大人の急性虫垂炎の症状とは?初期サインと受診のタイミング


こちらの記事の監修医師
吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
大人の急性虫垂炎の症状とは?初期サインと受診のタイミング
急な腹痛に、もしかして虫垂炎(盲腸)ではないかと不安を感じていませんか。時間の経過とともに痛む場所が変わる症状は、急性虫垂炎のサインである可能性があります。
この記事では、大人の急性虫垂炎に特徴的な初期症状から、胃腸炎や婦人科疾患といった他の病気との見分け方まで詳しく解説します。セルフチェックのポイントや、すぐに受診すべき緊急性の高いサインも紹介します。
大人の急性虫垂炎に特徴的な症状のサイン
大人の急性虫垂炎で最も特徴的なサインは、時間の経過とともに痛む場所が変わる腹痛です。一般的に「盲腸」として知られていますが、正確には虫垂という臓器に炎症が起きる「急性虫垂炎」という病気です。
多くの場合、最初は胃のあたり(みぞおち)やおへそ周りが痛み始め、数時間から1日かけて右下腹部へと痛みが移動します。ただし、これはあくまで典型的な経過であり、すべての方に当てはまるわけではありません。急性腹症は時間を置かずに診断し、治療方針を決めることが重要であり、見逃しを避ける視点が大切だと考えられています。※
特にご高齢の方や妊婦さんは症状がはっきりと出にくいため、注意深く様子を見る必要があります。
時間とともに痛む場所が変わる?初期症状から進行まで
痛む場所が時間とともに変わるのは、虫垂の炎症がじわじわと周囲に広がっているサインです。
▼初期症状:みぞおちやおへそ周りの痛み
虫垂炎の痛みは、まず胃のあたりやおへその周りに、なんとなく重苦しい、あるいは差し込むような痛みとして始まります。この段階では「胃の調子がおかしいな」「少し食べ過ぎたかな?」と感じることが少なくありません。
▼進行後:右下腹部への移動
数時間から1日ほど経つと、炎症が虫垂の壁を越え、お腹の内側を覆う腹膜という薄い膜にまで到達します。すると、痛みの場所がはっきりと右下腹部に定まり、じっとしていても痛い、持続的な痛みに変わるのです。
強い腹痛や痛みの移動が見られる場合、放置すると重篤な状態につながる可能性もあるため、速やかな受診が求められます。※
これも見逃さないで!吐き気・発熱・食欲不振
腹痛だけでなく、吐き気や発熱、食欲不振といった症状も、虫垂炎を見極めるうえで重要な手がかりです。お腹の痛みが始まると、体の防御反応として次のような症状が伴うことがあります。
食欲不振
「急に何も食べたくなくなった」というのは、非常に多く見られるサインの一つです。吐き気(悪心)・嘔吐
胃がムカムカして気持ち悪くなり、実際に吐いてしまうこともあります。発熱
炎症のサインとして、37℃台の微熱が出ることが多いですが、炎症が強くなると38℃以上の高熱になることもあります。
これらの症状は、体が炎症と戦っている証拠といえます。下痢や嘔吐を伴うこともあるため胃腸炎と間違えやすいですが、痛みの場所や時間の経過とあわせて総合的に判断する必要があります。
高齢者や妊婦にみられる非典型的な症状
高齢の方や妊婦さんは、虫垂炎の典型的な症状が現れにくく、診断が遅れるケースがあるため特に注意が必要です。
高齢者の場合
痛みの感覚が若い頃より鈍くなっていたり、炎症に対する体の反応が弱かったりするため、激しい腹痛や高熱が出にくい傾向があります。「なんとなく元気がない」「食欲がない」といった、はっきりしない症状が続く場合は注意しなくてはなりません。症状が軽く見えても、お腹の中では病状が進行している可能性があります。
妊婦さんの場合
妊娠が進むと、大きくなった子宮によって虫垂が通常の位置(右下腹部)から押し上げられます。そのため、右のわき腹や背中あたりに痛みを感じることもあります。また、つわりの症状と区別がつきにくいことも診断を難しくする一因です。
