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慢性胃炎の症状とは?日常生活で気づきやすいサインを解説

こちらの記事の監修医師

吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長

佐々木 洋

長引く胃もたれや胃痛を「いつもの慢性胃炎」だと思い込んでいませんか。「慢性胃炎」という言葉は、実は症状の通称と、胃粘膜の病的な状態を指す場合があり、両者は必ずしも同じではありません。自己判断で済ませていると、不調の本当の原因を見過ごしてしまう可能性があります。

この記事では、「慢性胃炎」の正しい意味合いから、症状の原因となりうる「機能性ディスペプシア」との違い、そして胃がんの主な原因とされるピロリ菌との関係まで、専門医の視点で詳しく解説します。

「慢性胃炎」と言われたけれど本当に胃炎?まず知っておきたい言葉の違い

「慢性胃炎」という言葉は、実は医療の現場で主に2つの異なる意味合いで使われています。この違いをご理解いただくことが、ご自身の胃の状態を知るための大切な第一歩です。

一つは、胃もたれや胃痛といった長引く「症状」に対する“通称”としての使われ方。もう一つは、胃カメラ(内視鏡)などで胃の粘膜に「慢性的な炎症」が実際に確認された、医学的な病気としての状態を指します。

重要なのは、この「つらい症状」と「胃粘膜の炎症」は、必ずしも同じではないという点です。ご自身の状態を正しく把握するためには、この2つの「慢性胃炎」を分けて考える必要があります。

胃もたれ・胃痛だけで「慢性胃炎」と呼ばれてきた背景

これまで日本の医療現場では、原因がはっきりしない胃もたれやみぞおちの痛みなど、長引く胃の不快感全般を「慢性胃炎」という言葉で説明することが一般的でした。

これは、患者さんのつらい症状に対して胃薬を処方する際、保険診療上の病名として「慢性胃炎」や「神経性胃炎」という言葉が便宜的に使われてきた歴史があるためです。

しかし、これは決して過去の診断が誤っていたわけではありません。医学の進歩とともに、症状と胃粘膜の状態は分けて考えるべきだという認識が広まり、現在ではこのような症状の一部が「機能性ディスペプシア(FD)」という別の病気の考え方で整理されるようになりました。「症状があるからといって、必ずしも胃の粘膜に炎症が起きているとは限らない」というのが、今の標準的な考え方なのです。

医学的な慢性胃炎は「胃粘膜に慢性的な炎症がある状態」

本来、医学の世界で「胃炎(gastritis)」という言葉が指すのは、胃カメラや、採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査によって、胃の粘膜に「慢性的な炎症細胞の集まり」がはっきりと確認された状態です。

つまり、単に「胃が痛い」「もたれる」といった症状があるだけでは、医学的には「胃炎がある」とは断定できません。この、胃粘膜に実際に変化が起きている慢性胃炎の主な原因には、次の2つが挙げられます。

  • ヘリコバクター・ピロリ菌感染

    胃の中にピロリ菌が長く棲みつくことで、胃の粘膜に持続的な炎症が起こります。これが長期間続くと、胃粘膜がやせて薄くなる「萎縮(いしゅく)」という状態に進むことがあります。

  • 自己免疫性胃炎(AIG)

    ご自身の免疫システムが誤って自分の胃の粘膜を攻撃してしまい、炎症が起こる病気です。

これらの状態は、症状の有無とは関係なく、将来の胃がんなどのリスクに関わるため、正確な診断が非常に重要になります。

症状で診断する病気と内視鏡・病理で診断する胃炎は分けて考える

「つらい胃の症状」と「胃カメラで確認できる胃粘膜の炎症の程度」は、必ずしも連動しないことを知っておくことが大切です。実際の診療では、次のようなケースは決して珍しくありません。

