大人の発達障害(発達凸凹)は、生まれつきの脳機能の特性によるもので、社会生活や人間関係で困難を感じることがあります。
子供の頃に診断されず、大人になってから自身の特性に気づく方も少なくありません。日々の生活や仕事で「どうして自分だけうまくいかないんだろう?」と感じている場合、それは発達障害の特性によるものかもしれません。
この記事では、大人の発達障害の主な特徴を種類別に詳しく解説します。ご自身の特性を理解するためのチェックリストや、専門機関での診断方法、仕事や人間関係で抱えがちな困りごとへの具体的な対策、そして適切な相談先についてもご紹介します。
「大人の発達障害」という言葉を耳にする機会が増えてきました。これは、幼少期から見られる発達上の特性が、成人期になっても続き、社会生活に適応する上で困難を生じている状態を指します。医学的には「発達障害」は特定の疾患群を指すものであり、「大人の発達障害」は診断名ではありませんが、一般的に成人期に自身の発達特性に気づいた場合を指して使われます。
発達障害は、脳機能の偏りによって、ものの感じ方、考え方、人との関わり方などが多数派(定型発達)とは異なる特性を持って生まれてくるものです。これは病気ではなく、その人が持つ個性や特性の一部と言えます。しかし、社会の多数派に合わせて作られた環境では、その特性が「生きづらさ」として現れることがあります。
なぜ大人になってから気づくのかというと、子ども時代は周囲のサポートや環境調整によって特性による困難が表面化しにくかったり、あるいは単に「個性的な子」として捉えられていたりすることがあります。しかし、進学、就職、結婚といったライフイベントを経て、社会の要求水準が高まったり、人間関係が複雑になったりする中で、自身の特性による困難が顕著になり、初めて発達障害の可能性に気づくケースが多く見られます。
また、発達障害の特性そのものに加え、特性からくる困難が原因で、不安障害、うつ病、適応障害などの「二次障害」を発症し、その治療のために医療機関を受診した際に、背景に発達障害があることが判明することもあります。
大人の発達障害にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特性を持ちます。主なものとして、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などがあります。これらの特性は単独で現れることもありますが、複数併存することも珍しくありません。
自分自身の特性を正しく理解することは、抱えている困難に対処し、より生きやすい方法を見つけるための第一歩となります。
発達障害の種類別 特徴
大人の発達障害にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる特性が現れます。ここでは、代表的なASD、ADHD、SLDの主な特徴について詳しく見ていきましょう。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の主な特徴
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、以前は自閉症、アスペルガー障害、広汎性発達障害などに分類されていましたが、現在は連続した一つの特性として捉えられ、「スペクトラム(連続体)」という言葉が使われています。ASDの主な特徴は、大きく以下の2つの領域に関連する困難です。
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社会的コミュニケーションと対人相互作用における持続的な困難
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非言語コミュニケーションの困難: 相手の表情、声のトーン、ジェスチャーから感情や意図を読み取ることが難しい場合があります。また、自身の非言語的な表現(表情や身振り手振り)が乏しい、あるいは場面にそぐわないことがあります。
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会話の困難: 相手との言葉のやり取り(キャッチボール)が苦手で、一方的に自分の好きな話題について話し続けたり、相手の興味を引かない詳細にこだわりすぎたりすることがあります。また、比喩や皮肉、社交辞令の言葉を文字通りに受け取ってしまう傾向があります。
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対人関係の困難: 人との適切な距離感が掴みにくく、親しすぎる態度をとったり、逆に過度に遠慮したりすることがあります。集団行動が苦手で孤立しやすかったり、特定の相手とのみ深く関わったりすることがあります。場の空気を読むことが難しく、不適切な発言をしてしまうこともあります。暗黙のルールや常識的な行動が理解しにくい場合があります。
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限定された反復的な様式の行動、興味、活動
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常同的・反復的な行動や興味: 特定の物事や活動に強いこだわりや興味を持ち、それ以外のことに注意が向きにくいことがあります。特定の情報を集めたり、同じ行動を繰り返したりすることに安心感を覚えることがあります。
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変化への強い抵抗: 普段のルーティンや予定の変更に対して強い不安を感じたり、混乱したりすることがあります。新しい環境や未知の状況に適応することが難しい場合があります。
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感覚過敏あるいは鈍麻: 特定の感覚刺激(音、光、匂い、触覚、味覚など)に過度に敏感であったり、逆に鈍感であったりします。例えば、特定の音が耐え難く苦痛だったり、洋服のタグが気になる一方で、暑さや寒さを感じにくかったりすることがあります。痛みにも鈍感なことがあります。
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特定の対象への強い固執: 特定のテーマや物事に異常なほど強い興味を示し、それに関する知識を徹底的に集めることがあります。その興味の対象について、場所や状況をわきまえず話し続けることがあります。
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これらの特徴の現れ方や程度は、人によって大きく異なります。ASDの特性は、社会生活を送る上で困難となる一方で、特定の分野への深い集中力やユニークな視点といった強みにつながることもあります。
ADHD(注意欠如・多動症)の主な特徴
