背中の左側、特に肩甲骨の下あたりに感じる痛みは、日常生活で比較的多くの人が経験する不調の一つです。単なる筋肉の疲れだと思って放っておくと、実は体の内側に隠された病気のサインである可能性も否定できません。この特定の部位の痛みは、筋肉や骨格の問題だけでなく、内臓の不調や神経の圧迫、さらにはストレスなど、非常に多岐にわたる原因によって引き起こされる可能性があります。そのため、「いつもの肩こりかな?」と安易に自己判断せず、痛みの性質や他の症状に注意深く目を向けることが大切です。
この記事では、背中の痛み左側 肩甲骨の下に焦点を当て、考えられるさまざまな原因、注意すべき病気、そして痛みにどう対処すべきか、何科を受診すれば良いのかについて、分かりやすく解説していきます。ご自身の痛みの原因を探り、適切な対応をとるための参考にしてください。
背中の痛み左側 肩甲骨の下の主な原因
背中の左側、特に肩甲骨の下あたりに痛みを感じる場合、その原因は一つではありません。体の表面に近い筋肉や骨格の問題からくるものもあれば、体の深部にある内臓の病気が原因で痛みが放散しているケースもあります。また、神経に関わる問題や、心理的な要因が影響していることも考えられます。ここでは、これらの主な原因について詳しく見ていきましょう。
筋肉や骨格の問題
背中の痛みで最も一般的な原因の一つが、筋肉や骨格に関わる問題です。長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、重い荷物を運ぶ、運動不足、あるいは急な無理な動きなど、日常生活におけるさまざまな要因が影響します。左側の肩甲骨の下周辺には、菱形筋、広背筋、僧帽筋下部などの筋肉があり、これらの筋肉や周囲の骨格に問題が生じると、痛みを引き起こしやすくなります。
筋肉疲労や筋筋膜性疼痛症候群
筋肉疲労は、同じ姿勢を続けたり、特定の筋肉に繰り返し負担をかけたりすることで起こります。肩甲骨周辺の筋肉が疲労すると、硬くなったり、小さな損傷が生じたりして痛みを感じます。特に左側に負担がかかるような動作や姿勢が多いと、左側の痛みが顕著になります。
筋筋膜性疼痛症候群は、筋肉やそれを覆う筋膜にできた「トリガーポイント」と呼ばれる過敏な部位が痛みを引き起こす病気です。トリガーポイントは、押すと強い痛みを感じたり、その部位から離れた場所に痛みが放散したりすることが特徴です。左側の肩甲骨の下あたりの筋肉にトリガーポイントができると、押すと痛みが強くなる、特定の動作で痛むといった症状が現れます。デスクワークやスマートフォンの長時間使用、運動不足、ストレスなどが発症に関わると考えられています。
姿勢の歪みや不良姿勢
日頃の姿勢は、背中の痛みに大きく影響します。猫背や前かがみの姿勢、左右どちらかに偏った姿勢(例えば、いつも同じ肩にカバンをかける、脚を組むなど)を続けていると、体のバランスが崩れ、特定の筋肉や関節に過剰な負担がかかります。特に、左側の肩甲骨が本来の位置からずれていたり、周囲の筋肉が常に緊張していたりすると、慢性の痛みにつながります。
不良姿勢は、背骨の自然なS字カーブを崩し、椎間板や関節にも負担をかけます。これにより、痛みが引き起こされたり、既存の痛みが悪化したりする可能性があります。デスクワークが多い方は、椅子の高さや画面の位置、キーボードの配置などが適切でない場合、無意識のうちに無理な姿勢をとっていることがあります。
急な動きや寝違えによる筋違い
スポーツでの急なひねり動作や、日常生活で重い物を持ち上げようとした際に体を不自然にひねる、あるいは転倒しそうになって体を支えるなど、急な動きによって筋肉が損傷することがあります。「筋違い」と呼ばれる状態で、筋肉の繊維が部分的に断裂したり、過度に引き伸ばされたりすることで強い痛みが起こります。
