胸膜炎とは?呼吸時の胸痛や息切れ…原因から治療法、受診の目安まで解説

胸膜炎とは、肺の外側を覆う「臓側胸膜」と、胸郭の内側を覆う「壁側胸膜」という2枚の薄い膜に起こる炎症のことです。これらの膜の間には「胸腔」と呼ばれるわずかな空間があり、通常は少量の胸水が存在して、呼吸による肺の動きをスムーズにしています。胸膜炎が起こると、この胸膜が炎症を起こし、さまざまな不快な症状を引き起こします。胸膜炎は、感染症や自己免疫疾患、悪性腫瘍など、様々な原因によって引き起こされる可能性があり、胸の痛みや息切れなどの症状が出ることがあります。これらの症状を感じた場合は、原因を特定し適切な治療を受けるために、早めに医療機関を受診することが重要ですす参考:日本呼吸器学会

目次

胸膜炎とは?(定義、種類、構造)

胸膜炎は、前述の通り、肺と胸郭を覆う胸膜に生じる炎症性の病態です。胸膜は非常に薄く滑らかな膜で、摩擦なく肺が膨らんだり縮んだりできるように潤滑油の役割を果たしています。

胸膜炎は、炎症の性質や胸水の有無によっていくつかの種類に分けられます。

  • 乾性胸膜炎(フィブリン性胸膜炎):
    胸膜の炎症が軽度で、胸水の貯留がほとんどない状態です。
    炎症によって胸膜表面がざらつき、呼吸のたびに胸膜同士が擦れることで強い痛みを伴うことが多いのが特徴です。
  • 湿性胸膜炎(滲出性胸膜炎):
    胸膜の炎症が強く、胸腔内に多量の胸水が貯留した状態です。
    炎症によって血管透過性が亢進し、通常よりも多くの水分やタンパク質が胸腔内に漏れ出します。
    胸水が増えると肺が圧迫され、呼吸困難などの症状が現れやすくなります。

胸腔に貯留する胸水は、その性質によってさらに「滲出液」と「漏出液」に分類されます。胸膜炎による胸水は、炎症によって生じる「滲出液」であることが多いですが、心不全や肝硬変など、全身の病気によって胸水が貯留する場合(この場合は炎症を伴わないことが多く、「漏出液」となります)とは区別して考える必要があります参考:日本呼吸器学会

胸膜炎の原因

胸膜炎は、感染性のものと非感染性のものに大きく分けられます。原因によって症状や治療法が大きく異なるため、正確な診断が非常に重要です。日本における胸膜炎の年間罹患数では、がん性胸膜炎と結核性胸膜炎が全体の60~70%を占めています参考:済生会

主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

感染による原因

感染による胸膜炎は、細菌、ウイルス、真菌などの病原体が胸膜に侵入することで起こります。肺の感染症(肺炎や肺膿瘍など)が胸膜に波及して起こることが多いです。

細菌性胸膜炎:
細菌性胸膜炎は、肺炎に合併することが最も多い形態です。特に肺炎が悪化し、炎症が肺から胸膜に広がった場合に発生します。原因となる細菌は肺炎の原因菌と同様で、肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌など多岐にわたります。

細菌が胸腔内に侵入すると、免疫応答によって強い炎症が引き起こされ、膿性の胸水(膿胸)が貯留することがあります。膿胸は非常に重篤な状態であり、抗菌薬による治療に加え、胸腔ドレナージ(胸腔に管を挿入して膿を排出する処置)が必要となることがほとんどです。治療が遅れると胸膜が癒着し、肺の拡張が妨げられる後遺症を残す可能性もあります。

ウイルス性胸膜炎:
ウイルス性胸膜炎は、細菌性胸膜炎に比べて比較的軽症であることが多いです。インフルエンザウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルスなど、様々なウイルスが原因となり得ます。これらのウイルスは、風邪やインフルエンザといった呼吸器感染症の原因となることが多く、肺の炎症と同時に胸膜にも炎症を引き起こすことがあります。

