯定感が極端に低下しています。
また、思考力が低下し、ネガティブな考えから抜け出せなくなることも少なくありません。

このような状態にあるうつ病の方が求めているのは、一方的な励ましや安易な解決策ではなく、自分のつらさや苦しみを理解し、受け止めてくれる存在です。
「一人じゃないんだ」「この苦しみを分かってくれる人がいる」と感じられることが、回復への大切な一歩となります。

なぜ言葉が重要なのか

うつ病の人にとって、言葉は諸刃の剣になり得ます。
何気ない一言が、深く心に刺さり、絶望感や孤独感を増幅させてしまうことがあります。
一方で、適切な言葉かけは、安心感を与え、孤立を防ぎ、回復への希望を与えてくれます。

うつ病によって思考がネガティブに傾いているとき、言葉の裏にあるポジティブな意図を汲み取ることが難しくなることがあります。
例えば、「頑張って」という言葉も、健康な時には「応援してくれているんだな」と受け取れても、うつ病で「頑張れない」状態にある人にとっては、「もっと努力しろと責められている」「今の自分は不十分だ」と受け取られてしまうことがあります。

だからこそ、どのような言葉を選び、どのように伝えるかが非常に重要になります。
うつ病の方に寄り添うためには、言葉の持つ力を理解し、相手の心に響く、温かい言葉を選ぶ必要があります。

うつ病の症状と言葉の受け止め方

うつ病の主な症状には、気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、倦怠感、睡眠障害、食欲不振、集中力や思考力の低下、自責感、希死念慮などがあります。
これらの症状は、言葉の受け止め方に大きく影響します。

  • 気分の落ち込み・興味の喪失: ポジティブな言葉や楽しかった思い出の話なども、心に響かず、かえって自分の無力感を突きつけられているように感じることがあります。
  • 倦怠感・集中力低下: 長文の説明や複雑なアドバイスは、理解するのにエネルギーを使い、負担に感じることがあります。
    簡潔で分かりやすい言葉を選ぶことが大切です。
  • 自責感: 自分を責めているところに、「もっとこうすれば?」といった改善を促す言葉は、さらに自分を追い詰めることにつながります。
    「今のままではダメだ」と受け取ってしまうのです。
  • 希死念慮: 孤独感や絶望感が強い場合、突き放すような言葉や無理解な態度は、最悪の事態を招くリスクを高めてしまいます。

うつ病の方は、病気によって「フィルター」がかかった状態で言葉を受け止めていると理解することが重要です。
健康な時の基準で言葉を選ぶのではなく、相手の今の状態に配慮した、否定や批判を含まない、優しく、受け止める言葉が必要なのです。

うつ病の人が「言ってほしい」言葉 具体例

うつ病の方にかけて喜ばれる言葉は、相手のつらさを認め、存在を肯定し、安心感を与える言葉です。
具体的なフレーズをいくつか紹介します。

共感と理解を示す言葉

うつ病の方は、自分の苦しみが誰にも理解されないと感じて孤立しがちです。
「分かってもらえない」という感覚が、さらなる孤独感や絶望感につながります。
まずは、相手のつらさや苦しみに寄り添い、共感の気持ちを伝えることが大切です。

  • 「つらいね、大変だったね。」
    相手の感情や状況を否定せず、そのまま受け止める姿勢を示す言葉です。
    無理に「大丈夫?」と聞くよりも、相手の「つらさ」に焦点を当てることが重要です。
  • 「〇〇さんのこと、心配だよ。」
    遠回しにではなく、ストレートに心配している気持ちを伝えることで、相手は自分が気にかけてもらえている、一人ではないと感じることができます。
  • 「話してくれてありがとう。話してくれて嬉しい。」
    うつ病で人に話すこと自体が難しくなっている中で、勇気を出して話してくれたことへの感謝を伝えます。
    話す内容への評価ではなく、「話してくれた」という行為そのものを肯定することが大切です。
  • 「私には完全に理解することは難しいかもしれないけれど、少しでも〇〇さんのつらさが軽くなるなら、話を聞かせてほしいな。」
    安易に「分かるよ」と言うのではなく、完全に理解することは難しいと認めつつも、寄り添いたい気持ちを誠実に伝えます。
    正直さが相手に響くことがあります。

