胃潰瘍の症状とは?みぞおちの痛みを感じたら確認したいこと


こちらの記事の監修医師
吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
胃潰瘍の症状とは?みぞおちの痛みを感じたら確認したいこと
食後に決まって感じるみぞおちの痛み、ただの胃痛と自己判断していませんか。その症状は、胃酸で胃の壁が深く傷つく「胃潰瘍」のサインかもしれません。放置すると出血や穿孔のリスクもあります。
この記事では、日本消化器病学会のガイドラインなどを基に、胃潰瘍の典型的な症状を解説します。原因として多いピロリ菌や市販の痛み止めとの関係、専門医が行う治療法まで詳しく紹介します。
日本消化器病学会ガイドラインに学ぶ胃潰瘍のサイン
日本消化器病学会のガイドラインでも、胃潰瘍は注意すべき消化器疾患として位置づけられています。そもそも胃潰瘍とは、胃酸によって胃の壁が深くえぐられてしまう「消化性潰瘍」の一種です。※
代表的な症状はみぞおちの痛みですが、胃もたれや吐き気、食欲不振など多岐にわたります。これらの症状は胃炎や胃がん、さらには胆石症や心疾患でも起こりうるため、「ただの胃痛」と自己判断するのは危険です。気になる症状が続く場合は、お早めに消化器内科でご相談ください。
胃潰瘍とは胃の壁が深く傷ついた状態
胃潰瘍とは、胃の表面にある粘膜がただれるだけでなく、その下の層(粘膜下層や筋層)まで深くえぐれてしまった状態を指します。
胃の壁の表面が荒れるだけの「胃炎」とは異なり、潰瘍はより深い組織までダメージが及んでいるのが大きな違いです。
私たちの胃の中では、強力な胃酸などの「攻撃因子」と、胃粘膜を守る粘液などの「防御因子」が絶妙なバランスを保っています。しかし、ピロリ菌の感染や痛み止め(NSAIDs)などの影響でこのバランスが崩れると、攻撃因子が優位になり、胃自身の壁を消化して深い傷である潰瘍を形成するのです。
傷が深いために出血を起こしたり、まれに胃に穴が開いたり(穿孔)する危険性を伴います。※
食後の「みぞおちの痛み」が典型的な症状
胃潰瘍で最もよくみられる症状が、食後30分から1時間ほど経ってから感じる「みぞおちの痛み」です。
食事によって胃酸の分泌が活発になるため、潰瘍が刺激されて重苦しい痛みや、しくしくとした痛みを感じやすくなります。※
ただし、痛みの現れ方には個人差が大きく、必ずしも典型的な症状が出るとは限りません。
- 痛みのタイミング:食後だけでなく、空腹時に痛む方もいます。
- 痛みの感じ方:痛みよりも胃もたれや吐き気、胸やけが強く出ることもあります。
- 症状の有無:潰瘍が治りかけている時期には症状が軽くなったり、消えたりすることもあります。
「胃が痛い=胃潰瘍」と安易に判断せず、症状が続く、あるいは繰り返す場合は、胃カメラで直接胃の状態を確認することが診断への近道です。
出血すると黒い便や貧血症状がみられる
胃潰瘍からの出血は、黒い便や貧血といった症状で体にサインを送ります。
潰瘍が深くなり血管を傷つけると出血が起こり、この血液が胃酸に触れることで黒く変色します。これが便に混じって排出されると、まるで海苔の佃煮やコールタールのような真っ黒でドロっとした便(タール便)になります。これは胃や十二指腸からの出血を示す重要なサインです。※
出血量が多い場合や、じわじわと出血が続いている場合には、次のような貧血症状が現れることもあります。
出血のサイン
消化器のサイン
- 黒い便(タール便)
- 吐血(赤黒い、あるいはコーヒーかすのような嘔吐物)
貧血に伴う全身のサイン
- めまい、ふらつき、立ちくらみ
- 動悸、息切れ
- 顔色が悪くなる、強い倦怠感
特に、突然の吐血や大量の黒い便、冷や汗を伴う強いふらつきがある場合は、緊急の対応を要する危険な状態です。※ 決して様子を見たりせず、ためらわずに救急受診を検討してください。
少量の出血では自覚症状が乏しく、健康診断などで貧血を指摘されて初めて見つかることもあります。黒い便に気づいたり、貧血を指摘されたりした場合は、放置せずに必ず消化器内科を受診しましょう。
厚生労働省が注意喚起する胃潰瘍の原因とリスク
胃潰瘍の原因には、厚生労働省が注意喚起するほど重要なものが含まれています。広く使われている薬が関連していたり、自覚症状が出にくいまま進行したりするリスクがあるためです。
「ストレスが原因」と単純に考えられがちですが、実際には感染症や薬剤、生活習慣などが複雑に関わって発症します。ここでは胃潰瘍の二大原因と、それに伴うリスクを解説します。