ウイルス性胸膜炎の場合、胸水の貯留は少量であることが多く、乾性胸膜炎のような強い胸痛を伴うことが多い傾向があります。通常は特効薬がなく、対症療法(痛み止めなど)で経過を見ることが一般的ですが、多くの場合、数日から数週間で自然に改善します。ただし、免疫力が低下している方などでは重症化の可能性もゼロではありません。

真菌(カビ)による胸膜炎:
真菌(カビ)による胸膜炎は、比較的稀ですが、免疫力が低下している方や、慢性的な肺疾患(結核や気管支拡張症など)がある方に発生しやすいです。アスペルギルスやカンジダなどが原因となることがあります。

真菌性胸膜炎の診断は難しく、治療にも時間がかかることがあります。抗真菌薬による治療が必要となりますが、効果が現れるまでに時間がかかったり、再発を繰り返したりすることもあります。

非感染による原因

感染以外の原因によっても胸膜炎は発生します。これらの原因は多岐にわたり、診断には全身の病気を考慮する必要があります参考:日本呼吸器学会

自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチなど)は、体の免疫システムが誤って自身の正常な組織を攻撃することで起こる病気です。これらの疾患の合併症として、胸膜に炎症が起こることがあります参考:日本呼吸器学会

自己免疫疾患に伴う胸膜炎は、胸痛や胸水貯留を伴うことがあり、胸水は滲出液であることが多いです。原疾患の活動性と関連しており、自己免疫疾患の治療(免疫抑制療法など)を行うことで胸膜炎も改善することが期待できます。

薬剤性
特定の薬剤の副作用として胸膜炎が起こることがあります。抗菌薬、抗不整脈薬、免疫抑制剤など、様々な薬剤が原因となり得ます。薬剤性胸膜炎は比較的稀ですが、原因薬剤の服用を開始した後に胸痛や呼吸困難などの症状が現れた場合には疑われます。

薬剤性胸膜炎の診断は、他の原因を除外した上で、薬剤の使用歴から判断することが多いです。原因薬剤の中止が最も重要な治療となり、多くの場合、薬剤中止後に症状は速やかに改善します。

悪性腫瘍(がん)
肺がんや胸膜中皮腫、あるいは乳がんやリンパ腫など、他の臓器からの転移性腫瘍が胸膜に浸潤し、炎症や多量の胸水(悪性胸水)を引き起こすことがあります。これは特に進行したがんに多く見られる合併症です参考:済生会参考:日本呼吸器学会

悪性腫瘍による胸膜炎は、持続する胸痛や呼吸困難が特徴的です。胸水は急速に増加することが多く、癌細胞が胸水中に認められることで診断が確定します。悪性胸水は治療が難しく、胸水貯留による呼吸困難の緩和を目的とした胸水穿刺や胸膜癒着術などが行われます。

外傷
交通事故や転倒などによる肋骨骨折や胸部の強い打撲は、胸膜に直接的な損傷を与え、炎症や出血(血胸)を引き起こす可能性があります。また、胸部外科手術の後にも炎症が生じることがあります。

外傷性胸膜炎は、外傷部位の痛みと共に、胸膜の炎症による胸痛を伴います。胸水や血胸の量が多い場合は、呼吸困難をきたすこともあります。治療は、外傷自体の治療に加え、胸水や血胸の量に応じて胸腔ドレナージなどが行われます。

その他の原因
上記以外にも、肺梗塞やアスベストへの曝露なども胸膜炎の原因となることがあります参考:日本呼吸器学会

胸膜炎の主な症状

胸膜炎の症状は、炎症の程度、胸水の量、原因によって異なります。しかし、最も特徴的な症状は胸痛です。

胸痛の特徴

胸膜炎による胸痛は、呼吸や咳、体動によって増強するという特徴があります参考:日本呼吸器学会。医学的には「体位性胸痛」とも呼ばれます。特に息を深く吸い込んだり、咳をしたりする際に、鋭い痛みが胸の片側や背中側に感じられることが多いです。これは、炎症を起こした胸膜同士が擦れることによって生じる痛みと考えられています。