安心感を与える言葉

うつ病の方は、将来への不安や病気への焦り、周囲への申し訳なさなど、様々な不安を抱えています。
これらの不安を少しでも和らげ、「ここにいても安全だ」「無理しなくていい」という安心感を与える言葉が有効です。

  • 「大丈夫だよ、無理しなくていいからね。」
    「大丈夫」という言葉は使う場面に注意が必要ですが、「無理しなくていい」とセットで使うことで、「今の状態で十分だよ」「今のあなたは頑張りすぎなくていい」というメッセージになります。
    これは、自分を責めがちなうつ病の方にとって、大きな安心感につながります。
  • 「ここにいてくれて嬉しい。」
    病気で「いても立ってもいられない」「消えてしまいたい」と感じていることもあります。
    ただ一緒にいるだけで、相手の存在を肯定し、そこにいることを歓迎する言葉は、病気が作り出す孤独感を和らげます。
  • 「何もできなくてもいいんだよ。」
    「役に立たなければ」「元気にならなければ」と焦っているうつ病の方に、「そのままで良い」というメッセージを伝えます。
    活動性の低下に対する罪悪感を軽減できます。
  • 「急がなくて大丈夫だよ。ゆっくり休んでね。」
    回復を焦る気持ちや、周囲の期待に応えなければというプレッシャーを感じている場合に有効です。
    回復には時間が必要であることを伝え、安心して休めるように促します。

存在を肯定する言葉

うつ病によって自己肯定感が低下している方に最も必要なのは、あなたの存在そのものを肯定する言葉です。
病気であるかどうかに関わらず、その人自身の価値を認め、大切に思っていることを伝えます。

  • 「〇〇さんがいてくれるだけで、私は嬉しいよ。」
    何かをしてくれたから、元気になったから嬉しいのではなく、ただ存在していること自体が喜びであるというメッセージです。
    うつ病で何もできないと感じている方にとって、自己肯定感を高める大切な言葉になります。
  • 「〇〇さんの大切な一人だよ。」
    自分が価値のない人間だと感じているときに、「大切な存在である」と直接伝えることは、孤独感を打ち破り、生きる希望につながることがあります。
  • 「〇〇さんの良いところ、たくさんあるよ。」
    具体的なエピソードを添えられるとなお良いです。
    「あの時の〇〇さんの優しさに助けられた」「〇〇さんのユーモアが好きだよ」など、病気になる前のその人の魅力や、病気になってからも垣間見える優しさなどを伝えます。
  • 「どんな〇〇さんも受け止めるよ。」
    病気による変化(気分の波や活動性の低下など)も含めて、その人まるごとを受け入れるという意思表示です。
    「病気の自分は嫌われるのではないか」という不安を和らげます。

回復を急かさない・プレッシャーにならない言葉

うつ病の回復には波があり、焦りは禁物です。
「早く良くなってほしい」という気持ちは理解できますが、それを直接伝えると、うつ病の方には「今のままではダメだ」「期待に応えなければ」というプレッシャーになってしまいます。
回復を急かす言葉は避け、見守る姿勢を伝えることが大切です。

  • 「焦らなくていいからね。」
    回復へのプレッシャーを感じている場合に有効な言葉です。
    「ゆっくりで大丈夫」というメッセージを伝えます。
  • 「〇〇さんのペースでいいんだよ。」
    他者と比較したり、「こうあるべき」という基準に苦しんでいる場合に有効です。
    自分自身のペースで回復して良いという許可を与える言葉です。
  • 「今日はどんな感じ?」
    「元気になった?」と聞くのではなく、現在の状態を尋ねることで、相手のその時の状態を尊重する姿勢を示します。
    日によって状態が変わるうつ病の方にとっては、自分の状況をそのまま受け止めてもらえる安心感があります。
  • 「良くなったら~しようね、とは言わないよ。〇〇さんがしたい時に、いつでも付き合うからね。」
    具体的な予定を立てることがプレッシャーになる場合があります。
    「良くなったら」という言葉が、まだ元気ではない自分を否定しているように聞こえることも。
    将来の楽しい予定を示唆しつつも、それを義務にしない、相手の意思を尊重する姿勢を伝える言葉です。

