GLP-1関連薬で食欲が落ちたとき、食事はどうする?食べられない場合の相談の目安


こちらの記事の監修医師
吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
GLP-1で「食べられない」のは順調に痩せているサインではない
GLP-1関連薬を使うと食欲が多少落ちることはありますが、「ほとんど何も食べられない」状態になるのは、順調に痩せているサインではありません。
「以前より早くお腹がいっぱいになる」という感覚と、「食事や水分を摂ること自体が苦痛で、体が受け付けない」という状態は、まったくの別物です。
後者は薬が効きすぎているか、不適切な使い方による危険なサインの可能性があります。健康を守りながら治療を進めるためにも、この違いを正しく理解することが何よりも大切です。

GLP-1関連薬で食欲が低下することはあるが、食事がほとんど取れない状態は正常な反応ではない
GLP-1関連薬には、脳の食欲中枢に働きかけて食欲を抑え、胃の動きを緩やかにして満腹感を高める作用があります。しかし、それによって生命を維持するのに必要な栄養がまったく摂れなくなるのは、正常な反応とはいえません。
「満腹になりやすい」ことと、「必要な栄養や水分を摂れない」ことは、まったく別の問題です。
食事や水分がほとんど摂れない状態が続くと、体は深刻なエネルギー不足に陥り、さまざまな不調を引き起こします。
エネルギー不足と筋肉の分解
体を動かすエネルギーが枯渇し、体は自らの筋肉を分解してエネルギー源にしようとします。結果として体力や筋力が低下し、ひどく疲れやすくなります。脱水と電解質の乱れ
食事から摂るはずの水分も不足し、脱水状態に陥ります。体の調子を整えるナトリウムやカリウムといった電解質のバランスも崩れ、めまいや不整脈などを引き起こすこともあります。危険な低血糖
特に糖尿病の治療で他の薬を併用している場合、食事量が極端に減ることで血糖値が下がりすぎ、冷や汗や動悸、意識が遠のくといった危険な低血糖症状を招くおそれがあります。
「食べられないから、どんどん痩せる」というのは、健康的な減量ではなく、体に深刻なダメージを与えているサインだと捉えるべきです。
美容・痩身目的の安易なGLP-1使用を厚生労働省も注意喚起している
厚生労働省は、本来の目的である2型糖尿病や肥満症の治療以外に、美容や痩身目的でGLP-1関連薬を安易に使うことに対し、健康被害のリスクがあるとして繰り返し注意を呼びかけています。※
GLP-1関連薬は、医師の厳格な管理のもと、適切な用法・用量を守って初めて効果と安全性が期待できる医療用医薬品です。承認された使い方をしても、吐き気、嘔吐、下痢、便秘といった消化器症状は、比較的起こりやすい副作用として報告されています。※
美容クリニックなどでの自由診療や個人輸入による適応外使用では、どのような副作用がどのくらい起こるのか、その安全性はまったく確認されていません。
- 「自由診療のクリニックで処方されたから安全」
- 「SNSでたくさんの人が使っているから大丈夫」
このような考えは非常に危険です。万が一、重い副作用が起きた場合に、適切な診断や治療が遅れてしまうことにもなりかねません。本来の目的ではない安易な使用は、思わぬ健康被害を招くおそれがあることを、十分に理解しておきましょう。
ケトーシスとケトアシドーシスは違う|危険なのは代謝性アシドーシスを伴う状態
「ケトーシス」と「ケトアシドーシス」は、名前が似ていますが全く異なる状態です。危険なのは、体が酸性に傾く「ケトアシドーシス」の方です。
ケトーシス
体がエネルギー源として脂肪を使い、その過程で「ケトン体」という物質が増えている生理的な状態。ケトアシドーシス
ケトン体が異常に増えすぎて血液が酸性に傾き(代謝性アシドーシス)、体の機能に支障をきたす病的な状態。
「ケトン体が出ている=脂肪がよく燃えている証拠」と安易に考えるのは危険です。特にGLP-1関連薬で食事がほとんどとれない状態が重なると、生命に関わるケトアシドーシスに至る可能性があります。
食事不足や極端な糖質制限で体内のケトン体が増えることがある
食事からの糖質(炭水化物)が極端に不足すると、私たちの体はエネルギーを作り出すために、代わりに脂肪を分解し始めます。この過程で肝臓が作り出すのが「ケトン体」です。