乾性胸膜炎では胸水の貯留が少ないため、この擦れる痛みが強く現れやすい傾向があります。一方、湿性胸膜炎で胸水が増加すると、胸膜同士が離れるため、一時的に胸痛が軽減することもあります。しかし、胸水が増えることによって肺が圧迫され、別の症状が現れてきます。

その他の随伴症状

胸膜炎では、胸痛以外にも様々な症状を伴うことがあります。

呼吸困難・息切れ:
胸腔内に多量の胸水が貯留すると、肺が胸水によって圧迫され、十分に膨らむことができなくなります。このため、息を吸い込める量が減り、呼吸困難や息切れを感じるようになります参考:日本呼吸器学会。特に体を動かした時や、横になった時に症状が悪化することがあります。胸水の量が非常に多い場合は、安静時にも呼吸が苦しくなることがあります。

咳・痰:
胸膜の炎症や、胸水による肺の圧迫が刺激となり、咳が出ることがあります。咳は乾いた咳であることも、痰を伴うこともあります。咳をすることで胸痛が増強する場合もあり、患者さんにとって非常につらい症状の一つとなります。

発熱・全身倦怠感:
感染性の胸膜炎、特に細菌性胸膜炎や真菌性胸膜炎では、発熱や悪寒、全身の倦怠感などの全身症状を伴うことが多いです。炎症を引き起こしている病原体に対する体の反応としてこれらの症状が現れます。非感染性の胸膜炎でも、自己免疫疾患の活動性に伴って発熱が見られることがあります。

これらの症状は胸膜炎以外の病気でも起こり得るため、症状だけで胸膜炎と断定することはできません。正確な診断には医師による詳細な検査が必要です。

胸膜炎の診断方法

胸膜炎の診断は、患者さんの症状や既往歴の詳細な問診から始まり、身体診察、画像検査、必要に応じて胸水検査や血液検査などを組み合わせて総合的に行われます。

問診と身体診察

まずは、患者さんが訴える症状について詳しくお話を伺います。胸痛がある場合は、その性質(鋭い痛みか鈍い痛みか)、場所、いつ始まったか、何によって強くなるか(呼吸、咳、体動など)、持続時間などを詳しく確認します。発熱や咳、息切れなどの他の症状の有無や経過、過去の病歴(肺炎、結核、自己免疫疾患、悪性腫瘍など)、服用している薬、喫煙歴、渡航歴なども重要な情報となります。

身体診察では、胸の聴診や打診を行います。胸水が貯留している場合は、その部分の呼吸音が弱くなったり、打診音が濁ったりすることがあります。また、炎症による胸膜摩擦音(胸膜が擦れる音)が聴取されることもあります。

画像検査

画像検査は、胸膜炎の診断において非常に重要な役割を果たします。胸膜や肺の状態、胸水の有無や量、原因を示唆する所見などを確認できます。

胸部X線検査:
胸部X線検査は、最も簡便に行える画像検査です。胸膜炎の場合、胸水の貯留があればX線写真上で確認できます。少量の胸水では肋骨横隔膜角(肺と横隔膜の間の角度)が鈍化して見え、量が増えるにつれて肺の下部や側方に広がる白い影として描出されます。乾性胸膜炎で胸水が少ない場合でも、肺炎などの原因疾患が見つかることがあります。ただし、少量の胸水や、胸膜自体の炎症の詳細は捉えにくい場合があります。

胸部CT検査:
胸部CT検査は、胸部X線検査よりも詳細な情報を得ることができます。胸水の存在、量、性状(均一か、隔壁があるかなど)をより正確に評価できます。また、胸膜自体の厚さや、結節(しこり)、播種(種をまいたように広がる病変)の有無、肺や縦隔の病変(肺炎、腫瘍、リンパ節腫脹など)を捉えるのに優れており、胸膜炎の原因を探る上で非常に有用です。細菌性胸膜炎に伴う膿胸や、悪性胸水、胸膜の肥厚や癒着などの評価に適しています。