注意欠如・多動症(ADHD)は、主に「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特性が幼少期から見られ、日常生活や社会生活に困難を引き起こす発達障害です。大人になると、多動性が目立ちにくくなる一方で、不注意や衝動性による困難がより顕著になる傾向があります。
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不注意
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集中力の維持困難: 興味のないことや単調な作業に集中し続けることが難しい。気が散りやすく、すぐに他のことに注意が移ってしまう。
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細かいミスの多さ: 仕事や勉強で、ケアレスミスやうっかりミスが多い。書類の誤字脱字、計算間違いなど。
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忘れ物や紛失: 必要な持ち物や書類を頻繁に忘れたり、なくしたりする。締切や約束を忘れることがある。
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整理整頓が苦手: 部屋やデスク周りが片付けられない。必要なものをすぐに見つけられない。
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指示を最後まで聞き取れない、理解できない: 長い説明や複数の指示を一度に聞くと混乱する。話を聞いているように見えて、内容が頭に入っていないことがある。
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計画性がない: 物事を順序立てて考えたり、計画通りに進めたりするのが苦手。行き当たりばったりになりやすい。
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時間管理が苦手: 実際の時間よりも感覚がずれてしまい、締切に間に合わない、待ち合わせに遅れることが多い。
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多動性
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落ち着きのなさ: じっとしているのが苦手で、ソワソワしたり、貧乏ゆすりをしたりする。会議中や授業中に席を離れたくなる。
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過度な活動: 常に何かをしていないと落ち着かない。せわしなく動き回る。
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大人になると、物理的な多動性よりも、心の中の多動性(考えが次々と浮かんでくる、頭の中が混乱する)として現れることが多い。
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衝動性
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待つのが苦手: 自分の順番が待てない。会話中に人の話を遮って話し始めてしまう。
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後先考えずに行動: 思いついたことをすぐに行動に移してしまう。衝動買い、衝動的な転職、危険な行動など。
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感情のコントロール困難: 些細なことでカッとなったり、強い感情を表に出したりしやすい。怒りや不満を抑えるのが難しい。
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早合点: 相手の話や状況を最後まで聞かずに、先走って判断したり行動したりする。
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ADHDの特性も、人によって現れ方や組み合わせが異なります。不注意が中心のタイプ、多動性・衝動性が中心のタイプ、混合タイプなどがあります。これらの特性は、学業や仕事、人間関係、日常生活など様々な場面で困難を引き起こす可能性があります。一方で、衝動性は思い切った行動力や決断力につながったり、多動性はフットワークの軽さにつながったりするなど、状況によっては強みにもなり得ます。
SLD(限局性学習症)の主な特徴
限局性学習症(SLD)は、知的発達に遅れがないにも関わらず、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習能力のうち、いずれかまたは複数に著しい困難がある発達障害です。以前は学習障害(LD)と呼ばれていましたが、特定の能力に「限局された」困難であることから、現在はSLDという診断名が使われます。大人になってから気づくSLDの特性は、仕事や日常生活における読み書きや計算が必要な場面で困難として現れます。
SLDは主に以下の3つのタイプに分けられます。
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読字障害(ディスレクシア)
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文字や文章を読むことが苦手: 文字を一つずつ追うのが大変、読むのに時間がかかる、読み飛ばしや読み間違いが多い。文章全体の意味を把握するのが難しい。
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音読がスムーズにできない: どもったり、間違えたりしながら読む。
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書字表出障害(ディスグラフィア)
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文字を書くことが苦手: 文字の形を覚えられない、文字のバランスが悪く読みにくい、鏡文字を書く、漢字の書き間違いが多い。
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文章を書くことが苦手: 自分の考えを文章にまとめるのが難しい、てにをはなどの助詞の使い方が不自然、句読点が適切に使えない。
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算数障害(ディスカリキュリア)