短時間の絶食や厳しい糖質制限でも、ケトン体が増える「生理的ケトーシス」という状態は起こりえます。
しかし、GLP-1関連薬による強い食欲不振に、自己判断による極端な糖質制限や嘔吐による食事摂取不良が重なると、ケトン体の産生にブレーキがかからなくなり、血液中にあふれ出てしまうことがあります。
日本肥満学会も、インクレチン関連薬(GLP-1関連薬など)の使用と過度な食事制限が重なることで、ケトーシスやケトアシドーシスといった健康障害のリスクが高まることに注意を促しています。
絶食・嘔吐が続くと「飢餓性ケトアシドーシス」に至ることがある
糖尿病がない人でも、絶食や繰り返す嘔吐で全く食事がとれない状態が続くと、「飢餓性ケトアシドーシス」という危険な状態に陥ることがあります。
GLP-1関連薬の強い副作用で食事や水分が全く摂れず、脱水状態に陥ると、このリスクは一層高まります。「薬の副作用だから仕方ない」と放置し、食事をとらないまま過ごすのは非常に危険です。
特に「薬剤の使用」「極端な食事制限」「嘔吐や脱水」といった複数の要因が重なることで、重篤なケトアシドーシスを引き起こす危険性が高まると専門家からも指摘されています。
実際に、肥満症や糖尿病がない方が減量目的でGLP-1関連薬を使用し、このような事例が増加していることも報告されており、安易な使用は絶対に避けるべきです。
糖尿病患者では糖尿病性ケトアシドーシスにも注意する
糖尿病の方がGLP-1関連薬を使用する場合、インスリンの作用が不足することで起こる「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」には特に注意が必要です。
DKAは、体内のインスリンが極端に不足し、ブドウ糖をエネルギーとして利用できなくなることで発症します。その結果、体は代わりに脂肪を大量に分解してケトン体を作り出し、血液が危険なレベルまで酸性に傾いてしまうのです。
特に危険なのが、「GLP-1関連薬を始めたから」という理由で、インスリン注射を自己判断でやめてしまうことです。これは命に関わるため、絶対に行わないでください。
また、感染症による発熱や食事がとれない状態(シックデイ)もDKAの引き金になるため、体調が悪い時は速やかに主治医に相談しましょう。
SGLT2阻害薬を併用している場合は正常血糖ケトアシドーシスにも注意する
SGLT2阻害薬という種類の糖尿病治療薬をGLP-1関連薬と併用している場合、血糖値がそれほど高くないにもかかわらずケトアシドーシスが起こる「正常血糖ケトアシドーシス」に厳重な注意が必要です。
通常の糖尿病性ケトアシドーシスは高血糖を伴いますが、SGLT2阻害薬の作用により、血糖値が正常範囲でもケトアシドーシスが進行することがあります。このため、「血糖値は高くないから大丈夫」という自己判断は決してしないでください。
特に、以下の状況が重なるとリスクが高まります。
- 食事や水分が十分に摂れていない
- 極端な糖質制限を行っている
- 過度なアルコールを摂取した
- 発熱や下痢、嘔吐がある
SGLT2阻害薬とGLP-1関連薬を併用中に体調不良を感じた際は、ケトアシドーシスの可能性も念頭に置き、早めに医療機関を受診することがご自身の命を守るために重要です。
「糖質ゼロ」「ほぼ絶食」で痩せるのは危険|食事が取れないなら治療を見直す
GLP-1関連薬で食欲が落ちているからといって、「糖質ゼロ」や「ほぼ絶食」といった極端な食事制限を組み合わせることは、健康を著しく損なう危険な行為です。食事がほとんど摂れないほどの状態は、薬が順調に効いている証拠ではなく、治療方法そのものを見直すべきサインと捉える必要があります。薬の力で「食べずに痩せる」ことは、決して健康的な減量ではありません。
炭水化物・たんぱく質・脂質を含め必要な栄養を確保する
健康的に体重をコントロールする上で、炭水化物・たんぱく質・脂質といった三大栄養素と、ビタミン・ミネラルをバランス良く摂ることは大前提です。
GLP-1関連薬を使っているからといって、食事をないがしろにしてよいわけではありません。治療の目的は「食べないこと」ではなく、「必要な栄養を確保しながら、摂取エネルギーを適正化すること」にあります。
厚生労働省も、健康的な食事の基本として「主食・主菜・副菜」をそろえることを推奨しています※。以下のポイントを意識して、食事内容を見直してみましょう。