寝違えも、首や肩、背中の筋肉が不自然な姿勢で長時間圧迫されたり、急に動かしたりすることで起こる筋違いの一種です。特に、体の左側を下にして寝たり、枕の高さが合わなかったりすると、左側の肩甲骨周辺の筋肉や靭帯に負担がかかり、起床時に強い痛みが現れることがあります。痛めた直後は安静が必要ですが、痛みが和らいできたら徐々に動かすことが回復を早めることもあります。
肋骨や背骨などの骨格の問題
肋骨や胸椎(背骨の胸の部分)に問題がある場合も、左側の背中の痛みとして現れることがあります。例えば、肋骨と胸椎をつなぐ関節(肋椎関節)や、肋骨と胸骨をつなぐ関節(肋軟骨炎)の炎症や歪みによって痛みが生じることがあります。これらの痛みは、深呼吸をしたり、咳やくしゃみをしたり、体をひねったりする際に悪化することが多いのが特徴です。
また、加齢や骨粗しょう症などが原因で胸椎の圧迫骨折が生じている場合も、背中の痛みの原因となります。圧迫骨折は強い痛みをもたらしますが、軽度の場合や徐々に進行する場合は、慢性の痛みとして感じられることもあります。脊椎の変形(変形性脊椎症)や側弯症なども、周囲の筋肉や神経に影響を与え、痛みを引き起こす可能性があります。
内臓の病気との関連性
背中の痛み、特に左側の肩甲骨の下あたりに痛みを感じる場合、それは体の深部にある内臓の病気から放散している「放散痛」である可能性も考えられます。放散痛(Irradiating pain)とは、体のある部分で発生した痛みが、その周辺や離れた箇所にまで広がって感じられる不快な感覚のことです[^1]。病気の原因部位とまったくかけ離れた部位に現れる痛みのことで、例えば、内臓疾患によって腰痛や肩の痛みが出たり、心筋梗塞など心臓の病気により、肩や背中、歯などに痛みが現れることがあります[^2]。内臓の異常信号が脊髄を通じて脳に伝えられる際に、同じ脊髄レベルから出ている体表面の神経の痛みと混同されて起こると考えられています。左側の肩甲骨の下あたりに放散痛を引き起こす可能性のある内臓はいくつかあります。これらの病気は緊急性が高い場合もあるため、痛みの性質や他の随伴症状に十分注意が必要です。
心臓の病気(狭心症・心筋梗塞など)
心臓の病気、特に狭心症や心筋梗塞は、典型的な症状として胸の痛みや圧迫感が知られていますが、それ以外にもさまざまな部位に痛みが放散することがあります。左肩や左腕への放散痛は比較的よく知られていますが、左側の背中、特に肩甲骨の下あたりに痛みを感じることも少なくありません。これは、心臓からの痛みの信号が、左側の肩甲骨周辺や腕に向かう神経の信号と同じ脊髄レベルを通るために起こります。
心臓病による背中の痛みは、以下のような特徴を持つことが多いです。
- 痛みの性質: 締め付けられるような、重苦しい、圧迫感のある痛み。ズキズキ、キリキリといった鋭い痛みのこともあります。
- 痛みの誘発: 運動、労作、精神的ストレス、寒さなどによって誘発され、安静にすると数分~数十分で改善することが多い(狭心症)。
- 痛みの持続: 痛みが30分以上持続し、安静にしても改善しない場合は心筋梗塞の可能性があり、緊急性が高いです。
- 随伴症状: 息切れ、呼吸困難、冷や汗、吐き気、めまい、顔色不良などを伴うことがあります。
特に、今まで経験したことのない強い痛みや、安静にしても痛みが引かない場合、上記のような随伴症状を伴う場合は、心筋梗塞などの緊急性の高い状態が疑われるため、迷わず救急車を呼ぶか、速やかに医療機関を受診してください。女性や高齢者、糖尿病患者などでは、典型的な胸痛がなく、背中の痛みや吐き気などの非典型的な症状のみが現れることもあるため注意が必要です。