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数の概念や計算が苦手: 数字の大小が分かりにくい、繰り上がり・繰り下がりの計算が難しい、九九を覚えられない、暗算ができない。
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図形や空間認識が苦手: 立体的なイメージが掴みにくい、図形問題が理解できない。
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推論や応用問題が苦手: 計算問題の文章の意味を理解して式を立てるのが難しい。
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大人になってからSLDに気づくケースでは、学生時代に読み書きや計算で苦労したが、努力や周囲のサポートでなんとか乗り越えてきた、という方が多いです。しかし、仕事で書類を作成したり、レポートを書いたり、経費計算をしたり、家計管理をしたりといった場面で、他の人よりも時間がかかったり、ミスが多くなったりすることで、自身の特性に気づくことがあります。
SLDの困難は、本人の努力不足や怠慢ではなく、脳機能の特性によるものです。この特性があることで、自己肯定感が低下したり、学習や仕事への苦手意識が強まったり、不安を感じやすくなったりするといった二次的な影響が出ることがあります。SLDの特性を理解し、読み書きや計算をサポートするツール(読み上げソフト、音声入力、計算機など)を活用したり、代替手段(口頭で伝える、図や絵で示すなど)を使ったりすることが有効な対策となります。
発達障害の女性・男性に見られる特徴の傾向
発達障害の特性は、男女間で現れ方に違いが見られる傾向があります。特に女性の場合、幼少期や思春期に診断されないまま大人になりやすいと言われています。これは、いくつかの要因が考えられます。
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社会化の違い: 一般的に、女性は男性よりもコミュニケーションや対人関係において、相手に合わせたり、場の空気を読んだりするよう求められる傾向が強いかもしれません。このため、ASDやADHDの特性を持つ女性の中には、周囲に合わせて振る舞うことで特性を隠そうとする「カモフラージュ」や「擬態」を身につける人がいます。このカモフラージュは、表面的には社会に適応しているように見えますが、本人は相当なエネルギーを消耗しており、強い疲労感やストレスを抱えていることがあります。
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特性の現れ方の違い: ADHDの場合、男性は多動性や衝動性が目立ちやすい傾向があるのに対し、女性は不注意優勢型が多いと言われています。落ち着きがないよりも、忘れ物が多い、集中力が続かない、整理整頓が苦手といった形で特性が現れるため、周囲に気づかれにくいことがあります。ASDの場合も、男性は特定の物事への強いこだわりが趣味や収集として分かりやすい形で現れることが多い一方で、女性は対人関係における困難が目立ちにくい、あるいは不安や引きこもりといった形で現れることがあると言われています。
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診断基準の限界: 現在の診断基準は、主に男性の特性に基づいて作られたという指摘もあります。そのため、女性特有の特性の現れ方が診断基準に合致しにくく、見逃されやすい可能性があるという議論があります。
これらの要因により、女性は男性に比べて診断が遅れたり、診断されないまま生きづらさを抱えたりするケースが多いと考えられています。診断されないまま長期間困難を抱えることで、自己肯定感が低下し、うつ病や摂食障害、不安障害などの二次障害につながるリスクも高まります。
もちろん、これらの傾向はあくまで統計的なものであり、すべての男性、すべての女性に当てはまるわけではありません。個々の特性の現れ方には大きな個人差があります。しかし、「女性だから見逃されやすい特性があるかもしれない」という視点を持つことは、適切な理解や支援につながる上で重要です。
発達障害グレーゾーンの主な特徴
「発達障害グレーゾーン」とは、医学的な診断基準を満たすほどの明確な発達障害ではないものの、発達障害の特性の一部を持ち、日常生活や社会生活で何らかの困難や生きづらさを感じている状態を指す俗称です。正式な診断名ではありませんが、このような状態に悩む方は少なくありません。
グレーゾーンの方に見られる特徴は、診断を受ける発達障害の方と類似していますが、その程度が軽度であったり、特定の状況下でのみ困難が現れたりするなど、目立ちにくいことが多いです。
例えば、ASDのグレーゾーンの方であれば、
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集団の中では比較的うまくやれるが、特定の親しい友人との関係で距離感が掴みにくいと感じる
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場の空気を漠然とは感じるが、具体的にどう振る舞えば良いか分からず戸惑うことがある
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特定の物事へのこだわりがあるが、日常生活に大きな支障をきたすほどではない
ADHDのグレーゾーンの方であれば、
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集中力にムラがあり、好きなことには集中できるが、苦手なことには全く集中できない
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うっかりミスが多いが、再確認すれば防げる程度である
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衝動的に発言することがあるが、後で反省して人間関係の大きなトラブルには発展しない
といった形で特性が現れることがあります。
グレーゾーンの方の困りごとは、「診断がつかない」ことによる難しさもあります。診断名がないため、周囲からの理解や公的な支援を受けにくい場合があります。また、自身の特性に気づいていないことも多く、「努力が足りない」「根性がない」などと自分を責めてしまいがちです。
しかし、診断の有無にかかわらず、特性による困難や生きづらさを感じているのであれば、それはその人にとって重要な問題です。グレーゾーンの方も、自身の特性を理解し、困りごとへの具体的な対処法を身につけたり、周囲に適切にサポートを求めたりすることで、生きやすさを向上させることが可能です。
