「仕事のミスが減らない」「人付き合いがどうも苦手」「なぜかいつも生きづらさを感じる」。もしあなたがそう感じているなら、それは「大人の発達障害」の特性が関係しているのかもしれません。近年、大人になってから発達障害だと気づく人が増えています。これは、子供の頃には「個性」として見過ごされていた特性が、就職や結婚といった環境の変化によって表面化するためです。
この記事では、大人の発達障害とは何か、その主な種類や特徴、そして「もしかして？」と思ったときの相談先や対処法まで、分かりやすく解説します。ご自身や周りの人への理解を深め、より良い毎日を送るためのヒントを見つけていきましょう。
大人の発達障害とは？定義と背景
大人の発達障害は、決して特別なことではありません。まずはその基本的な定義と、なぜ大人になってから注目されるようになったのかを知ることから始めましょう。
発達障害の基本的な定義
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、日常生活や社会生活でさまざまな困難が生じる状態のことです。病気というよりは、その人が持つ「特性」と捉えられています。
重要なのは、これは本人の努力不足や親のしつけが原因ではない、ということです。得意なことと苦手なことの差が大きく、そのアンバランスさから、周囲に理解されにくく、「わがまま」「怠けている」と誤解されてしまうことも少なくありません。
なぜ大人になってから気づくのか
子供の頃は、親や先生のサポートがある環境で過ごすため、発達障害の特性があっても大きな問題にならないことがあります。また、「少し変わった子」「落ち着きのない子」といった「個性」の範囲で捉えられ、本人も周りも気づかないまま大人になるケースは珍しくありません。
しかし、大人になると、自分でタスク管理をしたり、複雑な人間関係を築いたり、臨機応変な対応を求められたりする場面が急に増えます。こうした環境の変化に対応しきれず、困難が表面化することで、「もしかしたら自分は発達障害かもしれない」と気づくのです。
大人の発達障害の主な種類と特徴
発達障害にはいくつかの種類があり、特性の現れ方は人それぞれです。ここでは、代表的な3つの種類と、その特徴を解説します。複数の特性を併せ持つこともあります。
ASD（自閉スペクトラム症）の特性
ASDは、社会的なコミュニケーションや対人関係の困難、特定の物事への強いこだわりといった特性があります。「スペクトラム」とは「連続体」を意味し、特性の現れ方に幅広いグラデーションがあることを示しています。
コミュニケーションや対人関係における困難
- 相手の表情や声のトーンから気持ちを読み取るのが苦手
- 曖昧な表現や冗談、皮肉を真正面に受けてしまう
- 自分の興味があることを一方的に話し続けてしまう
- その場の空気に合わせた言動が難しい
特定の興味やこだわり、感覚の特性
- 決まった手順やルールに強くこだわる（急な変更が苦手）
- 興味のある分野には、驚異的な集中力と知識を発揮する
- 光や音、匂い、肌触りなどに過敏、または鈍感な場合がある（感覚過敏・感覚鈍麻）
ADHD（注意欠如・多動症）の特性
ADHDは、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特性が主な症状です。これらの特性が日常生活や仕事に影響を及ぼします。
不注意による困りごと（忘れ物、ミスなど）
- ケアレスミスが多い
- 忘れ物や失くしものが頻繁にある
- 集中力が続かず、話を聞いていないように見えることがある
- 整理整頓や時間管理が極端に苦手
多動性・衝動性による困りごと（落ち着きのなさ、衝動的な行動）
- じっとしているのが苦手で、貧乏ゆすりなどをしてしまう
- 会議中など静かにすべき場面で、そわそわしてしまう
- 思ったことを考えずに口に出してしまう
- 順番を待つことが苦手で、割り込んでしまうことがある
LD（限局性学習症）の特性
LD（学習障害とも呼ばれます）は、全体的な知的発達に遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」といった特定の能力を習得したり、使ったりすることに著しい困難がある状態です。大人になってからは、書類作成やメールの読み書き、計算業務などで困難を感じることがあります。
発達障害の「グレーゾーン」とは？
発達障害の特性は持っているものの、診断基準を完全には満たさない状態を「グレーゾーン」と呼ぶことがあります。診断名はつかなくても、日常生活で困りごとを抱えている方は少なくありません。グレーゾーンの方も、特性に応じた工夫や支援を受けることで、生きづらさを軽減することが可能です。
大人の発達障害かもしれないと思ったら
もし、「自分の困りごとは発達障害の特性に当てはまるかもしれない」と感じたら、どうすればよいのでしょうか。
セルフチェックの活用
まずは、インターネット上で公開されているセルフチェックリストなどを活用して、自分の傾向を確認してみるのも一つの方法です。
大人の発達障害セルフチェックリスト
以下の項目にどの程度当てはまるか、チェックしてみましょう。（※これはあくまで簡易的なもので、医学的診断に代わるものではありません）
- 会話中、相手の話を最後まで聞くのが難しい
- 細かい部分にこだわりすぎて、全体の要点を見失いがちだ
- 約束の時間や締め切りを守るのが苦手だ
- 感情のコントロールが難しく、カッとなりやすい
- 忘れ物や失くしものが多く、物を探している時間が長い
- 冗談や皮肉が通じないとよく言われる
- 片付けが苦手で、身の回りが散らかっている
- 新しい環境や変化に強いストレスを感じる
多く当てはまるからといって必ずしも発達障害というわけではありませんが、困りごとを客観的に把握するきっかけになります。
専門機関での診断・相談