このように、いつもと違う腹痛や、原因がはっきりしない体調不良が続く場合は、症状が軽くても自己判断せず、早めに医療機関へ相談しましょう。
その腹痛、虫垂炎?自分でできる症状チェックリスト
「もしかして盲腸(虫垂炎)かも?」と思ったとき、ご自身で確認できる症状のポイントがあります。
ただし、ここでお伝えするチェックリストは、あくまで医療機関を受診するかの「目安」であり、ご自身で病気を診断するためのものではありません。日本消化器病学会も、患者さんが病気を正しく理解するための情報提供を行っていますが、正確な診断は専門医にしかできないと強調しています。※
痛みが強い、だんだん悪化していると感じる場合は、チェックの結果にかかわらず、速やかに医療機関を受診してください。

右下腹部に痛みがある
右下腹部の痛みは、急性虫垂炎で最もよくみられる代表的なサインです。
ただし、最初から右下腹部が痛むとは限りません。多くの場合、まず胃のあたり(みぞおち)やおへそ周りに重苦しい痛みを感じ、それが数時間から1日かけて右下腹部へと移動してくるのが典型的な経過です。
もちろん、右下腹部が痛む原因は虫垂炎だけではありません。
- 便秘
- 感染性腸炎
- 大腸憩室炎
- 尿管結石
- 女性の場合は卵巣や卵管の病気
このように、さまざまな病気の可能性が考えられるため、痛む場所だけで「虫垂炎だ」と自己判断するのは危険です。痛みが続く、徐々に強くなる、吐き気など他の症状も伴うといった場合は、消化器内科や外科を受診しましょう。
歩いたり咳をしたりすると痛みが響く
歩いたり、咳やくしゃみをしたり、軽くジャンプした際に、右下腹部に「ズキン!」と響くような痛みを感じる場合、炎症が虫垂の周りにまで広がっているサインかもしれません。
これは「腹膜刺激症状」と呼ばれ、虫垂の炎症がお腹の内側をおおっている「腹膜」という敏感な膜にまで達していることを示唆します。腹膜に炎症が及ぶと、体のわずかな振動でも痛みとして感じやすくなるのです。
- 歩くとお腹に響いて痛い
- 咳やくしゃみをするのが怖い
- 車や電車の揺れがつらい
- ベッドで寝返りをうつのも痛い
このような「響く痛み」があるときは、炎症が進行している可能性が高いと考えられます。無理に動き回らず、できるだけ早く医療機関に相談してください。
軽く押して離すと痛みが強くなる(反跳痛)
痛む場所を指でそっと押したときよりも、その指をパッと離した瞬間に痛みが鋭く強くなる場合、それは「反跳痛(はんちょうつう)」と呼ばれる危険なサインです。
これも「腹膜刺激症状」の一つで、炎症が腹膜にまで広がっていることを強く疑わせる所見です。私たち医師が診察の際に必ず確認するポイントであり、緊急性を判断するうえで非常に重要な手がかりとなります。
ご自身で確認するために、お腹を何度も強く押すことは絶対に避けてください。炎症を起こしている部分を刺激し、かえって状態を悪化させたり、最悪の場合、虫垂が破れる(穿孔する)原因になったりする危険があります。もし反跳痛が疑われる場合は、ご自身で試さず、ただちに医療機関を受診してください。
胃腸炎や婦人科疾患など他の病気との見分け方
「右下腹部の痛み」という症状だけでは、急性虫垂炎と他の病気を正確に見分けることは極めて困難です。
右下腹部には虫垂だけでなく、大腸、尿管、そして女性であれば卵巣や卵管といった臓器が集まっており、さまざまな病気のサインが現れる場所だからです。感染性胃腸炎や大腸憩室炎、尿管結石、婦人科系の病気など、虫垂炎と似た症状を示す病気は数多く存在します。
急な腹痛を引き起こす「急性腹症」の中には、治療が遅れると命に関わる病気が隠れていることも少なくありません。そのため、私たち医師は常に見逃しを避ける視点で診断にあたります。痛みが続く、あるいは悪化していると感じたら、自己判断で様子を見るのではなく、必ず医療機関を受診してください。※