- 主食(炭水化物): ご飯やパン、麺類など。脳や体を動かす主要なエネルギー源です。極端に抜かず、適量を摂ることが重要です。
- 主菜(たんぱく質): 肉、魚、卵、大豆製品など。筋肉や臓器、血液の材料となり、体の基礎を作ります。
- 副菜(ビタミン・ミネラル): 野菜、きのこ、海藻など。体の調子を整え、主食や主菜の働きを助けます。
食欲が落ちているときは、一度に多くの量を食べようとせず、少量ずつでも栄養バランスを意識した食事を摂ることが大切です。
筋肉量を落としすぎないために十分なたんぱく質と運動を意識する
減量中は、脂肪だけでなく筋肉も一緒に落ちてしまいがちです。これを防ぐには、十分なたんぱく質を摂り、適度な運動を続けることが欠かせません。
食事量が減ると、私たちの体はエネルギー不足を補うために、脂肪だけでなく筋肉も分解してしまいます。筋肉が減ると基礎代謝(じっとしていても消費されるエネルギー)が低下するため、かえって痩せにくい体質になったり、体力が落ちて疲れやすくなったりするのです。
特にご高齢の方では、筋肉が過度に減少すると「サルコペニア」という状態に陥り、将来の転倒や寝たきりのリスクを高めてしまいます。
筋肉量をできるだけ維持するためには、以下の2点を意識してください。
- 十分なたんぱく質を摂る: 肉、魚、卵、大豆製品などを毎食少しずつでも取り入れましょう。
- 適度な運動を続ける: ウォーキングのような有酸素運動に加え、軽い筋力トレーニングを組み合わせるのが理想的です。
健康的な減量とは、単に体重計の数字を減らすことではありません。体の構成、特に筋肉を維持しながら、余分な脂肪を減らしていくことが大切です。
体調不良時はどうする?GLP-1使用中のシックデイ対応
GLP-1関連薬の使用中に、発熱や嘔吐、下痢などで食事がとれなくなる「シックデイ」と呼ばれる状態に陥った場合、自己判断での対応は禁物です。食事ができない状態で薬を使い続けると、脱水や低血糖、さらには命に関わるケトアシドーシスといった深刻な事態を招く危険性があります。いつもとは違う「病気の日」だからこそ、薬の調整も含めて慎重な判断が求められます。
発熱・嘔吐・下痢などで食事や水分が取れない場合は早めに処方医へ相談する
発熱や嘔吐、下痢によって食事や水分がまともに摂れない状態になったら、自己判断で様子を見ず、まずは薬を処方した医師へ速やかに相談してください。食事量が減った状態でGLP-1関連薬の作用だけが続くと、脱水や栄養バランスの乱れが急激に進行するおそれがあります。
特に、以下の状態は体が危険な状態に陥っているサインです。
- 水分すら受け付けない
- 何度も吐いてしまう
- 高熱が続く
厚生労働省も、食事が全く摂れない、あるいは下痢や嘔吐がひどい場合には、すぐに主治医に連絡するか受診するよう注意喚起しています※。
「食べられないのに体重が減っているから」と薬を使い続けるのは、健康を著しく損なう危険な行為です。速やかな相談がご自身の体を守ることにつながります。
糖尿病治療中はインスリンや他の血糖降下薬を自己判断で調整しない
糖尿病の治療でインスリンや他の血糖降下薬を併用している方がシックデイに陥った場合、それらの薬を自己判断で調整することは命に関わるため、絶対に行わないでください。
なぜなら、食事量に応じて薬の調整が必要になりますが、その判断は非常に繊細だからです。
- 自己判断で中止するリスク: 食事が摂れないからとインスリン注射などをやめてしまうと、体内のインスリンが極端に不足し、血糖値が急上昇して「糖尿病性ケトアシドーシス」という危険な状態を招くおそれがあります。
- 自己判断で継続するリスク: 逆に、食事を摂らずにインスリンやSU薬(インスリン分泌を促す薬)を普段通りに使うと、血糖値が下がりすぎて重症の低血糖を引き起こす危険があります。
薬を「続けるか」「やめるか」「減らすか」は、医師による専門的な判断が不可欠です。必ずかかりつけ医に連絡し、具体的な指示を仰いでください。
脱水を避け、尿量低下や強い口渇がある場合は受診を検討する
シックデイで特に警戒すべきなのが脱水です。尿量の低下や強い口の渇きは、体が危険な水分不足に陥っているサインであり、速やかな受診を検討すべき状態といえます。