  • 症状は強いのに、胃カメラではきれい

    ひどい胃もたれや痛みに悩まされているのに、内視鏡で観察すると胃粘膜にはほとんど異常が見られない。

  • 無症状なのに、胃カメラでは炎症や萎縮が進行

    ご本人に自覚症状は全くなくても、検査をするとピロリ菌による強い炎症や、将来胃がんの発生母地となりうる「萎縮性胃炎」が見つかる。

このように、症状の強さだけで胃炎の有無や深刻さを判断することはできないのです。研究によっては、慢性胃炎と診断された方の1割以上が無症状であったという報告もあります。また、胃の不快感は胃がんの症状と似ていることもあるため、自己判断で「いつもの胃炎だ」と決めつけず、症状が続く場合はその原因をきちんと調べることが重要です。※

その胃もたれ、本当に慢性胃炎?「機能性ディスペプシア」との違い

「長引く胃もたれや胃痛の原因は、胃の粘膜が荒れているからだ」と思っていませんか。実は、つらい症状があるにもかかわらず、胃カメラで調べても胃粘膜にはっきりとした原因が見つからないケースは少なくありません。

そのような症状の多くは、「機能性ディスペプシア(FD)」という胃の“機能”の不調が原因かもしれません。これは決して「気のせい」や「ストレスだけ」の病気ではなく、胃の動きや知覚の異常が関わる医学的な疾患です。ご自身の症状の本当の原因を知るために、まずは「慢性胃炎」と「機能性ディスペプシア」の違いを正しく理解しましょう。

胃カメラで大きな異常がなくても症状が続く「機能性ディスペプシア(FD)」とは

機能性ディスペプシア(FD)とは、胃がんや胃潰瘍といった症状を説明できる明らかな病気がないにもかかわらず、胃もたれやみぞおちの痛みなどのつらい症状が慢性的に続く病気です。※

胃が十分に膨らまなかったり、食べ物を十二指腸へ送り出す動きが弱まっていたり、あるいは胃酸などの刺激に過敏になっていたりするなど、胃や十二指腸の「機能(はたらき)」に問題が生じている状態と考えられています。

主に、以下のような症状がみられます。

  • 食後のつらい胃もたれ(食後膨満感)
  • 少し食べただけですぐにお腹がいっぱいになる(早期満腹感)
  • みぞおちの痛み(心窩部痛)
  • みぞおちが焼けるような感じ(心窩部灼熱感)

これらの症状は、胃がうまく機能していないことを知らせるサインなのです。

胃もたれ・早期満腹感・みぞおちの痛みは「胃炎の症状」とは限らない

「胃もたれといえば胃炎」というイメージがあるかもしれませんが、それは必ずしも正しくありません。

これらの症状は、機能性ディスペプシア(FD)で典型的にみられるほか、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃食道逆流症(GERD)など、さまざまな病気で起こりえます。

さらに注意したいのは、胃がんの初期症状が、胃の不快感や胸やけといったありふれた症状であることも少なくない点です。症状の出方だけで、ただの胃炎なのか、それとも胃がんなのかを区別することはできません。※

「いつもの胃もたれだから慢性胃炎だろう」と自己判断で済ませてしまうと、背景にある別の重要な病気を見逃すことにつながりかねません。症状が続く場合は、その原因をきちんと調べることが大切です。

「慢性胃炎」と「機能性ディスペプシア」は同じ病気ではない

症状が似ていても、「慢性胃炎」と「機能性ディスペプシア(FD)」は医学的に異なる状態です。この2つを区別して考えることが、適切な治療への第一歩となります。

  • 慢性胃炎

    胃カメラや組織の検査で、胃の粘膜に「炎症」という目に見える形としての変化が確認された状態。

  • 機能性ディスペプシア(FD)

    胃の「動き」や「知覚」といった目に見えない機能(はたらき)に問題が起きている状態で、主に症状から診断される。

両者は別の病態ですが、無関係というわけではありません。例えば、ピロリ菌による慢性胃炎がある方にFDのような症状が現れ、除菌治療によって症状が改善するケースも報告されています。※

大切なのは、ご自身の症状がどちらに当てはまるのか、あるいは両方が関係しているのかを専門医のもとで正しく評価してもらうことです。

内視鏡医が診断する「本来の慢性胃炎」にはどんなものがある?