痛みの場所と性質の違い
痛みの場所やその性質は、原因となっている病気を推測するうえで重要な手がかりとなります。
| 病気の名前 | 痛みの場所や特徴 |
|---|---|
| 急性虫垂炎 | ・最初はみぞおちやおへそ周りの痛み ・数時間~1日かけ右下腹部へ痛みが移動 ・歩行や咳など、体に振動が加わると響く |
| 感染性胃腸炎 | ・お腹の広範囲に、差し込むような痛みが波のように訪れることが多い |
| 大腸憩室炎 | ・大腸の壁にできた小さなくぼみ(憩室)の炎症 ・特に右側の大腸に起こると、虫垂炎との区別が難しい |
| 尿管結石 | ・背中や脇腹から下腹部への突然の激痛 ・転げ回るほどの痛みで冷や汗を伴うことも ・血尿が出ることがある |
もちろん、ここに挙げた特徴はあくまで一般的な目安です。症状の現れ方は一人ひとり異なるため、正確な診断には専門医による診察が欠かせません。日本消化器病学会も、患者さんが病気を正しく理解するための情報を提供していますが、最終的な判断は医師に委ねるよう呼びかけています。※
下痢や嘔吐のタイミングの違い
腹痛に加えて下痢や嘔吐がある場合、それらの症状が「どの順番で現れたか」も診断のヒントになります。
感染性胃腸炎の場合
ウイルスや細菌による食中毒などが原因のため、腹痛とほぼ同時か、あるいは腹痛に先立って激しい嘔吐や下痢が始まるのが特徴です。
急性虫垂炎の場合
まず腹痛が先行し、その後に吐き気や食欲不振といった症状が時間差でついてくる傾向があります。
ただし、注意したいのは、虫垂炎でも下痢を伴うケースは珍しくないという点です。これは、炎症を起こした虫垂がすぐ近くにある直腸を刺激してしまうために起こると考えられています。「下痢があるからただの胃腸炎だろう」という自己判断は、診断の遅れにつながるため非常に危険です。
女性特有の病気との鑑別ポイント
女性の場合、虫垂の近くに卵巣や卵管といった臓器があるため、鑑別すべき病気がさらに増え、診断がより複雑になります。
右下腹部の痛みとして現れることがある代表的な婦人科系の病気は、下記のとおりです。
卵巣出血、卵巣のねじれ(卵巣茎捻転)
突然、下腹部に激痛が走ります。緊急の対応が必要です。子宮外妊娠(異所性妊娠)
正常な妊娠ではないため、放置すると命に関わる危険な状態です。骨盤内炎症性疾患(卵管炎など)
おりものの異常や発熱を伴う下腹部痛が特徴です。子宮内膜症
月経(生理)のたびに痛みが強くなる傾向があります。
これらの病気を見分けるために、診察時には以下の情報が手がかりになります。
- 最終月経はいつだったか
- 月経周期は順調か
- 普段と違う出血(不正出血)はないか
- 妊娠の可能性はあるか
ご自身の体の状態を整理して医師に伝えることが、的確な診断への近道です。特に妊娠の可能性がある方の腹痛や出血は、自己判断で市販薬などを使わず、速やかに産婦人科か救急外来を受診してください。
迷ったらすぐ行動!救急車を呼ぶべき緊急性の高いサイン
これからお伝えする3つのサインは、急性虫垂炎が重症化し、命の危険が迫っている可能性を示すものです。
急な腹痛(急性腹症)の中には、治療が遅れると命に関わる病気が隠れていることがあります。そのため、私たち医師は「見逃しを避ける」という視点で、時間を置かずに診断し、治療方針を決めることを何よりも重視します。※
「もう少し我慢すれば治るかも」「朝になったら病院へ行こう」といった判断が、取り返しのつかない事態を招くこともあります。これから挙げる症状に一つでも当てはまる場合は、夜間や休日であっても、ためらわずに救急外来を受診するか、救急車を呼んでください。
我慢できないほどの激しい腹痛
これまでに経験したことのないような、立っていられないほどの激しい腹痛は、虫垂が破れてしまっている(穿孔している)可能性を示す、極めて危険なサインです。