膵臓の病気(膵炎・膵臓がんなど)
膵臓は胃の後ろ、体のほぼ中央に位置していますが、炎症や腫瘍など膵臓に問題が生じると、背中、特に左側や体の中心寄りの背中に強い痛みが放散することがあります。
- 急性膵炎: 膵臓の炎症が急激に起こる病気です。主な原因はアルコールの大量摂取や胆石ですが、原因不明の場合もあります。みぞおちから左上腹部にかけての激しい痛みが特徴ですが、この痛みが背中(特に左側や中心寄り)に突き抜けるように広がる「放散痛」を高頻度で伴います。痛みは前かがみになると和らぎ、仰向けになると強くなる傾向があります。吐き気、嘔吐、発熱、黄疸などを伴うこともあります。急性膵炎は重症化すると命に関わるため、強い腹痛や背中の痛みがある場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
- 慢性膵炎: 膵臓の炎症が持続する病気で、徐々に膵臓の機能が低下していきます。原因の多くはアルコールの長期間にわたる摂取です。慢性的な腹痛や背中の痛み(特に左側)が特徴で、食後に痛みが強くなる傾向があります。脂肪便や体重減少、糖尿病などを伴うこともあります。
- 膵臓がん: 膵臓がんは早期発見が難しく、進行してから症状が現れることが多いがんです。進行すると、腹痛や背中の痛み(特に左側や中心寄り)が現れることがあります。食欲不振、体重減少、黄疸、だるさなどの症状が続く場合、膵臓がんを含めた重篤な病気の可能性も考慮し、医療機関を受診することが重要です。
胃や十二指腸の病気(胃潰瘍・十二指腸潰瘍など)
胃や十二指腸の潰瘍は、粘膜が傷ついてえぐれてしまう病気です。主な原因はピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用です。通常はみぞおちの痛みとして感じられますが、潰瘍が進行して深くなったり、あるいは膵臓などに接する後壁にできたりした場合、背中、特に左側や体の中心寄りの背中に痛みが放散することがあります。
- 痛みの特徴: 胃潰瘍では食後数時間で痛みが生じやすく、十二指腸潰瘍では空腹時に痛みが強くなる傾向があります。痛みは鈍痛であることが多いですが、穿孔(潰瘍が壁を突き破ること)を起こすと激しい腹痛や背中の痛みが起こり、緊急手術が必要となります。
- 随伴症状: 胸やけ、吐き気、膨満感、食欲不振などを伴うことがあります。進行した潰瘍からの出血で、タール便(真っ黒な便)や吐血が見られることもあります。
これらの症状に加えて左側の背中に痛みがある場合、消化器系の病気が疑われます。
腎臓や尿管の病気
腎臓は背中の腰よりやや上のあたり、背骨の両脇に位置しています。尿管は腎臓から膀胱へ尿を運ぶ管です。これらの臓器に病気があると、背中の左側や側腹部に痛みが現れることがあります。
- 腎盂腎炎: 腎臓に細菌が感染して炎症が起こる病気です。原因菌は尿道から膀胱を経て腎臓へ遡ることが多いです。片側または両側の腰や背中(病気がある側、左側)に鈍痛や叩くと響くような痛みが生じます。高い発熱、悪寒、全身のだるさ、排尿時の痛み、頻尿などの症状を伴います。
- 尿管結石: 腎臓や尿管にできた石が尿管を塞いだり刺激したりすることで激しい痛みが生じる病気です。石が詰まった側の脇腹から背中(左側)にかけて、七転八倒するような非常に強い痛みが突然起こる「疝痛発作」が特徴です。痛みの波があり、数分から数時間続くことがあります。吐き気、嘔吐、血尿などを伴うこともあります。
これらの病気による痛みは、腰や背中の中でも比較的下のほうに感じられることが多いですが、場合によっては肩甲骨の下あたりに放散して感じられる可能性もゼロではありません。特に発熱や排尿に関連する症状を伴う場合は、これらの病気を疑う必要があります。