無理強いしない姿勢を示す言葉

うつ病の方は、何かを決定したり、行動を起こしたりすること自体に大きなエネルギーが必要です。
たとえそれが相手のためになることであっても、強制されると強い負担や抵抗感を感じることがあります。
選択肢を与えつつも、最終的な決定権は相手にあることを明確に伝えることが重要です。

  • 「もしよかったら、なんだけど…」
    提案の前にこの言葉を添えることで、あくまで「選択肢の一つだよ」「断っても大丈夫だよ」というニュアンスを伝えることができます。
  • 「疲れていたら断ってくれていいからね。」
    誘いや提案をした際に、相手が断ることをためらわないように伝える言葉です。
    「無理しないでね」という配慮を示します。
  • 「~してもいいし、しなくてもいいんだよ。」
    二者択一や複数の選択肢を示す際に使います。
    「どちらを選んでも良い」「どちらでも構わない」というメッセージは、決定することへの負担を軽減します。
  • 「話したくなったら、いつでも聞くから。」
    無理に話させようとせず、相手が話したいと思ったらいつでも受け入れる準備があることを伝えます。
    相手の意思やタイミングを尊重する姿勢を示します。

感謝や労いの言葉

うつ病によって、日常生活の些細なことさえも困難になることがあります。
そんな中で、相手が何かをしてくれたり、病気と闘っていたりすることに対して、感謝や労いの気持ちを伝えることは、相手の努力を認め、価値を感じてもらうことにつながります。

  • 「ありがとう。助かるよ。」
    たとえ相手が当たり前のこと(家事の一部を手伝ってくれた、連絡をくれたなど)をしたとしても、感謝の気持ちを伝えることは重要です。
    「自分はまだ役に立てることがあるんだ」と感じるきっかけになります。
  • 「毎日大変なのに、本当に頑張ってるね。」
    うつ病と闘っていること、毎日を過ごしていること自体が、本人にとっては非常に大きな努力です。
    その見えない頑張りや苦労を労う言葉は、相手の心に深く響きます。
    「頑張って」という直接的な励ましが難しい場面で、「頑張ってるね」という労いは有効です。
  • 「疲れたら休んでね。いつもありがとう。」
    労いと感謝、そして相手の体調への気遣いを組み合わせた言葉です。
    相手を大切に思っている気持ちが伝わります。
  • 「〇〇さんの頑張りは、ちゃんと見ているよ。」
    誰にも理解されない孤独な闘いだと感じているときに、自分の努力を見てくれている人がいる、と知ることは大きな支えになります。

これらの言葉かけは、相手の状態や関係性によって響き方が異なります。
相手の様子をよく観察し、最も適切だと思われる言葉を選ぶことが重要です。
そして何よりも、言葉に感情を乗せて、心を込めて伝えることが大切です。

関係性別:うつ病の彼氏・友達・家族への声かけ

うつ病の方への声かけは、その人との関係性によって適切な距離感や言葉の選び方が変わってきます。
彼氏・彼女、友達、家族それぞれの関係性における声かけのポイントを見ていきましょう。

うつ病の彼氏・彼女にかけてほしい言葉

恋愛関係にあるパートナーがうつ病になった場合、関係性が近いため、よりパーソナルなサポートが求められます。
しかし、近すぎるからこそ、依存や共倒れのリスクもあります。