グレーゾーンであるからといって、困難がないわけではありません。むしろ、「診断がつくほどではない」という状況が、かえって本人の苦悩を深めることもあります。特性による困難を感じている場合は、診断の有無に関わらず、専門機関に相談してみることを検討する価値は十分にあります。
発達障害の診断・チェック
自分が発達障害かもしれないと感じた場合、どのように確認し、どこで診断を受ければ良いのでしょうか。ここでは、自分でできるチェックや、専門機関での診断方法についてご紹介します。
大人の発達障害チェックリスト
発達障害の診断は専門医が行うものですが、自身が発達障害の特性を持っているかどうかの「目安」を知るために、セルフチェックリストを活用することができます。これらのチェックリストは、医学的な診断に代わるものではありませんが、自身の特性について客観的に振り返るきっかけとなります。
代表的なチェックリストには、以下のようなものがあります。
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AQ(Autism Spectrum Quotient: 自閉症スペクトラム指数): ASDの特性の程度を測るための質問票。
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EQ(Empathy Quotient: 共感指数): 共感能力の程度を測る質問票。ASD特性のある人は低い傾向があるとされます。
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ADHD-RS(ADHD Rating Scale: ADHD評価尺度): ADHDの不注意・多動性・衝動性の程度を測る質問票。
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ASRS(Adult ADHD Self-Report Scale: 成人ADHD自己報告尺度): 成人のADHD特性に特化した自己報告式質問票。
これらのチェックリストは、オンライン上で公開されているものや、関連書籍に掲載されているものがあります。例えば、ADHDのASRS v1.1 自己記入式評価尺度では、以下のような質問項目が含まれます。
質問項目 | 頻度(例: 全くなし/めったにない、たまに、しばしば、非常にしばしば) |
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骨の折れる、あるいは時間のかかる課題を行う際に、詳細に注意を払わない、あるいはうっかりミスをする | |
課題または活動(例: 会議中、会話中)中に、注意を持続することが困難である | |
直接話しかけられている時に、人の話を聞いていないように見える | |
指示に従えず、やり遂げられない(学業、課題、職場での義務)。反抗するためや指示を理解できないためではなく。 | |
課題や活動を整理することが困難である | |
課題(例: 学校の課題、書類仕事、形式的な手続き、複雑な長文)を行う際に、持続的な精神的努力を要するものを避ける、嫌う、あるいは渋々行う | |
課題や活動に必要な物(例: おもちゃ、学校の課題、鉛筆、本や道具)をなくしやすい | |
外からの刺激によって容易に注意をそらされる | |
日々の活動(例: 約束を忘れる、書類や物を置いた場所を忘れる、電話をかけ直すのを忘れる、請求書の支払いを忘れる)を忘れっぽい | |
手や足をそわそわと動かしたり、椅子に座っている時に身体をくねらせたりする | |
席に座っていることが求められている時に、席を離れる | |
不安、あるいは落ち着きがないと感じる | |
静かに、落ち着いて活動することや趣味を持つことが困難である | |
「その場を立ち去るように」あるいは「何かに駆り立てられているように」感じることが多い | |
過度にしゃべる | |
質問が終わる前に、出し抜けに答えてしまうことが多い | |
順番を待つことが困難である | |
人の邪魔をしたり、会話やゲームに勝手に口を出したりする(例: 人の会話やゲームに無理やり入る) |
(※上記はASRS v1.1の質問項目の一部を意訳したものです。正確な質問項目と採点方法は専門機関や公式情報をご確認ください。)
これらのチェックリストは、あくまで自己評価であり、診断ではありません。高いスコアが出たとしても、直ちに発達障害と判断できるわけではありません。しかし、「特定の項目に強く当てはまる」と感じることが多い場合は、専門機関への相談を検討する重要な手がかりとなります。チェックリストの結果だけで自己判断せず、専門家の意見を求めることが非常に重要です。
自分でできる診断テスト(目安)
前述のチェックリストと同様に、インターネット上には様々な「発達障害診断テスト」が存在します。これらのテストの多くは、自己記入式の質問票に回答することで、ASDやADHDなどの特性傾向を数値化したり、タイプを判定したりするものです。
自分でできる診断テストは、手軽に試せるというメリットがありますが、その結果はあくまで目安として捉える必要があります。多くのオンラインテストは、簡易的なスクリーニングを目的としたものであり、医学的な根拠が乏しいものや、科学的な妥当性が検証されていないものも含まれています。
自分でできる診断テストの結果だけで、
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「私は発達障害だ」と自己判断してしまう
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「診断テストで異常なしだったから、特性はない」と決めつけてしまう
といった判断は、誤解や適切な対応の遅れにつながる可能性があります。テストの結果に一喜一憂せず、「自分にはこういう傾向があるかもしれない」という一つの情報として受け止めることが大切です。
もし、テストの結果を見て、自身の特性や生きづらさについてより深く知りたい、あるいは困りごとへの具体的な対策を考えたいと思った場合は、必ず専門機関に相談するようにしましょう。インターネット上の情報や簡易テストの結果だけで、ご自身の状態を断定することは避けてください。
専門機関での診断方法・流れ
大人の発達障害の診断は、精神科や心療内科などの専門医療機関で、医師によって行われます。診断には、問診や生育歴の確認、各種検査などを組み合わせて、総合的に判断されます。診断を受けることの目的は、診断名を得ること自体よりも、自身の特性を医学的な視点から理解し、適切な支援や治療に繋げることにあります。
専門機関での診断は、一般的に以下のような流れで進みます。
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予約と初診: 発達障害の診療に対応している精神科や心療内科を探して予約します。初診時には、現在の困りごと、症状が現れ始めた時期、これまでの生活歴(学歴、職歴、人間関係、家庭環境など)について詳しく聞かれます。可能であれば、幼少期の様子が分かる情報(母子手帳、通知表、保育園や学校の記録など)や、家族からの情報(可能であれば同席してもらうか、事前に情報をまとめておく)があると、診断の参考になります。