虫垂の壁に穴が開くと、細菌を大量に含んだ腸の内容物がお腹の中に漏れ出してしまいます。その結果、お腹全体が細菌に感染し、「腹膜炎(ふくまくえん)」という重篤な状態に陥ります。
- 体を「く」の字に曲げないと耐えられない
- 痛みのあまり一歩も歩けない
- 咳や寝返りなど、少しの振動でも激痛が走る
- 痛みが右下腹部だけでなく、お腹全体に広がってきた
このような痛みは、腹膜炎が進行しているサインであり、一刻も早い専門的な治療が必要です。
冷や汗をかき、顔色が悪い
激しい腹痛とともに、脂汗や冷や汗が出たり、顔色が悪くなったりするのは、体が危険な状態に陥っていることを示す重要なサインです。
これは、激しい痛みや炎症によって自律神経が混乱し、血圧の低下や循環不全をきたす「ショック状態」に近いことを意味します。体の隅々まで血液が届かなくなり、生命維持機能が低下し始めている危険な兆候といえます。
- じっとりとした冷や汗が止まらない
- 鏡で見ると顔が青白い、土気色をしている
- めまいやふらつきがある
- 意識がぼんやりして、呼びかけへの反応が鈍い
これらの症状が見られる場合、ご自身で判断せず、すぐに周りの人に助けを求め、救急車を要請してください。
高熱が続き、ぐったりしている
38℃を超える高熱が続き、体がぐったりして起き上がれない状態は、体内で深刻な感染が起きていることを物語っています。
炎症を起こした虫垂の周りに膿がたまり(膿瘍形成)、それが血液に乗って全身に細菌が回ったり、腹膜炎を引き起こしたりしている可能性が考えられます。
- 解熱剤を飲んでも一向に熱が下がらない
- 悪寒がして、ガタガタと体が震える
- 水分を摂れず、嘔吐を繰り返してしまう
- だるさが異常に強く、起き上がれない
特に、ご高齢の方や糖尿病などの持病をお持ちの方は、典型的な症状が出にくいまま重症化することがあります。「いつもと明らかに様子が違う」と感じたら、それは体からの危険信号です。迷わず医療機関に連絡してください。
何科を受診すればいい?病院での検査と診断の流れ
急性虫垂炎が疑われる場合、迅速な検査と診断がその後の治療を大きく左右します。腹痛の原因がはっきりしない時、どの診療科へ行けばよいか迷うのは当然のことです。痛みが強い場合や診療時間外であれば、救急外来の受診をためらわないでください。病院では、問診と診察に加えて複数の検査を組み合わせ、診断の精度を高めていきます。

まずは消化器外科か一般外科へ
急性虫垂炎は手術が必要になる可能性のある病気のため、消化器外科や一般外科が専門の診療科です。
しかし、夜間や休日であったり、近所に専門の外科がなかったりする場合もあるでしょう。そのような時は、かかりつけの内科や消化器内科、あるいは救急外来を受診してください。初期の診察や検査で外科的な治療が必要と判断されれば、地域の基幹病院など、速やかに対応できる医療機関へ紹介する体制が整っています。※
また、女性で妊娠の可能性や不正出血など月経に関連した痛みがある場合は、婦人科系の病気も考えられるため、婦人科の受診も選択肢の一つになります。
診断を確定させる血液検査と画像検査(CT・超音波)
診察で虫垂炎が疑われた場合、診断を確定させるために血液検査や画像検査を行います。これらの客観的なデータを組み合わせることで、炎症の程度や重症度を正確に把握します。
血液検査
体内で炎症が起きると増える「白血球」の数や、「CRP」という炎症反応の数値を測定します。これらの数値が高いほど、強い炎症が起きている可能性を示唆します。
腹部超音波(エコー)検査
体に負担の少ない検査で、お腹にゼリーを塗り、超音波の出る機械を当てて虫垂の状態を観察します。虫垂が基準となる直径6mm以上に腫れていないか、周囲に膿が溜まっていないかなどをリアルタイムで確認できます。放射線を使わないため、妊娠中の方や若い方にも行いやすい検査です。