  • 「無理しないでね。私がそばにいるから。」
    回復を焦らせず、寄り添う姿勢を伝えます。
    特に倦怠感が強い場合、「無理しないで」という言葉は休息を促す肯定的なメッセージになります。
    「私がそばにいる」という言葉は、孤独感や不安を和らげます。
  • 「〇〇くん(〇〇さん)が一番つらいよね。少しでもそのつらさを分けてくれたら嬉しいな。」
    相手のつらさを第一に考え、その気持ちを分かち合いたいという意思を伝えます。
    自分が抱え込んでいる苦しみを共有できる相手がいると感じることは、大きな支えになります。
  • 「何も楽しいと思えなくても大丈夫だよ。いつかまた一緒に笑える日が来るって信じているから。」
    病気によって喜びを感じられなくなっている状態を否定せず、受け止めます。
    同時に、将来への希望を優しく示唆し、回復への道を一緒に歩む意思を伝えます。
  • 「大好きだよ。今の〇〇くん(〇〇さん)も大切な人だよ。」
    病気になったことで「嫌われるのではないか」「魅力がなくなったのではないか」と不安になっている可能性があります。
    変わらず愛情を持っていること、病気の状態も含めて大切に思っていることをストレートに伝えます。
    ただし、相手が恋愛感情を受け止められない状態であれば、負担にならないように配慮が必要です。
  • 「私一人で抱え込まずに、困ったときは信頼できる人や専門家にも頼ろうね。」
    パートナーが一人で全てを抱え込もうとせず、他のサポート源(家族、友人、専門家など)にも目を向けることの重要性を伝えます。
    パートナー自身の精神的な健康も守るための大切な視点です。

うつ病の友達にかけてほしい言葉

友人関係の場合、家族やパートナーよりも少し距離感があるため、重すぎず、相手に負担をかけない声かけが重要です。

  • 「最近どう?何か話したくなったら、いつでも聞くよ。」
    相手の近況を尋ねつつも、話すことを強制しない、いつでも受け入れる準備があることを伝えます。
    連絡頻度についても、相手のペースに合わせる気遣いが必要です。
  • 「元気になったら~しようね!とは言わないよ。〇〇が行きたい場所とか、やりたいことができたら、いつでも誘ってね。」
    回復へのプレッシャーを与えず、相手の回復を待っていること、一緒に何かをしたいと思っていることを伝えます。
    「いつでも」という言葉で、相手が主体的に行動できるタイミングを待つ姿勢を示します。
  • 「会えなくても、LINEとかで繋がってるだけでも嬉しいな。」
    直接会うことや電話が難しい場合もあります。
    テキストでのやり取りでも良いこと、繋がっているだけで嬉しいことを伝えることで、相手は「完璧に応えなければ」というプレッシャーを感じにくくなります。
  • 「体調悪い時は無理しないでね。もし何か手伝えることがあったら言ってね。」
    相手の体調を気遣い、物理的なサポートが必要な場合に、頼ってほしいという意思表示をします。
    ただし、具体的な手伝いを提案する際は、「ゴミ出し手伝おうか?」「夕飯作って届けようか?」など、相手が答えやすいように具体的に聞く方が良い場合もあります。
  • 「焦らなくて大丈夫。自分のことを一番に考えてね。」
    回復を焦る気持ちや、周囲への申し訳なさから無理をしてしまうことを心配し、相手自身を大切にすることを促します。

うつ病の家族にかけてほしい言葉

家族は最も近い存在であるため、日常的なサポートや細やかな気配りが求められます。
しかし、近すぎるゆえに感情的になったり、病気を個人的な問題として捉えすぎたりするリスクもあります。

  • 「辛かったね。話してくれてありがとう。」
    日常的に接している家族だからこそ、相手の異変や苦しみに気づき、それに寄り添う姿勢を見せることが大切です。
    話を聞いてくれたことへの感謝は、相手が心を開きやすくなります。
  • 「〇〇がいてくれて本当に良かった。」
    日々の生活の中で、相手の存在そのものを肯定し、感謝を伝えます。
    「病気で役に立たない」と自己否定している場合に、家族にとって大切な存在であることを示す言葉は、大きな支えになります。
  • 「家事とか、できる範囲でいいからね。無理はしないで。」
    うつ病によって家事や身の回りのことが困難になることがあります。
    家事を免除する、あるいはできる範囲で良いと伝えることで、相手の罪悪感を軽減し、休息を促します。
    具体的な役割分担の見直しを提案するのも良いでしょう。
  • 「一緒にいるだけで嬉しいよ。何も特別なことをしなくてもいいから。」
    「家族に負担をかけている」「何かをしなければ」というプレッシャーを感じている場合に有効です。
    ただ同じ空間にいること、一緒に時間を過ごすこと自体が喜びであることを伝えます。
  • 「専門家(医師、カウンセラーなど)に相談してみるのもいいと思うんだけど、どう思う?もしよかったら、一緒に話を聞きに行こうか?」
    家族だけで抱え込まず、専門家の力を借りることを優しく促します。
    一方的に勧めるのではなく、相手の意思を尊重し、必要であれば付き添う姿勢を見せることで、抵抗感を減らすことができます。