肺や気管支の病気
肺は胸郭の中に収まっており、背中側にも広がっています。肺やその周囲の組織(胸膜など)に病気があると、呼吸や咳に伴って背中に痛みが生じることがあります。
- 肺炎・胸膜炎: 肺や胸膜の炎症です。特に胸膜に炎症が及ぶと、深呼吸や咳をする際に胸や背中(炎症がある側、左側)に鋭い痛みが走ることがあります。痛みの場所は炎症が起こっている部位に近いことが多く、左側の肺や胸膜の下部に炎症がある場合、左側の肩甲骨の下あたりに痛みとして感じられる可能性があります。咳、痰、発熱、息切れ、全身のだるさなどを伴います。
- 気胸: 肺から空気が漏れ出し、胸腔内に溜まって肺がしぼんでしまう状態です。突然の胸痛や背中の痛み(左側)と、息切れ、呼吸困難が主な症状です。痛みは深呼吸で強くなる傾向があります。特に若くて痩せた男性や、喫煙者に起こりやすいとされています。
これらの病気による背中の痛みは、呼吸との関連性が特徴的です。息を吸ったり吐いたりする際に痛みが強くなる場合や、咳を伴う場合は、肺や気管支の病気を疑う必要があります。
神経の圧迫や炎症
背中の痛みは、神経自体に問題が生じることでも起こります。特に、背骨から枝分かれして体の各部位に伸びる神経が圧迫されたり、炎症を起こしたりすると、その神経の走行に沿って痛みが生じます。
肋間神経痛
肋間神経痛は、肋骨に沿って走る肋間神経が炎症を起こしたり、圧迫されたりすることで生じる痛みです。左右どちらか一方(左側)の肋骨に沿って、ピリピリ、チクチク、ズキズキといった痛みが特徴です。痛みの強さには波があり、突然激痛が走ることもあれば、鈍い痛みが続くこともあります。咳、くしゃみ、深呼吸、体のひねりなどで痛みが強くなる傾向があります。
肋間神経痛の原因は多岐にわたります。
- 帯状疱疹: ウイルス感染による肋間神経の炎症が原因で起こる場合が最も多いです。発疹が現れる数日前から、片側(左側)の背中や肋骨に沿ってピリピリ、チクチクした痛みが現れることがあります。その後、痛む部位に一致して赤い発疹や水ぶくれが現れます。
- 骨格の問題: 肋骨骨折や肋間関節の歪み、変形性脊椎症など、骨や関節の変形や異常が神経を圧迫して痛みを引き起こすことがあります。
- その他: 腫瘍(肺がん、胸膜腫瘍など)が神経を圧迫したり浸潤したりして肋間神経痛を引き起こすこともあります。また、原因が特定できない特発性の肋間神経痛もあります。
左側の肩甲骨の下あたりに肋間神経痛が生じる場合、その部位を通る肋間神経の走行と一致した痛み方(線状や帯状の痛み)をすることが特徴です。
脊椎疾患(椎間板ヘルニアなど)
背骨(脊椎)の問題も、背中の痛みの原因として重要です。特に、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などにより、脊髄から枝分かれして体に向かう神経の根元(神経根)が圧迫されると、その神経が支配する領域に痛みやしびれが生じます。
左側の肩甲骨の下あたりに痛みが放散する場合、頸椎(首の骨)や胸椎(胸の骨)の下部の椎間板ヘルニアや変形などが原因で、その高さから出る神経根が圧迫されている可能性が考えられます。
- 症状: 背中や肩甲骨の下あたりに加え、首や肩、腕、指先にかけての痛みやしびれ、感覚の異常、筋力低下などを伴うことがあります。特定の首や体の動きで症状が悪化することが多いです。
姿勢の悪さ、加齢による変性、喫煙などが椎間板ヘルニアのリスクを高めると考えられています。
その他の原因
上記以外にも、左側の背中の痛みを引き起こす可能性のある原因はいくつかあります。
ストレスや心因性疼痛
