
こちらの記事の監修医師
吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
この記事では、便秘で腹痛が起こるメカニズムから、厚生労働省も推奨する食事法、市販薬の正しい選び方と限界、そして重大な病気を見逃さないための受診の目安まで詳しく解説します。
なぜ便秘で腹痛が起こるのか?考えられる3つの原因
便秘に伴うお腹の痛みは、ただ便が詰まっているからという単純な話ではありません。腸が引き伸ばされること、溜まったガス、そして便を外に出そうとする腸自身の動きという3つの要素が複雑に絡み合って生じます。
もし便秘に加えてお腹の痛みが主な症状であるなら、「過敏性腸症候群(IBS)」という病気の可能性も考えられます。※

1. 硬い便が腸を圧迫する痛み
便が長時間にわたって大腸や直腸にとどまることで腸が引き伸ばされ、これが圧迫感や鈍い痛みの原因となります。
大腸の中をゆっくりと進む便からは水分が必要以上に吸収されてしまい、まるで石のようにカチカチに硬くなります。この硬い便が腸の壁を直接刺激するだけでなく、腸全体が引き伸ばされること(伸展刺激)で、重苦しい痛みや不快感が生じるのです。
特に、便の出口である直腸に便がたまっているのにうまく出せない状態では、以下のような症状が起こりやすくなります。
- 強い残便感(まだ便が残っている感じ)
- 肛門が詰まるような不快感
ご高齢の方などでは、大量の便が固まって栓のようになってしまう「糞便塞栓」という状態に陥ることもあります。この場合、強い腹痛や吐き気、食欲不振などを伴うため注意が必要です。※
2. 腸内に溜まったガスによる張りや痛み
便秘によって腸内にガスがたまりやすくなり、お腹がパンパンに張って苦しい痛みを感じることがあります。
腸内のガスは、食事の際に飲み込んだ空気や、腸内細菌が食べ物を分解(発酵)する過程で発生します。便秘で便の通り道がふさがれていると、このガスもスムーズに外に出ることができず、腸の中に滞留してしまいます。
たまったガスが風船のように腸を内側から膨らませることで、お腹の張り(腹部膨満感)や重苦しい痛みを感じるのです。
ただし、必ずしもガスの量が多いことだけが原因ではありません。人によっては、腸が刺激に対して過敏になっている「内臓知覚過敏」という状態が関係していることもあります。特に過敏性腸症候群(IBS)の方では、通常なら気にならない程度のガスでも、強い張りや痛みとして感じてしまうことがあります。※
3. 便を出そうとする腸の動きによる痛み
硬くなった便やたまったガスを体の外に排出しようと腸が強く動く(収縮する)際に、差し込むような痛みや波のある腹痛を感じることがあります。
私たちの腸は「ぜん動運動」という波のような動きによって、内容物を少しずつ肛門の方向へと送り出しています。便秘で便やガスが腸内に滞ると、腸はそれをなんとか外に出そうとして、通常よりも強く、あるいは不規則に収縮することがあります。この過剰な動きが、お腹のキリキリとした差し込むような痛みの正体です。
排便したりおならが出たりした後に痛みが少し和らぐ場合は、この腸の動きが痛みの原因である可能性が高いといえます。
ただし、次のような症状は「腸閉塞」など緊急性の高い病気のサインかもしれません。「いつもの便秘の痛み」とご自身で判断せず、すぐに医療機関を受診してください。
- 突然の我慢できないほどの激痛
- お腹が板のように硬くなる
- 吐き気を繰り返す
- 便もおならも全く出ない
医師が解説する慢性便秘症の治療ゴール
慢性便秘症の治療で目指すゴールは、単に「毎日出すこと」ではありません。腹痛やお腹の張りといった不快な症状を取り除き、心身ともに快適な排便習慣を取り戻すことにあります。
つい「何日出ていないか」という回数ばかり気にしてしまいがちですが、治療で本当に大切なのは、つらい症状そのものをなくすことです。回数という数字にとらわれず、ご自身の「つらさ」と向き合うことが、治療のスタートラインになります。
目指すは「スムーズに排便できる状態」
治療における理想的な状態とは、いきまずに「スルッ」と出る、大きく柔らかいバナナ状の便を気持ちよく排便できることです。※
例えば、「3日に1回でも苦痛なくスッキリ排便できる方」と、「毎日出ていても、ウサギのフンのような硬い便で強くいきみ、お腹に残った感じがする方」を比べた場合、治療が必要なのは明らかに後者の方といえます。