腹部CT検査
体の断面を詳細に撮影する、診断精度が非常に高い検査です。腫れ上がった虫垂を直接確認できるだけでなく、炎症がどの程度広がっているか、腹膜炎などの重い合併症が起きていないか、さらには他の病気との区別にも極めて役立ちます。
医師に伝えるべき症状のポイント
診察の際、ご自身の症状を詳しく伝えることは、スムーズで正確な診断に直結します。日本消化器病学会も、患者さん自身が症状を正しく理解し、医師と共有することが納得のいく治療への第一歩だと推奨しています。※
受診する前に、以下の点をメモにまとめておくと、落ち着いて正確に伝えやすくなります。
痛みについて
- いつから痛むか(例:昨日の夜10時頃から)
- 最初に痛かった場所(例:みぞおち、おへその周り)
- 今、一番痛い場所(例:右足の付け根の少し上あたり)
- 痛みの種類(例:キリキリ、ズキズキ、波がある)
- どうすると痛みが強くなるか(例:歩くと響く、咳をすると痛い)
痛み以外の症状
- 熱、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、食欲不振など、腹痛以外の症状の有無
その他、大切な情報
- 今までにかかった大きな病気や手術の経験
- 現在飲んでいる薬(お薬手帳があれば必ず持参してください)
- 女性の場合は、最後の月経はいつだったか、妊娠の可能性はあるか
治療法の選択肢「薬で散らす」と「手術」の判断基準
急性虫垂炎の治療は、抗菌薬で炎症を鎮める「保存的治療(いわゆる薬で散らす治療)」と、原因そのものである虫垂を切除する「手術」の2つに大別されます。
どちらの方法を選ぶかは、CT検査などの結果をもとに、炎症の強さや合併症の有無を慎重に見極めて判断します。急な腹痛(急性腹症)の診療では、見逃しを避け、時間を置かずに重症度に応じた治療方針を決めることが何よりも大切です。※
そのため、ご自身の状態に合った最適な治療法を医師と一緒に見つけていくことが重要になります。
薬で治療する「保存的治療」が可能なケース
抗菌薬で炎症を抑える「保存的治療」は、炎症が比較的軽く、虫垂の腫れも軽度で、危険な合併症を起こしていない場合に選ばれることがあります。
この「薬で散らす」治療法では、多くの場合、入院して抗菌薬の点滴を受け、食事を止める(絶食)ことで炎症で疲弊した腸をしっかりと休ませます。
具体的には、以下のような条件を満たす場合に検討されます。
- 炎症が虫垂だけにとどまっている
- 虫垂に穴が開いていない(非穿孔性)
- 虫垂の周りに膿(うみ)がたまっていない
- 腹膜炎を起こしていない
この治療によって多くの方で症状はいったん改善しますが、炎症の原因である虫垂そのものは体の中に残ります。そのため、あくまで一時的な治療であり、根本的な解決ではないこと、そして再び炎症がぶり返す「再発」の可能性があることを理解しておく必要があります。
手術が必要になるケースと腹膜炎のリスク
手術は、炎症が強く合併症を起こしている、またはその危険性が高い場合に選択される、原因を根本から取り除くための治療法です。
特に、炎症で弱くなった虫垂に穴が開く(穿孔する)と、細菌だらけの腸の内容物がお腹の中に漏れ出し、「腹膜炎」という命に関わる危険な状態に陥ることがあります。こうした重症化を防ぐため、私たち医師は、時間を置かずに診断し、重症度に合わせて迅速に治療方針を決めることを何よりも重視します。※
以下のような場合は、炎症の原因を根本から取り除く手術が強く勧められます。
- 我慢できないほどの激しい痛みがある
- 虫垂に穴が開いている(穿孔)、もしくはその疑いが強い
- 虫垂の周りに膿のたまり(膿瘍)ができている
- 糞石(ふんせき:便が石のように硬くなったもの)で虫垂が詰まっている
- 抗菌薬の治療を行っても症状が良くならない
