
こちらの記事の監修医師
吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
IBD(炎症性腸疾患)とは?潰瘍性大腸炎・クローン病の症状と治療を解説
原因不明の腹痛や下痢が長く続き、「もしかして大きな病気では」と不安を感じていませんか。その症状は、腸に慢性的な炎症が起こるIBD(炎症性腸疾患)のサインかもしれません。
IBDは国の指定難病ですが、適切な治療で症状をコントロールし、日常生活を送ることも十分期待できます。この記事では、IBDの代表である潰瘍性大腸炎とクローン病について、症状の違いから診断、治療の流れ、利用できる医療費助成制度までを網羅的に解説します。
ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めることで、病気への正しい理解が深まります。漠然とした不安を和らげ、専門医へ相談するための具体的な一歩を踏み出す手助けになれば幸いです。

腹痛・下痢・血便が続くのはなぜ?
長引く腹痛や下痢、血便の根本的な原因は、腸の粘膜で起きている「終わらない炎症」です。IBDでは、本来からだを守るはずの免疫システムに異常が生じ、ご自身の腸の粘膜を異物とみなして攻撃し続けてしまいます。
この攻撃によって腸の粘膜が傷つくと、本来吸収されるはずの水分が吸収されにくくなって下痢になります。さらに炎症がひどくなると、粘膜の表面がただれたり(びらん)、深くえぐれたり(潰瘍)して血管が破れ、出血することで血便として現れるのです。
ウイルスや細菌による感染性腸炎であれば数日で自然に治まりますが、IBDの場合は症状が数週間以上も続いたり、一度良くなってもぶり返したりするのが大きな特徴です。もし、体重が減る、貧血が進むといった症状も伴うようであれば、放置せずに消化器内科で原因を調べることが重要です。※
潰瘍性大腸炎に見られる特徴的な症状
潰瘍性大腸炎は、その名の通り、炎症が「大腸」の粘膜に限定して起こる病気です。多くの場合、肛門に最も近い「直腸」から炎症が始まり、そこから大腸の奥に向かって、途切れることなく連続的に広がっていく特徴があります。
特に、以下のような症状がみられる場合は注意が必要です。
- 血液やネバネバした粘液が混じった便(粘血便)が出る
- 1日に何度もトイレに駆け込むような下痢が続く
- 急に強い便意が襲ってきて我慢するのが難しい(便意切迫)
- 排便後も便が残っている感じがする(残便感)
- お腹が張って痛むのに、便が出ない(しぶり腹)
こうした症状、特に血便があると「ただの痔だろう」と自己判断してしまいがちですが、その思い込みが発見の遅れにつながることも少なくありません。おしりからの出血が続く場合は、安易に考えず専門医に相談してください。※
クローン病に見られる特徴的な症状
クローン病は、口から肛門まで消化管のあらゆる場所に炎症が起こりうる病気で、中でも小腸の終わり際と大腸の始まり際によく見られます。腹痛や体重減少、なかなか治らない肛門のトラブルが特徴です。
潰瘍性大腸炎との大きな違いは、炎症が腸の壁の深い層まで達すること、そして健康な部分を挟んで病変が飛び飛びに現れる(非連続性病変)点です。
クローン病でよく見られる症状を下記に整理します。
- 腹痛(特に右下腹部に多い)
- 下痢(血便を伴わないケースも多い)
- はっきりした原因がないのに熱が出たり、体重が減ったりする
- 食欲がなく、体がだるい
- 「痔瘻(じろう)」や「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」といった、治りにくい肛門の病気が繰り返し起こる
特に若い方で、原因不明の腹痛や下痢、体重減少、肛門の痛みが続く場合は、クローン病の可能性も考えて精密な検査を受けることが勧められます。※
IBDの診断から治療までの流れ
IBDの診断は、症状の問診や診察に加え、複数の検査結果をパズルのピースのように組み合わせ、総合的に判断して初めて確定します。診断がついた後は、病気の種類(潰瘍性大腸炎かクローン病か)、炎症の範囲や重症度、そして患者さんご自身の年齢や生活スタイルなどを考慮し、一人ひとりに最適な治療計画を立てていきます。
治療の最終目標は、単に腹痛や下痢といったつらい症状を抑えることだけではありません。腸の粘膜の炎症そのものをしっかりと鎮め(粘膜治癒)、症状がぶり返す「再燃」を防ぎ、長期にわたって質の高い生活を維持することを目指します。

診断までに必要な検査(内視鏡・血液検査など)
IBDの診断を確定し、症状がよく似た他の病気(感染性腸炎など)の可能性を一つひとつ消していくために、いくつかの検査を段階的に行います。自己判断で様子を見るのではなく、専門医による正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩です。
主な検査の目的を以下に整理します。
| 検査の種類 | 目的とわかること |
|---|---|