関係性に関わらず共通して言えるのは、「あなたの味方だよ」というメッセージを伝えることです。
言葉だけでなく、穏やかな表情、安心させる声のトーン、無理のない範囲でのスキンシップ(相手が望む場合)なども、非言語的なメッセージとして安心感を与えます。

うつ病の人に「言ってはいけない」言葉 NG例

良かれと思ってかけた言葉でも、うつ病の方にとってはつらさや苦しみを増幅させてしまうことがあります。
ここでは、うつ病の方に「言ってはいけない」NGワードとその理由について解説します。

励ます言葉がNGな理由

最も一般的でありながら、最も誤解されやすいのが「励ます言葉」です。
健康な時には力になる「頑張れ」や「きっと良くなる」といった言葉が、うつ病の方にはなぜNGなのでしょうか。

NG例:

  • 「頑張れ」「しっかりして」
  • 「元気出せよ」「前向きに考えよう」
  • 「時間は解決してくれるよ」

NGな理由:

  • 「これ以上どう頑張ればいいんだ?」と絶望感を覚える
  • 「今の自分は頑張りが足りないんだ」とさらに自分を責める
  • 「この人は私のつらさを分かっていない」と孤立感を深める

また、「元気出せ」「前向きに」といった言葉は、病気によって感情や思考をコントロールできない状態にあることを無視しています。
意志の力でどうにかできる問題ではないため、これらの言葉は相手の無力感を強調し、劣等感を抱かせてしまいます。

「時間は解決してくれる」という言葉は、長期的な視点では真実を含むかもしれませんが、現在進行形の強い苦しみの中にいる人にとっては、「今の苦しみは軽んじられている」「具体的な解決策は何もないのか」と感じさせてしまう可能性があります。
また、回復の時期を特定できないうつ病において、時間の経過に期待をかける言葉は、かえって焦りやプレッシャーになることもあります。

励ます代わりに、前述したように「つらいね」「無理しないでね」「そばにいるよ」といった、共感や安心感、寄り添いの気持ちを伝える言葉を選びましょう。

根性論や精神論を押し付ける言葉

うつ病を「気の持ちよう」や「精神力の問題」だと捉え、根性論や精神論を押し付ける言葉は、病気への無理解を示すものであり、相手を深く傷つけます。

NG例:

  • 「気の持ちようだ」「考え方を変えれば楽になる」
  • 「甘えているだけじゃないの?」
  • 「休んでばかりいないで、何か体を動かしたら?」

NGな理由:

うつ病は脳の機能障害を伴う病気であり、精神力だけで克服できるものではありません。
これらの言葉は、病気を個人的な弱さや怠慢だと決めつけており、うつ病の方のつらい症状を否定することになります。

「甘えている」と言われることは、自分を責めているうつ病の方の自己肯定感をさらに傷つけ、「やはり自分はダメな人間だ」という思いを強くさせます。

「体を動かせば?」といったアドバイスも、善意からのものかもしれませんが、うつ病の倦怠感や活動性の低下という症状を理解していません。
体を動かすこと自体が非常に困難な状態にある人にとって、このような言葉は「できない自分」を突きつけられ、無力感を増幅させます。

根性論や精神論ではなく、「それは病気の症状なんだね」「体がだるい時はゆっくり休んでね」など、病気としての理解を示し、相手の状態をそのまま受け止める言葉を選びましょう。