精神的なストレスや不安、うつ病などが、体の痛みを引き起こしたり、痛みを悪化させたりすることがあります。「心因性疼痛」と呼ばれ、検査をしても痛みの原因となる明らかな身体的な異常が見つからない場合などに疑われます。
ストレスは筋肉の緊張を招き、肩こりや背中の凝り、痛みを引き起こします。また、痛みに過敏になったり、痛みを強く感じやすくなったりすることもあります。特に、心身の疲労が蓄積している場合に、左側の背中の痛みとして現れることがあります。痛みの感じ方は人によって異なり、鈍痛、ズキズキした痛みなどさまざまです。休息やリラクゼーションによって症状が軽減することがあります。
帯状疱疹
前述の肋間神経痛の原因としても挙げましたが、帯状疱疹はウイルス感染により神経が炎症を起こし、強い痛みと発疹を伴う病気です。発疹が現れる数日前から、体の片側(左側)の背中や肋骨に沿って、ピリピリ、チクチク、焼けるような痛みが始まることが特徴です。この痛みが、左側の肩甲骨の下あたりに感じられることもあります。痛みの数日後に、痛む部位に沿って帯状に赤い発疹や水ぶくれが現れます。早期に抗ウイルス薬を服用することで、痛みや合併症(帯状疱疹後神経痛など)を軽減できます。発疹に気づく前に背中の痛みだけがある段階では、原因が分かりにくいため注意が必要です。
更年期障害
女性の場合、更年期(閉経を挟んだ前後約10年間)にはホルモンバランスが大きく変化し、自律神経の乱れが生じやすくなります。自律神経の乱れは、血行不良や筋肉の緊張を招き、肩こりや腰痛、背中の痛みなど、さまざまな体の不調を引き起こす原因となります。左側の背中の痛みも、更年期障害の症状の一つとして現れる可能性があります。ホットフラッシュ、冷え、だるさ、気分の落ち込みなど、他の更年期症状を伴うことが多いです。
危険な背中の痛みのサインと注意すべき病気
背中の痛み、特に左側の肩甲骨の下あたりの痛みは、筋肉疲労のような比較的軽い原因であることも多いですが、中には生命に関わるような重篤な病気が隠されていることもあります。単なる肩こりや筋肉痛と自己判断せず、痛みの性質や他の症状に注意を払い、危険なサインを見逃さないことが非常に重要です。
すぐに医療機関を受診すべき症状
以下のいずれかに当てはまる場合、あるいはこれらの症状が複数同時に現れる場合は、速やかに医療機関を受診してください。緊急性の高い病気の可能性が考えられます。
- 安静にしていても痛みが強い、あるいは悪化する: 筋肉痛などは安静にすると改善することが多いですが、内臓疾患や神経系の重い病気による痛みは、安静にしても軽減しない、あるいは徐々に強くなる傾向があります。
- ズキズキ、締め付けられるような、あるいは焼けるような強い痛み: 痛みの性質がいつもの筋肉痛や肩こりと明らかに異なる場合、特に心臓や膵臓など内臓からの放散痛の可能性があります。
- 痛みに加えて以下の症状を伴う場合:
- 胸痛や圧迫感: 心臓病(狭心症、心筋梗塞など)を強く疑わせます。
- 息切れ、呼吸困難: 心臓病、肺の病気(肺炎、胸膜炎、気胸など)を疑わせます。
- 高熱、悪寒: 感染症(腎盂腎炎、肺炎、膵炎など)を疑わせます。
- 激しい腹痛: 急性膵炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の穿孔、尿管結石などを疑わせます。
- 吐き気、嘔吐: 急性膵炎、心筋梗塞、胃潰瘍などさまざまな内臓疾患で起こり得ます。
- 冷や汗、顔色不良: 心筋梗塞など、循環器系の緊急事態を示唆する可能性があります。
- 手足のしびれや麻痺、歩行障害: 脊椎疾患による神経の圧迫や、脳・神経系の異常を疑わせます。
- 血尿、排尿時の痛み: 腎臓や尿管の病気を疑わせます。