胃カメラで胃粘膜の状態を直接評価して診断する、医学的な意味での慢性胃炎には、主に2つの種類があります。「ピロリ菌による胃炎」と「自己免疫による胃炎」です。

これらは、胃もたれなどの症状の有無とは別に、胃粘膜そのものに起きている変化を捉える病気です。単に「胃が荒れている」というレベルの話ではなく、将来の胃がんなどのリスクを正しく評価するために、原因を突き止めることが重要になります。

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最も重要なのはピロリ菌による慢性胃炎・萎縮性胃炎

胃粘膜に慢性的な炎症を引き起こす原因として、最も重要なのがヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染です。実に、慢性胃炎と診断される方の7〜9割がピロリ菌に感染していると報告されています。

ピロリ菌が胃の中に長くすみ着くと、胃の粘膜は持続的な炎症にさらされます。この状態が何年も続くと、胃酸などをつくる細胞が減少し、粘膜自体がやせて薄くなってしまう「萎縮(いしゅく)性胃炎」へと進展することがあります。

この萎縮した粘膜は、胃がんが発生しやすい“土壌”になると考えられています。胃がんの主な原因はピロリ菌の感染であり、感染していると胃がんになる可能性が高まることがわかっています。※
そのため、将来のリスク管理の観点からも、ピロリ菌感染の有無と萎縮の程度を評価することは極めて大切です。

ピロリ菌感染が続くと胃粘膜の萎縮や腸上皮化生が進むことがある

ピロリ菌による炎症が長期間続くと、胃粘膜は「萎縮」し、さらに「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」という状態へと変化していくことがあります。

  • 萎縮(いしゅく)

    胃酸などを分泌する大切な細胞(胃腺)が失われ、胃の粘膜が薄くペラペラになってしまう状態です。

  • 腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)

    萎縮が進んだ結果、胃の粘膜がまるで腸の粘膜のような見た目や性質に置き換わってしまう変化です。

胃粘膜が「正常」から「慢性炎症→萎縮→腸上皮化生」と段階を進むにつれて、胃がんの発生リスクは高まると考えられています。

胃カメラ検査の重要な目的の一つは、単に胃が荒れているかを見るだけでなく、この萎縮や腸上皮化生がどの範囲に、どの程度起きているかを正確に把握し、お一人おひとりの胃がんリスクを評価することにあるのです。

自己免疫によって胃粘膜が萎縮する「自己免疫性胃炎(AIG)」とは

自己免疫性胃炎(AIG)は、ご自身の免疫システムが誤って自分の胃を攻撃してしまうことで起こる、ピロリ菌とは原因が異なるタイプの慢性胃炎です。

本来、体を異物から守るはずの免疫が、胃酸をつくる「壁細胞(へきさいぼう)」という細胞をなぜか敵と勘違いして攻撃してしまいます。
その結果、主に胃の真ん中あたり(胃体部)の粘膜を中心に萎縮が進んでいきます。

この病気の診断は単純ではなく、胃カメラで特徴的な萎縮のパターンを確認することに加えて、血液検査で特定の自己抗体(自分の体を攻撃する物質)の有無を調べたり、組織を採取して顕微鏡で詳しく調べたりするなど、総合的な判断が必要になります。

自己免疫性胃炎では貧血や胃腫瘍などにも注意が必要

自己免疫性胃炎と診断された場合、胃酸の分泌が大きく低下するため、それに伴う貧血や特定の胃腫瘍のリスクにも注意を払う必要があります。

胃酸が減ると、食事から摂る鉄分やビタミンB12の吸収がうまくいかなくなり、以下のような貧血を引き起こすことがあります。

  • 鉄欠乏性貧血:鉄分不足で起こる一般的な貧血。
  • 悪性貧血:ビタミンB12不足で起こる特殊な貧血。

これらの貧血が、病気が見つかるきっかけになることも少なくありません。

また、胃酸が出ない状態を補おうとして「ガストリン」というホルモンが過剰に分泌され、その刺激で「神経内分泌腫瘍」という特殊な腫瘍ができることがあります。胃がんのリスクも考慮する必要があるため、定期的な胃カメラでの経過観察が大切です。

胃カメラで「慢性胃炎」をどう診断する?