嘔吐や下痢、発熱は、体から水分と電解質(塩分など)を大量に奪います。脱水はケトアシドーシスの引き金になるだけでなく、腎臓への負担を増やしたり、血液がドロドロになって血栓ができやすくなったりと、さまざまな合併症のリスクを高めるのです。
以下のサインは、体が発するSOSです。
- 半日以上、尿がほとんど出ていない
- 口の中や舌が乾いてひっつく感じがする
- 立ち上がるとクラクラする、めまいがひどい
- ぐったりして明らかに元気がない
厚生労働省も「強い口の渇き」を受診の一つの目安として挙げています※。
水分補給には、水やお茶だけでなく、塩分や糖分も同時に補える経口補水液が適しています。ただし、心臓や腎臓の病気で水分制限を指示されている方は、自己判断で大量に飲まず、必ず医師の指示に従ってください。
「食べられない」時はGLP-1を続けない|受診すべきタイミング
GLP-1関連薬の使用中に「食べられない」ほどの状態になったら、それはダイエットが順調に進んでいるサインではありません。治療方針を見直すべき、体からの危険なSOSと受け止めてください。
食欲が少し落ちることと、食事や水分を摂ること自体が苦痛になる状態は、全くの別物です。ご自身の体を守るために、どのような症状が出たら医療機関に相談すべきか、具体的な目安をしっかりと理解しておきましょう。

水分も取れない・何度も吐く・強い腹痛がある場合は速やかに医療機関へ
水分すら体が受け付けない、1日に何度も吐いてしまう、我慢できないほどの強い腹痛が続く、といった場合は、自己判断で様子を見ずに速やかに医療機関を受診してください。
これらの症状は、薬のよくある副作用として片付けられるものではなく、脱水や急性膵炎、さらには命に関わる「ケトアシドーシス」といった重篤な病態を示している可能性があります。特に注意したいのは、ケトアシドーシスの初期症状である吐き気や嘔吐が、薬の一般的な副作用と見分けがつきにくい点です。日本肥満学会も、このために対応が遅れる危険性を指摘しています※。
以下のような症状が一つでも当てはまる場合は、すぐに医師に相談してください。
- 水分を飲んでもすぐに吐いてしまう
- 1日に何度も嘔吐を繰り返す
- お腹や背中に、これまでにないような強い痛みが続く
厚生労働省も、感染症などで食事ができない「シックデイ」の際には、嘔吐が強い場合はすぐに主治医に連絡するよう呼びかけています※。GLP-1関連薬の使用中もこれと同様に、我慢せずに相談することがご自身の体を守るために不可欠です。
強い倦怠感・呼吸が深く速い・意識がぼんやりする場合は緊急受診を検討する
起き上がれないほど体がだるい、意識していないのにため息のような深く速い呼吸を繰り返す、頭がぼんやりして呼びかけへの反応が鈍いといった症状は、命に関わる緊急サインの可能性があります。ためらわずに救急受診を検討してください。
これらの症状は、体がエネルギー不足の極限状態に陥り、血液が酸性に傾く「ケトアシドーシス」という非常に危険な状態で見られることがあります。
日本肥満学会は、ケトアシドーシスの兆候が見られた場合、直ちに薬の使用と過度な食事制限を中止し、速やかに医療機関を受診する必要があると強く注意喚起しています※。ご自身やご家族に以下のような変化が見られたら、決して様子を見ず、救急車の要請もためらわないでください。
- 強い倦怠感:体が鉛のように重く、起き上がれない
- 呼吸が深く速い:ハアハアとあえぐような、乱れた呼吸
- 意識がぼんやりする:話が噛み合わない、ろれつが回らない
処方医には薬の種類・投与量・最終投与日・食事量・体重減少速度を伝える
医療機関を受診する際は、医師が的確に診断し、迅速に治療を開始できるよう、ご自身の状況をできるだけ詳しく伝えることが何よりも重要です。体調が悪くてうまく話せない場合に備え、以下の情報をメモにまとめておくと安心です。
【医師に伝えるべき情報リスト】
- 使用中の薬:GLP-1関連薬の名前と量(例:リベルサス7mg、週1回マンジャロ5mgなど)
- 最終投与日:最後に薬を注射、または服用した日付と時間
- 食事の状況:いつから、どのくらい食べられていないか(例:昨日から水分のみ、など)
- 体重の変化:「1カ月で〇kg減った」など、体重が減ったペース
- その他の症状:嘔吐や下痢の回数、尿の量や色、腹痛の有無・部位など
- 糖質制限の有無:自己判断で極端な糖質制限や絶食をしていないか