これらのサインは、もはや薬だけでは抑えきれないほど炎症が進んでいることを示しており、速やかに原因を取り除く必要があります。
再発の可能性はどのくらいあるか
抗菌薬で一度は症状が治まっても、原因である虫垂が体内に残っている限り、再び虫垂炎になる可能性があります。
さまざまな報告がありますが、薬で治療した方のうち、およそ10〜20%が1年以内に再発するといわれています。特に、虫垂の中に糞石(ふんせき)という便の石が詰まっていた場合は、再発の引き金が残っているため、再び炎症を起こしやすいと考えられています。
このように再発のリスクが残るため、
- 何度も再発を繰り返している
- 仕事や学業への影響をなくしたい
- 「また痛くなるかも」という不安を抱えながら生活したくない
といった方には、炎症が完全に治まった落ち着いた時期に、あらかじめ予定を組んで手術(待機的虫垂切除術)を行う選択肢もあります。どちらの治療法がご自身にとって最適か、生活スタイルや将来の不安なども含めて、遠慮なく医師に相談してください。一緒に納得のいく方針を見つけていきましょう。
手術になった場合の入院期間・費用・回復までの流れ
突然「手術が必要です」と告げられると、誰でも不安になるものです。手術の方法や炎症の程度によって、入院期間や費用、回復までの道のりは変わってきます。
ここでは、手術になった場合の具体的な流れを解説します。全体像を把握することで、少しでも落ち着いて治療に臨むための参考にしてください。

傷が小さい腹腔鏡手術と開腹手術の違い
急性虫垂炎の手術は、主に「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」と「開腹手術」の2つの方法から、最も安全なものが選択されます。
お腹に数カ所、5mm〜1cmほどの小さな穴を開けて行うのが腹腔鏡手術です。カメラで内部を観察しながら、細い器具を使って虫垂を切除します。一方、開腹手術は右下腹部を数cm〜10cmほど切開し、医師が直接目で見て処置を行う方法です。
それぞれの特徴と、どのような場合に選ばれるかを下表に整理します。
| 手術方法 | 特徴 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 腹腔鏡手術 | ・傷が小さく、術後の痛みが比較的少ない ・体の回復が早く、入院期間も短くなる傾向がある | ・炎症が比較的軽く、虫垂の周りにとどまっている場合 ・穿孔(穴が開くこと)や膿のたまり(膿瘍)がない、または軽度なケース |
| 開腹手術 | ・医師が直接目で見て、手で触れながら確実な処置ができる ・広い範囲の洗浄や処置が必要な場合に対応しやすい | ・虫垂の穿孔や腹膜炎など、炎症が広範囲に及んでいる重症な場合 ・過去のお腹の手術による癒着が強いと予測されるケース |
腹腔鏡手術は体へのダメージを抑えられる優れた方法ですが、炎症がお腹全体に広がっているような重症例では、確実な処置のために開腹手術が必要となります。急な腹痛の治療では、時間を置かずに重症度を正確に判断し、最適な治療方針を決めることが何よりも大切です※。
入院期間と仕事復帰の目安
手術後の入院期間や仕事に復帰できるタイミングは、手術方法や回復の早さ、そして仕事内容によって大きく左右されます。
▼入院期間の目安
- 腹腔鏡手術(軽症の場合):2日~5日程度
- 開腹手術や腹膜炎を伴う重症の場合:7日~10日以上
手術の翌日から歩く練習を始めることがほとんどで、腸の動きが戻り次第、水分から食事を再開していきます。
▼仕事復帰の目安
- デスクワークなど座り仕事の場合:退院後すぐ〜1週間程度
- 立ち仕事や力仕事の場合:退院後2週間~1ヶ月程度