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生育歴の確認: 幼少期から現在に至るまでの発達の過程について、詳細に聞き取りが行われます。いつ頃からどのような特性が見られたか、どのようなことに困っていたかなどを遡って確認します。
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心理検査: 発達障害の特性を客観的に評価するために、様々な心理検査が行われることがあります。
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知能検査: ウェクスラー成人知能検査(WAIS-IVなど)などが用いられます。全体的な知的能力だけでなく、言語理解、視覚空間、流動性推理、ワーキングメモリ、処理速度といった下位検査のバランスを見ることで、認知特性の偏りを把握するのに役立ちます。
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特性評価尺度: 前述のAQ、ASRSなどの質問票を、より正式な形で実施することがあります。
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その他の検査: 必要に応じて、ロールシャッハテストやTATなどの投影法検査、自記式質問紙(MMPIなど)などが実施され、性格傾向や精神的な状態を評価することがあります。
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医師による診断: 問診、生育歴、心理検査の結果、現在の症状などを総合的に判断して、医師が診断を行います。診断基準としては、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)などが用いられます。診断名(ASD、ADHDなど)だけでなく、どのような特性がどの程度あり、どのような困難を抱えているのかについて説明を受けます。
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今後の治療・支援の検討: 診断結果に基づき、今後の治療方針(薬物療法、精神療法など)や、利用できる支援(就労支援、相談窓口など)について医師と話し合います。
診断プロセスは医療機関によって多少異なりますし、複数回の診察や検査が必要となる場合もあります。診断には時間と費用がかかることがありますが、自身の特性を正確に理解し、適切な支援に繋げるためには非常に有益なプロセスと言えます。
診断を受けるかどうかは個人の自由ですが、もし特性による困難で日常生活や社会生活に支障が出ているのであれば、専門家のアドバイスを受けることで、状況が改善する可能性があります。診断名がつくことで、ショックを受ける方もいますが、同時に「自分の困難は努力不足ではなかったのだ」と安堵し、自己理解を深めるきっかけとなる方も多くいます。
発達障害に伴う困りごとと対策
大人の発達障害の特性は、様々な場面で困りごとを引き起こす可能性があります。しかし、自身の特性を理解し、適切な対策や工夫を取り入れることで、困難を軽減し、よりスムーズに生活できるようになります。ここでは、仕事、人間関係、日常生活、そして軽度の発達障害の場合に見られる困りごとと、それに対する具体的な対策についてご紹介します。
仕事での困りごとと対策
ADHDやASDの特性は、仕事の場面で様々な困難を引き起こすことがあります。しかし、特性に合わせた工夫や、周囲の理解・協力があれば、能力を発揮しやすくなります。
困りごとの例 | 考えられる特性(例) | 具体的な対策・工夫 |
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指示の理解が難しい、聞き間違い・勘違いが多い | 不注意、ワーキングメモリの限界、非言語コミュニケーションの解釈困難 | 口頭指示だけでなく、メールやメモで指示内容を文書化してもらう。指示を復唱して確認する。指示を具体的な行動リストに分解してもらう。 |
期日管理が苦手、締切に間に合わない | 不注意、時間管理の困難、計画性のなさ | ToDoリストを作成し、完了したらチェックをつける。タスク管理アプリやカレンダー、タイマーを活用し、締切日や作業時間を視覚化する。大きなタスクを細分化し、小さな締切を設定する。 |
マルチタスクが苦手、優先順位がつけられない | ワーキングメモリの限界、計画性のなさ | 一度に一つのタスクに集中するよう心がける。タスクの優先順位を明確にし、優先順位の高いものから取り組む。複数のタスクがある場合は、上司や同僚に相談し、優先順位を確認する。 |
報連相(報告・連絡・相談)が苦手 | コミュニケーションの困難、衝動性、計画性のなさ | 報告・連絡のタイミングや形式を定型化する(例: 毎朝メールで今日の予定を報告する)。相談したいことを事前にメモにまとめておく。聞かれたことだけを簡潔に答える練習をする。 |
会議中に集中できない、不用意な発言をしてしまう | 不注意、多動性、衝動性 | 会議中はメモを取りながら聞く。集中が途切れたら、休憩を取るか、一時的に席を外す許可を得る。発言する前に一度立ち止まって考える。会議のルールや流れを事前に確認する。 |
デスク周りが片付けられない、必要な書類が見つからない | 不注意、整理整頓の苦手さ | 物の定位置を決める。「使うものはここに戻す」というルールを作る。定期的に片付けの時間を設ける。書類はクリアファイルやボックスを活用し、ラベルを貼って分類する。不要なものはすぐに処分する習慣をつける。 |
対人関係のトラブルが多い(同僚、上司との関係) | コミュニケーションの困難、衝動性、場の空気を読むのが苦手 | 相手の表情や声のトーンに注意を払う練習をする。分からないことは正直に質問する。否定的な表現を避け、ポジティブな言葉を選ぶよう意識する。信頼できる同僚や上司に相談し、客観的な意見を求める。アンガーマネジメントを学ぶ。 |
特定の音や光が気になる、座っているのが辛い | 感覚過敏、多動性 | 可能であれば、静かな場所や刺激の少ない場所に席を移動してもらう。ノイズキャンセリングイヤホンを活用する(業務に支障のない範囲で)。休憩時間を増やし、体を動かす機会を作る。 |
急な予定変更やイレギュラーな対応が苦手でパニックになる | 変化への抵抗、計画性のなさ | 想定されるリスクや代替案を事前に考えておく練習をする。予定変更があった際は、まず落ち着いて状況を確認し、何から手をつけるべきか整理する。必要であれば、周囲にサポートを求める。 |