否定や批判につながる言葉

うつ病の方は、病気によって思考力や判断力が低下し、いつもとは違う言動をとることがあります。
しかし、それを頭ごなしに否定したり、批判したりする言葉は、相手を追い詰め、心を閉ざさせてしまいます。

NG例:

  • 「それは違うんじゃない?」「もっとこうするべきでしょ」
  • 「そんなこと言ってたらダメだよ」
  • 「また同じこと言ってる…」

NGな理由:

うつ病によって思考が混乱したり、ネガティブな考えから抜け出せなくなったりするのは、病気の症状の一つです。
その考えや言動を一方的に否定されると、うつ病の方は「自分の存在そのものが否定されている」と感じてしまいます。

「そんなこと言ってたらダメだ」という言葉は、相手の感情や考えを頭ごなしに否定し、「今の自分は間違っている」という思いを強くさせます。

「また同じこと言ってる」といった言葉は、繰り返し同じ不安や悩みを口にするうつ病の方に対して、話を聞いてもらえていない、面倒だと思われていると感じさせてしまいます。

否定や批判ではなく、「そう感じているんだね」「話を聞かせてくれる?」など、まずは相手の言葉や感情をそのまま受け止める姿勢を示すことが大切です。

安易なアドバイスや解決策

うつ病の方の話を聞いていると、「こうすれば良いのに」と解決策を提示したくなることがあるかもしれません。
しかし、うつ病によって思考力が低下している状態では、アドバイスを理解したり、実行に移したりすることが困難です。
また、求めていないアドバイスは、「私のつらさは簡単に解決できる問題だと見なされている」「この人は私の苦しみを分かっていない」と感じさせてしまいます。

NG例:

  • 「旅行に行けば気分転換できるよ」
  • 「〇〇をやってみたら?」「この本を読むといいよ」
  • 「もっと外に出なきゃ」

NGな理由:

これらのアドバイスは、健康な人にとっては有効な場合もありますが、うつ病で心身ともにエネルギーが枯渇している状態の人にとっては、「そんなこと、できるわけがない」と感じさせ、「できない自分」への無力感や劣等感を増幅させます。

また、うつ病の苦しみは複雑であり、簡単に解決できるものではありません。
安易なアドバイスは、相手の抱える問題の深刻さを軽視しているように聞こえてしまうことがあります。

うつ病の方が必要としているのは、解決策よりも、自分のつらさに寄り添い、話を聞いてくれる存在です。
アドバイスをするのではなく、まずは傾聴に徹し、「何か私にできることはある?」と尋ねる方が、相手に寄り添う姿勢を示すことができます。

他者と比較する言葉

うつ病の方は、病気によって自分が社会から遅れている、周りより劣っていると感じやすい傾向があります。
他の人(特に同じような状況から回復した人や、健康な人)と比較する言葉は、相手の自己肯定感をさらに低下させ、孤立感を深めます。

NG例:

  • 「〇〇さんは、もっと大変だったけど乗り越えたよ」
  • 「〇〇くんはもう仕事に戻ってるみたいだよ」
  • 「みんな頑張ってるんだから、あなたも…」

NGな理由:

うつ病の経過や回復のスピードは人それぞれ大きく異なります。
また、うつ病を経験した他の人の話を聞かせることが励みになる場合もあれば、「あの人はできたのに、自分にはできない」と劣等感を抱かせてしまう場合もあります。

特に、「みんな頑張ってる」といった言葉は、「頑張れない自分」を責めることにつながります。
うつ病で休んでいることへの罪悪感を強め、「自分だけが怠けている」と感じさせてしまいます。

他者と比較するのではなく、その人自身のペースや頑張りを認め、「〇〇さんのペースでいいんだよ」「〇〇さんの今の頑張りは、私も見ているからね」といった、個人を尊重する言葉を選びましょう。