胃カメラ検査では、内視鏡を専門とする医師が、単に胃が「赤い」か「荒れている」かを見ているわけではありません。胃粘膜の色つや、血管の透け具合、ひだの太さや形、粘液の付着具合といった細かな情報を読み解き、その背景にある原因や将来の胃がんリスクまでを評価しています。いわば、胃粘膜が発する“声なきサイン”を捉えているのです。この精密な観察によって、お一人おひとりに合わせた今後の検査計画や治療方針を決めるための、重要な情報が得られます。

胃炎の京都分類でピロリ菌の未感染・現感染・既感染を評価する

胃炎の京都分類は、胃粘膜の状態からピロリ菌感染の状況を高い精度で推測するための、いわば専門医が使う「ものさし」です。この分類を用いることで、内視鏡で観察した所見から、胃の状態を以下の3つのいずれかに分類し、それぞれに応じた胃がんリスクを評価します。

  • ピロリ菌未感染の胃

    粘膜は滑らかで均一なピンク色をしており、炎症のない健康な状態です。
  • ピロリ菌現感染の胃

    炎症によって胃全体に赤みが広がり(びまん性発赤)、胃のひだがゴツゴツと太く腫れるといった特徴が見られます。
  • ピロリ菌既感染の胃

    除菌治療後など、過去にピロリ菌がいた胃です。炎症は落ち着いていますが、除菌の跡として「地図状発赤」という独特の模様が見られることがあります。

このように胃粘膜の状態を分類することで、ピロリ菌感染の歴史を読み解き、それぞれの胃がんリスクに応じた今後の検査間隔などを決める上で非常に重要な情報となります。ただし、内視鏡の所見だけで100%確定するものではなく、必要に応じて呼気や便の検査などを組み合わせて診断します。

萎縮・腸上皮化生などから胃がんリスクを評価する

胃カメラ検査の真の目的は、胃粘膜の「萎縮(いしゅく)」や「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」の有無と範囲を評価し、将来の胃がんリスクを判断することにあります。

  • 萎縮(いしゅく)

    長年の炎症によって胃酸などをつくる大切な細胞が失われ、胃の粘膜がやせて薄くなってしまった状態です。胃の機能が低下しているサインといえます。
  • 腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)

    萎縮がさらに進み、本来あるべき胃の粘膜が、小腸の粘膜のようなものに置き換わってしまった状態です。

これらの変化は、胃がんが発生しやすい“土壌”と考えられています。研究によれば、慢性萎縮性胃炎がある方の胃がん発症リスクは年間約0.1%と報告されており、注意深い観察が必要です。胃の不快感や胸やけといった症状は、胃がんでも見られることがあり、症状の有無や強さだけで両者を区別することはできません。※
そのため、胃粘膜の状態を直接観察し、こうしたリスクのサインを見逃さないことが何よりも重要です。

自己免疫性胃炎では胃体部優位の萎縮や血液検査・病理所見を組み合わせて診断する

自己免疫性胃炎の診断は、胃カメラでの特徴的な所見に加え、血液検査や組織を調べる病理検査の結果などをパズルのように組み合わせて、総合的に判断します。

ピロリ菌による胃炎が胃の出口(前庭部)から広がることが多いのに対し、自己免疫性胃炎は胃の奥側(胃体部)を中心に萎縮が進む「逆萎縮」という特徴的なパターンを示すことがあります。

しかし、特に病気の初期段階では典型的な所見が見られないこともあり、内視鏡検査だけでは診断が難しいケースも少なくありません。そのため、以下のような検査を組み合わせて診断の精度を高めていきます。

  • 血液検査

    自分の胃を攻撃する「自己抗体(抗壁細胞抗体など)」の有無や、胃の機能低下を示すホルモン(ガストリン)の値などを調べます。
  • 病理検査

    胃カメラの際に胃の組織を数カ所から採取し、顕微鏡で詳しく調べることで、特徴的な炎症の様子を確認します。

これらの検査結果を総合的に評価し、日本の診断基準に沿って診断を確定していくのです。

慢性胃炎の背景にあるピロリ菌と胃がんのリスク

「慢性胃炎」と診断されたこと自体を、過度に心配する必要はありません。大切なのは、その言葉の奥にある「何が原因で胃炎が起きているのか」「胃の粘膜は今、どのような状態なのか」を正しく知ることです。