胸部超音波検査(エコー検査)は、ベッドサイドで簡便に行える検査です。特に胸水の有無や量の評価、穿刺を行う際のガイドとして非常に有用です。CT検査のように放射線被ばくがなく、体位を変えながら検査できるため、貯留している胸水の広がりや、胸水内に隔壁(仕切り)ができているかどうかなどをリアルタイムで確認できます。隔壁がある膿胸などでは、ドレナージの難易度や留置部位を検討するのに役立ちます。

胸水検査

胸腔に胸水が貯留している場合、胸水穿刺を行って胸水を採取し、その性状や成分を調べる「胸水検査」は、胸膜炎の原因を特定するために最も重要な検査の一つです。

採取した胸水の色、濁り、粘稠度などを肉眼で観察します。次に、生化学検査、細胞診、細菌検査、結核菌検査などを行います。

胸水の性状による判断のポイントを以下の表にまとめます。

検査項目・性状 滲出液(炎症性) 漏出液(非炎症性) 疑われる原因
見た目 黄色く濁っていることが多い(膿胸では乳白色や黄色) 透明または薄い黄色で澄んでいる 炎症、感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患など
総タンパク 高い(血液中の約半分以上) 低い(血液中の約半分以下) 心不全、肝硬変、腎臓病、低栄養など
LDH 高い 低い 炎症、感染症、悪性腫瘍など
ブドウ糖 低いことがある(細菌、結核、悪性腫瘍など) 血液中のブドウ糖値に近い 細菌感染、結核、悪性腫瘍(細胞がブドウ糖を消費するため)
細胞診 白血球、リンパ球が多い。異型細胞が見られることも。 細胞成分は少ない 細菌性:好中球、結核性・悪性:リンパ球、悪性腫瘍:異型細胞
細菌検査/結核菌 細菌や結核菌が検出されることがある 原則として検出されない 細菌性胸膜炎、結核性胸膜炎

これらの検査結果に加えて、血液検査の結果なども総合的に判断し、胸膜炎の診断、原因の特定、重症度の評価が行われます。

血液検査

血液検査も、胸膜炎の原因や全身の状態を把握するために行われます。炎症の程度を示す項目(白血球数、CRPなど)の上昇は、感染症や炎症性疾患の存在を示唆します。また、自己免疫疾患が疑われる場合には、自己抗体の検査が行われることがあります。さらに、肝機能や腎機能、栄養状態などを評価することで、全身の病気が胸水の原因となっている可能性を検討することもあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、胸膜炎の診断、原因の特定、重症度の評価が行われます。

胸膜炎の治療法

胸膜炎の治療は、その原因によって大きく異なります。原因疾患に対する治療が最も重要であり、それに加えて症状を和らげるための治療が行われます。

原因に対する治療

胸膜炎を根本的に治すためには、原因となっている病気自体を治療する必要があります。

  • 細菌性胸膜炎: 原因となっている細菌に有効な抗生物質を投与します参考:済生会。適切な抗生物質を選択し、十分な期間(通常は数週間)投与することが重要です。胸水が膿胸になっている場合は、抗生物質治療に加え、胸腔ドレナージによる排膿が不可欠です。
  • ウイルス性胸膜炎: 特異的な抗ウイルス薬は通常使用されません。基本的には対症療法で自然治癒を待ちます。
  • 真菌性胸膜炎: 原因となっている真菌に有効な抗真菌薬を長期間投与する必要があります。
  • 自己免疫疾患に伴う胸膜炎: 原疾患である自己免疫疾患の治療を行います参考:日本呼吸器学会。免疫抑制剤(ステロイドやその他の免疫抑制薬)によって全身の炎症を抑えることで、胸膜炎も改善が期待できます。
  • 薬剤性胸膜炎: 原因となっている薬剤の服用を中止します。多くの場合、薬剤中止のみで症状は速やかに改善します。
  • 悪性腫瘍に伴う胸膜炎: 肺がんや転移性腫瘍自体の治療(化学療法、放射線療法、分子標的薬など)が行われます参考:済生会。しかし、悪性胸水は難治性であることが多く、胸水貯留による呼吸困難などの症状緩和を目的とした治療が中心となる場合があります。
  • 結核性胸膜炎: 結核菌に有効な複数の抗結核薬を組み合わせ、通常6ヶ月以上の長期間にわたって服用する必要があります参考:済生会参考:日本呼吸器学会