このように、治療では排便回数という数字よりも、ご自身の感覚を大切にします。具体的には、以下の点が改善しているかを確認していきます。
- 便の硬さ: 硬すぎず、柔らかすぎない理想的な状態か(※)
- 排便時の感覚: 強くいきまずに、スムーズに出せているか
- 排便後の感覚: 便が残っている感じ(残便感)がなく、スッキリしているか
- お腹の症状: 腹痛やお腹の張りが軽くなっているか
(※)便の硬さは「ブリストル便形状スケール」という世界的な指標で評価され、タイプ4の「表面がなめらかで柔らかいソーセージ状、あるいはヘビのようなとぐろを巻く便」が理想とされています。
治療の目的は、こうした一つひとつの悩みを解消し、排便のことで頭を悩ませずに日々を過ごせるようにすることにあります。
治療の第一選択となる薬の種類
食事や運動といった生活習慣の見直しで改善が見られない場合、薬物治療を検討します。「薬に頼るのは抵抗がある」と感じる方もいらっしゃいますが、つらい症状を我慢し続けることはありません。適切に薬を使うことは、慢性便秘症のつらさから抜け出し、快適な毎日を取り戻すための有効な手段です。
現在の慢性便秘症治療では、まず「浸透圧性下剤」から開始するのが一般的です。
| 薬の種類 | 働き方のイメージ | 特徴 |
|---|---|---|
浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ポリエチレングリコールなど) | 腸の中に水分を集めて、カチカチの便を柔らかくする | ・腹痛が起こりにくい ・クセになりにくく、自然に近い排便を促す ・慢性便秘症治療の基本となる薬※ |
刺激性下剤(センノシド、ピコスルファートなど) | 腸の壁を直接刺激して、強制的に腸を動かす | ・効果は比較的速いが、腹痛を伴いやすい ・長期の連用で効果が弱まることがある |
このほかにも、腸からの水分分泌を促す「上皮機能変容薬」や、便を送り出す腸の動きをサポートする薬など、新しいタイプの治療薬も登場しており、症状や便秘のタイプに合わせて使い分けます。
酸化マグネシウムを長期使用する際の注意点
酸化マグネシウムは市販もされており、広く使われている安全性の高い薬ですが、長期にわたって使用する場合にはいくつか知っておいてほしい注意点があります。
特に、腎臓の機能が低下している方やご高齢の方が使用する際は、血液中のマグネシウム濃度が異常に高くなる「高マグネシウム血症」に注意が必要です。※
薬の成分であるマグネシウムは、主に腎臓の働きによって尿として体の外へ排出されます。そのため、加齢や病気で腎臓の機能が落ちていると、マグネシウムをうまく排出できず、体内に溜まりすぎてしまうことがあるのです。
高マグネシウム血症が起こると、以下のような初期症状が現れることがあります。
- 吐き気、嘔吐
- 筋力の低下、体のだるさ
- 強い眠気
- 脈が遅くなる、ふらつき
最近の報告では、腎機能が正常な方でも、自己判断で長期間にわたり服用を続けた結果、重篤な高マグネシウム血症に至ったケースも確認されています。
手軽に手に入るからといって、ご自身の判断で量を増やしたり、目的もなくただ飲み続けたりすることは推奨されません。特に腎臓の病気を指摘されている方やご高齢の方は、必ず医師の管理のもとで服用し、定期的に血液検査などで体の状態を確認することが大切です。
重大な病気を見逃さないための大腸カメラ検査
便秘の背後に隠れている大腸がんや炎症性腸疾患といった病気を見逃さないために、大腸カメラ検査は行われます。「いつもの便秘」と考えている症状が、実は治療を必要とする病気のサインである可能性もゼロではありません。
もちろん、すべての便秘に大腸カメラが必要なわけではありません。しかし、医師が診察したうえで必要と判断した場合には、ご自身の腸の状態を正確に把握するための、きわめて重要な検査となります。

なぜ大腸カメラ(内視鏡検査)が重要なのか
大腸カメラ検査が重要視されるのは、医師が直接、腸の粘膜をすみずみまで観察できる唯一の方法だからです。これにより、レントゲンやCTではわからないような、ごく初期のポリープやがん、炎症の有無などを正確に診断できます。
「いつもの便秘」という自己判断で放置してしまうと、こうした重大な病気を見過ごすリスクがあります。
例えば、便秘と腹痛が続く「過敏性腸症候群(IBS)」を診断する際も、まずは他の病気がないことを確かめる目的で、大腸カメラ検査が行われることがあります※。