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる): 膵臓や胆道の病気を疑わせます。
- 原因不明の体重減少: 悪性腫瘍(がん)など、慢性の重い病気を疑わせます。
- 突然始まった激痛: 特に、それまで何もなかったのに突然経験したことのない強い痛みが始まった場合は、緊急性の高い状態(心筋梗塞、急性膵炎、気胸、大動脈解離など)である可能性があります。
緊急性の高い病気の可能性
上記の危険なサインが見られる場合に注意すべき、緊急性の高い病気には以下のようなものがあります。
病気の種類 | 関連が疑われる症状 | 緊急度 |
---|---|---|
心筋梗塞 | 締め付けられるような胸痛、左背中・左腕への放散痛、息切れ、冷や汗、吐き気、顔色不良 | 非常に高い(直ちに救急車を呼ぶべき) |
急性膵炎 | みぞおち〜左上腹部〜背中(左側・中心寄り)への激痛、吐き気、嘔吐、発熱 | 高い(速やかに医療機関を受診すべき) |
大動脈解離 | 引き裂かれるような激しい胸痛〜背部痛(左側または右側)、血圧の左右差、手足の虚血 | 非常に高い(直ちに救急車を呼ぶべき) |
気胸 | 突然の胸痛、左背部痛、息切れ、呼吸困難 | 高い(速やかに医療機関を受診すべき) |
重症感染症 | 高熱、悪寒、全身のだるさ、呼吸器症状(肺炎)、排尿症状(腎盂腎炎)などを伴う背部痛 | 高い(速やかに医療機関を受診すべき) |
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の穿孔 | 突然の激しい腹痛〜背部痛、腹部の硬直 | 非常に高い(直ちに救急車を呼ぶべき) |
これらの病気は診断と治療が遅れると命に関わる可能性があるため、少しでも疑わしい症状がある場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。特に、今まで経験したことのない強い痛みや、時間とともに悪化する痛み、あるいは痛みに加えて全身状態が悪そうな随伴症状がある場合は、ためらわずに救急外来を受診することを強くお勧めします。
背中の痛み左側 肩甲骨の下の対処法
左側の背中、肩甲骨の下あたりの痛みが、危険なサインを伴わない場合や、医療機関を受診して筋肉や骨格の問題が原因であることが分かった場合は、セルフケアや生活習慣の改善によって痛みを和らげたり、再発を予防したりすることができます。ただし、痛みが強い場合や原因が不明な場合は、必ず医療機関を受診して診断を受けてから対処法を試みるようにしてください。
安静と体のケア
痛みが強い時期は、無理に動かさず安静にすることが大切です。特に、急な動きで痛めた「筋違い」などの場合は、無理に動かすと痛みが悪化したり、回復が遅れたりすることがあります。痛む動作や姿勢を避け、楽な姿勢で休息をとりましょう。
ただし、痛みが長引く場合、長期間寝たきりの状態が続くと、筋力が低下したり、関節が硬くなったりして、かえって回復を妨げることがあります。痛みが少し和らいできたら、可能な範囲で日常生活に戻り、軽い運動を取り入れることが推奨されています。完全に安静にするのは痛みが最も強い急性期のみとし、その後は徐々に体を動かすようにしましょう。
温める・冷やすの判断
痛む部位を温めるか冷やすかは、痛みの原因や性質によって判断が異なります。
対処法 | 適しているケース |
---|---|
冷やす | 急性の痛み: ぎっくり背中など、急な動きで痛めた直後や、炎症が強く熱を持っているような場合。痛めた場所を冷やすことで、炎症を抑え、痛みを軽減する効果が期待できます。発熱を伴う痛みの場合も冷やす方が良い場合があります。 |