NGワードを避けるためのポイントまとめ

言ってはいけないNGワード なぜNGなのか(うつ病の方の受け止め方) 代わりに伝えたい言葉の方向性
励ます言葉(頑張れ、元気出して) これ以上どう頑張れば?頑張れない自分はダメだ。つらさを理解してくれていない。 共感、労い、安心感、見守る姿勢
根性論・精神論(気の持ちよう、甘え) 病気への無理解。怠慢だと決めつけられている。自分は価値のない人間だ。 病気への理解、状態の受容、休息の肯定
否定・批判(それは違う、ダメだよ) 自分の存在そのものが否定されている。自分が間違っている。話を聞いてもらえない。 傾聴、感情・思考の受容、肯定
安易なアドバイス(旅行に行けば、〇〇しなよ) 問題の軽視。できるわけがない。無力感の増幅。解決策より寄り添いが欲しい。 寄り添い、傾聴、本人の意思尊重、サポート意思表示
他者との比較(あの人は乗り越えた、みんな頑張ってる) 劣等感、無力感の増幅。自分だけが遅れている。自分だけが怠けている。 個人の尊重、ペースの肯定、努力の承認

重要なのは、言葉の「内容」だけでなく、言葉の「裏にある気持ち」が相手に伝わるかです。
うつ病の方は、言葉の表面的な意味よりも、そこに込められた感情や、話し手の自分に対する態度を敏感に感じ取ることがあります。
心からの心配や寄り添いの気持ちは、言葉を選び間違えたとしても、相手に伝わる可能性を高めます。
逆に、義務感や焦りからくる言葉は、たとえ適切に見えても、相手に響かない、あるいは負担になる可能性があります。

言葉以外でうつ病の方にできること

うつ病の方へのサポートは、言葉かけだけではありません。
言葉以上に、そばにいることや、具体的な行動が力になることも多くあります。

そばにいる・見守ることの重要性

うつ病の最もつらい症状の一つに、強い孤独感や孤立感があります。
「誰にも理解されない」「一人ぼっちだ」という感覚は、病気をさらに悪化させることがあります。
そんなときに、何も言わずともただそばにいてくれる人がいるということは、大きな安心感につながります。

  • 同じ部屋で静かに過ごす: 無理に会話をする必要はありません。
    同じ空間で、それぞれが本を読んだり、音楽を聴いたり、ただ静かに座っていたりするだけで、「一人ではない」という安心感を得られます。
  • 無理のない範囲で家事を手伝う: 食事を作る、掃除をする、洗濯をする、買い物に行くなど、日常生活の基本的なことが困難になるのがうつ病です。
    頼まれる前に「何か手伝おうか?」と声をかけたり、黙って手伝ったりすることは、言葉以上に相手の負担を軽減し、「気にかけてもらえている」と感じさせます。
  • 通院に付き添う: 病院に行くこと自体が億劫になることがあります。
    予約の確認、外出の準備、病院までの移動など、付き添うことでスムーズな受診につながります。
    医師やカウンセラーの話を一緒に聞くことで、病気への理解を深める機会にもなります。
  • 体調の変化を見守る: 食欲はあるか、眠れているか、清潔を保てているかなど、日々の生活の中での変化を注意深く見守ることも重要です。
    いつもと違う様子が見られたら、優しく声をかけたり、必要であれば専門家に相談したりする際の判断材料になります。

これらの行動は、「あなたのことを大切に思っています」「あなたの安全を見守っています」というメッセージを非言語的に伝えます。
特に、症状が重く、言葉でのコミュニケーションが難しい時期には、言葉以外のサポートがより重要になります。

連絡頻度やコミュニケーションの距離感

うつ病の方にとって、人とのコミュニケーションは大きなエネルギーを消耗することがあります。
一方で、全く連絡がないと「忘れられてしまった」「誰からも必要とされていない」と感じてしまうこともあります。
適切な連絡頻度や距離感を保つことが重要です。

  • 相手のペースに合わせる: 相手からの連絡があれば応じる、返信がなくても責めないなど、相手のペースを尊重します。
    返信を催促したり、「どうして返事くれないの?」と詰め寄ったりすることは避けましょう。
  • 負担にならない連絡方法を選ぶ: 電話はハードルが高い場合、LINEやメールなどのテキストメッセージの方が負担が少ないことがあります。
    短いメッセージを送るだけでも、「気にかけてくれているんだな」と伝わります。
    「返信は不要だよ」といった一言を添えるのも良いでしょう。
  • 一方的な報告や近況報告: 相手に返信の負担をかけずに、「元気だよ」「こんなことがあったよ」といった自分の近況を伝えるだけでも、相手は社会とのつながりを感じることができます。
  • 会う約束は直前に確認: 体調によって予定通りに行動できないことがあります。
    無理のないように、会う約束は直前に相手の体調を確認してから決定するのが良いでしょう。