- 併用薬:他に服用している全ての薬(特にSGLT2阻害薬などの糖尿病治療薬、利尿薬)
これらの情報は、医師が脱水や低血糖、ケトアシドーシスのリスクを判断し、適切な治療方針を決めるための極めて重要な手がかりとなります※。
GLP-1による減量は「食べられなくなるまで続ける治療」ではない
GLP-1関連薬を使った減量は、食べ物を見るのもつらくなるまで、あるいは食事が全くとれなくなるまで続けるような苦行ではありません。この薬の本来の目的は、あくまで食事療法や運動療法をサポートし、健康的な食習慣を身につける手助けをすることにあります。
水分すら満足に摂れないほどの状態は、薬が「よく効いている」のではなく、「効きすぎている」危険なサインです。体重計の数字だけを追い求めて必要な栄養が摂れず、体を支える筋肉まで落ちてしまっては、かえって不健康な結果を招いてしまいます。
承認された肥満症治療では適応・用量・経過を医師が管理する
日本で肥満症の治療薬として承認されているGLP-1関連薬は、医師が適応を厳密に判断し、用法・用量、治療の経過を責任をもって管理することが大前提です。これは美容目的で誰でも自由に使える薬ではありません。
治療の対象となるのは、食事療法や運動療法を十分に行っても効果が不十分で、医学的に減量が必要だと診断された方に限られます。
医師の管理がなぜ重要かというと、ただ薬を処方するだけではないからです。
治療中は、副作用が出ていないか、安全に効果が得られているかを確認しながら、一人ひとりの体質や反応に合わせて慎重に用量を調整していきます。
厚生労働省も、承認された効能・効果や用法・用量の範囲で薬を使うことの重要性を強調しており、適応外の使用では安全性はまったく確認されていないと強く注意を促しています※。
美容目的のGLP-1ダイエットを自己判断で継続・増量しない
美容や痩身を目的としてGLP-1関連薬を使用している場合、自己判断で薬を続けたり、量を増やしたりすることは極めて危険です。美容目的での使用は、そもそも国が安全性や有効性を認めた使い方(適応)ではありません※。
「最近、体重がなかなか減らないから」といった理由で安易に薬の量を増やすと、強い吐き気や嘔吐といった副作用が強く出るだけでなく、急性膵炎などの重篤な健康被害につながるおそれがあります。
また、「早く効かせたいから」と飲むタイミングなどを自己流で変えることも、予期せぬ副作用を招く原因になりかねません※。
強い副作用が出ているにもかかわらず、「痩せるためだから」と無理に続けることは、健康を著しく損なう行為です。必ず処方を受けた医師に相談してください。
体重だけでなく栄養状態・筋肉量・体調を含めて減量の安全性を評価する
安全で健康的な減量とは、単に体重計の数字を減らすことではありません。栄養状態や筋肉量、そして日々の体調を含めて、総合的に評価する必要があります。
体重の数字だけを追いかけると、健康維持に不可欠な筋肉まで失ってしまいがちです。体重が減っていても、
- 常に体がだるく、疲れやすい
- 階段を上るだけで息切れがする
- 貧血や栄養不足を指摘された
といった状態では、その減量は成功とはいえません。
特に筋肉量が減ると基礎代謝が落ち、かえって痩せにくくリバウンドしやすい体質になってしまいます。日本肥満学会も、不適切な減量が骨や生殖機能などに悪影響を及ぼす可能性を指摘しています※。
ご自身の体力を保ち、健康的な生活を送ることを第一に考え、体重の変化だけでなく総合的な体調を見ながら減量を進めることが何よりも大切です。
まとめ
GLP-1関連薬で食欲が落ち、食事がほとんど摂れないほどの状態は、治療が順調なサインではなく、薬が効きすぎている危険な兆候です。
この薬は「食べずに痩せる」ためのものではなく、あくまで健康的な食生活をサポートするものとされています。自己判断による極端な食事制限は、ケトアシドーシスなどの深刻な事態を招く危険性があります。体重の数字だけを追うのではなく、栄養状態や体調を総合的に見ながら安全に治療を進めましょう。
水分も摂れないほどの食欲不振や繰り返す嘔吐、強い腹痛や倦怠感など、気になる症状があれば、決して我慢せず速やかに処方医へ相談してください。
参考文献
- 日本肥満学会. 安全な減量に関するステートメント ―インクレチン関連薬を用いた減量によるケトーシス関連事象の注意喚起―.