温める | 慢性の痛み: 長時間続く鈍痛や、筋肉の凝り・張りによる痛み。温めることで血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎ、痛みの物質が排出されやすくなります。入浴や蒸しタオル、使い捨てカイロなどが有効です。 |
判断に迷う場合は、まず冷やしてみて痛みが和らぐか、あるいは温めてみて痛みが和らぐかを確認してみるのも一つの方法です。ただし、痛みが非常に強い場合や、内臓疾患が疑われる場合は、自己判断で温めたり冷やしたりせず、医療機関で相談してください。
効果的なストレッチとマッサージ
筋肉の凝りや張りによる痛みには、ストレッチやマッサージが有効です。ただし、痛みが強い時期や、炎症が疑われる場合は行わないでください。痛みが和らいできた段階で、無理のない範囲で行いましょう。
肩甲骨周辺のストレッチ
肩甲骨周辺の筋肉の柔軟性を高めるストレッチは、凝りや痛みの改善・予防に役立ちます。
- 肩回し: 立った姿勢または座った姿勢で、両肩を前回し、後ろ回しにゆっくりと大きく回します。それぞれ10回程度繰り返します。
- 腕伸ばし: 片方の腕を前に伸ばし、反対側の手でその腕の肘あたりを持ち、胸に引き寄せます。肩甲骨の間が伸びるのを感じながら20秒程度キープします。左右交互に行います。
- タオルストレッチ: タオルの両端を持ち、背中の後ろで縦または横に伸ばします。腕をゆっくりと上下させたり、左右に傾けたりして、肩甲骨周辺の筋肉を伸ばします。
マッサージ
痛む部位を優しくマッサージすることで、筋肉の緊張を和らげ、血行を促進する効果が期待できます。指の腹を使って、痛む部分やその周辺の筋肉を優しく揉んだり、軽く押したりします。ただし、強く押しすぎたり、痛みを我慢して行ったりすると、かえって筋肉を傷めたり、痛みを悪化させたりする可能性があります。プロのマッサージを受ける場合は、症状を正確に伝え、無理のない範囲で行ってもらいましょう。炎症がある場合や、内臓疾患が疑われる場合は、マッサージは避けてください。
姿勢の改善と予防策
背中の痛みを予防するためには、日頃からの姿勢の改善と生活習慣の見直しが非常に重要です。
- 正しい姿勢を意識する:
- 立つとき: 背筋を伸ばし、顎を軽く引き、お腹を引き締めます。
- 座るとき: 椅子に深く座り、背もたれに寄りかかり、足の裏全体を床につけます。膝の角度は90度を目安に。デスクワークの場合は、画面の高さやキーボードの位置を調整し、無理のない姿勢で作業できるように環境を整えましょう。可能であれば、定期的に立ち上がって軽い体操をしたり、姿勢を変えたりしましょう。
- 長時間同じ姿勢を避ける: 長時間同じ姿勢を続けることは、特定の筋肉に負担をかけ、疲労や凝りの原因となります。1時間に一度は休憩をとり、軽くストレッチをしたり、歩き回ったりしましょう。
- 適度な運動を習慣にする: ウォーキング、軽いジョギング、水泳、ヨガ、ピラティスなど、全身をバランスよく使う運動は、筋力を維持・向上させ、体の柔軟性を保つのに役立ちます。特に、体幹を鍛える運動は、背骨を支える筋肉を強化し、正しい姿勢を保ちやすくするため、背中の痛みの予防に効果的です。
- 適切な寝具を選ぶ: 体に合った硬さのマットレスや枕を選ぶことで、寝ている間の背骨のS字カーブを保ち、背中や肩に負担がかかるのを軽減できます。
- ストレスを管理する: ストレスは筋肉の緊張を招き、痛みを悪化させることがあります。趣味や休息、リラクゼーションなどで、日頃からストレスを上手に解消する工夫をしましょう。
これらのセルフケアや予防策は、筋肉や骨格の問題による痛みに有効ですが、内臓疾患など他の原因が疑われる場合は、必ず医療機関の指示に従ってください。
背中の痛み左側 肩甲骨の下 何科を受診すべき?