薬物療法

原因に対する治療と並行して、胸膜炎による症状、特に胸痛や炎症を和らげるための薬物療法が行われます。

抗生物質:
前述の通り、細菌性胸膜炎や真菌性胸膜炎の場合に、原因菌に対して有効な抗生物質や抗真菌薬が投与されます。ウイルス性胸膜炎には効果がありません。

抗炎症薬・鎮痛薬:
胸膜の炎症や、炎症に伴う胸痛を和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬が処方されることがあります。これらの薬剤は痛みを軽減することで、患者さんが楽に呼吸できるようになるのを助けます。ただし、原因に対する根本的な治療ではないため、原因に応じた治療と併用して使用されます。

ステロイド:
炎症が非常に強い場合や、自己免疫疾患に伴う胸膜炎、結核性胸膜炎の一部など、特定の病態においてはステロイド(副腎皮質ホルモン)が使用されることがあります。ステロイドは強力な抗炎症作用を持つため、胸膜の炎症を効果的に抑えることが期待できます。ただし、感染症がある場合には慎重な使用が必要です。

胸水除去

胸腔内に多量の胸水が貯留し、呼吸困難などの症状を引き起こしている場合には、胸水を物理的に除去する処置が必要となります。

  • 胸水穿刺: 細い針を胸壁から胸腔内に挿入し、注射器やチューブを用いて胸水を吸引除去する方法です。診断のために少量の胸水を採取する場合と、症状緩和のために比較的多くの胸水を抜く場合があります。簡便に行える処置ですが、胸水がすぐに再貯留することもあります。
  • 胸腔ドレナージ: 持続的に胸水を排出するために、胸腔にチューブを留置する方法です。細菌性胸膜炎による膿胸や、悪性胸水などで多量の胸水が貯留し、かつ再貯留を繰り返す場合などに行われます。胸腔内に溜まった液体を持続的に体外へ排出することで、肺が再び拡張し、呼吸が楽になることを目指します。
  • 胸膜癒着術: 特に悪性胸水などで胸水が繰り返し貯留する場合に行われる治療法です。胸腔内に薬剤(例:ピシバニールやタルク)を注入し、臓側胸膜と壁側胸膜を人為的に癒着させることで、胸腔を消失させ、胸水が溜まる空間をなくすことを目的とします。

どの治療法を選択するかは、胸膜炎の原因、胸水の量と性状、患者さんの全身状態などを考慮して医師が総合的に判断します。

胸膜炎は重症化する?(合併症、予後)

胸膜炎は、原因や治療の状況によっては重症化したり、合併症を引き起こしたりする可能性があります。特に細菌性胸膜炎による膿胸や、悪性腫瘍による胸膜炎は重篤化しやすい傾向があります。

重症化した場合に起こり得る主な合併症には、以下のようなものがあります。

  • 膿胸: 胸水に細菌が増殖し、膿となった状態です。発熱や全身状態の悪化を伴い、抗菌薬治療と同時に積極的な胸腔ドレナージや、場合によっては外科的な処置(胸腔鏡下剥皮術など)が必要となります。治療が遅れると胸膜が厚く硬くなり(胸膜肥厚)、肺の動きが著しく制限される「トラップド・ラング(trapped lung)」と呼ばれる状態になることがあります。
  • 胸膜肥厚・癒着: 炎症が長引いたり、膿胸などが起こったりすると、胸膜が厚く硬くなり、臓側胸膜と壁側胸膜がくっついてしまう(癒着)ことがあります。胸膜肥厚や癒着が広範囲に及ぶと、肺が十分に膨らむことができず、呼吸機能が低下する原因となります。
  • 気管支胸膜瘻: まれな合併症ですが、肺と胸腔(胸水が溜まっている空間)の間で交通が生じ、空気が胸腔内に漏れ出す状態です。膿胸に合併することがあり、治療が非常に困難になることがあります。
  • 敗血症: 細菌感染が全身に広がり、生命を脅かす重篤な状態になる可能性があります。