これらはあくまで一般的な目安です。無理をすると回復が遅れる原因にもなるため、必ず主治医と相談し、ご自身の体の状態に合わせて復帰時期を決めることが重要といえます。多くの病院では、患者さん一人ひとりの生活に合わせた退院後の過ごし方について、親身に相談に乗ってくれます※。
痛みを我慢するために市販の鎮痛薬を飲む
市販の鎮痛薬で痛みを無理に抑え込むことは、診断の遅れにつながるため非常に危険です。
急性虫垂炎の診断では、「痛みがどこから始まり、どこへ移動したか」という時間の経過に伴う変化が、パズルのピースを組み合わせるように重要な手がかりとなります。鎮痛薬を飲むと、この最も大切なサインがわからなくなってしまうのです。
痛みの変化がマスクされてしまう
痛みが一時的に和らぐことで、「治ったかもしれない」と勘違いし、受診のタイミングを逃す原因になります。
気づかぬうちに重症化する
水面下では炎症が進行しているにもかかわらず、薬で症状が隠されている間に虫垂が破れる「穿孔(せんこう)」や、お腹全体に炎症が広がる「腹膜炎」といった重篤な状態に陥るリスクが高まります。
もし薬を飲んでしまった場合は、いつ、どの薬を飲んだのかを診察時に必ず医師に伝えてください。
お腹を温める・強くマッサージする
お腹を温めたり、痛い場所を強く押したりする行為は、炎症を火に油を注ぐように悪化させる可能性があるため、絶対にやめてください。
お腹を温める行為
カイロなどで温めると血の流れが良くなり、一時的に痛みが和らぐように感じることがあります。しかし、虫垂炎のような炎症が起きている場合、血流の増加はかえって炎症を周囲に広げてしまうことにつながりかねません。
強くマッサージする行為
痛む場所を確認しようと自分で強く押したり揉んだりするのは、極めて危険です。パンパンに腫れ上がった虫垂に外から圧力をかけることで、最悪の場合、虫垂が破れてしまう(穿孔する)引き金になりえます。
楽な姿勢で安静にし、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
自己判断で食事や水分を摂る
急性虫垂炎が疑われるときは、緊急手術の可能性も考えて、自己判断で食事や水分を摂るのは控えるのが原則です。
もし手術が必要になった場合、安全な全身麻酔のためには胃の中を空にしておく必要があります。
胃に食べ物や飲み物が残っていると、麻酔中に吐いてしまい、それが気管に入って重い肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こす危険があるからです。また、食事によって消化管が活発に動くことで、痛みが強くなることもあります。
特に吐き気や嘔吐がある場合は、無理な飲食は脱水を進める原因にもなります。受診の際には、最後に食事や水分を摂った時間を正確に医師へ伝えるようにしてください。
まとめ
大人の急性虫垂炎の初期サインは、みぞおちから右下腹部へと移動する腹痛です。我慢できないほどの痛みになる前に、受診のタイミングを逃さないことが重要といえます。
胃腸炎や婦人科疾患とも症状が似ており、特に高齢者や妊婦の方は症状がはっきりと現れないケースも少なくありません。自己判断で市販の鎮痛薬を飲んだりお腹を温めたりする行為は、診断を遅らせ重症化を招く可能性があるため注意が必要です。
歩くと響くような痛みや、これまでにない激痛、冷や汗を伴う場合は、ためらわずに救急外来を受診するか救急車を呼んでください。気になる症状があれば、まずは消化器外科などの専門医へ相談しましょう。

吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
- 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
- 日本肝臓学会認定 肝臓専門医
- 日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定難病指定医