コミュニケーションの距離感は、相手の性格や病状によって異なります。
「話したくない時は、無理に話さなくてもいいからね」といった言葉を事前に伝えておくことで、相手はプレッシャーを感じにくくなります。

専門家への相談を勧める場合

うつ病の治療には、医師による診断と治療(薬物療法や精神療法)が不可欠です。
家族や友人のサポートは重要ですが、専門家の力が必要な場面があります。
専門家への相談を勧める際は、相手を追い詰めることなく、優しく促すことが大切です。

  • 病気への正しい理解を共有する: うつ病は病気であり、専門的な治療が必要であることを、相手と一緒に理解しようとする姿勢が重要です。
    病気について解説されている書籍や信頼できるウェブサイトの情報などを共有するのも良いでしょう。
  • 「一緒に考えてみない?」と提案する: 一方的に「病院に行け」と命令するのではなく、「つらい状態から抜け出すために、専門家の人に相談してみるのも一つの方法だと思うんだけど、どう思う?」と、あくまで提案として伝えます。
  • 「もしよかったら、予約したり、一緒に行ったりするのも手伝うよ」とサポートを申し出る: 病院の予約や通院の準備は、うつ病の方にとって大きな負担となることがあります。
    具体的なサポートを申し出ることで、ハードルを下げることができます。
  • 自分自身が専門機関に相談する: どのように接したら良いか分からない、自分自身も疲弊しているといった場合は、家族相談を受け付けている医療機関や相談機関、あるいは地域の精神保健福祉センターなどに相談するのも有効です。
    専門家からアドバイスを受けることで、適切なサポート方法を学ぶことができます。

専門家への相談を促す際は、相手の意思を尊重することが最も重要です。
無理強いは逆効果になる可能性があります。
また、相談を勧められたこと自体が、相手にとって「自分は重症なんだ」「家族に迷惑をかけている」というプレッシャーになる可能性も考慮し、「〇〇さんが少しでも楽になる方法を一緒に探したいんだ」といった、相手を思いやる気持ちを伝えることが大切です。

まとめ:うつ病の方への寄り添い方

うつ病の方に寄り添うことは、簡単なことではありません。
回復には時間がかかりますし、状態の波もあります。
サポートする側も、どのように接すれば良いか悩んだり、疲れてしまったりすることもあるでしょう。
しかし、あなたの存在や言葉、そして行動は、うつ病の方にとってかけがえのない支えとなります。

この記事で解説した「言ってほしい言葉」と「言ってはいけないNG例」を参考に、相手の心に寄り添うコミュニケーションを心がけてください。
最も重要なのは、相手のつらさや苦しみを否定せず、そのまま受け止める姿勢です。
無理に励ますのではなく、「つらいね」「大丈夫だよ、無理しないで」「そばにいるよ」といった、共感と安心感を与える言葉を選びましょう。

また、言葉だけでなく、ただそばにいること、日常的なサポート、相手のペースに合わせたコミュニケーションなども、うつ病の方への大切な寄り添い方です。
完璧なサポートを目指す必要はありません。
あなた自身も無理せず、必要であれば専門家や他の人に助けを求めながら、継続的に寄り添っていくことが重要です。

うつ病は回復可能な病気です。
適切な治療と周囲の温かいサポートがあれば、必ず良い方向に向かうことができます。
この情報が、大切な人に寄り添うための助けとなり、回復への道のりを共に歩む力となることを願っています。

免責事項

本記事は、うつ病の方へのコミュニケーションに関する一般的な情報提供を目的としています。
医学的な診断や治療を意図するものではありません。
うつ病の診断や治療については、必ず医師にご相談ください。
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