胸膜炎の予後は、原因によって大きく異なります。

原因 予後・注意点
ウイルス性胸膜炎 多くは対症療法で数週間以内に回復。
細菌性胸膜炎 早期治療で回復することが多い。治療が遅れると膿胸化し、胸膜肥厚や癒着などの後遺症を残す可能性がある。
結核性胸膜炎 適切な抗結核薬治療で治癒するが、治療期間が長い(6ヶ月以上)。一部に胸膜肥厚を残すことがある。
自己免疫疾患に伴う胸膜炎 原疾患の治療に準じる。原疾患の活動性が抑えられれば改善が期待できる。
薬剤性胸膜炎 原因薬剤の中止で速やかに改善することが多い。
悪性腫瘍に伴う胸膜炎(悪性胸水) 原因となるがんの進行度に依存。難治性で、胸水コントロールのための治療が中心となることが多い。QOL維持が重要。
外傷性胸膜炎 外傷の程度や合併症による。血胸や感染がなければ比較的早期に回復することが多いが、量が多い場合はドレナージが必要となる。

胸膜炎と診断された場合は、原因を正確に特定し、医師の指示に従って適切な治療を継続することが、重症化や後遺症を防ぐために非常に重要です。

胸膜炎はどのくらいで治る?(治療期間、注意点)

胸膜炎がどのくらいで治るかは、原因や重症度、患者さんの全身状態、治療への反応などによって大きく異なります。一概に「〇日で治る」とは言えません。

  • ウイルス性胸膜炎: 対症療法で経過を見ることが多く、比較的軽症の場合は数日~数週間で症状が改善することが期待できます。
  • 細菌性胸膜炎: 抗菌薬治療が必要となり、通常は数週間程度の入院治療が必要となることがあります。胸腔ドレナージが必要な場合は、チューブが留置されている期間も含めると、さらに治療期間が長くなることもあります。胸膜の炎症が落ち着き、胸水が消失するまでには、病状によって数週間から数ヶ月かかることもあります。
  • 結核性胸膜炎: 抗結核薬治療を通常6ヶ月以上行う必要があります参考:済生会。症状は比較的早く改善しても、治療期間を短縮することは再発のリスクを高めるため推奨されません。
  • 自己免疫疾患や薬剤性胸膜炎: 原疾患の治療や原因薬剤の中止によって、比較的速やかに改善することが多いです。
  • 悪性腫瘍に伴う胸膜炎: 原因となるがんの治療に加えて、胸水に対する処置(穿刺、ドレナージ、胸膜癒着術など)が行われますが、胸水が再貯留を繰り返し、根本的な治癒が難しい場合が多いです。症状の緩和を目的とした治療が継続されます。

治療期間中および治療後の注意点としては、以下のようなものがあります。

  • 安静: 特に急性期の炎症が強い時期や、胸水が多い時期には、無理な活動を避け、安静を保つことが大切です。
  • 服薬の遵守: 医師から処方された薬(抗生物質、抗炎症薬、抗結核薬など)は、指示された量と期間を正確に服用することが非常に重要です。自己判断で中止したり、量を変更したりしないでください。
  • 症状の観察: 胸痛、呼吸困難、発熱などの症状の変化を注意深く観察し、症状が悪化したり、新たな症状が現れたりした場合は速やかに医師に連絡してください。
  • 定期的な受診: 治療の効果判定や、合併症の早期発見のために、医師の指示通りに定期的な診察や検査(胸部X線検査など)を受けることが大切です。
  • 原因疾患の管理: 胸膜炎の原因が結核や自己免疫疾患、悪性腫瘍などである場合は、胸膜炎が治まっても原疾患の治療や管理を継続する必要があります。