職場に自身の特性について伝え、合理的な配慮を求めることも、働きやすさにつながります。産業医や人事担当者、上司と相談し、特性に合わせた業務内容の調整や、働く環境の整備を検討してもらいましょう。
人間関係での困りごとと対策
発達障害の特性は、家族、友人、同僚など様々な人間関係で困難を引き起こすことがあります。しかし、特性を理解し、コミュニケーションの方法を工夫することで、より良好な関係を築くことが可能です。
困りごとの例 | 考えられる特性(例) | 具体的な対策・工夫 |
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相手の気持ちや意図が分からない、言葉の裏が読めない | 社会的コミュニケーションの困難 | 分からないことは正直に質問する習慣をつける。「〇〇ということですか?」と確認する。相手の表情や声のトーンだけでなく、言葉そのものに注目する。親しい関係であれば、自分の特性について伝えて理解を求める。 |
会話のキャッチボールが苦手、一方的に話してしまう | コミュニケーションの困難、一方的な興味 | 相手の話を最後まで聞くよう意識する。話を聞いている合図として相槌を打つ練習をする。会話の途中で自分の話に脱線しそうになったら、意識的に相手の話に戻す。話題の引き出しを増やしておく。 |
人との距離感が掴めない(近づきすぎたり、遠すぎたり) | 対人関係の困難 | 相手の反応を見て距離感を調整する練習をする。信頼できる人に「自分の距離感は適切か」尋ねてみる。一般的な対人距離の目安について学んでみる。 |
場の空気が読めない、不適切な発言をしてしまう | 社会的コミュニケーションの困難 | 周囲の人の表情や態度を観察する癖をつける。「今、この場で何を話すべきか、すべきでないか」を考える練習をする。分からない場合は、他の人の様子を真似てみる。重要な場面では、事前に「どんな状況か」「どう振る舞うべきか」を質問しておく。 |
感情表現が苦手、あるいは感情の起伏が激しい | コミュニケーションの困難、衝動性(感情コントロール困難) | 自分の気持ちを言葉で表現する練習をする。「私は今、〇〇と感じています」と具体的に伝える。感情が大きく揺れ動いた時に、一旦立ち止まって冷静になる練習をする(アンガーマネジメントなど)。 |
特定の人間関係にこだわりすぎる、あるいは回避しすぎる | 限定された興味、対人関係の困難 | 色々なタイプの人と浅く広く関わる機会を持つ。特定の関係に固執しすぎず、他の関係にも目を向ける。人間関係で疲れたら、一人でリフレッシュする時間を持つ。 |
約束やルールを忘れてしまい、相手を怒らせてしまう | 不注意、時間管理の困難、計画性のなさ | 約束は必ずメモやカレンダーに記録する。相手にも念のためリマインダーをお願いする。人間関係における暗黙のルールをリストアップしてみる(例: 連絡頻度、待ち合わせの時間厳守など)。 |
人間関係の困難は、自己肯定感やメンタルヘルスに大きな影響を与えます。一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、あるいは専門家(カウンセラーなど)に相談することも有効です。ソーシャルスキルトレーニング(SST)を受けることも、対人関係のスキルを身につける上で役立ちます。
日常生活での困りごとと対策
発達障害の特性は、日常生活の様々な側面にも影響を及ぼします。片付け、時間管理、家計管理、健康管理など、普段当たり前に思えることにも困難を感じることがあります。
困りごとの例 | 考えられる特性(例) | 具体的な対策・工夫 |
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部屋が片付けられない、探し物が多い | 不注意、整理整頓の苦手さ | 物の定位置を明確に決める。収納場所ごとにラベルを貼る。片付けを小さなエリアに区切って行う(例: 「今日は机の上だけ」)。定期的に(週に一度など)片付けの時間をルーティンに組み込む。不要なものはすぐに捨てる習慣をつける。 |
時間管理が苦手、やるべきことが溜まってしまう | 不注意、時間管理の困難、計画性のなさ | To Doリストを作成し、優先順位をつける。タイマーやアラームを活用して、作業時間や休憩時間を区切る。カレンダーやスケジュール帳で予定を視覚化する。タスクを細分化し、完了したら小さなご褒美を用意する。 |
衝動買いが多い、お金の管理が苦手 | 衝動性、計画性のなさ | 買い物に行く前に必要な物のリストを作成し、リストにあるもの以外は買わないルールを作る。クレジットカードや電子マネーの使用を控え、現金を使うようにする。衝動買いしそうになったら、一旦時間を置く(「〇時間後にまた考え直そう」)。家計簿アプリなどで収支を把握する。 |
重要な手続きや支払いを忘れてしまう | 不注意、忘れっぽさ | 締切のある書類や支払いは、目につく場所に貼っておくか、スマホのリマインダーを活用する。口座引き落としや自動振込を利用する。信頼できる家族に声かけや確認をお願いする。 |
健康管理がおろそかになる(睡眠不足、食生活の乱れなど) | 不注意、衝動性、感覚過敏・鈍麻(体の感覚に気づきにくい) | 規則正しい生活リズムを心がけ、寝る時間と起きる時間を決める。食事は簡単な定食などを利用したり、まとめて作り置きしたりする。体調の変化に気づきにくい場合は、定期的に健康診断を受ける。運動を習慣化する。 |
感覚過敏や鈍麻によるストレスが大きい | 感覚過敏・鈍麻 | ストレスの原因となる感覚刺激(特定の音、光、匂いなど)を可能な限り避ける。ノイズキャンセリングイヤホンやサングラスなどを活用する。リラックスできる環境を作る。感覚刺激を調整できるグッズを探す(例: フィジェットトイ)。鈍麻の場合は、怪我や病気に気づきにくい可能性があるため、定期的な健康チェックを心がける。 |
臨機応変な対応が苦手、パニックになりやすい | 変化への抵抗 | 予期せぬ出来事への対応マニュアルを自分なりに作っておく(例: 電車が止まったらどうするか)。複数の選択肢や代替案を考えておく練習をする。パニックになりそうになったら、一度立ち止まり、深呼吸をする。 |
日常生活の困りごとへの対策は、すぐに全てを完璧にこなすことは難しいかもしれません。まずは一つか二つ、自身にとって特に困難で、かつ取り組みやすいものから試してみるのが良いでしょう。スモールステップで、できることから増やしていくことが大切です。必要に応じて、家族や友人、専門家(作業療法士、カウンセラーなど)のサポートも検討しましょう。
軽度の発達障害の場合の困りごと・対策
「軽度の発達障害」や「グレーゾーン」と呼ばれる状態の場合、診断基準は満たさないものの、特定の特性によって困難を抱えています。この場合、困りごとが他の人から見えにくかったり、「努力不足」と捉えられやすかったりするため、本人にとってはかえって苦しい状況となることがあります。
軽度の発達障害の場合でも、以下のような困りごとを抱えることがあります。