セルフチェックで傾向がみられたり、日常生活での困難が大きかったりする場合は、専門機関に相談することをおすすめします。
大人が発達障害かどうか調べるには？
発達障害の診断は、医師が問診や心理検査などを通じて総合的に行います。子供の頃の様子を知るために、母子手帳や通知表、家族からの話が重要な情報となることもあります。診断を受けることで、自分の特性を正しく理解し、必要な支援や配慮を受けやすくなるというメリットがあります。
精神科や心療内科の探し方
発達障害の診断や相談は、精神科や心療内科で行っています。ただし、すべての医療機関で大人の発達障害を専門的に診ているわけではありません。病院を探す際は、以下の方法が役立ちます。
- 発達障害者支援センター: 各都道府県・指定都市に設置されており、相談に乗ってくれたり、適切な医療機関の情報を教えてくれたりします。
- 自治体の福祉相談窓口: お住まいの市区町村の役所にある障害福祉課などに問い合わせてみるのも良いでしょう。
- 病院のウェブサイト: 「大人の発達障害」「発達障害外来」などの記載があるかを確認します。
大人の発達障害との向き合い方・対処法
診断の有無にかかわらず、発達障害の特性による生きづらさを軽減するためには、自分に合った工夫や対処法を見つけることが大切です。
自分の特性を理解する
まず最も重要なのは、「自分の得意なこと、苦手なこと」を正しく理解することです。「なぜ自分はできないんだ」と責めるのではなく、「自分にはこういう特性があるから、この部分は苦手なんだ」と客観的に捉えることで、具体的な対策を立てやすくなります。
日常生活での具体的な工夫（スケジュール管理、ミス対策など）
苦手なことをテクノロジーやツールで補うのは非常に有効な方法です。
| 困りごと | 工夫・対策の例 |
|---|---|
| 時間管理・忘れ物 | ・スマートフォンのリマインダーやアラーム機能を徹底活用する ・玄関に「持ち物チェックリスト」を貼る ・鍵など失くしやすい物にはスマートタグをつける |
| タスク管理・ミス | ・タスク管理アプリでやるべきことを見える化する ・仕事の手順をチェックリストにする ・集中できる環境を作る（ノイズキャンセリングイヤホンなど） |
| 衝動的な行動 | ・何か言いたくなったら、まず6秒数えてみる ・大きな買い物の前には、一日おいて冷静に考えるルールを作る |
| 感覚過敏 | ・サングラスや遮光カーテンで光を調整する ・イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンで音を遮断する ・肌触りの良い服を選ぶ |
仕事での工夫と支援
職場では、「合理的配慮」として、特性に応じたサポートを求めることができます。
- 指示は具体的にしてもらう: 「あれ、やっといて」ではなく、「〇〇の資料を3部コピーして、△△さんの机に置いてください」のように、明確な指示をお願いする。
- 得意な業務を担当させてもらう: こだわりの強さや集中力を活かせるデータ入力や分析、研究などの業務で能力を発揮できる場合がある。
- 静かな作業環境を整えてもらう: パーティションの設置や、在宅勤務の活用など。
周囲の理解と適切な支援
本人だけでなく、周りの人の理解とサポートも、生きづらさを解消する上で非常に重要です。
家族やパートナーができること
身近な人が発達障害の特性を持つ場合、どう接すれば良いか戸惑うこともあるかもしれません。
大人の発達障害がある家族への理解とストレスへの対応
- 特性を理解する: まずは発達障害について学び、「できない」のは本人のせいではないことを理解しましょう。
- 否定せず、具体的に伝える: 「どうして忘れるの！」と感情的に責めるのではなく、「明日のゴミ出し、忘れないように玄関にメモを貼っておこうか」と具体的な行動を促します。
- お互いのための休息をとる: 完璧を求めず、サポートする側も自分の時間を大切にし、ストレスを溜めないようにしましょう。
職場での配慮とサポート
職場の同僚や上司が特性を理解し、少し配慮するだけで、本人は能力を発揮しやすくなります。
- 指示の明確化: 口頭だけでなく、メールやチャットなど文章で指示を残す。
- 環境整備: 雑音や視界に入る情報が少ない席に配置するなどの配慮。
- 得意なことを評価する: 苦手なことばかり指摘するのではなく、得意な分野で活躍できるようサポートし、強みを評価する。
相談窓口や支援サービスを活用する
本人も周囲の人も、一人で抱え込まずに外部の支援を頼ることが大切です。
- 発達障害者支援センター: 本人や家族からの様々な相談に応じ、助言や情報提供を行います。
- 就労移行支援事業所: 発達障害のある方の就職をサポートする専門機関です。職業訓練や職場探しの手伝いをしてくれます。
- 障害者就業・生活支援センター: 仕事と生活の両面から、一体的な支援を提供します。
まとめ
大人の発達障害は、生まれつきの脳機能の特性であり、本人の性格や努力不足が原因ではありません。仕事や人間関係で困難を感じる背景に、ASDやADHDといった特性が隠れていることがあります。
もし「自分もそうかもしれない」と感じたら、まずはセルフチェックで自分の傾向を知り、必要であれば発達障害者支援センターや専門の医療機関に相談してみましょう。自分の特性を正しく理解し、日常生活や仕事で適切な工夫を取り入れることで、多くの困りごとは軽減できます。
大切なのは、一人で抱え込まないことです。あなたに合った対処法やサポートは必ずあります。この記事が、あなた自身や大切な人の「生きづらさ」を理解し、乗り越えるための一助となれば幸いです。
免責事項
この記事は、大人の発達障害に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。心身の不調や発達障害の疑いがある場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。