特に、胃がんの主な原因とされるピロリ菌の感染は、将来のリスクを考える上で最も重要なポイントになります。ご自身の胃の状態を正確に把握し、適切に対処することが、未来の健康を守る第一歩です。

ピロリ菌感染は慢性胃炎・萎縮性胃炎の重要な原因

胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす最大の原因、それがピロリ菌の感染です。実に、慢性胃炎と診断される方の7〜9割がピロリ菌に感染しているという報告もあります。

ピロリ菌は、胃酸という強い酸性の過酷な環境下でも生き抜くことができる特殊な細菌で、多くは衛生環境が整っていなかった時代の幼少期に感染すると考えられています。

この菌が一度胃の中にすみ着くと、持続的に粘膜を攻撃し、胃は常に弱い火事が起きているような状態(慢性胃炎)になります。この炎症が何十年も続くと、胃液などを分泌する大切な細胞が失われ、胃の粘膜がやせて薄くなってしまう「萎縮(いしゅく)性胃炎」へと進展することがあるのです。

ピロリ菌に感染していると、胃がんになる可能性が高まることがわかっているため、感染が確認された場合は胃がん予防の観点からも除菌治療が強く推奨されます。※

萎縮性胃炎・腸上皮化生が進むと胃がんリスクが高くなる

胃がんのリスクは、単に「今、ピロリ菌に感染しているか」だけで決まるわけではありません。それまでの感染期間に、胃の粘膜がどれだけダメージを蓄積してきたかが大きく影響します。

長年の炎症によって胃粘膜の「萎縮」が進むと、胃の粘膜がまるで腸の粘膜のような見た目や性質に置き換わってしまう「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」という変化が起こることがあります。

この萎縮や腸上皮化生が進んだ粘膜は、胃がんが発生しやすい“土壌”、いわゆる「胃がんの発生母地」になると考えられています。

このような粘膜の変化は、たとえピロリ菌を除菌した後でも完全には元に戻らないため、胃がんのリスクは残り続けます。だからこそ、除菌治療が終わった後も、ご自身の胃の萎縮の程度に応じた定期的な胃カメラ検査で、粘膜の状態を注意深く見守っていくことが大切なのです。

胃痛や胃もたれだけでは胃炎と胃がんを区別できない

胃痛や胃もたれといった症状は、慢性胃炎だけでなく早期の胃がんでも見られることがあり、症状の有無やその強さだけで両者をはっきりと区別することは不可能です。

「いつもの胃炎だろう」「症状が軽いから大丈夫」といった自己判断は、時に重大な病気の見逃しにつながる危険性をはらんでいます。実際に、国立がん研究センターの情報でも、慢性胃炎と胃がんでは胃の不快感や胸やけなど、よく似た症状が起こりうることが示されています。※

逆に、かなり進行した萎縮性胃炎や、ごく初期の胃がんは、まったく症状がないことも少なくありません。ある研究では、慢性胃炎と診断された方の1割以上が無症状であったと報告されています。

症状だけで良性の病気か悪性の病気かを判断するのは不可能です。症状が続く場合やご自身の胃の状態が気になる場合は、専門医に相談し、胃カメラで直接胃の粘膜の状態を確認することが、正確な診断と将来の安心につながります。

ピロリ菌を除菌すると胃がんリスクはどう変わる?