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自己肯定感の低下: 周囲と同じようにできない自分を責め、「自分はおかしいのではないか」「努力が足りない」と感じてしまう。
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二次障害のリスク: 長期間にわたるストレスや生きづらさから、うつ病、不安障害、適応障害などを発症しやすくなる。
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支援へのアクセス困難: 診断名がないため、職場で合理的配慮を求めにくかったり、公的な支援サービスを利用できなかったりする。
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特性への気づきや理解の遅れ: 自分に発達特性があることに気づきにくく、困りごとの原因が分からないまま苦しむ。
軽度の発達障害の場合の対策としては、診断の有無に関わらず、自身の「特性」と「困りごと」を具体的に理解することが第一歩となります。
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特性の自己理解を深める: どのような状況で、どのような特性(不注意、衝動性、こだわりなど)が強く現れ、どんな困りごとにつながるのかを客観的に観察し、記録してみる。
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具体的な困りごとへの対処法を試す: 前述の仕事、人間関係、日常生活の項目で挙げたような具体的な対策や工夫を、自身の困りごとに合わせて取り入れてみる。
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「できないこと」よりも「できること」に焦点を当てる: 苦手なことばかりに目を向けるのではなく、自身の得意なことや強みを活かせる環境や方法を探す。
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無理なカモフラージュを減らす: 周囲に合わせようと過度に努力しすぎず、自分にとって無理のないペースや方法を見つける。
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信頼できる人に相談する: 家族や友人など、安心して話せる相手に、自身の困りごとや気持ちを打ち明けてみる。
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専門家や支援機関に相談する: 診断がつかない場合でも、心理士によるカウンセリング、精神保健福祉士による相談支援、就労移行支援事業所など、利用できる専門家や支援機関はあります。困りごとへの具体的な対処法のアドバイスを受けたり、利用できるサービスについて情報提供を受けたりできます。
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ピアサポートを活用する: 同じような特性や困りごとを抱える人たちの集まりに参加することで、孤立感を軽減し、情報交換や共感を得られることがあります。
軽度であるからといって、抱えている困難が小さいわけではありません。むしろ、見過ごされやすいからこそ、本人の苦悩が深くなることがあります。診断の有無にかかわらず、困りごとがある場合は一人で抱え込まず、何らかの形で支援を求めることが重要です。
大人の発達障害 相談先・医療機関
大人の発達障害に関して、自身の特性について知りたい、診断を受けたい、困りごとについて相談したい、適切な支援を受けたいなど、様々なニーズがあるかと思います。一人で悩まず、適切な相談先や医療機関に繋がることが、問題解決への第一歩となります。
ここでは、大人の発達障害に関する主な相談先・医療機関の種類と、それぞれで受けられる支援についてご紹介します。
精神科や心療内科
大人の発達障害の診断や医療的な治療を希望する場合、精神科や心療内科を受診するのが一般的です。特に、「発達障害外来」を設けている医療機関は、発達障害の診断や治療に専門的な知識と経験を持った医師やスタッフがいる可能性が高いです。
医療機関の種類 | 役割・提供される支援 |
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精神科・心療内科 | 診断: 発達障害(ASD, ADHD, SLDなど)の診断を行います。生育歴の聞き取り、問診、心理検査などを通して総合的に判断します。 薬物療法: ADHDの特性(不注意、多動性、衝動性)に対する治療薬(ストラテラ、コンサータ、インチュニブなど)の処方・管理を行います。また、発達障害に伴う二次障害(うつ病、不安障害、睡眠障害など)に対しても、必要に応じて薬物療法を行います。 精神療法・カウンセリング: 医師や臨床心理士などによるカウンセリングや、認知行動療法(CBT)などの精神療法を通じて、自身の特性理解を深めたり、困りごとへの対処法を学んだり、二次障害の治療を行ったりします。 他の専門機関との連携: 診断結果や本人のニーズに応じて、発達障害者支援センターや就労移行支援事業所など、他の支援機関と連携し、包括的なサポート体制を構築します。 |
受診する際のポイント:
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すべての精神科や心療内科が発達障害の診療に詳しいわけではありません。事前に、医療機関のウェブサイトを確認したり、電話で問い合わせたりして、発達障害の診療に対応しているか、発達障害を専門とする医師がいるかなどを確認しましょう。
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予約が取りにくい医療機関もあります。早めに問い合わせることをお勧めします。
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幼少期の様子が分かる資料(母子手帳、通知表など)や、家族からの情報(可能であれば同席や情報提供を依頼)があると、診断の参考になります。
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現在の困りごとや、どのような支援を求めているのかを具体的に伝えられるように準備しておくと良いでしょう。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある方(子どもから大人まで)やその家族からの様々な相談に応じ、地域における支援体制を構築するための中核的な機関です。各都道府県や指定都市に設置されています。
相談先 | 役割・提供される支援 |