「体質だから」とあきらめてしまう前に、一度ご自身の腸の中を詳しく調べることは、将来の安心につながる大切な一歩といえます。
大腸カメラで発見できる病気
大腸カメラでは、便秘や腹痛の原因となりうる、以下のような病気を直接観察し、発見できます。
大腸がん・大腸ポリープ
がんやポリープが大きくなると腸の内腔が狭くなり、便が通りにくくなることで頑固な便秘や腹痛を引き起こします。早期に発見できれば、内視鏡治療など、体への負担が少ない方法で治せる可能性が高まります。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
腸に慢性の炎症が起こる病気です。腹痛や血便、下痢が主な症状として知られていますが、炎症によって腸の動きが悪くなり、結果として便秘を招くこともあります。
大腸憩室症(憩室炎)
腸の壁にできる小さなくぼみ(憩室)に便がはまり込んで炎症を起こすと(憩室炎)、急な強い腹痛や発熱の原因となります。
これらの病気は症状だけでは区別が難しいため、正確な診断のためには、腸の内部を直接観察することが不可欠です。
検査を受けるべきタイミング
長引く便秘や腹痛に加えて、これからお話しするような「危険なサイン(警告症状)」が見られる場合は、検査を検討すべきタイミングです。症状が強い時や、いつもと違うと感じる時は、ご自身で判断して様子を見ずに医療機関へ相談してください※。
以下のような症状がある方は、一度専門医に相談し、大腸カメラ検査を検討することをおすすめします。
- これまでになかった便秘が急に始まった、または急に悪化した
- 市販の便秘薬をあれこれ試しても、症状がまったく改善しない
- 便に血が混じる、または健康診断の便潜血検査で陽性だった
- 原因不明の貧血(鉄欠乏性貧血)を指摘された
- ダイエットなどをしていないのに、ここ数カ月で急に体重が減った
- 腹痛がだんだん強くなる、または常に痛みが続く
- ご両親や兄弟姉妹など、血縁者に大腸がんになった人がいる
これらのサインは、体が発している重要なメッセージかもしれません。決して見過ごさずに、専門医による適切な診断を受けるようにしましょう。
食物繊維が排便回数や便の量に与える影響
食物繊維は、人の消化酵素では分解されずに大腸まで届き、便の「量」と「質」の両方に直接働きかけます。
まず、食物繊維は水分を吸収して便そのもののカサを物理的に増やします。十分な大きさになった便は、腸の壁を適度に刺激し、「便を出したい」という自然な便意につながるのです。
実際に、食物繊維の摂取量を増やすと、排便の回数や量が増加することが多くの研究で示されています※。「週に3回未満」といった排便回数の減少だけでなく、硬くなった便が腸内にとどまることで生じる腹痛や張りも、食物繊維によって便が適切な硬さと量を保つことで和らぐことが期待できます。
日々の食事で意識的に食物繊維を摂ることは、お腹の不快感を根本から見直すための大切な一歩といえます。
効率的に食物繊維を摂取できる食品
食物繊維には大きく分けて2つの種類があり、それぞれ異なる働きで便秘の改善を助けます。大切なのは、この「水溶性」と「不溶性」をバランスよく食事に取り入れることです。
| 種類 | 働き方のイメージ | 多く含む食品 |
|---|---|---|
| 水溶性食物繊維 | 水に溶けてゲル状になり、カチカチの便を柔らかくして、腸の中をスムーズに滑りやすくする。 善玉菌のエサになり、腸内環境を整える働きも。 | ・海藻類(わかめ、昆布、もずく) ・熟した果物(りんご、バナナ) ・大麦、オートミール |
| 不溶性食物繊維 | 水分を吸って大きく膨らみ、便のカサを増やして腸の壁を刺激し、腸のぜん動運動を活発にする。 | ・根菜類(ごぼう、にんじん) ・きのこ類、豆類 ・玄米、全粒粉パン |
ただし、ここで一つ知っておいてほしい重要な注意点があります。便秘でお腹の張りが特に強い方が、良かれと思って急にごぼうや玄米などの「不溶性」食物繊維を大量に摂ると、かえって症状が悪化することがあるのです。
これは、腸内でガスが発生しやすくなり、ただでさえパンパンに張ったお腹をさらに苦しくさせてしまうためです。
もし食物繊維を意識して摂るなら、まずは海藻や果物といった「水溶性」のものを中心に試すのがよいでしょう。そして、どんな食品でも少量から始め、ご自身の体調やお腹の張りの変化をよく観察しながら、少しずつ量を調整していくことが何よりも大切です。
専門医が教える 正しい市販薬の選び方と限界