ピロリ菌の除菌治療は、胃がんの発症リスクを明らかに低下させることが、数多くの研究で証明されています。ピロリ菌は胃粘膜に長くすみ着いて慢性的な炎症を引き起こし、胃がんの主な原因となります。この根本原因を取り除くことで、将来の胃がん発生を抑える効果が期待できるのです。

ただし、知っておくべき重要な点があります。それは、除菌に成功したからといって、胃がんのリスクが完全にゼロになるわけではないということです。

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ピロリ菌除菌は胃がん発症リスクを低下させる

ピロリ菌の除菌治療を受けると、感染が続いている人と比べて、胃がんになるリスクが有意に下がります。ピロリ菌が胃粘膜に与え続けるダメージ(慢性炎症)がなくなるため、胃粘膜がそれ以上傷つくのを防ぎ、がん化への歩みを食い止める効果が期待できるためです。

国立がん研究センターが複数の研究を統合して分析した報告でも、ピロリ菌を除菌したグループの胃がんリスクは、除菌しなかったグループに比べて約3〜4割にまで低下することが示されています。※

特に、胃粘膜の萎縮など、ダメージの蓄積が少ない若いうちに除菌するほど、より高い胃がん予防効果が期待できます。胃の不快な症状がなくても、ピロリ菌感染が判明した場合は、将来の健康を守るために除菌治療を検討することが強く推奨されます。

「除菌すれば胃がんにならない」わけではない

ピロリ菌の除菌治療が成功しても、胃がんになるリスクが完全にゼロになるわけではありません。なぜなら、除菌治療は「これから先のダメージ」を防ぐことはできますが、「これまでに胃粘膜が受けたダメージ」をすべて帳消しにできるわけではないからです。

ピロリ菌に長年感染していた胃の粘膜には、以下のような変化がすでに刻まれていることがあります。

  • 萎縮(いしゅく): 胃酸などをつくる細胞が減り、粘膜が薄くやせてしまう状態
  • 腸上皮化生(ちょうじょうひかせい): 萎縮が進み、胃の粘膜が腸の粘膜に似たものに置き換わってしまう状態

これらの変化は「胃がんの発生母地」、つまり胃がんが発生しやすい土台となります。除菌によってピロリ菌がいなくなっても、この土台そのものが完全になくなるわけではないため、胃がんのリスクは残り続けます。

「除菌したからもう安心だ」と自己判断せず、ご自身の胃がどのような状態にあるのかを正しく把握しておくことが何よりも大切です。

除菌後も萎縮性胃炎の程度に応じて胃カメラで経過をみることが重要

ピロリ菌を除菌した後も、ご自身の胃粘膜の状態(萎縮の程度など)に合わせた定期的な胃カメラ検査は、胃がんを早期発見するために不可欠です。除菌後の胃カメラは、残された胃がんリスクをきちんと管理するために行います。

検査を受ける頻度は、全員が「毎年」というわけではありません。

  • 除菌治療を受けたときの年齢
  • 胃粘膜の萎縮の範囲や程度
  • 腸上皮化生の有無
  • ご家族の病歴(胃がんになった方がいるかなど)

これらの要素を内視鏡専門医が総合的に判断し、一人ひとりに合った検査間隔を提案します。

例えば、萎縮がほとんどない健康な状態で除菌できた場合は検査間隔を長く設定できることもありますし、逆に萎縮が進んだ状態で見つかった場合は、より短い間隔での慎重な経過観察が必要になることもあります。

除菌は治療のゴールではなく、ご自身の胃と長く健康に付き合っていくための新たなスタートラインとお考えください。

胃の症状を悪化させる生活習慣|飲酒・食事・喫煙との付き合い方

胃の不調は、飲酒や食事、喫煙などの生活習慣と深く関わっています。しかし、「胃炎だからお酒は一切禁止」というように、原因を決めつけて一方的に何かを制限するのは正しいアプローチとはいえません。症状を引き起こしている本当の原因、そして現在のあなたの胃の状態によって、生活習慣との付き合い方は大きく変わります。大切なのは、ご自身の体と向き合い、何が症状の引き金になっているのかを見極め、上手に生活を調整していくことです。

アルコールは胃粘膜を刺激し胃症状を悪化させることがある

アルコール(エタノール)は胃の粘膜にとって直接的な刺激物であり、胃痛や吐き気、胃もたれといった症状を悪化させる代表的な要因です。特に濃度の高いアルコールを大量に飲むと、胃酸の分泌を過剰に促すと同時に、胃粘膜を守る大切なバリア機能(粘液など)を壊してしまいます。その結果、胃の壁が直接ダメージを受けやすくなり、不快な症状につながるのです。