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発達障害者支援センター | 情報提供: 発達障害に関する正しい情報や、地域の支援資源(医療機関、福祉サービス、就労支援機関など)に関する情報を提供します。 相談支援: 発達特性に関する悩み、生活上の困難、仕事や学業に関する問題、人間関係の悩みなど、様々な相談に専門的な視点から応じます。面談や電話相談などで行われます。 発達支援: 本人の特性理解を深めるためのプログラムや、コミュニケーションスキル、ソーシャルスキルなどの向上を目指すトレーニングの案内や調整を行うことがあります。 就労支援: 就職に関する相談や、就労移行支援事業所などの就労支援サービスの情報提供、利用調整を行います。 家族支援: 家族からの相談に応じたり、家族会などの情報を提供したりします。 関係機関との連携: 医療、福祉、教育、労働など、様々な分野の関係機関と連携し、本人にとって最も適切な支援が受けられるように調整を行います。 |
利用する際のポイント:
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発達障害者支援センターは、診断の有無に関わらず利用できます(ただし、診断や医療行為は行っていません)。
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まずは電話で問い合わせて、予約を取るのが一般的です。
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相談内容に応じて、担当者が面談や支援の提案を行います。
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地域の支援資源に詳しく、様々な機関とのハブとなる役割を担っています。
その他の相談窓口
精神科や心療内科、発達障害者支援センター以外にも、大人の発達障害に関する相談ができる窓口や支援機関があります。自身の状況やニーズに合わせて、適切な機関を選びましょう。
相談先 | 役割・提供される支援 |
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精神保健福祉センター | 地域住民の精神保健に関する相談窓口です。発達障害を含む、様々な心の健康に関する相談に応じます。専門のスタッフ(医師、精神保健福祉士、心理士など)が相談に応じたり、適切な専門機関への紹介を行ったりします。 |
保健センター | 地域住民の健康に関する相談窓口です。発達障害に関する相談を受け付けている場合もあります。特に、診断前の段階で、まずは身近な場所で相談したいという場合に利用しやすいかもしれません。 |
就労移行支援事業所 | 障害のある方の就職活動をサポートする事業所です。発達障害のある方を対象としたプログラムを提供している事業所もあり、ビジネスマナー、コミュニケーションスキル、PCスキルなどの訓練や、求人情報の提供、応募書類の作成支援、面接練習、職場定着支援などを行います。診断書が必要な場合が多いですが、グレーゾーンの方でも自治体の判断で利用できることがあります。 |
ハローワーク(専門援助部門) | 障害のある方向けの就労相談窓口があります。専門の職員が、個々の特性や希望を踏まえて、仕事探しに関する相談に応じたり、求人情報の提供、就職活動に関する支援を行ったりします。就労移行支援事業所など、他の就労支援サービスに関する情報提供も行っています。 |
地域活動支援センター | 障害のある方が、地域で自立した日常生活や社会生活を送るための様々なサービスを提供する施設です。日中の居場所提供、創作的活動や生産活動の機会提供、地域住民との交流促進、相談支援などを行っています。プログラム内容はセンターによって異なります。 |
ピアサポート団体・家族会 | 発達障害のある本人や家族が運営する自助グループです。同じような経験を持つ者同士が集まり、悩みや情報を共有したり、支え合ったりします。診断の有無に関わらず参加できる会もあります。体験談を聞いたり、共感を得たりすることで、孤立感を軽減し、前向きな気持ちになれることがあります。 |
民間の相談機関・カウンセリングルーム | 精神科医や公認心理師、臨床心理士などが開設している民間の相談機関やカウンセリングルームです。診断は行いませんが、発達特性や困りごとに関する相談、カウンセリング、精神療法、ペアレントトレーニング(家族向け)などを受けることができます。費用は保険適用外となる場合が多いですが、医療機関よりも予約が取りやすかったり、特定の専門分野に強みを持っていたりすることもあります。 |
障害者就業・生活支援センター | 障害のある方の身近な地域において、就業及びそれに伴う日常生活上の支援を一体的に行う機関です。仕事に関する相談だけでなく、生活に関する相談(住まい、金銭管理、健康管理など)にも応じ、関係機関と連携して支援を行います。 |
これらの相談窓口や支援機関は、それぞれ提供するサービスや対象者が異なります。ご自身の状況や、どのような種類の支援を求めているのかを整理し、最適な相談先を選ぶことが重要です。迷う場合は、まず地域の発達障害者支援センターや精神保健福祉センターに相談してみるのが良いでしょう。
発達障害の治療・支援
大人の発達障害は、病気のように完治するものではありません。しかし、自身の特性を理解し、適切な治療や支援を受けることで、困りごとを軽減し、より社会に適応した生活を送ることが可能になります。治療や支援は、薬物療法、精神療法、発達障害者向けプログラムなど、様々なアプローチがあります。
薬物療法
薬物療法は、主にADHDの特性(不注意、多動性、衝動性)の軽減を目的として行われます。ASDの特性そのものに直接作用する薬はありませんが、ASDに伴う二次障害(不安、うつ、衝動性、不眠など)に対して、症状を和らげる目的で薬が処方されることがあります。薬物療法は、医師の診断と処方に基づいて行われ、効果や副作用を医師と相談しながら調整していく必要があります。
薬物療法の対象 | 目的 | 主な治療薬の種類 | 効果(ADHDの場合) |
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ADHDの特性(不注意、多動性、衝動性) | 特性による困難の軽減、集中力向上、衝動性抑制など | アトモキセチン(ストラテラ)、メチルフェニデート塩酸塩徐放錠(コンサータ)、グアンファシン塩酸塩徐放錠(インチュニブ)など | 集中力が持続しやすくなる、忘れ物やうっかりミスが減る、落ち着きが出てくる、衝動的な言動が減るなど |
発達障害に伴う二次障害(うつ病、不安障害、睡眠障害など) | 二次障害の症状の軽減 | 抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤など | 気分の落ち込みの改善、過度な不安の軽減、睡眠の質の改善など |