| 血液検査 | ・体内の炎症の強さ(CRP値など) ・出血による貧血の有無 ・栄養がきちんと吸収されているか |
| 便検査 | ・食中毒などの感染症が原因ではないかの確認 ・腸の炎症度合いを客観的な数値で評価(便中カルプロテクチン検査) |
内視鏡検査(大腸カメラ) | ・診断を確定させる上で最も重要な検査 ・腸の粘膜を直接観察し、炎症の範囲や重症度、潰瘍の有無などを詳細に確認 ・病変の一部を採取(生検)し、顕微鏡で調べることで診断を確定させる※ |
画像検査(CT・MRIなど) | ・クローン病が疑われる場合など、内視鏡では観察が難しい小腸や、腸の壁の深い部分の状態を評価 |
主な治療法5つ(5-ASA製剤、ステロイド、生物学的製剤など)
IBDの治療は、病状のステージや炎症の範囲に応じて、薬物療法を中心に段階的に進めていくのが基本です。まずは基本の薬から始め、効果を見ながら、より作用の強い治療へとステップアップしていきます。
主に用いられる5つの治療法について、その役割と特徴は次のとおりです。
| 治療法 | 役割と特徴 |
|---|---|
| 1. 5-ASA製剤 | ・腸の炎症を直接抑える基本の薬 ・主に軽症〜中等症の潰瘍性大腸炎で、症状を落ち着かせ、良い状態を維持するために使われる |
| 2. ステロイド | ・強力な抗炎症作用を持つ、短期集中型の薬 ・症状が強く出ている活動期に、炎症を一気に鎮める目的で使用 ・長期使用は副作用のリスクがあるため、症状が改善したら徐々に減量・中止するのが原則 |
| 3. 免疫調節薬 | ・過剰に働く免疫システムを調整する縁の下の力持ち ・ステロイドの量を減らしたり、再燃を防いで寛解状態を長く維持したりする目的で使われる |
| 4. 生物学的製剤 | ・炎症を引き起こす原因物質をピンポイントで抑える狙い撃ちの薬 ・中等症〜重症例で、既存の治療では効果が不十分な場合に検討される重要な選択肢 ・点滴または皮下注射で投与する |
| 5. 血球成分除去療法 | ・血液中から、異常に活性化した白血球を取り除いて炎症を鎮める薬物以外の治療法 ・薬物療法で効果が不十分な場合などに併用されることがある |
これらの治療法の中から、患者さん一人ひとりの状態に最も適したものを専門医が判断します。※
新しい治療法(JAK阻害薬など)の対象と効果
これまでの治療で十分な効果が得られない場合には、「JAK(ジャック)阻害薬」をはじめとする新しい作用を持った薬が治療の選択肢になります。
JAK阻害薬は、炎症を引き起こす指令が細胞の中で伝わるのをブロックすることで、炎症を抑える比較的新しいタイプの薬です。大きな特長は、生物学的製剤のような注射ではなく「飲み薬」である点です。これにより、患者さんの通院負担の軽減にもつながります。
ただし、これらの新しい薬は誰にでも使えるわけではありません。主に中等症から重症の患者さんで、生物学的製剤などの治療で効果が不十分だったり、副作用で継続できなかったりした場合などが対象です。
治療を始める前には感染症などのリスクを慎重に評価する必要があり、服用中も帯状疱疹や血栓症といった副作用に注意しながら、定期的な診察と検査が欠かせません。新しい治療を希望する場合も、ご自身の判断で治療を変更するのではなく、まずは主治医とよく相談し、現在の病状に最も適した治療法を一緒に見つけていくことが何よりも大切です。
IBDの医療費と生活で知っておきたいこと
IBDは、長く付き合っていく病気だからこそ、医療費の負担を軽くする制度や、日々の生活を快適に過ごすための工夫を知っておくことが、治療を続ける上での大きな支えになります。潰瘍性大腸炎とクローン病は、国の指定難病ですが、診断されたからといって誰もが自動的に医療費の助成を受けられるわけではありません。症状が活発な時期と落ち着いている時期とで食事のポイントが変わったり、仕事や学校と治療をどう両立させていくか考えたりと、病気と上手に付き合うための具体的な知識を身につけていきましょう。

指定難病医療費助成制度とは?対象と申請方法
潰瘍性大腸炎とクローン病は国の指定難病のため、医療費の自己負担額を軽減できる「指定難病医療費助成制度」を利用できる場合があります。この制度を使えば、月々の医療費の自己負担額に上限が設定され、経済的な不安を和らげながら治療に専念できます。
ただし、この制度はIBDと診断された全ての人が自動的に対象になるわけではありません。助成を受けるためには、診断基準を満たした上で、さらに以下のいずれかの条件に当てはまる必要があります。
| 対象となるケース | 具体的な内容 |
|---|---|
| 重症度基準を満たす | ・病気の活動性が高く、日常生活に大きな支障が出ているなど、国が定めた重症度の基準に該当する場合 |
| 軽症高額該当 | ・症状は比較的落ち着いていても、治療費が高額な場合 ・医療費の総額(10割分)が33,330円を超える月が、申請前の1年以内に3回以上ある場合(生物学的製剤などの治療を受けている方が該当しやすい) |