普段から胃の調子が悪い方は、お酒の種類や量を少し見直すだけでも、症状が楽になることがあります。また、不適切な飲酒習慣は、胃の症状だけでなく、胃食道逆流症や、食道がん・胃がんといったより深刻な病気のリスクを高めることも指摘されています。※

飲酒・肥満・食習慣は胃食道逆流症など別の病気にも関係する

胃の不調を感じると「慢性胃炎かな?」と思いがちですが、その原因は一つとは限りません。特に、飲酒、肥満、特定の食習慣は、「胃食道逆流症(GERD)」という別の病気の引き金になることがあります。胸やけや、酸っぱいものがこみ上げてくる感覚(呑酸)は、この胃食道逆流症の典型的なサインです。

以下のような習慣は、胃と食道のつなぎ目で“フタ”の役割をしている筋肉(下部食道括約筋)を緩めてしまい、胃酸の逆流を招きやすくします。

  • 食べ過ぎ、早食い
  • 脂っこい食事、アルコールの過剰摂取
  • 食べてすぐに横になる習慣
  • 肥満によるお腹の圧迫(腹圧の上昇)
  • 喫煙

「いつもの胃炎だ」と思っていた不快感が、実は胃食道逆流症が原因だったというケースは珍しくありません。胃の症状だからと胃炎と決めつけず、他の病気の可能性も考える視点が大切です。

「胃炎だから○○禁止」ではなく症状と病気に合わせて生活を見直す

「胃炎と診断されたから、コーヒーも香辛料も脂っこいものも全部禁止」と、画一的に食事を制限するのは得策ではありません。本当に大切なのは、ご自身の症状や胃の状態に合わせて、生活習慣を個別に見直していくことです。

例えば、ある食べ物で症状が出るかどうかは、人によって、またその時の体調によっても異なります。まずは、どんな時に症状が出やすいのか、ご自身の体をじっくり観察してみましょう。

過度に食事を制限しすぎると、かえって栄養のバランスを崩したり、何より「食べる楽しみ」という生活の質(QOL)を損なったりする恐れがあります。特定の食品を完全に断つのではなく、ご自身の体と相談しながら、「このくらいなら大丈夫」という量を見つけたり、体調の良い日に試したりする工夫が重要です。胃の状態(例えば胃酸が多いのか少ないのか)によっても食事のポイントは変わるため、自己判断で極端な制限をする前に専門医に相談することをお勧めします。

「慢性胃炎」と自己判断しない|症状の原因を調べることが重要

胃もたれや胃痛を「いつもの慢性胃炎だろう」と自己判断で片付けてしまうのは、とても危険な考え方です。「慢性胃炎」という言葉は、実は症状を指す場合と、胃粘膜の病的な状態を指す場合があり、この2つは必ずしも同じではありません。

大切なのは、ご自身のつらい症状がなぜ起きているのか、胃の粘膜にどのような変化が生じているのかを正確に突き止めることです。市販薬で一時的に症状をごまかすのではなく、一度専門医のもとで原因をはっきりさせることが、将来の健康を守るための確実な一歩となります。

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胃カメラで胃炎・潰瘍・胃がん・ピロリ菌感染の手がかりを確認する

胃カメラは、胃の不調の原因を突き止めるために、胃粘膜の状態を直接その目で確認できる最も確実な検査です。専門医は、ただ粘膜の赤みや荒れを見ているだけではありません。胃粘膜の色つや、血管の透け具合、ひだの形など、わずかな変化から多くの情報を読み取っています。

胃カメラで評価できる主なポイントは以下のとおりです。

  • 胃炎の状態

    粘膜の炎症だけでなく、胃がんのリスクとなる「萎縮(粘膜がやせること)」や「腸上皮化生(粘膜が腸のように変化すること)」の範囲と程度を評価します。
  • 潰瘍の有無