主な原因はピロリ菌と解熱鎮痛薬(NSAIDs)
胃潰瘍を引き起こす主な原因は、「ヘリコバクター・ピロリ菌」の感染と、「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」と総称される解熱鎮痛薬の2つです。
ヘリコバクター・ピロリ菌
胃の粘膜にすみついて慢性的な炎症を起こします。この炎症が続くと胃を守るバリア機能が徐々に弱まり、胃酸の攻撃を受けやすい状態になることで潰瘍が形成されると考えられています。実際に、胃潰瘍の患者さんの7〜9割からピロリ菌が見つかります。
解熱鎮痛薬(NSAIDs)
頭痛や関節痛、生理痛などで広く使われるロキソプロフェンやイブプロフェンなどがこれにあたります。痛みや炎症を抑える優れた効果がある一方、胃の粘膜を守る「プロスタグランジン」という物質の生成を抑制する作用も持ち合わせています。これにより胃の防御力が低下し、潰瘍が発生しやすくなります。※
市販の痛み止めでもリスクはあります。胃の不快感や黒い便などの症状があるときに痛み止めを服用している場合は、受診の際に必ず医師へお伝えください。
痛み止め服用中は症状が出にくく発見が遅れることも
解熱鎮痛薬(NSAIDs)を服用していると、薬の鎮痛効果によって胃潰瘍の痛みが隠されてしまい、発見が遅れることがあります。
ご自身では「大したことはない」と感じていても、気づかないうちに潰瘍が進行しているケースは少なくありません。厚生労働省も、はっきりとした痛みがないまま、ある日突然吐血や下血(黒い便)で胃潰瘍が発見される場合があるとして注意を呼びかけています。※
痛み止めを服用中に、以下のような「痛みを伴わないサイン」に気づいたら、潰瘍を疑う必要があります。
痛み以外のサイン
- 胃のもたれや不快感
- 食欲の低下
- 胸やけや吐き気
- 原因不明の貧血や立ちくらみ
特に、心臓や脳の病気予防のために低用量アスピリンなどの抗血栓薬を服用している方は、出血時に重症化しやすいため注意が必要です。
これらの症状に気づいても、自己判断で薬を中止するのは危険です。必ず処方医や薬剤師に相談し、受診の際にはお薬手帳を持参してください。
強い腹痛は穿孔(胃に穴が開く)のサイン
これまで経験したことのないような突然の激痛は、胃潰瘍が深くなり胃の壁に穴が開いてしまう「穿孔(せんこう)」の危険なサインです。
穿孔が起こると、強力な胃酸を含む胃の内容物がお腹の中に漏れ出し、激しい炎症(腹膜炎)を引き起こします。これは命に関わる緊急事態であり、市販薬で様子を見ている時間はありません。
次のような症状が一つでも当てはまる場合は、絶対に我慢せず、ただちに救急外来を受診するか、救急車を呼んでください。
穿孔を疑う緊急のサイン
- 突然始まった、ナイフで刺されたようなみぞおちの激痛
- 痛みがだんだんとお腹全体に広がっていく
- お腹が板のように硬くなる(板状腹)
- 冷や汗、吐き気、発熱を伴う
厚生労働省も、このような強い腹痛がある場合は穿孔の可能性を考え、一刻も早く医療機関を受診するよう強く呼びかけています。※
専門医が行う原因別の治療アプローチ
胃潰瘍の治療は、原因を正確に突き止め、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てることが一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てることが、回復につながります。出血の有無、潰瘍の深さ、ピロリ菌の感染、痛み止めの使用状況など、考慮すべき点は多岐にわたります。
自己判断で市販薬を飲み続けるのではなく、専門医による的確な診断と治療方針の決定が、治癒と再発予防の鍵となります。※
診断を確定させる上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胃潰瘍の診断において、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は、診断を確定し多くの情報を得られる重要な検査です。口または鼻から細いスコープを挿入し、食道・胃・十二指腸の粘膜を直接、詳細に観察します。
胃カメラによって、医師は以下の点をリアルタイムで評価できます。
- 潰瘍の場所、大きさ、深さ
- 活動性の評価(出血しやすい状態か、治りかけか)
- 出血の有無とその程度