- 厚生労働省. GLP―1受容体作動薬及びGIP/GLP―1受容体作動薬の適正使用について.
- 厚生労働省. マンジャロ・リベルサスなどの2型糖尿病治療薬の美容・痩身目的での使用による健康被害にご注意ください.
- 厚生労働省. 糖尿病の食事 | 生活習慣病などの情報(e-ヘルスネット).
- 厚生労働省. Q4-16. シックデイについて、対応のポイントを教えてください.
- 公益財団法人日本医療機能評価機構. 薬局ヒヤリハット事例.
追加情報
タイトル: 安全な減量に関するステートメント ―インクレチン関連薬を用いた減量によるケトーシス関連事象の注意喚起―
著者: 日本肥満学会 肥満症治療薬の適正使用ワーキンググループ
概要:
- 背景: 肥満症の減量治療は有効である一方、本質的にリスクを伴う。近年、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬などのインクレチン関連薬が登場し、減量への認識が「容易」と変化する中で、適応外使用や過度な食事制限を伴う減量行動による健康障害のリスクが懸念されている。
- 目的: 健康を損なうことのない安全な減量行動の重要性を周知し、インクレチン関連薬を用いた減量に伴い増加しているケトーシスやケトアシドーシスなどのケトーシス関連事象への注意喚起を行う。
- 主要な知見: 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の副作用データベースや症例報告から、インクレチン関連薬の使用中にケトーシス関連有害事象が多数報告されており、特に2型糖尿病や肥満症を有さない例への減量目的の使用で増加傾向にある。これは薬剤使用と過度の食事制限や急速な減量といったリスクの高い行動が複合的に関与すると考えられる。
- 注意点: ケトーシス関連事象の症状(悪心、嘔吐など)が薬剤の一般的な副作用と誤認され、適切な対応が遅れる可能性がある。また、低体重が骨代謝異常や生殖機能障害など多様な健康障害の原因となることにも留意が必要である。
- 呼びかけ: 医療者と薬剤使用者の双方が、不適切な減量行動による健康障害、特にケトーシス関連事象について十分に認識し、安全な減量行動と薬剤の適正使用を実践するよう促している。
要点:
- 減量は肥満関連健康障害の予防・改善に有効だが、安全性に十分配慮し、減量自体が医学的に適切であるか判断すべきである。
- インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)の適応外使用や過度な食事制限・急速な減量との併用は、肥満症や糖尿病がない人でもケトーシスやケトアシドーシスといった重篤なケトーシス関連事象を引き起こすリスクがある。
- 過度な食事制限や糖質制限を行いながらインクレチン関連薬を使用することは絶対に避けるべきであり、過度なアルコール摂取やSGLT2阻害薬との併用もケトーシスリスクを高めるため注意が必要である。
- ケトーシス関連事象の兆候(甘酸っぱい口臭、むかつき・嘔吐・腹痛、食事・水分摂取困難、強い全身倦怠感、意識障害など)が見られた場合は、直ちに薬剤の使用と食事制限を中止し、速やかに医療機関を受診する必要がある。
- 医療者はインクレチン関連薬を処方する際、不適切な減量行動による健康障害(特にケトーシス関連事象)のリスクについて、使用者に対し十分に説明し、適切な対応を促す責任がある。

吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
- 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
- 日本肝臓学会認定 肝臓専門医
- 日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定難病指定医