左側の背中、特に肩甲骨の下あたりの痛みを感じたとき、「何科に行けばいいのだろう?」と迷う方は多いでしょう。痛みの原因によって適切な診療科は異なります。ご自身の痛みの症状や性質、他の随伴症状などを踏まえて、適切な医療機関を選ぶことが重要です。
基本的な受診科(整形外科)
背中の痛みの原因として最も多いのは、筋肉や骨格、関節、神経など、運動器系の問題です。そのため、特に以下のような症状がある場合は、まず整形外科を受診するのが一般的です。
- 姿勢や体の動きに関連して痛む: 特定の動作で痛みが強くなる、あるいは和らぐ。
- 痛む部位を押すと痛みが強くなる: 筋肉の凝りや筋筋膜性疼痛症候群などが疑われます。
- 慢性の痛み: 長時間続く鈍い痛みや凝り。
- 過去に腰痛や首の痛みの経験がある: 脊椎疾患の可能性が考えられます。
- しびれを伴う: 神経の圧迫(椎間板ヘルニアなど)が疑われます。
整形外科では、レントゲンやMRIなどの画像検査、神経学的検査などを行い、骨格や筋肉、神経の状態を詳しく調べ、診断に基づいて治療方針(投薬、リハビリ、装具療法など)を決定します。
内臓疾患が疑われる場合の受診科
前述したように、背中の痛みが内臓の病気のサインである可能性もあります。以下のような症状を伴う場合は、内臓疾患を専門とする科を受診する必要があります。
- 胸痛や息切れを伴う: 循環器内科(心臓病)または呼吸器内科(肺の病気)
- 腹痛、吐き気、嘔吐、黄疸を伴う: 消化器内科(膵臓、胃、十二指腸などの病気)
- 発熱、悪寒、排尿時の痛み、血尿を伴う: 泌尿器科(腎臓や尿管の病気)
これらの症状がある場合は、まずはかかりつけ医や地域の総合内科を受診し、症状を相談するのも良い方法です。総合内科であれば、幅広い視点から診察を行い、必要に応じて適切な専門医を紹介してもらえます。特に緊急性の高い症状(激しい痛み、呼吸困難、冷や汗など)がある場合は、ためらわずに救急外来を受診してください。
その他の専門医
上記以外にも、痛みの原因によっては他の専門医を受診する必要がある場合があります。
- 発疹を伴う、または発疹の前にピリピリした痛みが始まった: 皮膚科(帯状疱疹)
- 検査で身体的な異常が見つからないが痛みが続く、ストレスや不安が大きい: 心療内科または精神科(心因性疼痛、ストレス関連の痛み)
- 女性で更年期症状を伴う: 婦人科(更年期障害に関連する痛み)
ご自身の症状がどの科に当てはまるか判断が難しい場合は、まずはかかりつけ医や地域の医療機関に電話で相談したり、インターネットで情報を調べたりしてから受診する科を決めるのも良いでしょう。複数の原因が考えられる場合や、症状が複合的に現れている場合は、複数の科を受診して連携して治療を進める必要があることもあります。
まとめと背中痛の予防
背中の左側、特に肩甲骨の下あたりの痛みは、多くの人が経験する身近な不調です。その原因は、単なる筋肉の凝りや疲れから、心臓や膵臓、肺などの内臓の病気、神経の圧迫、さらにはストレスや心理的な要因まで、非常に多様です。
筋肉や骨格に由来する痛みであれば、正しい姿勢を心がけたり、適度な運動やストレッチ、マッサージを行ったりすることで、症状の改善や予防が期待できます。しかし、最も重要なのは、痛みに加えて胸痛、息切れ、発熱、腹痛、吐き気などの他の症状を伴う場合や、安静にしても改善しない強い痛みが続く場合は、内臓の病気など重篤な原因が隠されている可能性を疑い、速やかに医療機関を受診することです。特に、心筋梗塞や急性膵炎、大動脈解離、気胸など、命に関わる緊急性の高い病気のサインである可能性もあります。
痛みの原因によって適切な診療科は異なります。筋肉や骨格の問題が疑われる場合は整形外科、内臓疾患が疑われる場合は循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、泌尿器科など、症状に合わせて適切な専門医を受診しましょう。迷う場合は、かかりつけ医や総合内科に相談するのも良い方法です。
背中の痛みを予防するためには、日頃からの心がけが大切です。
- 正しい姿勢を意識し、長時間同じ姿勢を続けない
- 定期的に軽い運動を行い、筋力と柔軟性を保つ
- 体に合った寝具を選ぶ
- ストレスを上手に管理する
これらの対策を日常生活に取り入れることで、背中の痛みのリスクを減らすことができます。
背中の痛みは、「たかが痛み」と軽視せず、体の声に耳を傾けることが大切です。特に、いつもと違う痛み方や、他の気になる症状がある場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診し、正確な診断を受けてください。早期発見・早期治療が、重篤な病気から身を守る最善の方法です。
免責事項: 本記事で提供される情報は一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療の代替となるものではありません。特定の症状がある場合や健康状態に不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指示を受けてください。本記事の情報に基づいて行われた行動によって生じたいかなる結果についても、筆者および公開者は一切の責任を負いません。