市販の便秘薬は、ご自身の症状や便の状態に合わせて正しく選ぶ必要がありますが、その効果には限界があり、自己判断で使い続けることには注意が求められます。
ドラッグストアで手軽に買える薬は、つらい症状を一時的に和らげる頼もしい存在です。しかし、それらが便秘の根本原因を治すわけではありません。特に腹痛を伴う場合、薬の選び方次第ではかえって症状を悪化させてしまう可能性もあります。
大切なのは、安易に強い薬に頼るのではなく、まずは薬ごとの特性をきちんと知り、ご自身の状態に合ったものを見極めることです。

薬の種類と作用メカニズムの違い
市販の便秘薬は、主に便を柔らかくするタイプと、腸を直接動かすタイプに大別され、その働き方が全く異なります。ご自身の便の状態や腹痛の有無に応じて、適切に使い分けることが肝心です。
それぞれの特徴を、下表に整理します。
| 薬の種類 | 働き方のイメージ | こんな方におすすめ | 注意点 |
|---|---|---|---|
非刺激性下剤(酸化マグネシウムなど) | 腸の中に水分を集めて、カチカチの便をスポンジのように柔らかくする。 | ・便が硬くて出すのがつらい方 ・腹痛を避け、自然に近いお通じを目指したい方 | ・効果の現れ方が穏やか ・腎臓の機能が低下している方は、長期使用で「高マグネシウム血症」になるリスクがある |
刺激性下剤(ビサコジル、センノシドなど) | 大腸の壁を直接刺激し、腸のぜん動運動を強制的に引き起こして排便を促す。 | ・一時的に、スッキリと便を出し切りたい方 | ・腹痛を伴いやすい ・長期にわたって連用すると腸が刺激に慣れてしまい、効果が弱まることがある |
便がカチカチに硬い方は、まず酸化マグネシウムに代表される「非刺激性下剤」で便を柔らかくするのが基本といえます。
一方で、すでに腸が過敏になってキリキリと痛むような方が「刺激性下剤」を使うと、腸への刺激が過剰になり、痛みがさらに強まることがあります。どちらがご自身の症状に合っているかわからない場合は、購入前に薬剤師に相談するのがよいでしょう。
市販薬で改善しない場合に考えるべきこと
市販薬を試しても便秘や腹痛が改善しない場合、それは薬が合っていないか、あるいは便秘の裏に別の原因が隠れているサインかもしれません。
自己判断で薬を飲み続けることは、根本的な原因の発見を遅らせるリスクがあります。例えば、以下のような可能性が考えられます。
便秘のタイプと薬が合っていない
便意はあるのに肛門のところで詰まって出ない「便排出障害」という状態では、いくら便を柔らかくしたり腸を動かしたりする薬を飲んでも、根本的な解決には至りません。
別の病気が隠れている
大腸がんや炎症性腸疾患などによって腸が物理的に狭くなり、便が通りにくくなっているケースも考えられます。この場合、下剤で無理に排便させようとすることは危険を伴います。
国も、症状が改善しない場合や強い症状があるときは、安易な自己判断をせずに医療機関を受診するよう促しています※。
「いつもの便秘だから」と市販薬の量を増やし続けるのはやめましょう。薬を試しても良くならないときは、消化器内科などの専門医のもとで「なぜ便秘が治らないのか」という根本原因を突き止めることが、つらい症状から抜け出すための最も確実な一歩となります。
まとめ
便秘に伴う腹痛は、硬い便や溜まったガス、腸の過剰な動きなどが複雑に絡み合って生じます。
まずは食物繊維の摂り方を工夫し、ご自身の症状に合った市販薬を選ぶことが改善への第一歩といえます。大切なのは回数にこだわらず、腹痛やお腹の張りといった不快感をなくし、快適な排便習慣を取り戻すことです。市販薬は正しく使えば有効ですが、便秘の根本原因を治すものではありません。
セルフケアを続けても症状が良くならない、あるいは便に血が混じるなどの危険なサインが見られる場合は、自己判断をせずに消化器内科などを受診し、専門医に相談しましょう。

吉祥寺みどり内科・消化器クリニック 院長
佐々木 洋
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
- 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
- 日本肝臓学会認定 肝臓専門医
- 日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
- 日本医師会認定産業医
- 厚生労働省認定難病指定医