特に重要なのが、潰瘍が悪性の病気(胃がん)ではないことを確認する「生検」です。検査中に疑わしい部分からごく小さな組織を採取し、病理検査で詳しく調べることで、より正確な診断が可能になります。
貧血症状がある場合、胃カメラは出血源を特定するための不可欠な検査です。※
「胃カメラは苦しい」というイメージから検査をためらう方もいらっしゃるかもしれません。医療機関によっては、消化器内視鏡専門医が鎮静剤(静脈内麻酔)を用い、患者さんがウトウトと眠っている間に検査を終える「苦痛の少ない内視鏡検査」が行われています。検査への不安が強い方は、どうぞ遠慮なくご相談ください。
ヘリコバクター・ピロリ菌の検査と除菌治療
胃潰瘍が見つかった場合、その背景にヘリコバクター・ピロリ菌の感染がないかを確認することは、治療方針を決める上で極めて重要です。
もしピロリ菌が陽性であれば、潰瘍の治療と並行して「除菌治療」を行うことが現在の標準治療とされています。なぜなら、ピロリ菌を除菌することで、胃潰瘍が再発するリスクを大幅に下げられるからです。※
ピロリ菌の有無を調べる検査には、以下のような方法があります。
| 検査の種類 | 特徴 |
|---|---|
| 胃カメラを使わない方法 | ・尿素呼気試験:検査薬を飲んで息を吐くだけで、高い精度で判定できます。 ・血液・尿検査:ピロリ菌に対する抗体の有無を調べます。 ・便中抗原検査:便の中にピロリ菌の抗原がないかを確認します。 |
| 胃カメラを使う方法 | ・胃の組織を採取し、ピロリ菌がいるかを直接調べる方法です。 |
除菌治療は、胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗生物質、合計3つの薬を1週間服用するのが基本です。この治療は除菌の成功率が高いと報告されており、潰瘍の再発予防に大きな効果が期待できます。
大切なのは、薬を飲み終えた後、一定期間をおいてから「判定検査」を受け、確実に除菌が成功したかを確認することです。
薬剤が原因の潰瘍(NSAIDs潰瘍)への対応
ロキソプロフェン(ロキソニン®︎)やイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬(NSAIDs)が原因で起こる胃潰瘍では、原因となっている薬剤への対応が治療の柱となります。これらの薬は、胃の粘膜を守る防御機能を弱めてしまうため、潰瘍を引き起こすことがあるのです。※
具体的な治療方針は、患者さんの状態に合わせて慎重に検討します。
原因薬剤の見直し
可能であれば、原因となっているNSAIDsを中止します。中止が難しい場合は、胃への負担がより少ない種類の薬への変更を検討します。
胃薬の併用
薬の継続が必要な場合は、胃酸の分泌を強力に抑える薬(PPIなど)や、胃の粘膜を保護する薬を併用し、潰瘍の治癒を促しながら再発を防ぎます。
特に注意が必要なのは、心筋梗塞や脳梗塞の予防のために血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)を服用している方です。これらの薬は、血栓症という命に関わる病気のリスクを下げるための重要な薬であり、自己判断で絶対に中断してはいけません。
必ず処方医と消化器専門医が連携し、出血のリスクと血栓症のリスクを天秤にかけながら、患者さんの状態に合わせた治療方針を決定します。受診の際は、ご自身の体を守る大切な情報源である「お薬手帳」を必ずご持参ください。
治療後のQOLを維持するためのポイント
胃潰瘍の治療における本当のゴールは、痛みをなくすことだけではありません。出血や再発をしっかりと防ぎ、治療後も「おいしく食事ができる」「仕事や趣味に不安なく打ち込める」といった、あなたらしい生活の質(QOL)を取り戻すことです。
胃潰瘍は一度治っても、原因が残っていると再発しやすい病気でもあります。そのため、薬による治療だけでなく、ご自身の体と向き合い、再発予防に取り組むことがQOLを維持する上でとても大切になります。

医師に症状を正確に伝えるための準備
診断の精度を高め、ご自身に合った治療法を見つけるためには、ご自身の症状を正確に伝えることが何より重要です。診察の限られた時間で的確な情報を共有できるよう、事前にメモを準備しておくとスムーズです。
厚生労働省も、医療機関にかかる際は症状を整理しておくことを勧めています。※ 以下の点を参考に、ご自身の状況を整理してみてください。
診断のヒントになる「症状」の詳細
- いつから?:例)1週間前から、昨日の夜から