    胃や十二指腸の粘膜が深くえぐれていないかを確認します。
  • 胃がんやポリープ

    早期の胃がんは症状がないことも多いため、直接観察することが早期発見の鍵となります。
  • ピロリ菌感染の手がかり

    特徴的な粘膜の模様から、ピロリ菌に「今、感染しているのか」「過去に感染していたのか」まである程度推測できます。

当院では、消化器内視鏡専門医が検査を行っています。ご希望に応じて鎮静剤を使用し、リラックスした状態で検査を受けていただくことも可能ですので、お気軽にご相談ください。

症状が続く場合は機能性ディスペプシアやGERDなども考える

胃カメラで「異常なし」とされても症状が続く場合、それは「気のせい」ではありません。胃の“機能”に問題が隠れている可能性があります。

代表的なのが、胃の動きや知覚の異常によって起こる「機能性ディスペプシア(FD)」や、胃酸が食道へ逆流する「胃食道逆流症(GERD)」です。これらは胃カメラで明らかな形としての異常が見つかりにくいため、症状や生活習慣を詳しくお伺いし、総合的に診断します。

胃の動きを整える薬、胃酸の分泌をコントロールする薬、あるいは漢方薬など、原因に合わせた治療を行うことで、つらい症状の改善が期待できます。

貧血・体重減少・黒い便・飲み込みにくさがあれば早めに胃カメラを検討する

貧血、急な体重減少、黒い便、飲み込みにくさといった症状は、胃や食道が発する危険なサイン(警告症状)かもしれず、決して見過ごしてはいけません。これらの症状は、胃がんや食道がん、あるいは出血を伴う胃潰瘍など、より深刻な病気が隠れている可能性を示唆します。

特に注意したい症状を下記に整理します。

  • 原因不明の貧血を指摘された
  • ダイエットをしていないのに体重が減り続けている
  • 便がイカ墨のように真っ黒になった(黒色便)、または血を吐いた(吐血)
  • 食べ物が飲み込みにくかったり、胸につかえる感じがしたりする
  • 食欲が全くわかず、嘔吐が続く

「いつもの胃の不調」とは明らかに違うと感じた場合は、市販薬で様子を見るのではなく、速やかに消化器内科を受診してください。厚生労働省も、普段と違う症状や悪化する症状がある場合は、早めに医療機関へ相談することを推奨しています。※

症状がなくてもピロリ菌感染歴や萎縮性胃炎があれば定期的な評価が重要

「症状がないから大丈夫」とは限らないのが、胃の病気の怖いところです。特に、過去にピロリ菌感染を指摘された方や、健診で「萎縮性胃炎」と言われた方は注意が必要です。

将来の胃がんリスクは、現在の症状の有無ではなく、これまでのピロリ菌感染によって胃の粘膜がどれだけダメージを蓄積してきたか(萎縮の程度)に大きく左右されます。実際、ある研究では慢性胃炎と診断された方の1割以上が無症状だったと報告されており、症状がないまま胃がんの発生母地となる高度な萎縮性胃炎が進行しているケースは珍しくありません。

ピロリ菌の除菌治療に成功しても、一度傷んでしまった粘膜から胃がんが発生するリスクはゼロにはなりません。症状がないからと安心せず、ご自身の胃のリスクに応じた間隔で定期的に胃カメラを受け、粘膜の状態を専門医の目で確認していくこと。それが、ご自身の未来の健康を守る上で非常に重要なことです。

まとめ

胃もたれや胃痛といった気になる症状は、必ずしも胃粘膜の炎症(医学的な慢性胃炎)が直接の原因とは限りません。

胃の不調には、胃の機能が低下する機能性ディスペプシアや、ピロリ菌感染による慢性胃炎など、さまざまな原因が考えられます。特にピロリ菌が引き起こす萎縮性胃炎は、自覚症状がなくても将来の胃がんリスクに関わるため注意が必要です。症状の有無だけで胃がんのような病気と区別することはできないため、「いつもの胃炎」と自己判断で済ませないことが重要といえます。

気になる症状が続く場合やご自身の胃の状態を正確に知りたい場合は、一度消化器内科を受診し、専門医に相談してみてください。

吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長

佐々木 洋

  • 日本内科学会認定 総合内科専門医
  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本肝臓学会認定 肝臓専門医
  • 日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 厚生労働省認定難病指定医
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