申請を希望される場合は、まず主治医にご相談ください。制度の対象になるかどうかの判断には、専門知識を持つ「指定医」が作成する「臨床調査個人票」という診断書が不可欠です。※
申請手続きの窓口はお住まいの地域の保健所などになりますが、必要な書類は自治体によって異なる場合があります。まずはかかりつけの医療機関の相談窓口や、地域の保健所に問い合わせてみるのが確実です。※
活動期と寛解期で変わる食事の注意点
IBDの食事療法は、症状が出ている「活動期」と、落ち着いている「寛解期」とで、目的が大きく異なります。一律に食事を制限するのではなく、ご自身の体調の波に合わせて食事内容を調整していくことが大切です。
【活動期:症状が強いとき】腸を徹底的に休ませる
活動期は、炎症で弱っている腸に負担をかけないことが何よりも優先されます。下痢や腹痛を悪化させないため、消化が良く、腸を刺激しない食事を心がけます。
特に、以下の食品は症状を悪化させる可能性があるため、一時的に避けるのが賢明です。
| 控えるべき食品の系統 | 理由と具体例 |
|---|---|
| 脂質の多いもの | ・消化に時間がかかり、腸の動きを活発にしすぎてしまうため ・例:揚げ物、ラーメン、カレー、肉の脂身、生クリーム |
| 不溶性食物繊維 | ・腸の中で溶けにくく、腸の壁をこするように刺激してしまうため ・例:ごぼう、たけのこ、きのこ類、海藻類、玄米 |
| 刺激物 | ・腸の粘膜を直接刺激して、腹痛や下痢を引き起こすことがあるため ・例:香辛料(唐辛子など)、炭酸飲料、カフェイン、アルコール |
【寛解期:症状が落ち着いているとき】バランス良く栄養を摂る
症状が落ち着いている寛解期は、過度な食事制限はむしろ逆効果です。厳しい食事制限を続けると、かえって栄養不足に陥り、体力が落ちてしまう原因になります。
食べられるものの中から、タンパク質、鉄分、ビタミンといった、炎症で失われがちな栄養素を意識して補い、バランスの良い食事を楽しみましょう。
ただし、一度にたくさん食べたり、体調が良くないときに無理をしたりするのは禁物です。少しずつ試しながら、「自分に合う食べ物・合わない食べ物」を見つけていく姿勢が大切です。特にクローン病で腸に狭い部分(狭窄)がある方は、食物繊維が豊富な食品で腸が詰まってしまうリスクもあるため、自己判断せず、必ず医師や管理栄養士に相談してください。
仕事や学校生活と治療を両立させるための工夫
IBDは症状に波がある病気のため、仕事や学校生活と治療を上手に両立させるには、あらかじめいくつかの準備をしておくことが心の余裕につながります。
1. 治療の日常管理を仕組み化する
- 通院: 定期的な通院日を、仕事や学校の年間スケジュールに先に組み込んでしまう。
- 服薬: 飲み忘れを防ぐため、スマートフォンのリマインダー機能や、曜日ごとに分けられるピルケースなどを活用する。
2. 「もしも」の時のために備えておく
- トイレマップ: 職場のフロアや、学校の校舎内、通勤・通学路にある利用しやすいトイレの場所を事前に把握しておく。
- 緊急連絡: 体調が急に悪化した場合の連絡先(上司、同僚、先生など)と、休む際の手順をあらかじめ共有しておく。
3. 周囲に理解と協力を求める
IBDは外見からは分かりにくい病気です。必要に応じて、信頼できる上司や先生、同僚などに病気の特性を伝えておくと、いざという時にスムーズに対応してもらえます。
説明する際は、「お腹の症状が急に強くなることがある」「トイレの回数が増えることがある」「疲れやすい時がある」といった具体的な内容を伝えると、相手も理解しやすくなります。
疲労や精神的なストレスは、症状を悪化させる大きな引き金になり得ます。決して無理はせず、「少しおかしいな」と感じたら早めに主治医に相談することが、結果的に生活の質を維持することにつながります。また、免疫の働きを調整する治療(生物学的製剤など)を受けている間は、感染症にかかりやすくなる場合があるため、発熱した際の対応なども事前に主治医と確認しておくと安心です。
まとめ
IBD(炎症性腸疾患)は指定難病ですが、適切な治療で症状をコントロールしながら、自分らしい生活を送ることが期待できる病気です。
この病気は免疫の異常が原因で、腹痛や下痢などの症状が長く続くのが特徴とされています。治療法は日々進歩しており、食事の工夫や医療費の助成制度などを活用することで、生活の質を維持することも可能です。
長引くお腹の不調に悩んでいる方は、自己判断で抱え込まず、まずは消化器内科の専門医にご相談ください。ご自身の体調と向き合い、適切な治療を始めることが穏やかな毎日への第一歩といえます。

吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
- 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
- 日本肝臓学会認定 肝臓専門医
- 日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定難病指定医