胸膜炎の回復過程は個人差が大きいため、医師と密に連携を取りながら治療を進めることが最も重要です。

いつ医療機関を受診すべきか

胸膜炎の症状は、他の病気(肺炎、気胸、心筋梗塞、肋間神経痛など)の症状と似ている場合があり、自己判断は危険です。以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診し、医師の診察を受けることを強くお勧めします。

  • 呼吸や咳、体動によって悪化する胸痛がある: 特に息を深く吸い込んだり、咳をしたりする際に鋭い痛みが走る場合は、胸膜炎の可能性が考えられます。
  • 息切れや呼吸困難を感じる: 安静時や体を動かした際に、息が苦しくなる、息を吸い込みにくいなどの症状がある場合は、胸水が溜まっているなど肺の機能に影響が出ている可能性があります参考:日本呼吸器学会
  • 原因不明の発熱が続いている: 特に胸痛や咳などの呼吸器症状を伴う発熱は、感染性の胸膜炎や肺炎などの可能性があります。
  • 咳や痰がひどい: 特に黄色や緑色の痰が出る、量が増えるなどの変化がある場合は、細菌感染が疑われます。
  • 全身の倦怠感が強い、食欲がないなど、全身状態が悪い: 感染症や悪性腫瘍など、重篤な原因が隠れている可能性も考えられます。
  • 過去に胸膜炎や関連する病気(肺炎、結核、自己免疫疾患、がんなど)にかかったことがある: 既往歴のある方は、胸膜炎を再発したり、関連する病気が悪化したりしている可能性も考慮する必要があります。

これらの症状は、胸膜炎だけでなく、心臓や肺の病気など、放置すると重篤化する可能性のある他の病気でも見られる可能性があります。早期に正確な診断を受け、適切な治療を開始することが、症状の早期改善や重症化予防につながります。どのような診療科を受診すべきか迷う場合は、まずは内科や呼吸器内科を受診するのが一般的です。

まとめ

胸膜炎は、肺と胸郭を覆う胸膜に起こる炎症であり、様々な原因によって引き起こされます。主な原因としては、細菌やウイルスによる感染、自己免疫疾患、薬剤の副作用、悪性腫瘍、外傷などが挙げられます参考:済生会参考:日本呼吸器学会

最も特徴的な症状は、呼吸や咳、体動によって増悪する胸痛です参考:日本呼吸器学会。炎症が強くなり胸水が多量に貯留すると、息切れや呼吸困難、咳などの症状も現れます参考:日本呼吸器学会。感染性の場合は発熱や全身倦怠感を伴うこともあります。

診断は、患者さんの症状や既往歴の詳細な問診、身体診察、胸部X線検査、胸部CT検査、胸部超音波検査などの画像検査、そして胸水が貯留している場合は胸水検査や血液検査を組み合わせて総合的に行われます。特に胸水検査は、原因を特定する上で非常に重要な検査です。心不全などによる漏出性胸水との鑑別も重要です参考:日本呼吸器学会

胸膜炎の治療は、原因疾患に対する治療が最も重要です。細菌性であれば抗菌薬、結核性であれば抗結核薬、自己免疫疾患であれば免疫抑制剤など、原因に応じた治療が行われます参考:済生会。症状緩和のためには、鎮痛薬や抗炎症薬が用いられ、多量の胸水による呼吸困難がある場合は、胸水穿刺や胸腔ドレナージによる胸水除去が必要となります。

胸膜炎は、原因によっては比較的短期間で回復することもありますが、細菌性胸膜炎による膿胸や悪性胸水などの場合は重症化しやすく、胸膜肥厚や癒着などの後遺症を残す可能性もあります。治療期間は原因や重症度によって大きく異なりますが、医師の指示に従い、原因疾患の治療や服薬を継続することが大切です。

呼吸や咳で悪化する胸痛、息切れ、原因不明の発熱などの症状がある場合は、胸膜炎の可能性だけでなく、他の重篤な病気の可能性も考慮し、早期に医療機関(内科、呼吸器内科など)を受診して正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。ご自身の症状に不安を感じたら、一人で悩まずに医療専門家にご相談ください。

免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の症状に対する医学的な診断や治療を推奨するものではありません。具体的な診断や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次