- どこが?:例)みぞおち、背中
- どんなふうに?:例)キリキリする、重苦しい、焼けるような感じ
- どんな時に?:例)食事のあと、空腹のとき、夜寝る前
- 痛み以外の症状は?:胸やけ、吐き気、食欲不振、体重の減少など
- 便の色は?:海苔の佃煮のような黒い便(タール便)が出ていないか
潰瘍の原因や治療に影響する「お薬」の情報
- 服用中の薬:痛み止め(市販薬も含む)、血液をサラサラにする薬、ステロイドなど
- サプリメント:普段飲んでいるものがあれば全て
- お薬手帳:必ずご持参ください。薬の重複や飲み合わせを確認する上で不可欠です。
再発リスクを判断する「生活背景」
- 過去の病歴:胃潰瘍や十二指腸潰瘍、ピロリ菌の検査や治療を受けたことがあるか
- 生活習慣:喫煙や飲酒の頻度・量
これらの情報は、医師が病状を立体的に理解するための重要なパズルピースとなります。
治療中の食事やアルコールはどうするべきか
胃潰瘍の治療中は、傷ついた胃をいたわり、回復を後押しするような食事を心がけることが大切です。厳しい食事制限でストレスを溜める必要はありませんが、胃に負担をかける食事は回復を遅らせてしまう可能性があります。
治療中に心がけたい食事のポイント
消化の良いものを選ぶ
おかゆやうどん、豆腐、白身魚、鶏のささみ、卵、バナナなどがおすすめです。胃酸の分泌を抑える
よく噛んでゆっくり食べると、消化が助けられ胃への負担が減ります。食事のリズムを整える
食事の時間を規則正しくし、一度にたくさん食べるのではなく、腹八分目を意識しましょう。
一方で、胃の粘膜を直接刺激したり、胃酸の分泌を増やしたりする食べ物や飲み物は、症状が落ち着くまでは控えるのが賢明です。
回復のために控えたいもの
- 脂っこい食事:天ぷら、ラーメン、カツ丼など(消化に時間がかかり胃に留まる時間が長くなるため)
- 刺激の強い香辛料:唐辛子、こしょう、カレー粉など
- カフェインを多く含む飲み物:コーヒー、濃い緑茶、エナジードリンクなど
- 極端に熱いものや冷たいもの
特にアルコールは、胃の粘膜を直接傷つけ、胃酸の分泌を促すため、治療中は必ずお休みしてください。また、喫煙は胃の血流を悪化させ、潰瘍の治りを妨げることがわかっています。これを機に禁煙に取り組むことが強く推奨されます。※
家族へのピロリ菌感染は心配すべきか
ご自身がピロリ菌陽性と診断されると、「キスや食器の共有で、夫や妻、子どもにうつしてしまうのではないか」と心配になる方は少なくありません。
結論から言うと、大人から大人への日常生活における感染リスクは極めて低いと考えられています。ピロリ菌の感染は、主に衛生環境がまだ十分でなかった時代に、免疫力が未熟な幼少期(5歳頃まで)に口から入ることで成立する場合がほとんどです。※
そのため、夫婦間のスキンシップや食器の共有などで過度に神経質になる必要はありません。ただし、一般的な衛生習慣として、お子さんへの食べ物の口移しなどは避けた方がよいでしょう。
ご家族のことで心配な点があれば、一度検査を受けてみるのも一つの選択です。特に、以下に当てはまる場合は、ご家族も消化器内科で相談することをお勧めします。
- ご家族(親や兄弟)に胃がんや胃潰瘍になった方がいる
- ご家族の中に、長引く胃の不調を訴えている方がいる
胃潰瘍は原因を突き止め、適切に治療すれば改善が期待できる病気です。不安なこと、わからないことがあれば、どうぞお気軽に当院の専門医にご相談ください。
まとめ
食後のみぞおちの痛みは胃潰瘍の典型的なサインですが、胃を守るためには自己判断せずに原因を特定することが大切です。
胃潰瘍はピロリ菌や痛み止めが主な原因となり、放置は出血のリスクを高める可能性があります。しかし、胃カメラで正確に診断し、原因に合わせた治療を行えば改善が期待できる病気といえます。
みぞおちの痛みや胃もたれ、黒い便などのサインに気づいたら、我慢せずにお早めに消化器内科でご相談ください。専門医に相談することが、安心した毎日を取り戻すための第一歩になります。

吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
- 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
- 日本肝臓学会認定 肝臓専門医
- 日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定難病指定医